全国農業協同組合連合会 園芸部
1 野菜を取り巻く情勢の変化
(1)新型コロナウィルス感染症拡大
これまで、単身・共働き世帯の増加や調理の簡便化ニーズの高まり等を背景に、加工調理食品の需要は拡大していたが、新型コロナウィルス感染者数の増大により、在宅機会の増加を背景に、その需要を更に加速化させることとなった。あわせて、内食の復活やeコマースによる食料品購買、宅配ニーズの増大など、消費者の購買行動を大きく変化させることとなった。
その一方で、インバウンド需要の喪失、外食需要の低迷等により、生鮮青果物の需給は大きく混乱することとなり、こうした消費を取り巻く変化に、青果物生産・流通・販売を担う各者は的確に対応していくことが急務となっている。
(2)野菜の生産・消費の変化
野菜の生産量は、1980年代から緩やかに減少し、2000年代以降は横ばいとなっている。
輸入量は、1980年代から増加してきており、近年では、国内生産量の4分の1に及ぶ約300万トンが輸入されている。
一方、食の簡便化・外部化の進展を背景に野菜の需要は家庭での生鮮消費から加工・業務用消費にシフト(全体の6割程度)しており、さらにその3割程度が輸入野菜によってまかなわれている。
野菜の国内生産量を拡大するためには、加工・業務用用途に定着している輸入野菜のマーケットを国産に転換していくことが重要である。
2 JAグループ園芸事業の取り組み
(1)JAグループの園芸事業
JAグループでは、生産者の所得向上、消費者への安全・安心な青果物提供を使命に、生産者から集荷した青果物を、卸売市場(卸売会社・仲卸)の機能を活用した販売、実需者(消費者・小売業者、加工業務用実需者等)に直接販売することで、実需者ニーズを直接把握し、そのニーズを迅速に産地(JA・生産者)にフィードバックするなど、多様な取引を展開している。さらには近年では、消費者のニーズを踏まえ、直売所やeコマースによる農産物販売にも取り組んでいる(図1)。
(2)全農園芸事業の取り組み
本会は、(1))生産基盤の確立、2)食のトップブランドとしての地位の確立、3)海外戦略の構築、4)元気な地域社会づくりへの支援、5)JAへの支援強化を最重点施策として掲げ、事業を展開している。
園芸事業については、1)青果物の選果・選別・調製作業の軽減に資するJAとの共同による広域集出荷施設等の整備、2)実需者への安定供給に向けた端境期を中心とする加工・業務用野菜の生産提案・契約栽培の拡大、3)冷凍・小分け機能などを備える物流・加工施設の整備等を重点施策として掲げ、生産基盤の維持拡大と生産者手取りの向上、事業の拡大を図っている。以下、具体的な取組事例を紹介する。
ア 生産と販売強化の取り組み
(ア)契約栽培の拡大
本会では、たまねぎ、キャベツ、かぼちゃといった加工・業務用需要の大きい品目等を重点的に、JAを通じ、実需者ニーズにもとづく生産提案を行い、生産の拡大を推進している。
かぼちゃでは、播種前契約による収入安定、品質に応じた価格加算設定や、鉄コンテナ出荷等による労力軽減と出荷コストの削減をすすめ、生産者の手取り向上を図っている。
令和元年度では5県13JAでの取り組みであったが、令和2年度は8県18JAでの取り組みに拡大し、産地リレーの構築をすすめている。今後も生産振興をすすめ、令和4年度には100ヘクタールの規模拡大を目指している。
(イ)輸入品からのシェア奪還
近年、輸入比率が高く消費量が拡大傾向にあるブロッコリーについても、重点的な取り組みを展開している。
JAを通じて、花蕾部分が従来品種の約2倍の大玉品種の生産を提案し、JA・生産者との契約取引により、大手コンビニエンスストア惣菜原料としての販売や各地の冷凍加工業者を通じた学校給食への取引を開始した。(図2)
産地への提案に当たっては、収支シミュレーションを示して生産者手取りを見える化するほか、一斉収穫・コンテナ出荷による労力軽減・出荷コスト削減を推進している。
