最新の広域選果場の導入プロセスやその成果を把握するため、福島県会津地域にて2020年6月に稼働した「会津野菜館」(以下「野菜館」という)を対象に選び、運営担当者より話を伺った。
(1)野菜館建設に至る背景
福島県会津地域では現在、稲作を基本としながらも野菜作も組み合わせた複合的な農業を営む農家が多い。また同地域を管轄する単協・会津よつば農業協同組合(以下「JA会津よつば」という)は、2016年3月に広域合併を果たし、現在では地域内唯一の農協となっている。
会津地域では、農協合併前から稲作の転作作物としてアスパラガスの産地化に取り組み、一定の成果を上げてきた。そして2006年、全国農業協同組合連合会福島県本部(以下「全農福島県本部」という)が当時の会津地域4単協の圏域を超えた広域選果場を設置し、生産者の出荷労力軽減や出荷ロットの確保を図るとともに、効率的な集出荷体制を確立した。しかし近年は、新規参入者の減少(出荷までに2年を要するため)や病害の発生、さらに選果施設の一部老朽化が指摘され、栽培面積も減少傾向にあり(表2)、産地体制のてこ入れが必要となっていた。
一方、会津地域で現在、生産者が増え、産地規模も拡大しているのがきゅうりとチェリートマト(JAグループ福島内におけるミニトマトの総称)である(表2)。広域合併以前より、福島県および農協独自の支援事業も活用し、パイプハウスの導入、種苗導入のサポートなどに取り組み、栽培面積は増加した。しかし、共選出荷体制の整備は遅れがちで、特にチェリートマトについては個選出荷に依存していた。そのため生産者組織であるJA会津よつばのきゅうり部会およびチェリートマト部会より、農協合併を機に共選施設の設置が強く求められた。しかし、単協として直ちに施設建設に向け投資するのは厳しい状況にあった。
表3は、JA会津よつばにて関心の高い前述の3品目について、重要な出荷先である東京都中央卸売市場(構成全市場)における福島産野菜の市場シェアを年間および福島産の出荷最盛月について算出した結果である。きゅうりについては夏の重要な集荷先として認知され、非常に高い市場シェアを維持している。アスパラガス、ミニトマト(チェリートマトも含む)についても夏には福島産が一定のシェアを保っている。全農福島県本部としても、首都圏をはじめとする全国各地の市場に対し、これら福島県産野菜の販売強化を進めてきた。
そこでこれら3品目の産地振興に向け、関係者による協議が繰り返される中で、生産振興に力を注ぎたいJA会津よつばと、福島産野菜の販売強化を目指す全農福島県本部が、互いの機能を明確にしつつも連携し、共同事業体を形成し、双方が運営費を負担することで、複数品目に対応できる新しい広域選果施設を建設・運営することが合意された。同時に新選果施設の効率化により確保される経営資源を、JA単協はこれまで以上に営農指導体制強化に、県本部は販売事業強化に注ぐことも確認された。そして2019年3月に野菜館の建設が正式に認められた。
(2)野菜館の建設と運営
野菜館立ち上げに必要な総事業経費は11億2000万円であった。このうち5割を国庫補助でまかない、残り5割はJA会津よつばと全農福島県本部で折半した。建設用地は会津若松市郊外にあったJA会津よつばの所有地を借地した。表1にて紹介したこれまでの広域選果施設の管理運営は、その地域の核となる単協か、全農県本部のいずれかが担うのが一般的であった。しかし、会津野菜館は、全国初の単協と県本部が構成する共同事業体により運営される選果施設である。
図1は野菜館の運営概念図である。共同事業体である野菜館の日常的な運営管理は全農福島県本部が担うが、運営の計画と成果は年3回を目途に上部組織である運営協議会(組合長、県本部長、担当部長により構成)と運営委員会(担当部課長と生産者代表)にて協議される。
野菜館を運営する要員は県本部、単協それぞれから派遣・配置されている。組織自体の管理運営に係わる職員は13人、その内訳は単協からの出向3人、県本部からの出向4人、県本部の嘱託3人、県本部所属の再雇用2人、県本部雇用の臨時職員1人である。実際の選果作業を担当する作業員については後述するが、稼働期間中、常時3品目で100人程度を雇用している。
共同事業体であるため、運営にかかわる費用と収益は、県本部と単協で折半することになっている。
