調査・報告 野菜情報 2021年7月号
ジャガイモシロシストセンチュウの 緊急防除の実施状況
農林水産省 消費・安全局 植物防疫課国内防除第1班 課長補佐 中西 靖裕
【要約】
平成27年8月に北海道網走市内の一部地域において、国内で初めてジャガイモシロシストセンチュウ(Globodera pallida〈Gp〉)が確認された。ジャガイモシロシストセンチュウは、生活史の中にシストという段階を持つ植物寄生性線虫であり、ばれいしょなどのナス科植物の根から養分を吸収し、寄主した植物の生育を阻害することで、植物を枯らすこともあるため、ばれいしょなどの生産に大きな被害を与える。このため、28年10月から植物防疫法に基づく緊急防除を開始し、ジャガイモシロシストセンチュウのまん延防止や土壌消毒などの防除対策を講じている。
1 これまでの経緯など
(1)網走地区
平成27年8月に北海道網走市内の一部地域において、国内で初めてジャガイモシロシストセンチュウ(以下「Gp」という)(図)が確認された。その後の調査でGpが確認された網走市の11
大字および大空町の1大字、計12大字を防除区域に指定して、28年10月から植物防疫法に基づく緊急防除を実施し、Gpのまん延防止を図ってきた。
これらの防除区域のうち、これまでの対策の結果、大字内の全ての
圃場でGpが検出されなくなった4大字を令和3年4月までに除外した。一方で、Gpが検出されている大字においては、引き続き対策を実施している。
(2)斜里地区
令和元年8月に北海道斜里町の一部地域において、新たにGpが確認された。その後の調査でGpが確認された斜里町の7大字および清里町の1大字、計8大字を防除区域に指定して、緊急防除を実施し、Gpのまん延防止を図っている。
2 緊急防除対策の内容
Gpの緊急防除では、以下の対策を実施している。
(1)作付けの禁止
Gp確認圃場におけるばれいしょなどのナス科植物の作付けを禁止。
(2)移動の制限
防除区域内で生産されたナス科植物の地下部(ばれいしょ)やその他植物の地下部であって土の付着したもの(てん菜など)の移動を制限(移動させる場合は、植物防疫官が土壌の分散防止措置などが講じられていることを確認)。
(3)廃棄
防除区域内に存在する移動制限植物などのうちGpが付着し、または付着している恐れがあるもので、Gpのまん延を防止するため必要があると認めて植物防疫官が指定するものの廃棄。
3 防除区域における防除対策
Gpが確認された圃場において、対抗植物の植栽や土壌くん蒸による防除を実施し、Gp密度の低減を図る(写真)。
4 防除区域および防除区域から除外された区域における防除指導
防除対策によりGpの密度を低下させたとしても、その後に農機具の洗浄や輪作などの適切な管理が実施されなければ、Gpが再発したり、新たな圃場でGpが確認されたりする恐れがあることから、生産者に対して、北海道、市町村および農業者団体が連携して以下の指導を実施していく必要がある。
なお、これらの取り組みについては緊急防除終了後も引き続き実施することが望ましい。
(1)Gpが確認されている圃場
Gpが確認された圃場では、野良生えの処理に取り組むことによりGpの密度増加を防ぐとともに、農機具の洗浄などにより当該圃場からの土壌の移動を防ぐ必要がある。
(2)防除対策によりGpが検出されなくなった圃場
Gpが検出されなくなった圃場では、Gpを検出限界以下に維持し、そのまん延を防止するため、ばれいしょを栽培する場合には、Gp抵抗性品種の作付け、野良生え処理および輪作に取り組むことが必要である。このため、これらの圃場を対象に植物防疫官が、1)Gpを再発させないための取り組みを実施していること 2)その取り組みの結果Gpが再発していないこと―を確認する調査を実施している。
また、調査が終了するまでの間、その圃場からばれいしょやてん菜などを出荷する際に、植物防疫官が土壌の分散防止措置が取られていることを確認することとしている。
(3)これまでGpが検出されたことのない圃場
防除区域およびその周辺の地域においては、Gpが検出されないように、野良生え処理および輪作を徹底することが必要である。なお、ばれいしょを栽培する場合には、Gp抵抗性品種の種ばれいしょが確保できるようになった段階で、積極的に抵抗性品種を導入するように努めることが必要である。
5 今後の予定
令和3年度は、2年度までに実施した土壌検診の結果、Gpが検出された圃場を対象に対抗植物の植栽などによる防除対策を実施する。
また、2年度に新たにGpが確認された大字において、全ての圃場を対象とした調査の実施を予定している。
おわりに
Gpの緊急防除の円滑な実施には、関係各位の協力が不可欠である。今後、Gpを適切に防除し、日本のばれいしょの安定生産が図られるよう、緊急防除の実施にご理解とご協力をいただくようお願いしたい。
また、Gpが確認されていない地区や防除区域から除外された地区でも、Gpの発生リスクがあることを認識し、農機具の洗浄、輪作、野良生え処理などの基本的な取り組みやGp抵抗性品種の栽培を徹底するなど、地域が一体となってGpのまん延防止対策に取り組んでいただきたい。