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調査・報告 野菜情報 2021年7月号

野菜の広域選果施設の整備と運営 ~福島県・会津野菜館を事例に~

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千葉大学 大学院園芸学研究院 教授 櫻井 清一

【要約】

 農協の青果物共販組織では、より広域を想定した選果施設を新たに設け、出荷ロットの確保や品質の安定化を目指す取り組みが散見されるようになった。福島県会津地域でも、全農福島県本部とJA会津よつばの共同事業体により運営される広域選果施設「会津野菜館」が設置され、3品目の選果を担っている。出荷農家の選別・包装作業の大幅軽減、地域全体の物流システムの効率化、県組織と単協の機能分担の明確化に貢献している。

1 はじめに

 野菜産地の発展において、選果(集出荷)施設の果たす役割は大きい。一定の規模に達した野菜産地では、選果場が整備され、出荷物の選別と包装を共同で行い、安定した品質の野菜を定量出荷することで産地の評価を高めてきた。加えて共同選別を行うことで、生産者の調製労力の軽減にも貢献してきた。しかし既存の選果施設の多くが現在、設備の老朽化や稼働率の低下に悩まされている。選果施設の更新には多大な費用がかかり、簡単には着手できない。また、多くの農協が合併を重ねてきたが、広域合併農協では、既存の産地組織と選果施設をはじめとする付随施設をどのように再編するかという問題に直面している。 
 そこで本報告では、福島県会津地域で2020年に稼働を始めた新しい選果施設「会津野菜館」の設立までの経緯と現在の稼働状況を考察し、広域を想定した選果施設の整備や運営についての知見を得ることを目指す。

2 農協における野菜の広域選果施設整備の動き

 農協を核とした青果物の共同販売(共販)システムは、1960年代以降整備され、販売先である消費地の卸売市場整備とも相まって、産地の規模拡大と国民への生鮮食品安定供給に貢献してきた。
 共販システムを物流面で支えているのが、産地の選果(集出荷)施設である。一定規模の産地では、農協が選果場を整備していることが多い。組合員農家が収穫した青果物を選果場にて所定の基準に従って検査・選果・包装し、一定の品質の青果物を消費地へ出荷する準備を行う。同時に選果の結果は、販売実績とともに共同計算・出荷者への精算の資料となる。
 しかし近年、多くの産地で、選果施設の老朽化が指摘されている。出荷青果物のロットと品質を維持するためにも、選果場の更新が求められているが、建設・運営双方に相応のコストがかかるため、更新は容易ではない。加えて、高齢化や連作障害などによる出荷量の減少および選果場稼働率の低下も各地でみられる。仮に既存施設をそのまま利用する場合でも、市場のニーズに見合う出荷量を維持できない産地が増えている。さらに過去30年の間に多くの単協組織が合併を重ねてきた。合併した農協では、施設運営効率化のため、合併前に分散していた選果場の絞り込みを求められることがある。しかし、それぞれの選果場に出荷していた農家組織は独自の選果基準を有することが多く、既存産地名によりブランドを確立していることも多いため、選果場の合併は容易ではない。
 それでも近年、こうした制約条件のもとでも、場合によっては単協の圏域を超えた集荷範囲を想定し、広域的な選果施設を整備する動きが散見されるようになった。農協の選果場の運営に詳しい尾高恵美氏(農林中金総合研究所)によれば、表1の通り、全国数カ所で広域選果施設の整備や、それに準じた選果作業の共同化が進んでいる。

表1

 尾高氏の調査・見聞によれば、こうした広域選果施設の整備、またそれに向けた農協組織や組合員の努力により、以下のような成果が実現しつつあるという。第一に、総じて施設当たり取扱量は増加しており、市場ニーズに見合うロットの確保には貢献できる。あわせて第二に、広域利用をきっかけに技術の交流が行われ、品質面の向上や出荷の安定につながり、結果として単価がアップした事例もある。特に県レベルでブランド化を推進していた品目についてはそうした成果が現れることが多いという。第三に、古くなった選果施設についても廃止せず、新施設の一次集荷施設として活用するなど、有効活用される例が少なくないとのことである。

