(1)出荷者の確保と生産支援
前述のように丸勘青果市場は取扱額を大きく拡大させてきたが、本章においては、このような成長を可能にしたと考えられるいくつかの取り組みについてみていきたい。
青果物の生産者は全国的に減少するとともに高齢化する傾向にあり、山形県についても同様である。このような傾向は、集荷における個人出荷者の割合の高い丸勘青果市場のような卸売業者にとって集荷基盤の弱体化を意味するものであるため、将来的に集荷量を確保し、安定的な集荷を行っていくには新規出荷者の確保や出荷者の生産支援が重要である。
丸勘青果市場が行う生産者支援としては、同社が生産資材や出荷ケースなどを販売することによって、出荷者に対する利便性の向上が図られている(写真6)。また、種苗を販売するにあたっては購入価格の15~20%を同社が補助するとともに、生産資材を20万円以上購入した出荷者に対しては、同社で使用できる商品券を配布することによって、出荷者の費用負担を軽減させている。
このような支援に加えて、新規出荷者を確保していくため丸勘青果市場の職員は、県内産地の巡回や新聞配達店を通じたチラシの配布などによって、新規出荷者を開拓している(写真7)。このうち県内産地の巡回については、比較的時間に余裕のある午後の時間帯に同社職員が出荷者を訪問するとともに、生産現場で直接コミュニケーションを取りながら経営上の相談を行うなどの方法を通じて人間関係を構築し、市場への新規出荷へとつなげている。こうした努力の結果、2018年には新たに76人の新規出荷者が確保されるとともに、3億6000万円の販売に結びついている。
(2)出荷者に対する出荷支援
丸勘青果市場は個人出荷者の作業負担を軽減させるため、山形県内に67箇所の集荷所を設置するとともに、同社がそこから市場までの輸送を行っている。この場合、市場周辺の出荷者の多くは自身で市場に搬入していることから、集荷所の設置場所は山形県内でも市場から50キロメートル以上離れているような遠隔地が中心である。
集荷にあたっては、自社で所有する6台の3トントラックによって、10のルートに分けて行われている(写真8)。丸勘青果市場が集荷した場合の輸送経費は出荷者が負担しているが、徴収にあたっては卸売業者の手数料率を引き上げることにより対応している。具体的には、丸勘青果市場の手数料率は野菜・果実共に8.5%であるが、同社が集荷した場合、集荷所が市場から半径50~60キロメートル圏内にある場合は12%(3.5%上乗せ)、庄内地域など60キロメートル以遠については13.5%(5%上乗せ)が販売金額から差し引かれている。
丸勘青果市場の集荷所はほぼ県内に限定されているが、集荷量の多い栃木県(いちごなど)や茨城県(はくさいなど)では県内同様に集荷所が設けられ、そこに集荷された青果物は同社が委託した輸送業者によって市場へと搬入されている。
(3)卸売業者による選別作業
丸勘青果市場の取り組みとして特徴的なのは、市場内で果菜類などの選別が行われている点が挙げられる。青果物の選別作業は、一般的にJAや任意出荷組合などの出荷団体、および産地出荷業者によって行われるケースが多いことから、丸勘青果市場のこのような取り組みは注目すべきものであろう。
同社が選別を行う主要な品目としては、野菜ではミニトマト、大玉トマト、長なすなどが挙げられ、果実ではラ・フランス、もも、プルーンなどが対象である(写真9、10)。この場合、青果物は生産者の段階で荒選別が行われ、コンテナに入れられた状態で市場に搬入されている。そして荷受け後に選別が行われるが、実際の作業は株式会社NKパッケージ
(注9)に委託されている。また、選果機は市場の卸売場やパッケージセンターに設置されている(写真11)。
