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調査・報告 野菜情報 2021年9月号

産地農協による地理的表示保護制度を 利活用した地場野菜振興の取り組み ~JAうご新成園芸組合による「ひばり野オクラ」の事例を中心に~

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  弘前大学 農学生命科学部 国際園芸農学科 教授 石塚 哉史
弘前大学大学院 農学生命科学研究科 園芸農学コース 永田 貴一

【要約】

 2017年にJAうご新成園芸組合(秋田県)は管内の有力な園芸作物である「ひばり野オクラ」をGI産品へ登録し、積極的な産地マーケティングによって秋田県内での高い評価を得ている。中小規模の産地であるにも関わらず、産地農協を中心に積極的な生産・流通に係る取り組みによって販路確保につなげた事象は他産地にとっても参考となるものと考えられる。

1 はじめに

 周知の通り、政府による知的財産の保護に係る法制度が整備されたことに伴い、地域ブランド農産物による産地振興が多数の産地において取り組まれている。こうした取り組みの活性化に拍車をかけた事象として、2014年6月における地理的表示保護制度の制定が指摘できる。前述の制度が施行されたことによって、産地と社会的評価および特性が結びついているものとして認識された産品は、その名称を知的財産として保護することが可能となった。すなわち、地理的表示(以下「GI(Geographical Indication)」という)によって伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性を品質などの特性と結びつけられるため、その品目に対して名称を知的財産として登録・保護することが可能となったのである。
 こうしたことから、制度施行後はGIの効果を期待した産地による展開は目覚ましく、2015年に7品目で始まった登録産品の数は、2021年5月末時点では109品目まで増加したことが確認できる(施行後の7年間で15.6倍と急増)。その登録産品の内訳についてみていくと、「野菜」38品目(34.9%)と最も多く、「果実」17品目(15.6%)、「食肉」9品目(8.3%)、魚介類10品目(9.2%)と比較するとその差は著しい。また、地域別にみると東北地方にある野菜産地の品目も多く存在しており、主産地以外の中小規模の産地においても数多くの取り組みが見受けられる。
 そこで、本稿の目的は東北地方の中小規模野菜産地に着目し、GI登録後の登録産品における生産・流通の実態を踏まえ、いかなるブランドマーケティング戦略を展開しているのかに焦点をあて、その特長について明らかにすることにおかれる。
 なお、本稿の事例として「ひばり野オクラ」(施設(ハウス)で栽培された、長くて太く、青臭さのないふっくらと柔らかい特徴を有するオクラ)を選定した(注1)。選定理由は、JAうご新成園芸組合(以下「新成組合」という)という産地農協を中心に栽培品目として導入した当初は5トンという零細であった生産量を現在では30トン程度にまで拡大させただけでなく、GI登録にまで至った産地振興の取り組みは他産地にとって参考となる事象が存在するものと判断したためである。
 
注1:他産地の露地栽培によるオクラは長さが6~7センチに生育した時点で収穫適期であるものの、ひばり野オクラに関してはそれよりもかなり大きく、収穫適期には10センチ以上が一般的である。名称については、羽後町内に立地する羽後町足田字雲雀野((うごまちたらだあざひばりの))という地名に由来している。

2 JAうご新成園芸組合の概要

 うご農業協同組合(以下「JAうご」という)は、秋田県羽後郡雄勝町に立地する農業協同組合である。1998年に羽後地域に立地する3つのJA(明治、新成、元西)が合併して設立された(図)。



 2 0 2 0 年1 2 月時点の組合員数は1705人(正組合員数:1533人、准組合員: 1 7 2 人)、出資金は5億7800万円であった。管内の主要な農作物として、米、きゅうり、オクラ、そらまめ、トマト、ふくたち(注2)、スイカ、メロン、牛肉、豚肉、ストック(注3)と多岐にわたっており、生産部会も19存在している。次いで新成組合は、JAうごに属する生産部会の一つである。JAうごが設立する以前の1960年から活動を開始しており、当初は栽培記録や生産資材の共同購入を中心に行う生産者組合であった(注4)

注2:秋田県南部でははくさいを真冬に育成し、春にとう立ち(野菜が雪の下で種を残そうと葉の中に花芽をつくって茎を伸ばし始めた状態)したものを「ふくたち」と称している。はくさいとして生育が不十分であったものを収穫せずに畑に残して越冬させ、3~4月にとう立ちにした後、収穫し、流通している。詳細はJAうごのWebサイトhttp://www.ja-ugo.jp/sub_nou/fukutachi.htmlを参照されたい。

 注3:南ヨーロッパ原産の多年草であるが、日本国内では秋まき一年草として扱われている。開花期は春期であり、主に切花としての流通が多い。

 注4:新成組合設立の契機は、オクラ生産を開始した7戸が出稼ぎを行わず、農業収入中心の経営を志向したためである(当時の羽後地域は稲作農家が中心であり、冬場に都内での出稼ぎという生活スタイルが主流であった)。

