ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 産地農協による地理的表示保護制度を 利活用した地場野菜振興の取り組み ~JAうご新成園芸組合による「ひばり野オクラ」の事例を中心に~
前述の規格では、パックに詰める本数や1箱(ケース)当たりのパック数に加えて、詰め方まで詳細に規定されている。販売価格について「AM」を100とした指数で比較すると、「AL」90~95、「丸A」80~85となっており、規格によっては5~20%の価格差が存在していた。
また、出荷時期によって箱詰めやパック詰めの数量を変化させており、全規格を通じて初出荷時は20パック/箱で出荷を行うものの、収穫数量が増加する最盛期になると40パック/箱へとシフトさせていた。以上のような出荷時期に応じて箱詰め(供給量)の数量を調整する理由は、他の規格よりも品質も良い「AM」のニーズを保持することによって販売価格の水準を維持するために取り組んでいるとのことであった。すなわち、ひばり野オクラにとって高品質規格と位置づけられる「AM」は、出荷構成の規模や価格相場を支える牽引役としての役割を担うものであることが理解できる。それ以外の規格においても「AL」は7月中旬以降に30パック/箱の出荷を促進している点が確認できた。このことは、出荷時期の後半となり、他産地による出荷が開始される前にひばり野オクラの余剰在庫を回避し、価格下落を防止して相場を安定させる役割を果たしていた。「丸A」については、曲がり品や他の規格より形状が劣るものだが、サイズに関しては他の規格とほぼ同様である。このことは、ひばり野オクラの最大の特徴といえる他産地よりも大きなサイズという点を重視したものと考えられよう。
出荷されたひばり野オクラは、秋田県内の卸売市場を経由して流通するケースが主流であった(全体の99.6%)。現在、流通実績のある卸売市場は、秋田市公設地方卸売市場(77.3%)と秋田県南青果卸売市場(22.3%)の2市場のみであり、前者の流通量が顕著である。次いでエンドユーザーをみると、こちらも秋田県内のスーパー・量販店が90%以上であり、地産地消が盛んな品目であることが理解できる(残り0.4%に関しては農協による直売によって流通している)。このようにほぼ全量を県内の卸売市場へ流通させる出荷行動は、1976年の栽培開始時から現在まで半世紀近くの長期に渡って一貫して行われていた。
表3は、2020年産のひばり野オクラにおける週別出荷数量の推移を示したものである。この表から出荷期間は、期首が5月下旬であり、期末は8月上旬という12週間(約3カ月間)であり、最盛期は6月上旬~8月上旬(第3週~第10週)までの8週間(約2カ月間)ということが読み取れる。前述にあるように、最盛期においては毎週4万5000パック以上の出荷量を継続させており、この期間のみで全体の85%程度のシェアを占めている。
出荷時期に関しては、露地栽培中心の主産地である九州・沖縄地方に立地する産地のオクラの端境期(主産地の出荷最盛期である7月よりも早期)にターゲットを絞って流通させることを重視している(注6)。このことは、小規模零細な産地ということだけでなく、ハウス栽培に加えて手作業中心の集出荷(収穫、選別)を要するために比較的コスト負担が大きくなるひばり野オクラにとっては他産地よりも優位性を享受することが可能な機会(時期)にスポットをあてた販売戦略と指摘できよう。このような取り組みが功を奏して、県内市場では他産地と比較すると30~50%程度高い価格での取引を実現させていた。
注5:羽後町は奥羽山脈と出羽丘陵に囲まれた盆地であるため、秋田県内でも日照時間が多い地域に位置づけられる。この日照時間と施設栽培によって生育が促進されたことが、ひばり野オクラが他産地のオクラよりも大きく育った要因であると指摘していた。
注6:農林水産省「平成30年度作物統計」によると全国のオクラ生産量は1万1665トンであり、主産地は鹿児島県(4387トン、41.6%)、高知県(1882トン、16.1%)、沖縄県(1314トン、11.3%)、熊本県(776トン、6.7%)、福岡県(526トン、4.5%)となっており、秋田県(62トン、0.5%)との差は著しい。また、安価な海外産も流通しており、タイ(3740トン)、フィリピン(2459トン)の両国からの輸入量は著しい。