3 福島県会津地域における広域選果施設「会津野菜館」の整備

 最新の広域選果場の導入プロセスやその成果を把握するため、福島県会津地域にて2020年6月に稼働した「会津野菜館」(以下「野菜館」という)を対象に選び、運営担当者より話を伺った。

(1)野菜館建設に至る背景
 福島県会津地域では現在、稲作を基本としながらも野菜作も組み合わせた複合的な農業を営む農家が多い。また同地域を管轄する単協・会津よつば農業協同組合(以下「JA会津よつば」という)は、2016年3月に広域合併を果たし、現在では地域内唯一の農協となっている。
 会津地域では、農協合併前から稲作の転作作物としてアスパラガスの産地化に取り組み、一定の成果を上げてきた。そして2006年、全国農業協同組合連合会福島県本部(以下「全農福島県本部」という)が当時の会津地域4単協の圏域を超えた広域選果場を設置し、生産者の出荷労力軽減や出荷ロットの確保を図るとともに、効率的な集出荷体制を確立した。しかし近年は、新規参入者の減少(出荷までに2年を要するため)や病害の発生、さらに選果施設の一部老朽化が指摘され、栽培面積も減少傾向にあり(表2)、産地体制のてこ入れが必要となっていた。
 一方、会津地域で現在、生産者が増え、産地規模も拡大しているのがきゅうりとチェリートマト(JAグループ福島内におけるミニトマトの総称)である(表2)。広域合併以前より、福島県および農協独自の支援事業も活用し、パイプハウスの導入、種苗導入のサポートなどに取り組み、栽培面積は増加した。しかし、共選出荷体制の整備は遅れがちで、特にチェリートマトについては個選出荷に依存していた。そのため生産者組織であるJA会津よつばのきゅうり部会およびチェリートマト部会より、農協合併を機に共選施設の設置が強く求められた。しかし、単協として直ちに施設建設に向け投資するのは厳しい状況にあった。

表2

 表3は、JA会津よつばにて関心の高い前述の3品目について、重要な出荷先である東京都中央卸売市場(構成全市場)における福島産野菜の市場シェアを年間および福島産の出荷最盛月について算出した結果である。きゅうりについては夏の重要な集荷先として認知され、非常に高い市場シェアを維持している。アスパラガス、ミニトマト(チェリートマトも含む)についても夏には福島産が一定のシェアを保っている。全農福島県本部としても、首都圏をはじめとする全国各地の市場に対し、これら福島県産野菜の販売強化を進めてきた。
 そこでこれら3品目の産地振興に向け、関係者による協議が繰り返される中で、生産振興に力を注ぎたいJA会津よつばと、福島産野菜の販売強化を目指す全農福島県本部が、互いの機能を明確にしつつも連携し、共同事業体を形成し、双方が運営費を負担することで、複数品目に対応できる新しい広域選果施設を建設・運営することが合意された。同時に新選果施設の効率化により確保される経営資源を、JA単協はこれまで以上に営農指導体制強化に、県本部は販売事業強化に注ぐことも確認された。そして2019年3月に野菜館の建設が正式に認められた。

表3

(2)野菜館の建設と運営
 野菜館立ち上げに必要な総事業経費は11億2000万円であった。このうち5割を国庫補助でまかない、残り5割はJA会津よつばと全農福島県本部で折半した。建設用地は会津若松市郊外にあったJA会津よつばの所有地を借地した。表1にて紹介したこれまでの広域選果施設の管理運営は、その地域の核となる単協か、全農県本部のいずれかが担うのが一般的であった。しかし、会津野菜館は、全国初の単協と県本部が構成する共同事業体により運営される選果施設である。
 図1は野菜館の運営概念図である。共同事業体である野菜館の日常的な運営管理は全農福島県本部が担うが、運営の計画と成果は年3回を目途に上部組織である運営協議会(組合長、県本部長、担当部長により構成)と運営委員会(担当部課長と生産者代表)にて協議される。