令和元年11月には、国産ブロッコリーを使用した惣菜が、大手コンビニエンスストアの1万8000店で販売され、令和2年度も継続している。
(ウ)実需者のニーズの把握にもとづく販売の強化
実需者ニーズの把握を強化するため、全国のパートナー市場とは、販売先(実需者)を明確にした上で、事前に販売量や価格を決める予約相対取引の拡大に取り組み、青果物の安定的な売場確保につとめている。
また、コロナ禍にともなう消費者の小分け・包装ニーズの高まりを受け、本会では、JA全農青果センター株式会社や地域の直販施設において、包装・加工・冷蔵機能等の強化をはかるべく施設の整備・拡充を行っていくこととしている。
イ 園芸物流合理化の取り組み
2024年施行のドライバーの時間外労働上限規制に加え、近年、ドライバー不足や働き方改革に起因して、遠隔地産地を中心に、園芸事業における物流分野の課題は深刻化している。
こうした中で、本会はグループ会社との連携による消費地・産地ストックポイントの整備促進・利用拡大や、青果物のパレット輸送の拡大に向けた検討をすすめている。
とりわけ、喫緊の課題となっている九州地区を中心に、JA域を越えた配送拠点の整備、さらには、県域を越えたブロック域での広域配送拠点の整備と共同配送の実現に向けた検討に着手した。
そのほか、ドライバーの手荷役解消に向けては、業界標準となっている11型(110センチ×110センチ)パレットサイズに合わせた段ボール規格の変更、それに伴う出荷規格の見直し、一貫パレチゼーションの構築なども検討し、輸送におけるパレット比率の拡大を目指している。
3 野菜価格安定制度の役割と今後必要な視点
(1)消費・産地の双方の視点に立った制度
野菜価格安定制度は、消費者に対しては、適切な価格での野菜の安定供給の実現、生産者にとっては、再生産価格の保証を通じた安定生産の継続を目的とした、消費地・産地の双方の視点にたった極めて重要な制度である。
(2)需給構造の変化に伴う価格形成の変化
既述のとおり、ライフスタイルの変化に伴い、野菜の需要は加工・業務用にシフトするなど、野菜の流通構造は、制度創設時から大きく変化している。
家庭内需要が主体で、卸売市場流通中心の時代は、野菜の価格は需要と供給のバランス調整により収斂していたが、加工・業務用需要の増加、契約生産・販売の進展、市場外流通の拡大、消費者の野菜価格に対する需要弾力性の低減、量販店等におけるEDLP(Every Day, Law Price)志向など、野菜の需給と価格決定のプロセスは大きく変化してきている。
例えば、加工・業務用野菜の調達においては、「不作時でも必要量は必ず調達すること」が求められる反面、「豊作時でも必要量以上は仕入れない」「加工・業務用途仕向けの不作に備えた契約生産分・余剰作付け等が市場に流入する」等の状況が、卸売市場の価格形成において、豊作時はより安値に、高値時はより高値になりやすいという傾向に少なからず影響を及ぼしていることが考えられ、結果として、平成29年度以降は、野菜価格安定事業の交付額が高止まりする傾向となっている。
(3)今後必要な視点
近年の野菜の年間輸入量が約300万トンある中で、加工・業務需要への国産原料への置き換えの伸びしろが大きく広がっているように見える一方、個別品目・時期によっては、需給緩和が見られる。
産地サイドとしては、今後、新たに加工・業務需要向けの取り組みを展開・拡大しようとする場合、国内・国外産地の時期別の供給状況や、流通経路、取引価格の状況を緻密に分析したうえで、需要に見合った品目の選定・作付計画等を判断する必要がある。
また、国の加工・業務用生産関連施策についても、単なる生産振興ではなく、需給の安定化を意識した仕組みの導入をはかる必要性が増しているのではないかと考える。
同時に、野菜価格安定制度に関しても、卸売市場価格の価格形成が加工・業務マーケットの動向に大きく影響を受けやすい構造に変化しつつあることをふまえ、生食需要と加工・業務用需要の双方を視野に入れた需給安定の視点および仕組みの検討が求められていると考える。