Q トマトの加工・販売だけでなく、種苗開発、土壌管理、生産者の支援も行うのはどのような考えからでしょうか。
A 当社の創業は1899年、農業を営んでいた創業者蟹江一太郎がトマト栽培に着手し、その発芽をみた日にはじまります。カゴメが国内外で農業・生産の領域にも着手しているのは、創業者が農家出身であること、そのDNAを受け継いでいることが大きく関わっています。カゴメが保有するトマトの遺伝資源は約7500種、その種子から、土づくり、栽培、収穫、製造、そして最終商品に至るまで、ワンストップで価値を創造しています。世界的にもユニークな垂直統合型ビジネスモデルが、カゴメの強みです(写真3)。
創業時から変わらぬ「畑は第一の工場」との哲学のもと、国産トマトジュースの原料となるトマトに関して、指定品種の栽培を契約農家に委託し、国内生産拡大を進めてきました。契約栽培では、作付け前に農家と全量買い入れの契約を結び、その後フィールドマンと呼ばれる担当者が畑を巡回し、きめ細かな栽培指導を行っています。契約栽培を行うことで価格変動の不安がなくなり、高品質の原料を作ることに専念いただけます。同時に、高齢化する日本の農家において、経験の浅い若手農家の育成にもつながります。また、農業機器メーカーと共同で加工用トマト収穫機を開発するなど、農家の負担を軽減し効率化を図る取り組みも行っております。
1998年より本格的にスタートした生鮮トマト事業では、温室内の温度や湿度、潅水などをコンピューターで自動制御した大型ハイテク菜園を全国で展開しています。単位面積あたりの収穫量の最大化と共にクリーンエネルギーの活用、CO2削減対策、節水、生態系への配慮など、環境にやさしいトマト栽培を実現しています。
Q 国内外のパートナーと行っているビジネスモデルの例を教えてください。また、そこでの目的や目標はどのようなものでしょうか。
A 新たな取り組みとして、2021年1月に、北海道でたまねぎを加工・販売する合弁会社「そうべつアグリフーズ株式会社」を、現地の農業生産法人「ミナミアグリシステム」と共に設立しました。たまねぎはさまざまなメニューで使われる汎用性が高い野菜です。昨今の中食・外食産業の現場における深刻な人手不足から、調理の手間や時間を削減できる「オニオンソテー」などの加工品の需要も高まっております。たまねぎの貯蔵庫や加工場は洞爺湖近くの廃校になった中学校の校舎や敷地を活用しています。たまねぎも地元の農家から調達するので、農業の6次産業化につながります。雇用創出などの地域活性化、農業振興などの社会課題解決にも貢献できると考えております。
地域に根差した取り組みとして、全国の自治体などと協定を結び、地元の農産物を使用した商品の展開やレシピの共同開発、食育やトマトの栽培指導など、地域の農業振興や健康づくりを積極的に推進しています。「野菜生活100」季節限定シリーズも、その活動の一環です。また、当社の通販事業において、地方に眠る特色ある果実や野菜を、当社の通信販売事業「健康直送便」でお届けするビジネス「農園応援」を展開しています。地域生産者と日本の消費者をつなぐことで、地域農業活性化に貢献したいと考えております。
一方、海外での取り組みとして、ポルトガルで、農業ICTプラットフォームとAI(人工知能)を活用した営農支援事業をNECと共同で開始しています(写真4)。人工衛星やドローンにより撮影した画像や、気象環境・土壌環境の測定用センサーから収集したデータを基に、水や肥料の最適な投入量と時期を提示します。ポルトガルの
圃場での実証実験では、窒素肥料の投入量を一般的な量より20%程抑えつつ、1ヘクタール当たりの平均収量が約3割増加しました。顧客は主に欧米のトマト一次加工メーカーですが、日本国内での展開も視野に入れています。