ず1

 野菜館を運営する要員は県本部、単協それぞれから派遣・配置されている。組織自体の管理運営に係わる職員は13人、その内訳は単協からの出向3人、県本部からの出向4人、県本部の嘱託3人、県本部所属の再雇用2人、県本部雇用の臨時職員1人である。実際の選果作業を担当する作業員については後述するが、稼働期間中、常時3品目で100人程度を雇用している。
 共同事業体であるため、運営にかかわる費用と収益は、県本部と単協で折半することになっている。
 野菜館の建設は2019年にスタートしたが、オリンピック対応の建設事業増加に由来する資材の調達難もあって完成が予定より遅れた。2020年産の会津野菜が出荷のピークに迫りつつある6月下旬より野菜館での実際の選果作業がスタートした。

(3)野菜館の施設概要と稼働状況
 鉄骨造3階建ての施設(写真1)は敷地面積7400平方メートル、延床面積4800平方メートルである。施設内には現在、アスパラガス、きゅうり、チェリートマトそれぞれの選果機(写真2、3)、予冷施設、実需者のニーズに合わせた小分け・パッキングを行う施設などが整備されている。選果能力は年間ベースでアスパラガス500トン、きゅうり2500トン、チェリートマト200トンである。

写1

写

写3

 選果を実際に担う作業員は、時期により人数の変動があるため、人材派遣業も活用し雇用している。2020年度はきゅうりで50人、アスパラガス、チェリートマトで約30人を調達できた。初年度であったため、導線など作業体系の改善の余地があり、それによる人件費の抑制が期待されている。一方、共同選果が野菜館に集約されたため、既存の集荷場でかかっていた選果人件費や、個選を行っていた出荷者の調製労力は大幅に軽減されたという。野菜館を核とした広域出荷の効果がすでに実現しつつある。
 野菜館への共選出荷を希望する生産者は、出荷計画を提出した後、出荷当日はコンテナを利用して最寄りの集荷施設に出荷する。輸送会社がこれを野菜館に搬送し、選別・調製された野菜は予冷施設に1日保管される。その後、翌朝8時に物流の拠点である「サブセンター」に集約され、出荷先市場・エリアごとに荷捌きされて出荷される。コンテナは端末で管理されており、常時過不足の状況を把握できる。また、野菜館から出荷される段ボールには、稼働に合わせて募集し制定した統一ロゴマーク(写真4)を添付している。

写4

 なお、野菜館の稼働後も、生産者は従来型の持ち寄り共選(生産者が個別に選別・包装したものを共同出荷する形態)も選択できる。持ち寄り共選品の集荷・販売体制も野菜館稼働に合わせて見直しを行った。「荷分け合計連携システム」を導入して早期の出荷量把握が可能になった。また持ち寄り共選品も予冷庫のあるサブセンターに集約した後、野菜館経由の共選品とともに荷捌きし、同じ方面の出荷先には同じトラックで出荷するため、3品目についてはJA会津よつば管内の野菜の一元出荷が実現した。野菜館のスタートに応じて、従来型個選共販の効率性も、野菜館共選品とともに改善されたことになる。
 出荷資材および出荷規格については、部会で協議の上、野菜館経由の共選品も持ち寄り個選品も同じものを使用している。両者に違いが生ずるのではと気にかけていた生産者も多かったが、結果的に資材の統一が図られ、コスト低減につながっている。
 表4は、2020年の野菜館経由の野菜3品目の出荷実績を集計した結果である。同年は工事遅延により夏野菜の出荷シーズンが始まってからの稼働となったため、生産者の間にも「様子を見る」雰囲気が漂い、品目による差もあるが、結果的に重量ベースで計画量の6、7割、人数ベースで申込者の5割~8割の実績となった。従来型の持ち寄り共選も継続しているため、「状態の良い品を野菜館へ、それ以外の出荷物を持ち寄り共選へ」と考え行動した生産者が多かったようだ。また、コロナ禍でのスタートとなったため、生産者に対する対面の場での詳しい事前説明ができなかったことや、結果として出荷規格が野菜館も持ち寄り共選も同じであるため、両方の経路を併用できることも影響したと思われる。

