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【特集】国際果実野菜年2021~野菜プラス一皿で健康な生活を~ 野菜情報 2021年8月号

新ライフスタイルでの「健康野菜」の展開

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千葉大学 学術研究・イノベーション推進機構 特任教授 中野 明正
中野

1 はじめに

 2021年は「国際果実野菜年」である。これを機会に、まず野菜のトレンド、そして栄養や健康上の利点について見なおしてみたい。野菜はその消費のされ方も、近年大きく変化しつつある。
 本稿では、多様でバランスの取れた健康的な食事と、変化するライフスタイルに求められる野菜の「機能」とは何かについて考えたい

2 野菜のトレンド

(1)生産のトレンド
 耕種農業では2006年に米を抜いて産出額が1位となり、農業産出額約9兆円のうち、野菜は2兆3000億円と4分の1を占める(2018年)。作付面積は約40万ヘクタール、生産量1100万トン。近年は他の耕種農業に比べ存在感を増している (農林水産省、2020a)。現在1次産業での喫緊(きっきん)の問題は従事者の超高齢化である。一方で、農業の新規参入者において、販売金額が1位となる経営作物の割合は、露地野菜が4割、施設野菜が3割と合わせて、野菜が7割を占めることから、新規就農において野菜が選ばれやすい品目といえる(槇、2020)。野菜園芸においても経営を安定化する「スマート農業」にも期待がかかる。
 
(2)流通のトレンド
 野菜の卸売市場の取り扱い金額からみると(槇、2020)、中央卸売市場、地方卸売市場ともに、1990年代にピークを迎え、その後市場外流通も増えたこともあり減少したが、近年は横ばいである。平均単価は、2016年頃までは上昇傾向、それ以降は下落気味である。それでも2004年頃の単価と比較すれば1割以上上昇している。野菜の大将格のトマトも、近年価格低迷が産地の不安材料となっている。新たな付加価値として「新たな機能性」への期待が高まる。
 
(3)消費のトレンド
 スーパーはもとより今ではコンビニやドラッグストアでも野菜が普通に販売される。カット野菜、冷凍野菜など「加工・業務用」向けの需要が拡大している(図1)。ライフスタイルの変化が「食の外部化」を加速した。実際サラダに象徴されるような加工調理食品の消費は堅調に増加している。生鮮の消費は落ちているとはいえ(図2、農林水産省、2020b)、そのまま食べられ手間がかからない「ミニトマト」の消費の伸びに象徴されるように「食の簡便化」はさらに強まりを見せている。

図1

図2

3 今年は野菜の特別な年、国際果実野菜年

 2021年は「国際果実野菜年」、FAOが定め、果実と野菜が人間の栄養、食料安全保障、健康、そして持続可能な開発目標(SDGs)に果たす重要な役割について、意識啓発を行う野菜果物にとって重要な年になる。
 国際果実野菜年の目的は、(1)果実と野菜の摂取による栄養と健康上の利点について、その認識を高め、また政策的注意を向ける。(2)果実や野菜の消費を通じて、多様でバランスの取れた健康的な食事とライフスタイルを促進する。(3)食料システムにおける果実と野菜の食料ロス・廃棄を減らす。そして(4)として、以下のような項目の優良事例を世界で広く共有することである。
1) 持続可能な食料システムに貢献する、果実・野菜の消費と生産の促進。
2) 保存、輸送、貿易、加工、調理、小売、廃棄削減、リサイクル、およびこれらの段階間の相互作用における持続可能性の向上。
3) 家族農家を含む小規模農家の、果実・野菜の持続可能な生産と消費のための各国、地域、世界的な生産活動とバリューチェーン・サプライチェーンへの統合。
4) 特に開発途上国が、果実・野菜の食料ロス・廃棄と闘うための革新的手法と技術を導入する能力を強化する。
 これらの取り組みを通じて発出すべき主要メッセージは、「革新し、栽培し、食料ロス・廃棄を削減する」「持続可能性を促進する」「繁栄を育む」「利点を生かす」「多様な食事を実現する」「農場から食卓まで、食料を尊重する」である。今回本稿で強調する「機能性」に直接関係するのは「利点を生かす」というメッセージである。果実と野菜には、免疫システムの強化を含む複数の健康上の利点があり、「あらゆる形態の栄養不良と闘い、非感染性疾患全般を予防するために不可欠である」とのメッセージが発せられる。さまざまな啓発事業において、日本発の「機能性野菜」を普及させる絶好のチャンスとなる。

4 健康問題を解決する鍵、「日本型食生活」における「野菜と果物」

 日本人の平均寿命は戦後飛躍的に伸びた。これには食料供給の安定化に合わせて、公衆衛生の普及や抗生物質の発明が大きく寄与している。乳幼児死亡率が低下し、結核などの不治の病と言われた病気が克服された。これらの技術革新の普及後の1960年以降もなお、平均寿命が伸び続けたのは、栄養学の寄与も大きい。炭水化物(C)、タンパク質(P)、脂質(F)のバランスのとれた食生活が普及し、免疫力の基盤が安定した。そして塩分の摂取量が制限されたのは脳卒中の低下にも一役買っている。逆に日本では西洋化しすぎた食の弊害が表れている。1985年のCPFバランスが理想的で、いわゆる「日本型食生活」を基本とすることが良い。これら栄養学の集大成「食事バランスガイド」が2005年厚生労働省と農林水産省の共同で策定された。生活習慣病の予防を目的とした日本の「食生活指針」を分かりやすく具体的に実践するツールである。
 コホート研究により、食事バランスガイドの遵守度と死亡との関連が評価され、遵守度の高い人ほど循環器疾患死亡、特に脳血管疾患死亡のリスクが低いこと分かった。がんについても遵守度が高い人ほど死亡リスクが低い傾向が認められている。循環器疾患のリスク低下との関連は、食事バランスガイドの副菜(野菜、きのこ、いも、海藻料理)そして果物の遵守得点が高い人で顕著に認められた。一方、脳血管疾患死亡のリスク低下は主菜(肉、魚、卵、大豆料理)の食事バランスガイド遵守得点が高い人で顕著であった。総じて、食事バランスガイドに準じて不足しがちな野菜や果物を積極的に摂取し、バランスの良い食生活を心掛けることが平均寿命の延伸に有効である。

