ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > <連載>国際果実野菜年2021特集コーナー ~四季の野菜と健康~
野菜業務部・野菜振興部
甘くて・やわらかく・おいしい“淡路島たまねぎ”
~120年以上の歴史をもつ全国有数のたまねぎ産地・淡路島~
1 120年以上の歴史をもつ全国有数のたまねぎ産地・淡路島
兵庫県淡路島は、甘くて・やわらかく・おいしい”淡路島たまねぎ“を生産する全国有数のたまねぎ産地だが、その歴史は、明治21年に当時の県会議員が外国から輸入した種子を県から譲り受け試作したことに遡る。大正時代には、水田の裏作として、たまねぎ栽培技術の研究開発、品種改良などの努力が積み重ねられ、島内の栽培面積が拡大した。淡路島は、瀬戸内気候に属し温暖で日照量が多く、海から吹く強い風がたまねぎの生産には好条件である。また、水田の裏作で栽培することで連作障害を回避し病害虫を予防している。兵庫県は、たまねぎ出荷量全国第3位でその大半が淡路島で生産されている。市町村別出荷量では、南あわじ市が全国第4位となっている(表1)。淡路島たまねぎは、平成22年に地域団体商標を取得し、兵庫県を代表するブランド野菜である。
2 甘くて・やわらかく・おいしい淡路島たまねぎ
~じっくり7カ月育て、たまねぎ小屋で吊り下 げ自然乾燥
淡路島たまねぎの生産は、9~10月に播種、11~12月に苗を定植し厳しい冬をじっと耐えて育ち、翌4~6月に収穫される(写真1)。収穫されたたまねぎは、「たまねぎ小屋」と呼ばれる小屋にきれいに吊り下げられ、瀬戸内海の自然の風を利用してゆっくり自然乾燥され、完熟し甘みが増した吊りたまねぎが7~8月に出荷される。乾燥冷蔵施設を利用するたまねぎは7月中旬から8月に冷蔵施設で貯蔵し、11月から翌3月まで出荷される。
淡路島たまねぎはなぜ甘くてやわらかいのか。兵庫県農林水産技術総合センターが実験を行ったところ、歯ごたえを示す応力(単位面積当たりにかかる力)が他のたまねぎに比べて最大で約2倍の差があって柔らかく、あまみ成分となるソテー時の全糖含量が約9~10%と高く、辛み成分であるピルビン酸が少ないことが実証された。また、たまねぎ小屋では、常に微風が当たるよう手作業でたまねぎを吊るす「吊りたまねぎ」と呼ばれる方法で自然の中で2~3カ月かけてゆっくり乾燥させている。自然乾燥させたたまねぎは、抗酸化作用によるがん抑制、抗アレルギー、高血圧予防に効果がある機能性成分であるケルセチンが1.5倍に増えるとともに、長期保存で糖含有量が増えることが吉備国際大学農学部金沢助教の研究で明らかになっている(図1)。
瀬戸内の温暖な気候と強い海風、肥沃な土壌、伝統的な栽培方法やたまねぎ小屋の吊り下げ自然乾燥などが組み合わさって、甘くて・やわらかく・おいしい淡路島たまねぎをつくり出している。また、伝統的なたまねぎ小屋の吊り下げ風景は淡路島ならではの美しい景観となっている(写真2、3)。
JAあわじ島では、淡路島たまねぎのさらなるブランド化を目指し、令和2年度から「淡路島吊りたまねぎ」の名称で販売し、3年度からは吊りたまねぎ3~4個をロゴ入りの袋に詰めて段ボールに個数を表示して梱包し、7~8月に出荷している(写真4、5)。量販店などで棚に陳列する際の袋詰め作業が削減でき、他のたまねぎとの差別化を図っている。JAあわじ島販売部長の安田氏は、「瀬戸内の自然の中で育った甘くて・やわらかく・おいしい淡路島伝統の吊りたまねぎをもっと全国的にアピールしていきたい」と意欲を示している。
他方、淡路島たまねぎブランドをもつ淡路島でも農家の高齢化が進み、労働力確保や作業省力化が最大の課題となっている。たまねぎ小屋に吊す作業は手作業で高齢者にはきつい作業である。このため、JAあわじ島では、平成29年にたまねぎ乾燥冷蔵施設を稼働させ、収穫から出荷までの作業の一貫体系の構築に取り組んでいる(写真6)。
3 JAあわじ島野菜安全・安心システム
JAあわじ島は、「安心して食べてもらえる野菜を食卓へ届けたい」との思いから、消費者に「安全・安心・安定」の3つの「安」を提供するため、平成14年度から「JAあわじ島野菜安全・安心システム」に取り組んでいる。県淡路農業技術センターと県南淡路農業改良普及センターが減化学肥料・減農薬栽培などの施肥防除基準を示し、農協が栽培・出荷講習会、栽培ごよみの作成、残留農薬検査など、生産者が栽培管理日誌・施肥防除管理記録の記帳、健康な土づくりの実践などを行うことにより、安全・安心で品質の高い野菜づくりに取り組んでいる(図2)。
