(1)愛知県の野菜生産の特徴と物流上の問題点
愛知県の野菜産出額は1125億円(2018年生産農業所得統計)で、全国第5位の野菜生産県である。愛知県の主要な生産品目は、キャベツ(246億円)、トマト(155憶円)、しそ(137億円)などが挙げられ、数多くの野菜品目が生産されている(図1)。
愛知県の野菜生産には二つの側面がある。一つは、全国の生産量の3割を占める冬キャベツに代表される全国的な広域出荷を行う大産地である。もう一つは、名古屋市を中心とした中京圏への野菜供給を担う近郊産地である。この二つの性格を持った野菜産地が混在している。
JAあいち経済連が青果物物流問題に取り組むようになった直接的な要因は、トラック運転手確保問題である。特に労働時間に関する規制の厳格化への対応である。働き方改革を背景として厚生労働省の示す改善基準告示で、運転手の拘束時間は原則13時間/1日(最大16時間/1日(15時間超は週2日まで))とされた。運転手の拘束時間とは、運転時間のみでなく、荷の積み降ろしや荷待ち時間も含めて、実際に運転手が拘束される時間すべてが含まれる。トラック運転手の労働時間問題を運転時間のみでみれば、近郊・中間産地の愛知県はそれほど切実な問題とは意識されなかったが、荷の積み降ろしや荷待ち時間なども含めた拘束時間全体としてとらえられると、愛知県も真剣に取り組むべき課題となった。
JAあいち経済連の青果物物流最適化の取り組みでは、まず青果物物流の実態を調べ、その問題点を摘出した。そこで提出された問題点は、第一にトラック運転手の拘束時間の長さである。労働基準法の一部改正によりトラック運転手の時間外労働の上限規制が2024年に導入されることを見据えても、その改善は急務であることが明らかになった。拘束時間の長い事例では、積み込み、荷降ろし箇所が多く、荷役作業が拘束時間を延ばしている要因の一つであった。また積み降ろし箇所数の多さとともに、複数品目の混載も荷役時間を長くする要因となっている。混載の場合、品目ごとの荷姿が異なるため、積み込みが複雑になり、手間が掛かる。さらに、品目による集荷時間に違いがあれば、荷待ち時間にも影響がある。
第二の問題点は、積載率の低さである。実態調査では、出荷量の多い京浜向け出荷のトラックの中でも、積載率が50%に満たない事例がみられた。低積載率の事例でも、積み込み箇所は多く、複数の集荷場を回っても、荷が確保できていない実態が示されている。低積載率の要因は、元々小規模産地が多い上に、近年、生産者の高齢化、減少などによって生産量が減少していることもある。また出荷数量が事前に把握できていない場合が多く、当日にならないと出荷数量が判らないことも積載率を高められない要因となっている。低い積載率は、必要とするトラック台数を増やし、トラック運転手確保を難しくするだけでなく、輸送コストの上昇にもつながっている。
(2)JAあいち経済連の青果物物流最適化の取り組み
このように問題点を摘出した上で、青果物物流最適化の目指す方向として、1)消費地への効率的な商品供給体制を構築し、農家所得向上を実現する、2)輸送条件(積載率、拘束時間)を改善し、農家運賃負担の上昇を抑制する、3)トータル輸送コストを低減させ、運賃負担の軽減を目指す―の3点にまとめた。その実現のために取り組むべき課題として、1)物流をまとめて積載率を高める、2)配車・運行ルートの適正化、積降し作業効率化によりドライバーの拘束時間を短縮する、3)最適な納品ルートを選択できる集出荷体制、物流網を整備する―の3点を掲げた。この課題達成のための具体的な取り組みを短期的課題、中長期的課題に分けて、表1のように整理した。
短期的課題は、個々の農協レベルで取り組む集出荷システムの効率化が中心である。前日出荷予約・配車による適正配車は、正確な出荷数量情報の事前把握が重要になる。現状では、事前に出荷数量情報が十分に把握できていないことが多く、積載容量にある程度の余裕を持たせた配車をせざるを得ない。
集荷時間、場所の見直しと集出荷状態の改善、集荷場の集約化は、農協の集出荷体制の課題である。現状では、トラックが複数の集荷場を回って集荷することが多く、集荷場、品目によって集荷時間が異なることで、トラックの待機時間が長くなることもある。集出荷体制の変更は、トラック運転手の拘束時間の短縮につながるが、その一方で集荷場までの搬入距離の増加などで、生産者に新たな負担が生じる可能性もある。生産者も高齢化などにより厳しい状況にあることを踏まえれば、生産者の負担増にならないようにし、理解と協力を得ることが必須の要件となる。
地域物流拠点の設置・活用は、集荷場の集約化とともに、出荷する荷をまとめる方策である。地域物流拠点は図2に示すように、各集荷場に集まった荷を持ち寄り、出荷先別に仕分けることで、トラックの積載率の向上を図るとともに、出荷トラックの1カ所積みが可能となる。生産者に新たな負担をかけないように出荷する荷をまとめるには、地域物流拠点の設置は有効な手段となる。
販売先の重点化は、市場、消費地段階まで広がった取り組みである。トラック運転手の拘束時間の削減には、出荷先での荷降ろし箇所数の削減も不可欠である。この課題では、物流コストの削減が目指されるが、その一方で販売価格にも影響する取り組みなので、販売価格への影響にも留意し、可能であれば有効なマーケティング戦略とも組み合わせて取り組むことが求められる。
中長期的な課題には、個々の農協の範囲を超えて全県的に取り組むべき課題、市場、消費地と協力して取り組む必要のある課題が挙げられている。県域物流体制は、愛知県域全体として効率的な物流体制の構築を目指すものである。具体的には、1)広域物流拠点の設置(図3)、2)出荷情報のデータ化・集約と配車への活用、3)拠点機能活用による商品価値向上―の三つの取り組みが挙げられている。これらの取り組みは、物流のみでなく、商流においても全県的な対応が必要になると思われ、農協と経済連との緊密な連携・協力が不可欠な課題である。
消費地ストックポイントを活用した顧客納品体制は、市場、消費地まで対象を広げた取り組みである。そのため、流通関係者など広範な関係者との連携・協力が必要となる。特に消費地ストックポイントを設けるとすれば、愛知県単独よりも、他県、他産地と共同することで、年間を通じた利用率の向上も視野に入れることが望まれる。
一貫パレチゼーションは、物流全体を通じた荷役の効率化には不可欠な課題である。しかし、一貫パレチゼーションを実現するには、ソフト、ハード、両面でそれに対応した物流システムが構築されている必要があり、その実現には整備すべき課題が多い。そのため、中長期的課題に位置付けられているが、短期的な課題に取り組む際には、中長期的には一貫パレチゼーションを実現できる物流基盤を整えていくということを視野に入れて取り組むことが求められる。