野菜 野菜分野の各種業務の情報、情報誌「野菜情報」の記事、統計資料など

ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > コロナ禍における 農作業への多様な人材確保の取り組み

調査・報告 野菜情報 2021年5月号

コロナ禍における 農作業への多様な人材確保の取り組み

印刷ページ
北海道農業協同組合中央会 JA総合支援部 主幹 太田 慎太郎

【要約】

 新型コロナウイルス感染症の拡大による影響で、北海道の農業分野では外国人技能実習生の受け入れができない状況が続き、国内の雇用情勢にも複業希望者の増加等の変化が生じている。JAグループ北海道では、そうした状況に対応するため、北農5連JA営農サポート事業の一部の組み換えによる「新型コロナウイルス感染症に係る農業人材確保特別対策事業」、北海道援農推進連絡会議による農業分野における多様な業界からの人材マッチングの取り組みや複業として農業への従事を促進する「パラレルノーカー」の取り組みなどを行っている。本稿では、取り組みの具体的な内容と今後の課題について紹介する。

1 背景

 昨春以降、新型コロナウイルス感染症に関する政府の水際対策の影響により、外国人技能実習生等の入国ができない状況が続いてきた。北海道の農業分野で受け入れた外国人技能実習生は、3076人(令和元年度)であるが、令和2年は、監理団体や実習実施者等として関与しているJAだけでも、受け入れを予定していた425人の技能実習生や特定技能外国人の入国ができない状況となった。このため、生産現場では露地野菜や酪農等を中心に代替人材を早急に確保する必要に迫られた。7月以降は、レジデンストラックによる特例的な入国措置や中長期在留者向けの入国制限緩和措置等が順次打ち出されたことで徐々に入国が再開され、3年1月までに遅延していた425人のうち、142人の技能実習生等が入国できた。しかしながら、政府の緊急事態宣言に伴う水際対策の再強化により、1月以降は再び入国できない状況が続いており、3年1月現在では、1月以降入国予定だった者を含め、380人の技能実習生等が入国遅延となっている。
 加えて、コロナ禍により国内の雇用情勢が大きく悪化するとともに、複業希望者の増加など従来の働き方が大きく変化しつつある。

2 具体的な取り組み

 このような状況を踏まえ、北農5連(注1)では、JA等による代替人材確保に向けて、主に四つの取り組みを進めてきた。
 
(1)北農5連JA営農サポート事業の実施
 令和元年度から実施している北農5連JA営農サポート事業(注2)のうち、農業人材確保支援事業を「新型コロナウイルス感染症に係る農業人材確保特別対策事業」に組み替えて、北農5連で1億円の独自予算を用意した。事業対象となる取り組みについては、JAによる求人サイトなどを活用した募集広告の取り組みや市町村と一体となった従業員向け居住施設等の整備、政府の水際対策の影響を受けた監理団体JA等の掛かり増し経費の助成などとした(図1)。

図1

 申請のあったJAでは、求人サイトを活用した募集活動の取り組みや技能実習生の渡航中止に係る送出機関への入国前講習費用の支払い、産地間連携による季節就労人材確保の取り組み、生産現場の労働環境改善の取り組み(簡易トイレの設置)、新規就農希望者向け居住施設の整備などの取り組みを行っている。
 
注1:北海道農業協同組合中央会(JA北海道中央会)、北海道信用農業協同組合連合会(JA北海道信連)、ホクレン農業協同組合連合会(ホクレン)、北海道厚生農業協同組合連合会(JA北海道厚生連)、全国共済農業協同組合連合会北海道本部(JA共済連北海道)の5団体で構成。
注2:北農5連で「北農5連JA営農サポート協議会」を構成し、当該事業を実施。