4 JAあわじ島GAP部会の取り組み
~気象予報士の資格を取得した部会員がSNSで気象情報をわかりやすく提供~
令和元年7月、若手生産者6名が「JAあわじ島GAP部会」(注)を設立し、2年6月に「GLOBAL GAPの団体認証」を取得した。これまでの出荷調整方法を改善して作業時間の短縮や積極的な販路開拓によりGAP認証で増えるコストを市場単価に上乗せした取引を実現し、地域のたまねぎ栽培経営の新たなモデルづくりとなっている。部会長の田辺健さんは自ら気象予報士の資格を取得し、LINEで天気、風、湿度などのわかりやすい解説付きで気象情報の通知を始め、部会員からは農作業に役に立つと好評を得ている。田辺さんは、将来生産者に気象情報と気象に応じた対処法を伝える農業気象コンサルタントを目指している。また、部会は、(1)圃場に正確な天気予報が可能なウェザーステーションを設置し、病害の胞子拡散時期や感染時期など病原菌のライフサイクルを予察することにより、有効な薬剤を選択した散布計画を立てる(写真7)、(2)黄色灯(LED)を活用し、1ルクスの光を夜間に照らすことで、ハスモンヨトウ、オオタバコガなどの夜行性の害虫に昼間と勘違いさせ活動を抑えて食害を防ぐ(写真8)など、新たな技術を積極的に導入している。
こうした取り組みが評価され、「令和2年度近畿地域未来につながる持続可能な農業推進コンクール」で近畿農政局長賞を受賞した(写真9)。田辺さんは、「昨今の消費情勢でGAP認証品の需要が高まっている。前向きに取り組むことが出来る農業者をJAで集団化できたことが有意義だと感じた。発足時にこだわったテーマは『持続可能』。今後は『やるべきことをやる人が報われる』、そのような土台をしっかりつくり部会員を増やすとともに、販路拡大を図る」と話す。
注:GAPとはGood Agricultural Practicesの略で、食品安全、環境保全、労働安全などの持続可能性を確保するための農業生産工程管理の認証制度。Global GAPは、ヨーロッパで生まれた世界基準の農業生産工程管理の認証制度。
5 栄養価の高い淡路島たまねぎを食べて生活習慣病を予防し健康な生活を!
たまねぎには、血圧降下作用の働きがあるカリウム、夜盲症や感染症の予防などの効果が期待できるビタミンA、高血圧や動脈硬化の予防などの効果が期待できるケルセチンが豊富に含まれている。たまねぎを切ったときに目にしみる成分として知られる硫化アリルの一種であるアリシンは、高血圧、動脈硬化症、高コレステロール血症などの生活習慣病の予防や疲労回復効果などが期待できる。淡路島たまねぎは、煮ても焼いても炒めてもおいしく食べられる万能野菜だが、甘くて柔らかく辛み成分が少ないので、薄くスライスした「たまねぎサラダ」や厚く切って焼いた「たまねぎステーキ」で食べるのがおすすめである。淡路島たまねぎをおいしく食べて生活習慣病を予防し健康な生活を維持したいものである。
みずみずしくパリッと歯切れのよい須賀川の「きゅうり天王」と「かっぱ麺」
~全国トップクラスのきゅうりの町 福島県須賀川市~
福島県須賀川市は、福島県の中央に位置し、かつて松尾芭蕉が行脚中に訪れた奥州街道屈指の宿場町として発展した歴史と伝統のある街であり、全国トップクラスの出荷量を誇る、夏秋きゅうりの一大産地でもある。中でもみずみずしい香りとパリッと歯切れのよい「岩瀬きゅうり」は全国的に有名である。毎年7月には、「きうり天王祭」が開催される(写真1)。須賀川の特産品であるきゅうりを2本供え、お護符代わりに別のきゅうりを1本持ち帰り、それを食べると1年間病気にかからないと伝えられている。
きゅうりは、生育適温18~25度と冷涼な気温を好み、無加温の夏秋きゅうり(出荷期間5~11月)と加温の冬春きゅうり(同11~翌6月)に区分される。福島県は、日本一の夏秋きゅうり産地であり、全国の出荷量上位20市町村中に、伊達市、須賀川市、二本松市、福島市、喜多方市の5市が名を連ね、6月中旬から10月上旬まで関東などに出荷されている(表1、図1)。
2 養蚕からの転換で成長したきゅうり産地
~2021年4月にきゅうり新選果場「きゅうりん館」が稼働~