3 JAうご新成園芸組合における「ひばり野オクラ」の生産・流通の今日的展開

 2017年にひばり野オクラは産地を秋田県雄勝郡羽後町と設定し、新成組合が登録生産者団体となってGIを取得した産品である(申請番号第104号、登録番号第51号)が、管内での栽培は1976年から確認されている。
 新成組合におけるひばり野オクラの栽培暦は以下の通りである。3月にポットへ播種を行い、4月に育苗する。その際に電熱線を利用し発芽温度の保持に努めると共に乾燥を防ぐためにきめ細かなかん水を行う。5月上旬にハウスへ移植し、栽培する。オクラは高温性作物であるためにハウスを開閉することによってこまめな温度管理が必要となる。その(定植から)1カ月後に開花し、1週間程度で収穫・出荷するのが一般的な流れとなっている(注5)。出荷規格は全長10~12センチ、切り口の長さは8ミリ~1センチと定めている。開花から3日程度で結実し、その時点から収穫および出荷が行われる。新成組合では、ひばり野オクラによる品質の均一化を図るため、収穫・出荷の時期を8月中旬までと定めている。新成組合がある羽後地域では10月までオクラの栽培を行うことは可能であるものの、前述の時期のように期間を制限している理由は、8月以降には他産地による出荷が最盛期となるために競合の回避を志向したためである(ひばり野オクラはハウス栽培であり、現状よりも生産コストの削減することが困難な状況であるため、価格競争への対応には不向きということも関係している)。新成組合の生産者は、ひばり野オクラの出荷終了後にストック、ふくたちの栽培を行うことが主流であった。
 このような栽培暦に基づいて、新成組合が実施するオクラ生産・流通関連事業のスケジュールは以下の通りである。まず、播種前にハウス内の床土検査(土壌診断)を行っている(3月)。その後は管内の育苗状態の確認を目的とした「苗巡回」(4月上旬)、移植および育苗の状態を確認するための「生育調査」(5月下旬および6月下旬)を実施している。流通面では、主要な販路である秋田市公設地方卸売市場、秋田県南青果卸売市場での研修(5月中旬)を行っている。出荷直前には管内の作況や規格の徹底の再認識を促す目揃え会(5月下旬)、出荷期間の前半が一段落した段階で「中間検討会」(6月下旬)、収穫後には組合員による販売反省会(9月)を栽培面で重要と位置づけられる時期に開催していた(括弧内の月次は2020年度の開催などの実績)。それ以外にも出荷期間には、オクラキャンペーンと称した秋田県内の量販店によるプロモーションや管内の小学生を対象とした食育活動にも取り組んでいた。
 表1は、最近のひばり野オクラの生産・流通の推移を示したものである。この表から、2020年における生産・流通実績をみると、生産者17戸、栽培面積1.9ヘクタール、出荷量32.8トン、販売金額4727万円である。2017年のGI登録以降、栽培面積2.0ヘクタール程度、出荷量30トン以上、販売金額4700万~5200万円台の規模を維持していることが読み取れる。なお、GI登録後の1戸当たり販売金額をみると、2017年が289.5万円、2018年が302.9万円、2019年が330.8万円、2020年が278.1万円となっており、おおむね270~330万円の範囲であることが理解できる。



 新成組合によるひばり野オクラのコンセプトとして「量よりも質にこだわった栽培」を提唱し、管内における品質の均一化を推進していた。表2は、ひばり野オクラの出荷規格(2020年産)を示したものである。この表から、等級は価格の高い順に「AM」「AL」「丸A」と3つの規格がある。出荷量に占める構成比をみると、「AM」(76.9%)および「AL」(20.8%)で95%以上を占めており、「丸A」(2.3%)はわずかなシェアであった。