 
(2)北海道援農推進連絡会議の取り組み
 新型コロナウイルス感染症は、飲食業界や宿泊業界等へ大きな影響を与えた。休業や休職を余儀なくされた方々と人手を必要としている農業者をマッチングさせるため、令和2年5月、北海道農政部が中心となり「北海道援農推進連絡会議」を立ち上げた。同会議には、北海道農業協同組合中央会(以下「本会」という)などの農業団体や経済団体、観光業界団体などが参画し、農業分野でのマッチングの取り組みを進めてきた。この結果、全道で294人のマッチングを行うことができた(2年10月現在)。294人の方々は、全道各地で主にブロッコリーなどの葉物野菜の収穫作業、てん菜のほ植作業、ばれいしょの収穫作業などに従事した。
 また、北海道経済部が立ち上げた「北海道短期おしごと情報サイト」とも連携を図るなど、円滑な人材確保に向けて行政と農業団体が一体となって支援体制を構築した(図2)。

図2

(3)パラレルノーカーの取り組み
 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う社会変容により、生産現場では、飲食業や宿泊業に勤めている方や農業以外の仕事に従事されていた外国人など、これまで以上に多様な人材が農作業に従事する事例が増えつつある。この流れを加速するべく「農業には多様な働き方があること」「より多くの方々に農業に携わってもらうこと」を通じて、将来的に農業を仕事の選択肢として前向きに考えてもらうため、本会独自の情報発信の取り組みとして「パラレルノーカー」を立ち上げた。
 パラレルノーカーは、複数の仕事を持つという意味のパラレルワーカーから生み出した造語である。サラリーマンや主婦、学生など本業を持ちながら農作業に従事している方をパラレルノーカーと称し、農作業従事に対するハードルを下げ、気軽に農業に関わってもらうことを目指している。
 具体的な取り組みとしては、特設ウェブサイトを新設し(図3)、道内出身の著名人によるテレビCMやウェブ広告、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を活用したPRなどを通じて、当該ウェブサイト内に掲載している既存の農業系求人サイトへの誘導を進めている(図4)。この他、実際に複業として農業に従事した方のインタビューページや1日の仕事紹介などのコンテンツを掲載している。既存の求人サイトは、北海道短期おしごと情報サイトのほか、「第一次産業ネット」や1日バイトアプリ「daywork」、「あぐりナビ」、「アルキタ」のバナーを掲載している。

図3

ず4

 実際に、新型コロナウイルス感染症の影響で就労先を失った障害を持った方が農作業に従事する事例などが出てきており、結果的に農福連携の推進にもつながるなど副次的効果も得られた。
 また、旅行会社に勤務している方が農業現場でミニトマトやピーマンの収穫に従事する事例も出ており、前述の特設ウェブサイトで紹介している。この方は、旅行会社で収穫体験ツアーを企画・販売する業務を行っており、今回の就労を通じて、「生産者の大変さや苦労を身をもって体験することができた」「今後の営業活動にも役立てていけそう」と述べている(写真)。

写真

 実際にパラレルノーカーとして就労している方は、コロナ禍で縮小した本業の就労日の合間を縫って農作業に従事される方々が多く、コロナ禍において農業を複業先の一つとして考えてもらうきっかけになったものと考えている。
 
(4)コロナ禍における特定技能外国人材の受け入れセミナーの開催
 コロナ禍が長期化する懸念がある中、外国人材の渡航リスクを減らし、今後の特定技能外国人材の受け入れをより円滑に進めるため、令和3年2月にJA等を対象としたセミナーを開催した。
 セミナーでは、外国人材の受け入れに精通した弁護士による留意事項の説明のほか、特定技能外国人材を通年派遣、季節派遣している事業者の説明を行った。この結果、一部のJAでは、特定技能外国人材による産地間リレー派遣の取り組みを検討する動きが見られており、主に選果作業の従事を想定している。
 北海道内の多くの耕種地域では、従来からJAを監理団体として1号技能実習生を受け入れてきた。当該地域で受け入れる技能実習生は毎年2月以降に入国し、農作業実習後の11月ごろに帰国、翌年新たな技能実習生が入国している。こうした地域の労働力は、コロナ禍による水際対策の影響を受けることから、国内に在住している特定技能外国人材による産地間リレー派遣の取り組みが広がることで、渡航リスクを低減させる効果が期待される。

