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調査・報告 野菜情報 2021年5月号

園芸産地に立地する卸売市場の機能向上 ~(株)丸勘山形青果市場の取り組みを事例に~

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日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 食品科学科 教授 木村 彰利

【要約】

 本稿では、山形市内の地方卸売市場の卸売業者である(株)丸勘山形青果市場を事例として、同社が行う青果物の集分荷などに係る取り組みとともに、それによってもたらされた市場の機能向上について紹介する。同社は歴史的な経緯もあって産地市場的な性格を守りながら、産地市場と消費市場をあわせもつ市場である。消費市場の性質が市場が所在する山形県村山地域を中心に個人出荷者や県外出荷団体から青果物を集荷するとともに、県外を含む量販店や他市場仲卸業者などに対する分荷が行われている。

1 はじめに

 青果物流通において卸売市場の経由率は経年的に低下しているだけでなく、市場で形成される価格に関しても低水準で推移する傾向にある。このため、卸売業者の取扱額は伸び悩むとともに、業者数も減少しながら現在に至っている。これらから青果物流通における卸売市場の地位は低下しつつあるといえるが、その一方で、国産青果物に関しては78.5%(2017年)が卸売市場を経由(注1)していることを踏まえると、市場機能の維持向上を図ることを通じて、市場利用者の利便性を向上していくことの重要性は高いと考えられる。
 また、産地段階における青果物の集出荷はJAを中心としながらも、任意出荷組合や産地出荷業者、生産者個人など多様な担い手が存在しており、これらが相互に対立・補完しながら行われている。このような担い手のうち産地市場については、個人出荷者から集荷された青果物をセリという取引方法により産地出荷業者へと販売することを通じて、消費地に対する出荷拠点として機能してきた。そして、産地市場においては入荷した青果物に手を加えることなく産地出荷業者に販売するのが一般的であり、卸売業者が選別や加工・調製などの作業を担うケースは一般的ではなかった。しかし、一部ではあるが産地市場のなかには卸売業者が出荷者や販売先の要望に応じた各種の取り組みを行うことによって市場機能の向上を図り、取扱額を伸ばしてきたものが存在している。
 このため本稿においては、園芸生産が盛んな山形市に所在する民設民営の地方卸売市場である(株)丸勘山形青果市場(以下「丸勘青果市場」という)」を対象として、2020年10月に実施したヒアリング(注2)の結果に基づき、同社の市場機能向上に向けた取り組みについて検討したい(写真1~3)。同社を事例とする取り組みは、同じく産地段階の集出荷を担うJAなどにとっても参考とするに値するものであろう。

注1:『令和2年卸売市場データ集』による。
注2:本稿に係る丸勘青果市場及び2人の生産者に対するヒアリングは2020年10月にリモートによる方法で実施し、写真については同年11月に現地に赴いて撮影した。






 

2 山形県農業の概要

 丸勘青果市場についてみる前に、表1を基に山形県の農業について確認したい。山形県の耕地面積(2018年)は11万7700ヘクタールであるが、その内訳は田が79.0%を占めており、同割合は全国の54.4%や東北の72.0%と比較して高くなっていることから、同県は元来、稲作の盛んな地域である。それ以外では、普通畑が10.3%、樹園地が8.8%となっている。これらから、同県の樹園地は全国や東北と比較して高くなる一方で、普通畑では低い傾向にある。



 山形県の販売のある経営体数(2015年)は3万2617であり、このうち単一経営が72.4%、複合経営が27.6%である。さらに単一経営の内訳を確認すると、稲作が最も多く46.0%であるのに対し、野菜は露地が3.2%、施設は0.7%に過ぎず、全国や東北と比較していずれも低い割合となっている。しかし、果樹類については18.3%と高いだけでなく、全国や東北と比べても相対的に高い数値となっていることから、同県農業の特徴として果実生産が盛んである点が挙げられる。
 最後に農業産出額(2018年)についてみると、2480億円のうち米が33.7%を占めているのに対し、果実は28.6%、野菜は19.0%となっている。この点からも、山形県においては果実生産が盛んに行われていることが確認できる。農業産出額に占める野菜の割合については全国平均よりも低いものの、東北にほぼ等しい。同県の主要な園芸品目(2018年)(注3)についてみると、果実についてはサクランボ(374億円)、ぶどう(118億円)、りんご(98億円)、西洋なし(56億円)、もも(31億円)などが挙げられ、野菜についてはすいか(62億円)、えだまめ(45億円)、トマト(44億円)、メロン(41億円)、きゅうり(41億円)、ねぎ(33億円)、なす(22億円)、アスパラガス(22億円)などとなっている。以上から、果実についてはサクランボなどを中心に特定品目の生産に特化する一方で、野菜については比較的多品目にわたる生産が行われている。
 