丸勘青果市場が選別を行った場合、選果料として取引価格の20~30%が出荷者から徴収されることになるが、その水準は周辺JAの選果場使用料よりも低くなるように設定されている。そして、このような取り組みによって出荷者は出荷段階の選別・調製作業が省力化できるだけでなく、卸売業者の段階で新たな価値が付加されることから価格的にも有利な販売が実現されている。また、青果物を購入するスーパーなどにとっても丸勘青果市場から仕入れることによって、安価かつ高鮮度であることに加えて、統一的な基準で選別された青果物の調達が可能となっている。
注9:株式会社NKパッケージは丸勘青果市場の関連企業であり、年間取扱額は約2億円、役職員数は15人である。また、選別やパッキングなどの作業については合計55人のパート・アルバイトが担っている。
(4)卸売業者によるパッキングなどへの対応
青果物に対するパッキングや袋詰めはスーパーが店頭で販売する場合に不可欠であることから、実際の流通においても産地から小売の各段階で行われている。丸勘青果市場についてもスーパーに直接販売するケースが多いことから、同社は比較的早い段階からパッキングなどの取り組みを行ってきた。そして現在では、このような作業は選別と同じく(株)NKパッケージに委託することで対応している。
パッキングは県内スーパーに納品される根菜類や長ねぎ、柑橘類などで行われているが、この場合、販売先の要望を踏まえたスペックに調製するだけでなく、価格などのラベリングを行ったうえで、個店への配送
(注10)まで一貫して対応している(写真12~14)。それ以外に、キャベツ、だいこん、はくさい、かぼちゃなどの野菜についてはカッティングまで行っており、スーパーの要望に広く応える対応
(注11)が取られている。
注10:県内スーパーに対する個店配送は、集荷で使用した6台の3トントラックを用いて行われている。
注11:スーパーに対しては本文中にあるような各種対応に加えて、例えばスーパーが催しなどを行う場合には、その企画段階から丸勘青果市場も係わるケースが増えつつあるとしている。同様に、スーパーと共同で産地開発や商品開発を行う機会も拡大しており、山形県産野菜の2割程度はこのような商品となっている。
(5)果実のブランド化
丸勘青果市場による市場機能向上に向けた取り組みの最後として、山形県を代表する果実であり、同社にとっても取扱額の多い重要品目であるサクランボのブランド化についてみておきたい。なお、ブランド化の対象となるサクランボは同社が扱う同品目の50%程度である。同社ブランドのサクランボの流通について時系列で確認すると、概略は以下の通りとなる。
丸勘青果市場ブランドのサクランボの生産者は1500人(一部に県外を含む)であるが、これら生産者は出荷にあたって自身で選果・調製したものを、収穫当日の18時30分までに県内45箇所の集荷所まで持ち込んでいる。その後はトラックで輸送され、おおよそ19時30分から21時にかけて市場に搬入される。丸勘青果市場ではサクランボの出荷期間には10人の夜間販売員を配置しているが、これら販売員はスーパーからの発注を踏まえて、入荷したサクランボのなかから各スーパーの顧客層に適した品質や大きさのものを選択し、原則として翌朝までの間に市場からスーパーに向けた搬出を行っている。このように夜間販売を行うことによって、スーパーは例え首都圏の店舗であっても収穫翌日の店舗開店時には、市場ブランドサクランボの販売が可能となっている。
これが一般的な流通であれば、山形県内で生産されたサクランボがJAから関東地方の卸売市場を経由することになるが、この場合、スーパーで販売されるのは最短でも収穫日2日後であり、途中に他市場への転送が行われるのであればさらにもう1日が必要となる。これを市場ブランド品と比較すると、ブランド品の鮮度面での優位性は明らかであろう。このため、同社ブランドのサクランボはスーパーからの要望が高く、現在では首都圏だけにとどまらず、最遠では岐阜県のスーパーにまで流通している。
以上、本章においては丸勘青果市場が行う市場機能高度化の取り組みについてみてきたが、このような多方面にわたる取り組みを行うことで市場の利便性を向上させ、その結果、同社は取扱額を伸ばしてきたということができよう。