 前述の規格では、パックに詰める本数や1箱(ケース)当たりのパック数に加えて、詰め方まで詳細に規定されている。販売価格について「AM」を100とした指数で比較すると、「AL」90~95、「丸A」80~85となっており、規格によっては5~20%の価格差が存在していた。
 また、出荷時期によって箱詰めやパック詰めの数量を変化させており、全規格を通じて初出荷時は20パック/箱で出荷を行うものの、収穫数量が増加する最盛期になると40パック/箱へとシフトさせていた。以上のような出荷時期に応じて箱詰め(供給量)の数量を調整する理由は、他の規格よりも品質も良い「AM」のニーズを保持することによって販売価格の水準を維持するために取り組んでいるとのことであった。すなわち、ひばり野オクラにとって高品質規格と位置づけられる「AM」は、出荷構成の規模や価格相場を支える牽引役としての役割を担うものであることが理解できる。それ以外の規格においても「AL」は7月中旬以降に30パック/箱の出荷を促進している点が確認できた。このことは、出荷時期の後半となり、他産地による出荷が開始される前にひばり野オクラの余剰在庫を回避し、価格下落を防止して相場を安定させる役割を果たしていた。「丸A」については、曲がり品や他の規格より形状が劣るものだが、サイズに関しては他の規格とほぼ同様である。このことは、ひばり野オクラの最大の特徴といえる他産地よりも大きなサイズという点を重視したものと考えられよう。
 出荷されたひばり野オクラは、秋田県内の卸売市場を経由して流通するケースが主流であった(全体の99.6%)。現在、流通実績のある卸売市場は、秋田市公設地方卸売市場(77.3%)と秋田県南青果卸売市場(22.3%)の2市場のみであり、前者の流通量が顕著である。次いでエンドユーザーをみると、こちらも秋田県内のスーパー・量販店が90%以上であり、地産地消が盛んな品目であることが理解できる(残り0.4%に関しては農協による直売によって流通している)。このようにほぼ全量を県内の卸売市場へ流通させる出荷行動は、1976年の栽培開始時から現在まで半世紀近くの長期に渡って一貫して行われていた。
 表3は、2020年産のひばり野オクラにおける週別出荷数量の推移を示したものである。この表から出荷期間は、期首が5月下旬であり、期末は8月上旬という12週間(約3カ月間)であり、最盛期は6月上旬~8月上旬(第3週~第10週)までの8週間(約2カ月間)ということが読み取れる。前述にあるように、最盛期においては毎週4万5000パック以上の出荷量を継続させており、この期間のみで全体の85%程度のシェアを占めている。



 出荷時期に関しては、露地栽培中心の主産地である九州・沖縄地方に立地する産地のオクラの端境期(主産地の出荷最盛期である7月よりも早期)にターゲットを絞って流通させることを重視している(注6)。このことは、小規模零細な産地ということだけでなく、ハウス栽培に加えて手作業中心の集出荷(収穫、選別)を要するために比較的コスト負担が大きくなるひばり野オクラにとっては他産地よりも優位性を享受することが可能な機会(時期)にスポットをあてた販売戦略と指摘できよう。このような取り組みが功を奏して、県内市場では他産地と比較すると30~50%程度高い価格での取引を実現させていた。

注5:羽後町は奥羽山脈と出羽丘陵に囲まれた盆地であるため、秋田県内でも日照時間が多い地域に位置づけられる。この日照時間と施設栽培によって生育が促進されたことが、ひばり野オクラが他産地のオクラよりも大きく育った要因であると指摘していた。

注6:農林水産省「平成30年度作物統計」によると全国のオクラ生産量は1万1665トンであり、主産地は鹿児島県(4387トン、41.6%)、高知県(1882トン、16.1%)、沖縄県(1314トン、11.3%)、熊本県(776トン、6.7%)、福岡県(526トン、4.5%)となっており、秋田県(62トン、0.5%)との差は著しい。また、安価な海外産も流通しており、タイ(3740トン)、フィリピン(2459トン)の両国からの輸入量は著しい。

4 おわりに

 本稿では、GI産品「ひばり野オクラ」の生産・流通の実態を踏まえ、新成組合におけるブランドマーケティング戦略の展開についてみてきた。最後にまとめとして、産地マーケティングの特長と残された課題について示していきたい。
 新成組合は「ひばり野オクラ」の出荷時期を他産地の端境期に定め、市場での優位性を有した流通を実現していた。それに加えて、製品差別化を推進するために店頭で消費者の視覚に訴求できるよう他産地よりも大きな規格での出荷を徹底していた。このような出荷を可能とした要因として、露地栽培中心のオクラにしては珍しく、新成組合はハウス栽培によって生産していた点が挙げられる。出荷されたオクラはほぼ全量が秋田県内の卸売市場を経由後に量販店・スーパーへ流通しており、地産地消の優良事例としても位置づけられよう。
 このように、小規模産地でありながらもGI産品を創出し、他産地との製品差別化を実現させた新成組合であるが、課題も残されている。前述のようにハウス栽培であるが故に他産地と比較するとコスト高であることは否めない。仮に産地拡大に伴う生産量の増加を実現できたとしても他産地が供給可能な時期に流通することになるため、市場で競合した場合は価格競争力を有しておらず、懸念材料が存在してしまう。従って、現行のような端境期にターゲットをあてたマーケティング戦略を志向せざるを得ないというのが実情である。
 以上のように若干の不安要素があるものの、秋田県内を中心に製品差別化を実現した新成園芸組合によるひばり野オクラの取り組みは、小規模産地や新興産地にとっても参考となる事象が存在しているものと判断できるため、筆者グループも今後の動向に注視していきたい。
 
謝辞
 本稿の作成にあたり、筆者グループは2020年12月にJAうご新成園芸組合を対象とした訪問面接調査を実施した。お忙しい中でなおかつコロナ禍にも関わらず、ご協力頂いた佐藤重信営農販売課長をはじめ、関係職員の皆様へこの場を借りて謝意を申し上げる。



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