注3:『東北農林水産統計年報平成30年~令和元年』による。
 

3 丸勘青果市場の沿革と現状

(1)丸勘青果市場の沿革
 丸勘青果市場のこれまでの経緯についてまとめたものが表2である。同社の前身となった会社は、1955年に山形市内でりんごを生産していた初代社長(注4)が農家の出荷先とするため、山形市銅町に設置した産地市場であった。このため、設立当時の取引は夕方に行われており、売買参加者の多くは産地出荷業者であった。ただし、当時において既に県外からの集荷も行われていた。しかし、設立から10年が経過した1965年頃には、主要な販売先は産地出荷業者から山形市周辺の専門小売店へと変化しており、市場の性格も産地集荷市場から消費地市場へと変容している。このような販売先の変化に対応して、集荷に関しても東京都内の市場から大型トラックを用いた転送集荷が行われるようになるなど、地元小売店の品揃えに応える取り組みが行われている。
 1975年4月には山形市中央卸売市場(注5)が設立されたが、その際に行政から丸勘青果市場の前身会社についても他の卸売業者と合併したうえで、新市場の卸売業者となることが要請された。しかし、同社はそれを受け入れず、単独市場として営業を継続する道を選択したが、この出来事はその後の経営に大きな影響を与えることになった。具体的には、新市場の開場後は丸勘青果市場の入荷量が激減しただけでなく、売買参加者も殆どいないという状態が続くことになった。そしてこのような背景の下で、新規出荷者の積極的な勧誘や売買参加者の確保(注6)など、現在に繋がる取り組みが開始されている。



 1989年に会社名を現在の名称に変更するとともに現在地に移転している。また、販売先の業態も経年的にスーパーマーケットのウェイトが高くなるだけでなく、県外への搬出量も高まっている。そして、2010年頃には売買参加者に専門小売店がいなくなる(注7)など、現在に近い経営内容となっている。
 
注4:「丸勘」という屋号は、初代社長である「井上勘左衛門」にちなんでいる。
注5:山形市中央卸売市場は2011年4月に地方卸売市場に転換され、名称も山形市公設地方卸売市場へと変更されている。
注6:丸勘青果市場では売買参加者を増やすため、現在に至るまで売買参加者の加入費や年会費を低く抑えている。
注7:丸勘青果市場で青果物を仕入れていた専門小売店は、現在では廃業するか、山形市公設地方卸売市場へと仕入先を変更している。

 
(2)丸勘青果市場の現状
 丸勘青果市場の概要については表3の通りである。同社の所在地は山形市十文字にあるが、ここは市の中心部からみると北側にあたり、天童市寄りに位置している。市場は県の内陸部を南北に縦断する山形バイパスに隣接しているだけでなく、山形自動車道の山形インターチェンジから1キロメートル程度というように、交通アクセスに恵まれた立地環境にある。



 市場の敷地面積は3万3100平方メートルであり、そのなかに駐車場と延床面積9900平方メートルの市場施設が設置されている。市場施設は前掲の表2で示したように、市場取扱額の拡大に合わせて増築を繰り返した結果、現在は主要施設だけでも事務所、第1売場、第2売場、低温売場、パッケージセンターなどが設置されている(写真4、5)。2019年度における取扱額は127億3533万円、登録出荷者数は個人で5500人、県外の出荷団体では550団体となっている。