福島県の夏秋きゅうりの生産は、昭和20年代後半、米麦と養蚕の複合経営から、定期的に収入を得やすい野菜への転換を目指し、岩瀬郡西袋村(現在の須賀川市西袋地区)で始まった露地の地這い栽培が原点である。その後、竹の支柱と海苔養殖用の網を利用したネット栽培を導入し、まっすぐで色と照りが美しい高品質な「岩瀬きゅうり」として市場評価を高めた。更に、県や農協が、生産者の所得向上のため、米麦ときゅうりの複合経営を推進したことにより、須賀川市などの中通り地方を中心に栽培が広がり、昭和41年に夏秋きゅうりの野菜指定産地の指定を受けた。全国一の夏秋きゅうりの産地をつくりあげ、福島県産きゅうりの統一ブランド「パワーグリーン」などを関東などに出荷している(写真2)。本年4月には、須賀川市を管内とするJA夢みなみは、きゅうりの大規模新選果場「きゅうりん館」を稼働させ、水平移動の無落差無転倒方式の採用により、鮮度を示すイボ落ちや傷が発生せず、より品質の高いきゅうりの出荷を実現している(写真3)。
3 みずみずしい香りとパリッと歯切れのよい「きゅうり天王」
JA夢みなみでは、生産者が持続農業法に基づく慣行栽培に対して、化学肥料や化学農薬の使用量を2割削減したエコファーマーの認定を受けており、みずみずしい香りとパリッと歯切れのよい「きゅうり天王」ブランドとして出荷している(写真4、5)。JA夢みなみ野菜連絡協議会の小川会長は、「きゅうりの大産地として、生産者は自信と誇り、責任を持って栽培しています。安全・安心を第一に全生産者が放射能検査を実施するとともに、化学肥料や化学農薬の使用量を2割削減したエコファーマーの認定を受け、全国どこの産地よりも安全・安心で品質の高いきゅうりを育て消費者に届けていると自負しています。丹精込めて愛情を注いだ、新鮮でみずみずしくパリッとした歯切れのよい須賀川のきゅうり天王を是非味わってみてください」と話す(写真6)。
4 須賀川でしか食べられない地元B級グルメ「かっぱ麺」
夏秋きゅうりの全国トップクラスの出荷量を誇る須賀川市には、キューカンバーカレー、きゅうりソテー、きゅうりのパスタ、きゅうりジェラート、きゅうり焼酎などきゅうりのメニューが20種類以上あるが、中でも地元人気ナンバーワンはかっぱ麺である(写真7)。きゅうりの搾り汁を練り込んだ鮮やかな薄緑色の冷たい麺に、各店オリジナルできゅうりなどの野菜を盛り付け、秘伝の肉みそを溶かしながら食べる低カロリーでヘルシーなサラダ麺で、須賀川でしか食べられない地元B級グルメである。きゅうりは大部分が水分であるが、カリウム、ナトリウム、カルシウム、ビタミン、ミネラルをバランス良く含んでいる。暑い日本の夏を乗り切るには、かっぱ麺である。また、須賀川かっぱ麺(乾麺)はふるさと納税の返礼品にも採用されている。
5 小学生が取り組む「福島発のキュウリビズ 愛情込めてキュウリ栽培大作戦」
JA福島中央会、JA全農福島県本部、福島民報は、平成21年から県内の小学生を対象に、きゅうりの栽培を通して生命を育てる難しさや尊さを学ぶとともに、食材への感謝の気持ちを育むことを目的とした「福島発のキュウリビズ 愛情込めてキュウリ栽培大作戦」を展開している(写真8)。JA全農福島県本部から、参加希望校にきゅうりの苗を無償で提供し、児童は栽培しながら、栽培日記やきゅうりの料理レシピを作成し、学校を通じて出品する。令和2年は31校から出品があり、受賞した児童からは、「きゅうりが嫌いだったけど、自分で栽培してみてきゅうりが大好きになった」などの感想が寄せられている。
6 東北・福島のきゅうりで夏を涼しく「キュウリビズ」
JA全農福島県本部は、平成19年、「暑い夏にはきゅうりを食べて、体をクールダウン」をキャッチフレーズに、環境省による「クールビズ」をもじった「キュウリビズ」(19年3月商標登録)を提唱した(写真9)。これは、きゅうりの95%が水分で、体を冷やす効果があることや、カリウム、ナトリウム、カルシウム、ビタミン、ミネラルなどがバランスよく含まれ、天然のスポーツドリンクとして多量の汗をかいた後の水分補給に最適であることから、「東北・福島のきゅうりを食べて暑い夏を涼しく過ごそう」という販促キャンペーンである。きゅうりは、浅漬け、オイル漬、炒め物などのほか、まるかじり、サラダ、スティックなど生のままでも美味しく食べられる。20年からは、全農の東北6県本部の統一キャンペーンとして、市場プロモーションや、東京などの消費地の量販店などで、販売促進活動を活発に行っている(写真10)。令和2年は、新型コロナ禍のため、7月下旬に県知事、生産者代表、JA福島五連会長、JA組合長の代表がJA選果場に集まり、WEB会議方式で市場関係者に対するPRや情報交換を行うトップセールスを実施した(写真11)。涼を呼ぶ東北・福島のきゅうり、須賀川のきゅうり天王やかっぱ麺をおいしくいただいて、暑い夏を乗り切りたいものである。