野菜館の建設は2019年にスタートしたが、オリンピック対応の建設事業増加に由来する資材の調達難もあって完成が予定より遅れた。2020年産の会津野菜が出荷のピークに迫りつつある6月下旬より野菜館での実際の選果作業がスタートした。
(3)野菜館の施設概要と稼働状況
鉄骨造3階建ての施設(写真1)は敷地面積7400平方メートル、延床面積4800平方メートルである。施設内には現在、アスパラガス、きゅうり、チェリートマトそれぞれの選果機(写真2、3)、予冷施設、実需者のニーズに合わせた小分け・パッキングを行う施設などが整備されている。選果能力は年間ベースでアスパラガス500トン、きゅうり2500トン、チェリートマト200トンである。
選果を実際に担う作業員は、時期により人数の変動があるため、人材派遣業も活用し雇用している。2020年度はきゅうりで50人、アスパラガス、チェリートマトで約30人を調達できた。初年度であったため、導線など作業体系の改善の余地があり、それによる人件費の抑制が期待されている。一方、共同選果が野菜館に集約されたため、既存の集荷場でかかっていた選果人件費や、個選を行っていた出荷者の調製労力は大幅に軽減されたという。野菜館を核とした広域出荷の効果がすでに実現しつつある。
野菜館への共選出荷を希望する生産者は、出荷計画を提出した後、出荷当日はコンテナを利用して最寄りの集荷施設に出荷する。輸送会社がこれを野菜館に搬送し、選別・調製された野菜は予冷施設に1日保管される。その後、翌朝8時に物流の拠点である「サブセンター」に集約され、出荷先市場・エリアごとに荷捌きされて出荷される。コンテナは端末で管理されており、常時過不足の状況を把握できる。また、野菜館から出荷される段ボールには、稼働に合わせて募集し制定した統一ロゴマーク(写真4)を添付している。
なお、野菜館の稼働後も、生産者は従来型の持ち寄り共選(生産者が個別に選別・包装したものを共同出荷する形態)も選択できる。持ち寄り共選品の集荷・販売体制も野菜館稼働に合わせて見直しを行った。「荷分け合計連携システム」を導入して早期の出荷量把握が可能になった。また持ち寄り共選品も予冷庫のあるサブセンターに集約した後、野菜館経由の共選品とともに荷捌きし、同じ方面の出荷先には同じトラックで出荷するため、3品目についてはJA会津よつば管内の野菜の一元出荷が実現した。野菜館のスタートに応じて、従来型個選共販の効率性も、野菜館共選品とともに改善されたことになる。
出荷資材および出荷規格については、部会で協議の上、野菜館経由の共選品も持ち寄り個選品も同じものを使用している。両者に違いが生ずるのではと気にかけていた生産者も多かったが、結果的に資材の統一が図られ、コスト低減につながっている。
表4は、2020年の野菜館経由の野菜3品目の出荷実績を集計した結果である。同年は工事遅延により夏野菜の出荷シーズンが始まってからの稼働となったため、生産者の間にも「様子を見る」雰囲気が漂い、品目による差もあるが、結果的に重量ベースで計画量の6、7割、人数ベースで申込者の5割~8割の実績となった。従来型の持ち寄り共選も継続しているため、「状態の良い品を野菜館へ、それ以外の出荷物を持ち寄り共選へ」と考え行動した生産者が多かったようだ。また、コロナ禍でのスタートとなったため、生産者に対する対面の場での詳しい事前説明ができなかったことや、結果として出荷規格が野菜館も持ち寄り共選も同じであるため、両方の経路を併用できることも影響したと思われる。
(4)コロナ禍の影響と対応
新型コロナウイルス感染症の流行拡大は、同時期に稼働した野菜館の稼働状況にもさまざまな影響を与えている。
まず、スタート間もない野菜館での選果作業への影響として、作業員の調達と日々の作業工程の調整をめぐる諸問題が発生した。コロナ禍により短期的に職を奪われた住民も多かったせいか、2020年は作業員の雇用自体は問題なく進められた。しかし、感染防止のためのマスク・消毒剤などの調達、より広い休憩場所の確保、さらに休憩時間に時間差を設けるなど、さまざまな追加業務が加わり、結果として運営費の増加を招いた。
出荷される野菜の需要形態にもコロナ禍が影響している。アスパラガスはこれまで、外食産業向けに大型の規格品を一定量出荷していたが、外食市場の縮小によりその需要が急激に落ち込んだ。その一方、ギフト需要が伸びたため、野菜館の実需者向け小分け施設を活用し、規格と量目を調製して出荷したところ、好評を得たという。