 丸勘青果市場の取扱額の推移を示したものが図1である。同社の取扱額は年度によっては前年度を下回る年もみられるが、全体的な傾向として右肩上がりで拡大する傾向にある。1990年には15億6596万円であったものが、2000年に51億4257万円、2010年に100億1438万円、そして2019年には137億6231万円と、大幅な拡大が確認できる。この間の成長を対前年度比で確認すると、一部を除いて概ね100%以上となっているだけでなく、1990年から2019年の年平均が109.3%であるということは、この間に毎年10%近いペースで成長を続けてきたことを意味している。その結果、この19年間で取扱額は8.4倍となるなど飛躍的な成長が実現されている。

4 丸勘青果市場の集分荷の概要

(1)集荷の概要
 本章においては、丸勘青果市場の集荷および分荷について確認する。最初に集荷からみるが、同社は前掲の表3で示すように登録出荷者と県外出荷団体から集荷を行っている。集荷方法は委託が95%を占めており、残り5%の買付については殆どが果実となっているが、その理由は産地ブランドや等階級によっては買付でないと集荷できない果実があることによる。
 出荷者のうち5500人の登録出荷者はあくまで登録数であり、過去1年間に出荷実態のあるものに限定すると4200人程度である。これら個人出荷者の所在地は、丸勘青果市場のある山形市やその北に隣接する天童市、さらにはこれら2市が属する村山地域(注8)が中心となっているが、それ以外にも同地域の西側にあたる庄内地域に加えて、一部ではあるが県外も含まれている。なお、庄内地域については同地域内でも東側の山沿いが中心となっているが、そこからの集荷は後述する巡回集荷によるところが大きい。出荷者数は経年的に増加傾向で推移しているが、その多くは近隣JAや他市場から出荷先を変更した生産者である。
 一方、550団体の出荷団体については基本的に県外の任意出荷組合が対象であるが、北海道と茨城県については農協の連合会も含まれている。ただし、出荷組合名義で出荷が行われていたとしても、出荷品の評価と精算は個別に行われているように、出荷団体の多くは実質的に個人出荷というべきものである。
ここで、丸勘青果市場が扱う青果物の県産品率についてみると表4の通りとなる。青果物全体では7割が野菜であり、果実は3割を占めている。品目的には、販売先となるスーパーマーケットへの品揃えの関係から多品目の青果物が扱われているが、果実に限ると山形県の特産品であるサクランボが果実全体の半分近くを占めるなど、特定品目の構成比が高くなっている。
 また、生産地域では青果物全体の42%が県内産であるのに対し、58%は県外産となっている。これを県内産に限定すると、その7割は村山地域、残りの3割が庄内地域である。生産地域を野菜と果実に分けて確認すると、野菜については県内の収穫期間が夏から秋に限定されることから、総じて県外産が多くなっている。果実については県内にサクランボをはじめとする全国シェアの高い品目が生産されていることもあり、30%のうち21%までが県内産によって占められている。ちなみに、丸勘青果市場の主要取扱品目と集荷期間との関係についてみると、冬期に降雪量が多い地域に立地しているため、表5で示すように多くの品目で夏から秋が集荷期となっている。





注8:山形県の地域区分は村山地域と庄内地域以外に、村山地域の北側にあたる最上地域と同じく南側に位置する置賜地域からなっている。

(2)分荷の概要
 本節では丸勘青果市場の分荷についてみるが、その前に同社における取引方法を確認すると、売買参加者に専門小売店がいなくなったことも一因となり、現在では全てが相対取引で販売されている。
 丸勘青果市場の分荷先業態については表6の通りである。調査時現在では全体の60%がスーパーに販売されており、次いで他市場仲卸業者の20%、加工業者と通信販売などがそれぞれ10%という構成である。このうち、スーパーは県内業者だけでなく、後掲の表7にもあるように県外も多い。県外スーパーが山形県産青果物を購入する場合、一般的な流通経路ではJA・卸売業者・仲卸業者の3段階で手数料などが必要となるのに対し、丸勘青果市場からの調達ならば1段階のみとなるため流通経費は大きく削減されることになる。そしてこの点が、県外スーパーへの販売が拡大してきた一因である。