3 課題

 多様な人材の受け入れを推進してきた中で、課題が浮き彫りになってきた。最も大きな課題は、求職者と求人のミスマッチである。求職者の多くは札幌市等の都市部に居住しているが、求人側は地方を含め全道各地に点在しており、車等の移動手段や宿泊施設等が確保できないケースが見られた。さらに、ほ場にトイレがない等の受け入れ側の課題も明らかとなった。JAグループ北海道では前述の独自事業において、JAが送迎する際の掛かり増し経費や簡易トイレの導入支援、宿泊施設の整備等に対する支援体制を構築しており、移動手段等を持たない多様な人材が安心して農作業に従事できる環境づくりを進めていく必要がある。
 また、企業側が出向による就労を希望していたものの、国の助成金の扱いなどに時間を要した結果、マッチングに至らなかった事例も一部で見られたことから、今後は、企業が希望する就労形態に応じた基本的な受け入れスキームを整理していく必要があると考えている。

4 今後の取り組み

 政府の水際対策による技能実習生等の入国遅延やコロナ禍における雇用情勢の悪化による労働市場の流動化は、令和3年度も継続することが懸念される。
 このため、3年度は、JAグループ北海道として下記の取り組みを進める(図5)。

図5

<令和3年度の取り組み>
(1)北農5連JA営農サポート事業の継続実施
 北農5連で1億円の独自財源による「農業人材確保特別対策事業」を継続実施する。引き続き、JAによる人材確保の取り組みに対する支援や監理団体JA等の負担軽減を図っていく。
(2)北海道援農推進連絡会議の取り組み
 北海道援農推進連絡会議による他産業人材のマッチング支援を継続実施する。
(3)産地間・事業者連携推進
 コロナ禍における技能実習生等の受け入れリスクを低減させるため、特定技能外国人材の産地間リレー派遣等を行っている事業者との連携による国内人材を融通する仕組みについて、事例づくりを模索する。
(4)パラレルノーカーの推進
 パラレルノーカーによるプロモーション活動の強化により、複業を希望する人材の農業現場への就労を促す。
(5)ホクレンによる共通募集チラシの支援
 JAによる迅速な募集活動を後押しするため、ホクレン農業協同組合連合会が共通チラシ様式を作成し、希望するJAへ積極的に提供する。
 
 前述の(2)については、すでに農作業支援の連携に向けて大手企業との協議を始めているが、当該企業は本業が縮小する中でも農作業従事を「地域貢献につながる」「一次産業を盛り上げたい」と前向きに考えており、このような企業を大切にしていく観点からも、本会として積極的に受け入れに向けて検討を進めている。
 他産業との連携は、生産現場の人材確保に寄与するものの、交通費や宿泊費など相応の受け入れコストが発生することから、受け入れ側のコスト負担のあり方が課題になる。
 しかしながら、企業との連携は、当面の人材確保だけではなく、中長期的には農畜産物の販売面やブランド化などさまざまな相乗効果につながる可能性を秘めていると考えており、JAや生産現場でも、中長期的な相乗効果の観点も考慮の上、受け入れを前向きに捉えてもらう必要がある。
 また、企業との農作業支援の枠組みを整理する際、関係する労働法令の順守に留意する必要があり、一定の協議期間が発生してしまうことや、場合によってはマッチングに至らない可能性もあることから、国全体で産業間連携を進める上での環境整備の必要性を感じている(表)。
 
表1

5 最後に

 新型コロナウイルス感染症の影響は長期化することが見込まれ、雇用情勢の悪化はさらに進むことも想定される。このような情勢を契機と捉え、JAグループ北海道では農業が多様な就業の場として、受け皿になることを目指し、関係機関と連携の上、JA等による多様な人材の確保を後押しする取り組みを継続していく。こうした実例が、同様の問題を抱える全国の皆さまの参考となれば幸いである。