5 ポストコロナで求められる視点 -清浄なイメージの野菜商品の事例

 2021年現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応した生活が続いている。外出を自粛し、通信販売での購入、いわゆる「巣ごもり消費」が定着しつつある。また、衛生管理に関する意識の高まりがトレンドとなり、より“衛生的な”イメージの商品、例えば“清浄野菜”とか、洗浄せずにそのまま食べられる簡便性を兼ね備えた商品の需要が伸びていく。これに対応した動きとして、多様なJASの制定に向けた取り組みがある。人工光型植物工場における葉菜類の栽培環境管理のJASである。今まで長期トレンドでも進行してきたこれらの取り組みはコロナ禍により拍車がかかる。
 著者らのチームもこれらに関連した取り組みを進める。「スマート農業実証プロジェクト」において「房どりミニトマトを核としたポストコロナ型生産流通体系の実証」を令和3年度から開始した。ポストコロナにおける新しい生活様式にも対応しつつ、商流と結びついたスマート農業の取組や、人手の介入を極力抑えた非接触型生産への対応が急務という課題に対応するために、(1)房どり体系により、生産から出荷までにかかる労働時間を3割以上削減(2)品種および生産方法の選択により、フードロスを2割以上削減(3)非接触型の流通により、果実に付着する一般生菌数を平均10分の1以下に低減(4)一般生菌数を低減させる生産流通システムにより清浄野菜などで1割以上の付加価値向上、以上の達成を目指している(図3)。「機能性」も組み込み総合的に社会課題の解決に挑む。

ず3

6 機能性の「見える化」と本来の野菜の機能の総合的なアピールを!

 機能性野菜でも、素材の特徴を引き出しつつも、複眼的な視点の販売戦略が重要になるだろう。

(1)機能性野菜品種を活用
 生産者自身が、野菜の栄養素や機能性などの健康効果に意識を向け、新たな品種栽培に挑戦し、その内容を総合的に消費者に伝えることが重要である。“機能性”をアピールできる品種が種苗メーカーからも多数販売されているので積極的に活用したい(中野ら、2020)。
 
(2)品質の見える化に基づく総合的なアピールを
 食べ物の働きには三次の異なる機能がある(図4)。日々の食事全体で三次機能(いわゆる機能性)を考えると、野菜の寄与が高いため、より注目されているのであろう(表1)。しかし、品質は総合的なものであり、図4に示した総合的な品質機能の高さ、例えば、デリカスコアなど、図5として示される総合的な品質こそ、ブランドとして強調されるべきである。既存のこれらの仕組みを活用してさらに“ポストコロナ時代に即した品質”を提示していくことが「機能性」の目指すべき方向性である。

図4

表1

図5

7 「機能性」をツールとして組み込み、長期的に「世界の健康」に貢献する

 今後の見通しは不透明であるとの見方もあるが、生産、加工現場では労働力不足への対応、消費の場面では、高付加価値による単価の向上、であり、後者のきっかけとして「機能性」が活用できる。世界の物流も、COVID-19により影響を受けたが、健康寿命の延伸は、人類共通の課題であり、品種を含めた野菜園芸技術の世界展開により日本も大いに貢献できる(図6)。それにより、政府の目標である「輸出5兆円」にも貢献できるだろう。逆境を飛躍に、今回の“禍”を前向きにとられて、日本が作った「植物工場」「機能性」「弁当」が世界のスタンダードになり、世界の生産性向上、健康促進のきっかけとなるように取り組みたい。
 「野菜の機能性」への関心は個人の健康がほとんどだろう。しかし、地球規模に視野を広げて、増大する人口に対するカロリーの供給も喫緊の課題である。つまり、地球の持続的な発展には積極的な「植物食」がキーとなる。そして健康的な生活にも野菜の果たすべき役割が大きくなるだろう。次世代の食料・健康問題の解決に向けて、まずはご自身の新ライフスタイルの中で「健康野菜」をしっかり取り入れていただきたい。

図6

参考文献
槇晋介、2020、野菜データの「見える化」、農林統計協会
中野明正、2020、機能性野菜の教科書、誠文堂新光社
日本農業新聞、2021、推奨量達成も運動不足、令和3年1月4日第6面。
農林水産省、2020a、食料・農業・農村白書、令和2年版
農林水産省、2020b、野菜をめぐる情勢(令和2年9月)
農林水産省、2019、加工・業務用野菜をめぐる状況(令和元年12月)

 
中野 明正(なかの あきまさ)
【略歴】
千葉大学 学術研究・イノベーション推進機構 特任教授
野菜ソムリエ上級プロ、技術士(農業)、土壌医
1990年 九州大学農学部農芸化学科卒業
1992年 京都大学大学院農学研究科修了
農学博士(名古屋大学2001年)
1995年 農林水産省入省、農研機構において園芸作物の生産技術に関する研究に従事
2020年より現職