 スーパー以外の販売先をみると、他市場の仲卸業者については主として県外市場の業者が対象であり、具体的には東北6県や関東地方の仲卸業者に対し、直接的に販売している。加工業者は総菜製造業者やコンビニエンスストアに納品するベンダーが対象である。通信販売などは品目的に果実が中心となっているが、その内容には多様な形態が含まれている。このうち主なものだけでもデパートやスーパーのギフト、テレビやインターネットの通信販売、さらには行政などが行うふるさと納税の返礼品などが含まれている。このうちデパートやスーパーマーケットのギフト向け通販については、1)スーパーなどがカタログを作成 2)カタログの情報をもとに顧客がスーパーに発注 3)スーパーなどは顧客からの受注を取りまとめて丸勘青果市場に発送を依頼 4)丸勘青果市場から直接顧客へ商品を発送―という流れで行われている。ちなみに今年度のギフトなどの販売に関しては、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響によって大幅な拡大が見込まれている。
 丸勘青果市場が販売した青果物の分荷地域についてみたものが表7である。山形県内への分荷は60%を占めているが、これについては中心となるスーパーに加えて他市場の仲卸業者などが対象となっている。秋田県と宮城県もスーパーが主要な販売先業態であり、調査時では販売全体の15%を占めているが、近年販売量が拡大しつつある地域である。それ以外の東北3県と新潟県については15%を占めている。一方、関東地方は14%となっているが、この場合は品目的にサクランボの割合が高いという特徴があることから、首都圏の消費需要に対する山形県特産品の供給というべき販売である。

5 丸勘青果市場による機能向上に向けた取り組み

(1)出荷者の確保と生産支援
 前述のように丸勘青果市場は取扱額を大きく拡大させてきたが、本章においては、このような成長を可能にしたと考えられるいくつかの取り組みについてみていきたい。
 青果物の生産者は全国的に減少するとともに高齢化する傾向にあり、山形県についても同様である。このような傾向は、集荷における個人出荷者の割合の高い丸勘青果市場のような卸売業者にとって集荷基盤の弱体化を意味するものであるため、将来的に集荷量を確保し、安定的な集荷を行っていくには新規出荷者の確保や出荷者の生産支援が重要である。
 丸勘青果市場が行う生産者支援としては、同社が生産資材や出荷ケースなどを販売することによって、出荷者に対する利便性の向上が図られている(写真6)。また、種苗を販売するにあたっては購入価格の15~20%を同社が補助するとともに、生産資材を20万円以上購入した出荷者に対しては、同社で使用できる商品券を配布することによって、出荷者の費用負担を軽減させている。



 このような支援に加えて、新規出荷者を確保していくため丸勘青果市場の職員は、県内産地の巡回や新聞配達店を通じたチラシの配布などによって、新規出荷者を開拓している(写真7)。このうち県内産地の巡回については、比較的時間に余裕のある午後の時間帯に同社職員が出荷者を訪問するとともに、生産現場で直接コミュニケーションを取りながら経営上の相談を行うなどの方法を通じて人間関係を構築し、市場への新規出荷へとつなげている。こうした努力の結果、2018年には新たに76人の新規出荷者が確保されるとともに、3億6000万円の販売に結びついている。



(2)出荷者に対する出荷支援
 丸勘青果市場は個人出荷者の作業負担を軽減させるため、山形県内に67箇所の集荷所を設置するとともに、同社がそこから市場までの輸送を行っている。この場合、市場周辺の出荷者の多くは自身で市場に搬入していることから、集荷所の設置場所は山形県内でも市場から50キロメートル以上離れているような遠隔地が中心である。
 集荷にあたっては、自社で所有する6台の3トントラックによって、10のルートに分けて行われている(写真8)。丸勘青果市場が集荷した場合の輸送経費は出荷者が負担しているが、徴収にあたっては卸売業者の手数料率を引き上げることにより対応している。具体的には、丸勘青果市場の手数料率は野菜・果実共に8.5%であるが、同社が集荷した場合、集荷所が市場から半径50~60キロメートル圏内にある場合は12%(3.5%上乗せ)、庄内地域など60キロメートル以遠については13.5%(5%上乗せ)が販売金額から差し引かれている。
 丸勘青果市場の集荷所はほぼ県内に限定されているが、集荷量の多い栃木県(いちごなど)や茨城県(はくさいなど)では県内同様に集荷所が設けられ、そこに集荷された青果物は同社が委託した輸送業者によって市場へと搬入されている。



