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【特集】国際果実野菜年2021~野菜プラス一皿で健康な生活を~ 野菜情報 2021年8月号

野菜が持つ栄養素と健康について

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女子栄養大学 栄養生理学研究室 教授 上西 一弘
上西

はじめに

 野菜にはさまざまな栄養素が含まれているが、たんぱく質や脂質、糖質の量は少なく、それらの供給源としてはそれほど期待できない。野菜の多くは、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの供給源として期待される。また、栄養素ではないが、私たちの健康に大きくかかわっていると考えられている機能性成分である、ポリフェノールなどのいわゆるファイトケミカルの供給源ともなる。

 今回は野菜が持つ栄養素と健康について考えてみたい。

食品成分表を見てみよう

 現在、市場にはさまざまな種類の野菜が流通している。昨年(2020年)12月に発表された最新の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」には178種類の野菜が掲載されている(野菜ジュースなども含む)。ここで例として、食品成分表でほうれんそうを見てみよう。現在の食品成分表には、「葉 通年平均 生」「葉 通年平均 ゆで」 「葉 通年平均 油いため」「葉 夏採り 生」「葉 夏採り ゆで」「葉 冬採り 生」 「葉 冬採り ゆで」「葉 冷凍」「葉 冷凍 ゆで」「葉 冷凍 油いため」と実に10種類の成分値が収載されている(表1)。それぞれの特徴を見比べてみると、季節による違いや、調理損失もわかるので興味深い。ぜひ手に取って確認していただきたい。

表1
 

 特に野菜の場合には調理による栄養素の損失に注目する必要がある。例えば、ほうれんそうの種類別の主なビタミン、ミネラルの値を表1に示したが、葉酸やビタミンCのような水溶性のビタミンやカリウム、マグネシウムはゆでる作業による損失が大きい。なお、カルシウムについてはゆでることによる損失は少ないが、これはおそらくほうれんそう中のカルシウムの存在形態などが影響しているものと考えられる。その他、冷凍ほうれんそうの特徴なども見ることができる。ぜひ、食品成分表をじっくりと参照していただきたい。その際には、分析や各食品に関する詳しい記述があるので、文部科学省から発表されている原本を見ることをお勧めする。

写真

 

野菜に多い栄養素

 食品成分表を参考に、ビタミンやミネラル、食物繊維が、私たちが日常摂取している1食分に特に多く含まれている野菜を表2に示した。

表2

 以上、栄養素の供給量が多い野菜を紹介したが、ご覧いただけばわかるようにたびたび登場している野菜があることに気が付かれるだろう。例えばモロヘイヤは、葉酸、パントテン酸、ビタミンA、E、Kなどのビタミンに加えて、カルシウム、食物繊維の供給源となっている。カルシウムや食物繊維は日本人の摂取量が少ないことが問題視されることも多く、貴重な供給源といえる。その他ほうれんそうには葉酸、ビタミンA、ビタミンKなどのビタミンとカリウムやマグネシウムなどのミネラルが多く含まれている。ブロッコリーには葉酸、ビタミンCそして食物繊維が多く含まれている。
 最近はドラッグストアなどに多くの種類のサプリメントが並んでいるが、野菜には1種類の栄養素だけではなく、複数の栄養素が含まれており、組み合わせて食べることで多くの栄養素を摂取することができる。ただし、ビタミンB12やビタミンDなど野菜にはほとんど含まれていない栄養素もあるので、食品全体のバランスを考えることも大切である。私たちは野菜だけを食べていたのでは健康を維持することは難しい。
 また、野菜には旬がある。春は菜の花、夏はモロヘイヤ、秋はかぼちゃ、冬はほうれんそうなど、ぜひ季節を意識して摂取していただきたい。旬には、おいしいだけではなく、栄養素量も多くなることが期待できる。例えば、ほうれんそうでは「葉 夏採り 生」と「葉 冬採り 生」を比較すると、冬採りの方が、ビタミンC含量が約3倍多い(夏採り:20ミリグラム、冬採り:60ミリグラム(いずれも100グラムあたり 表1参照)。

かぼちゃ
 

野菜の健康効果

 エネルギーを供給する炭水化物、脂質、タンパク質が体内で代謝されるためにはビタミンやミネラルなどの微量栄養素が必要で、野菜はその供給源として重要である。また骨をはじめ身体づくりにも欠かすことはできない。特に、表2に示したビタミン、ミネラルの供給源として有用である。
 国民健康・栄養調査の結果を見ると、野菜はビタミンA、ビタミンK、ビタミンE、ビタミンB6、ビタミンC、葉酸、カリウムの供給源として最も寄与率が大きい。さらにカルシウムや鉄の供給源としても需要である。
 食物繊維は、「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されている。そしてその健康効果としては、排便促進や腸内環境の改善効果、さらには糖尿病や脂質異常症の予防、症状改善に役立つことが期待されている。また、食物繊維は生活習慣病の発症予防、重症化予防に期待されている。野菜はこの食物繊維の供給源として欠かすことのできない食品であり、食物繊維摂取の約50%近くを占めている。
 ナスに含まれる青紫色の色素成分であるアントシアニンは抗酸化作用や眼精疲労の回復効果が期待されている。抗酸化作用については、たまねぎなどに含まれるケルセチン、トマトに含まれるリコピンもその効果が期待されている。トウガラシに含まれている辛味成分のカプサイシンは食用増進効果や脂質代謝の促進効果が期待されている。キャベツやレタスなどに含まれているキャベジン(ビタミンU)は胃酸分泌抑制作用があることはよく知られているところである。このように野菜には多くの機能性成分が含まれており、健康の維持・増進に欠かすことのできない食品である。今以上に野菜摂取を心がけていきたいものである。

なす

参考文献
文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会 「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_011.pdf

 
上西 一弘(うえにし かずひろ)
【略歴】
管理栄養士、博士(栄養学)
女子栄養大学 栄養生理学研究室 教授
1984年 徳島大学医学部栄養学科卒
1986年 徳島大学大学院栄養学研究科 修士課程修了
食品企業の研究所を経て、1991年に現在の女子栄養大学に勤務
2006年4月より現職