表4

(4)コロナ禍の影響と対応
 新型コロナウイルス感染症の流行拡大は、同時期に稼働した野菜館の稼働状況にもさまざまな影響を与えている。
 まず、スタート間もない野菜館での選果作業への影響として、作業員の調達と日々の作業工程の調整をめぐる諸問題が発生した。コロナ禍により短期的に職を奪われた住民も多かったせいか、2020年は作業員の雇用自体は問題なく進められた。しかし、感染防止のためのマスク・消毒剤などの調達、より広い休憩場所の確保、さらに休憩時間に時間差を設けるなど、さまざまな追加業務が加わり、結果として運営費の増加を招いた。
 出荷される野菜の需要形態にもコロナ禍が影響している。アスパラガスはこれまで、外食産業向けに大型の規格品を一定量出荷していたが、外食市場の縮小によりその需要が急激に落ち込んだ。その一方、ギフト需要が伸びたため、野菜館の実需者向け小分け施設を活用し、規格と量目を調製して出荷したところ、好評を得たという。

4 まとめ:これまでの成果と今後の予定

 稼働してほぼ1年を迎えようとしている野菜館であるが、これまでの成果は以下の通りまとめられる。
 第一に、野菜館への出荷に切り替えた生産者にとっては、これまで選別・包装に要していた労力と時間が大幅に減少し、より生産に集中できるようになった。特にこれまで共選施設を持たなかったチェリートマトの生産者にとって、効果は極めて大きい。他の品目についても、規模拡大を志向する生産者が出始めている。
 第二に、野菜館の稼働を機に、従来型の持ち寄り共選品も含めて3品目の物流体制が見直されたため、トラック輸送の効率化と包装資材の共有が進んだ。あわせて、出荷に関する産地情報ならびに販売先の情報の収集・伝達が改善された。物流体制の変更後、選果後の速報値は、生産者でも2日後には印刷体で確認できるようになった。
 第三に、野菜館の構想・建設から稼働に至るプロセスを通じて、ほぼ想定された形で、全農福島県本部とJA会津よつばの機能分担が明確になってきた。施設は共有しつつ、全農福島県本部は野菜館の管理運営と出荷物の販売機能、JA会津よつばは高品質野菜集荷に向けた営農面の指導と産地内物流に特化する方向が明確になってきた。そのうえで出荷・販売に関する諸情報は共有が進み、その提供方法も改善が進んでいる。販売先からも好評を得ている。生産者からも一定の評価を得ているが、さらに精度の高い情報を早く提供することも求められている。
 今後の予定であるが、取扱品目は現行の3品目を維持し、当面はその安定供給が目指されている。そのうえで野菜館の稼働実績を細かく精査し、施設のより効率的な運営方策を確立しようとしている。
 また、野菜館の構想時から同時に進められてきた会津地域の野菜産地振興策についても継続し、会津野菜の規模拡大を目指している。規模拡大を志向する若手生産者や、単価が高いとされる秋まで出荷期間を延伸しようとする生産者も増えつつある。
 
【参考・引用文献】
日本施設園芸協会(編)『施設園芸・植物工場ハンドブック』農山漁村文化協会、2015
尾高恵美「単位JAの枠を超えた農業関連施設の共同利用」『農中総研 調査と情報』30、14-15、2012
尾高恵美「農協における青果物共同選果場の再編に向けた合意形成」『農林金融』71(12)、678-692、2018