(3)卸売業者による選別作業
 丸勘青果市場の取り組みとして特徴的なのは、市場内で果菜類などの選別が行われている点が挙げられる。青果物の選別作業は、一般的にJAや任意出荷組合などの出荷団体、および産地出荷業者によって行われるケースが多いことから、丸勘青果市場のこのような取り組みは注目すべきものであろう。
 同社が選別を行う主要な品目としては、野菜ではミニトマト、大玉トマト、長なすなどが挙げられ、果実ではラ・フランス、もも、プルーンなどが対象である(写真9、10)。この場合、青果物は生産者の段階で荒選別が行われ、コンテナに入れられた状態で市場に搬入されている。そして荷受け後に選別が行われるが、実際の作業は株式会社NKパッケージ(注9)に委託されている。また、選果機は市場の卸売場やパッケージセンターに設置されている(写真11)。







 丸勘青果市場が選別を行った場合、選果料として取引価格の20~30%が出荷者から徴収されることになるが、その水準は周辺JAの選果場使用料よりも低くなるように設定されている。そして、このような取り組みによって出荷者は出荷段階の選別・調製作業が省力化できるだけでなく、卸売業者の段階で新たな価値が付加されることから価格的にも有利な販売が実現されている。また、青果物を購入するスーパーなどにとっても丸勘青果市場から仕入れることによって、安価かつ高鮮度であることに加えて、統一的な基準で選別された青果物の調達が可能となっている。
 
注9:株式会社NKパッケージは丸勘青果市場の関連企業であり、年間取扱額は約2億円、役職員数は15人である。また、選別やパッキングなどの作業については合計55人のパート・アルバイトが担っている。

(4)卸売業者によるパッキングなどへの対応
 青果物に対するパッキングや袋詰めはスーパーが店頭で販売する場合に不可欠であることから、実際の流通においても産地から小売の各段階で行われている。丸勘青果市場についてもスーパーに直接販売するケースが多いことから、同社は比較的早い段階からパッキングなどの取り組みを行ってきた。そして現在では、このような作業は選別と同じく(株)NKパッケージに委託することで対応している。
 パッキングは県内スーパーに納品される根菜類や長ねぎ、柑橘類などで行われているが、この場合、販売先の要望を踏まえたスペックに調製するだけでなく、価格などのラベリングを行ったうえで、個店への配送(注10)まで一貫して対応している(写真12~14)。それ以外に、キャベツ、だいこん、はくさい、かぼちゃなどの野菜についてはカッティングまで行っており、スーパーの要望に広く応える対応(注11)が取られている。







注10:県内スーパーに対する個店配送は、集荷で使用した6台の3トントラックを用いて行われている。
注11:スーパーに対しては本文中にあるような各種対応に加えて、例えばスーパーが催しなどを行う場合には、その企画段階から丸勘青果市場も係わるケースが増えつつあるとしている。同様に、スーパーと共同で産地開発や商品開発を行う機会も拡大しており、山形県産野菜の2割程度はこのような商品となっている。

 
(5)果実のブランド化
 丸勘青果市場による市場機能向上に向けた取り組みの最後として、山形県を代表する果実であり、同社にとっても取扱額の多い重要品目であるサクランボのブランド化についてみておきたい。なお、ブランド化の対象となるサクランボは同社が扱う同品目の50%程度である。同社ブランドのサクランボの流通について時系列で確認すると、概略は以下の通りとなる。
 丸勘青果市場ブランドのサクランボの生産者は1500人(一部に県外を含む)であるが、これら生産者は出荷にあたって自身で選果・調製したものを、収穫当日の18時30分までに県内45箇所の集荷所まで持ち込んでいる。その後はトラックで輸送され、おおよそ19時30分から21時にかけて市場に搬入される。丸勘青果市場ではサクランボの出荷期間には10人の夜間販売員を配置しているが、これら販売員はスーパーからの発注を踏まえて、入荷したサクランボのなかから各スーパーの顧客層に適した品質や大きさのものを選択し、原則として翌朝までの間に市場からスーパーに向けた搬出を行っている。このように夜間販売を行うことによって、スーパーは例え首都圏の店舗であっても収穫翌日の店舗開店時には、市場ブランドサクランボの販売が可能となっている。
 これが一般的な流通であれば、山形県内で生産されたサクランボがJAから関東地方の卸売市場を経由することになるが、この場合、スーパーで販売されるのは最短でも収穫日2日後であり、途中に他市場への転送が行われるのであればさらにもう1日が必要となる。これを市場ブランド品と比較すると、ブランド品の鮮度面での優位性は明らかであろう。このため、同社ブランドのサクランボはスーパーからの要望が高く、現在では首都圏だけにとどまらず、最遠では岐阜県のスーパーにまで流通している。
 以上、本章においては丸勘青果市場が行う市場機能高度化の取り組みについてみてきたが、このような多方面にわたる取り組みを行うことで市場の利便性を向上させ、その結果、同社は取扱額を伸ばしてきたということができよう。
 

6 野菜生産者の経営概要

(1)ミニトマト生産者の熊谷重之介氏
 本章においては、丸勘青果市場の取り組みを出荷者サイドから検証するため、同社に野菜を出荷する生産者の経営概要について確認したい。
 熊谷重之介氏は山形市青柳でミニトマトを生産する野菜生産者である(写真15)。同氏が農業に就業したのは2013年であり、当初の2年間は愛知県内の生産者のもとで大玉トマトを栽培していたが、2015年からは山形県に戻り、愛知で習得した技術を生かしてミニトマトの生産を行っている(写真16、17)。同氏の父親もアスパラガスを中心とする農業を行っているが、現在のところ農業経営は個別に行われている。ヒアリング時の熊谷氏の年齢は31歳であるが、将来的にミニトマトの生産拡大を検討しているだけでなく、4年後を目途に父親が行う農業の継承も予定している。







 熊谷氏の生産品目は、経営の中心となるミニトマトに加えてだいこんとかぶの3品目となっているが、年間380万円(2019年)の出荷額のうち300万円程度をミニトマトが占めている。生産方法はいずれの品目も施設栽培であり、所有するビニールハウス9棟(計25アール)のうち6棟がミニトマトの生産に用いられている。販売に関しては、3品目とも丸勘青果市場に出荷している。
 ミニトマトの栽培は米の収穫が終わった秋口から開始し、翌年の7月末から10月末にかけて収穫・出荷が行われている。出荷の際は、無選別のものを同氏が所有する10キログラムコンテナ(注12)に入れた状態で行っている。その後は市場において選別・調製され、最終的にスーパーなどへ販売されることになる。
 現在、丸勘青果市場に出荷するミニトマト生産者は52人であるが、ここ数年は毎年10人程度の増加がみられている。このような生産者の増加は、大玉トマトの生産者がミニトマトに生産品目を転換したケースに加えて、JAの出荷者が同社に出荷先を変更したケースが含まれている。そして後者については、丸勘青果市場に出荷した場合の収益性の高さや選別・バッキングを行ってくれる点などが、出荷先変更の理由として指摘されている。これら以外にも丸勘青果市場からは、奨励品種の紹介や種苗会社の職員を講師とする研修会の開催などの支援が行われており、生産者から評価されているとのことである。
 
注12:丸勘青果市場では、希望する出荷者には各種大きさのコンテナを貸与している。
 
(2)長ねぎ生産者の佐々木康裕氏
 佐々木康裕氏は現在37歳であるが、9年前までは地元の建設業者に勤めていた(写真18)。しかし、家業が農業ということもあって野菜生産に魅力を感じ、2011年に就農のために退職した。退職後の3年間は父親の農業を手伝いながら栽培技術を習得し、2015年には山形市内表に30アールの農地を借り入れて独立するとともに、丸勘青果市場への出荷を開始した。その後は順次借入地を拡大してきたことから、現在では2ヘクタールの経営規模となっている。



 佐々木氏の生産品目は長ねぎ、セロリおよびほうれんそうの3品目であるが、1300~1400万円の年間出荷額のうち長ねぎだけで9割以上を占めている(写真19、20)。栽培品目として長ねぎを選択した理由は、同氏は独立後も父親が栽培するアスパラガスを手伝っていたことから、年間スケジュールを組むうえで長ねぎとアスパラガスに作業期間の重複が少ない点が挙げられている。生産方法に関しては、長ねぎは全て露地栽培であるが、セロリとほうれんそうは3アール規模のビニールハウス3棟を用いた施設栽培である。長ねぎの栽培は4月~5月に定植したものを7月下旬から11月中旬にかけて収穫し、その後、11月末から翌年の5月にかけてほうれんそうおよびセロリの生産が行われている。長ねぎの栽培において最も労力負担が大きいのは機械化が難しい収穫後の調製作業であり、生産から出荷までに要する作業負担の約4割は同作業が占めている。





 佐々木氏は3品目ともに丸勘青果市場に出荷しているが、その理由は2011年に就農した当初から、同社の担当者が頻繁に圃場を訪問しながら出荷を要請していたことに熱意を感じた点が挙げられている。また、長ねぎの選別規格や荷姿に関する指導など(注13)が受けられる点も評価されている。またJAとの比較では、例えばセロリをJAに出荷する場合は生産したセロリの全量をJAに出荷しなければならないなど、制約が大きい点も丸勘青果市場を出荷先とする理由としている。
 同氏の今後の農業経営に関する展望は、借地の拡大による規模拡大である。しかし、その方向性として現在の中心品目である白ねぎの拡大を図るのか、それとも白ねぎ以外の品目を拡大していくのかは検討中とのことである。また、10年後までには父親の農業経営の継承を予定している。
以上、丸勘青果市場に出荷する生産者2人の農業経営についてみてきたが、丸勘青果市場は単に野菜の出荷先であるだけに留まらず、多方面にわたる生産者支援が行われていた。
 
注13:丸勘青果市場による荷姿の指導の例としては、例えば、長ねぎの市場相場が高騰している時期にはより高い評価となる出荷ケースでの出荷が要請されるが、相場低迷時には資材費を節約できるビニール袋が勧められるなど、農家手取りの確保を意識したアドバイスが行われている。
 

7 まとめ

 本稿において、山形市内の青果物産地集荷市場である丸勘青果市場を事例として、同社が行う市場機能高度化に向けた各種の取り組みについて検討を行った。近年の青果物流通は生産者の減少や高齢化、市場経由率の低下に加えて、市場で形成される単価が抑制基調で推移するという状況下にあり、このため多くの卸売業者の取扱額が伸び悩む中でも、同社は経年的に取扱額を拡大させてきたという経緯がある。そしてこのような拡大は、集荷に関しては山形県内の個人出荷者や県外出荷団体からの集荷量を拡大するとともに、販売面では従来の専門小売業者から県内外のスーパーを中心としながら他市場仲卸業者、加工業者、通信販売などを組み合わせた販売へと大きく変化させることによってもたらされていた。
 このように丸勘青果市場は集荷・販売のあり方を大きく変化させただけでなく、生産者に対する生産・出荷支援に加えて、青果物に対する選別作業やパッキング・カッティング作業、さらにはブランド品目の育成など、多方面にわたる機能向上に向けた取り組みが行われていた。また、生産者を対象とするヒアリングからも同社による各種支援は評価され、出荷先として選択される一因となっていた。そして、生産・出荷に係るこのような取り組みが、市場の活力維持につながったことは間違いのないところであろう。以上から、今後、青果物の生産や流通を振興していく上で、同社の取り組みは検討に値するものといえよう。

謝辞:本稿に係る調査の実施にあたっては、新型コロナナウイルス感染症の流行が予断を許さない状況下であるにも関わらず、(株)丸勘山形青果市場の井上社長をはじめとする方々には長時間にわたるヒアリングにご協力頂きました。また、現地における写真撮影においてもご高配をい頂いたことをここに記し、感謝の意を表します。