栃木県を代表する農産物であるいちごであるが、さらなる生産者の収入確保、旬の時期以外でも栃木県産の農産物を楽しんでもらいたいという思いから、全国農業協同組合連合会栃木県本部(以下「JA全農とちぎ」という)では、2016年から冷凍野菜直販事業を開始し、2年後の2018年には自前のとちぎゆめ工場を操業した。冷凍野菜事業は、JA全農とちぎ営農販売企画部直販課が運営しているが、全農の県本部で冷凍工場を運営しているのは全国でもJA全農とちぎだけである。
なお、JA全農とちぎが取り組む冷凍野菜については、冷凍食品衛生法、JA法上の冷凍食品には含まれず、生鮮食品の冷凍流通品として取り扱う。
(1)「とちぎゆめ工場」の概要
JA全農とちぎでは、隣県の冷凍餃子工場からのオーダーに応えるため、2016年からにらの一次加工を食品加工工場に製造委託していたが、より多くの品目に対応するため、2018年3月に同工場の敷地内に品質管理機能を備えた自前の「とちぎゆめ工場」を設立することとなった(写真1)。
野菜の加工工場で最も気を遣うのが異物混入のチェックであるが、とちぎゆめ工場には、LEDで検品する機能を試験的に運用を開始し異物混入リスク防止に備えるほか、品質管理機能として細菌検査、官能検査(形状、光沢、風味、肉質)も整備されている。機械設備としては、ブロッコリーを中心に、キャベツ、レタス、カリフラワーに対応可能な一次処理設備があり、現在は、主に冷凍前の一次処理(検品、洗浄、カットなど)を行っているが、まだ工場に余力があるため、さらに処理能力を高めていく予定である。
工場は宇都宮駅から6キロメートル弱、東北自動車道宇都宮インターから約15分というアクセスの良いエリアにある。
販売高は、2016年度が5300万円、2017年度は3億200万円、2018年度は6億1500万円と飛躍的に伸びている。金額が大きい品目はにら、キャベツ(チルド)、冷凍いちごであるが、近年、伸びているのが冷凍いちご果汁と冷凍アスパラガス、冷凍ねぎである(図3)。
需要に応じて品目を開発しており、ねぎやしょうがなども冷凍加工している。キャベツはチルド加工のほか、芯抜きやカットがある。2020年は、試験的にほうれんそう、ブロッコリーにも取り組み始めている。
野菜の加工は人海戦術に頼る部分が大きいため、野菜の旬にあわせた労働力確保は大きな課題である。年間休まず機械を動かし、閑散期を作らないことが工場の経営上、最も重要なことである。しかし、工業製品と異なり野菜の加工工場の場合、その作業のピーク時期は品目や天候に大きく左右され、毎年同じとは限らない。おおよその作業のピーク時期は、ほうれんそう、ねぎは冬場、いちごは3月~5月、にらは6月~8月となっている。
盲点になりがちなのが、匂いである。にらは非常に香りが強い野菜であるため、いちごと同じ時期の作業は避けるようにしている。年による作業時期、ピークの違いなどがあるがパート従業員数は年間平均で20~30人ほどである。
(2)加工向けの規格や品種について
原料は、主に県内の産地から仕入れているが、いちご以外の品目については、閑散期には近隣のJAグループの協力の基、県外産地から仕入れることもある。にら、ねぎでは一部で加工向け専用の
圃場での栽培もあるが品種や規格は市場向けと同じである。いちごの場合は、加工向けの栽培はしておらず、やや過熟気味であったり、サイズが市場向けではない果実を加工用としてとちぎゆめ工場に出荷している。製品はそのままの形を残したBQF砂糖漬け、ダイスカット、スライスカット、果汁の製造が可能である(写真2)。最もおいしい時期のいちごを冷凍できるのは、産地ならではの強みであり、食品ロス削減にもつながっている。また、「とちおとめ」「スカイベリー」という品種を表示に使用できるため大手菓子メーカーからの引き合いが強いという(写真3)。
(3)産地から工場までの入荷方法
とちぎゆめ工場の運営に欠かせないのが産地からの集荷を一手に引き受けているA社の存在である。業務用のタレやソース類の生産・販売を行っている創業1986年のA社は、JA全農とちぎにおけるメニュー開発などに参画するなどかねてより関係が深く、現在は業務委託契約を結び栃木県内全域の農協からとちぎゆめ工場までの原材料の運搬とパート労働力の確保を担っている。近年、トラックドライバー不足が深刻な問題になるなか、非常に大きな存在となっている(図4)。
販売先への営業、在庫と生産量の調整はJA全農とちぎ営農販売企画部直販課で行い、直接販売を事業の中心に末端顧客への営業活動を実施している。また、原料集荷に関して、価格については年間で決めているが、数量についての取り決めはない。出荷の1~2日前に各農協からJA全農とちぎに出荷予定数量の連絡が入り、基本的に全量を買い付ける。 野菜は鮮度が落ちるのが早いため、処理しきれない場合はそのまま冷凍保管して、原料の入荷量と製造ラインとの調整を行う。冷凍野菜の場合は製品の保管料などもかかるため、製造と販売のバランスを保ち、計画的に生産出荷を行うこと最大の課題である。
(4)課題と新型コロナウイルス感染症の影響
野菜の生育は天候に左右されやすく原料の確保が不安定であること、労働力の確保が難しいこと、さらに栃木県内で夏場に収穫し、加工できる品目がないため、工場の稼働率が下がってしまうというといった課題を抱えている。また、COVID-19の拡大に伴い、外食や学校給食向けの需要が大きく減退したことから、業務用の在庫が捌けず、保管料の負担が大きくのしかかっている。しかし、栃木県は首都圏消費地に近く、近隣の野菜産地からの原料も確保できるという大きな強みがあり、国産原料を使用した冷凍野菜の市場はまだ伸びしろが大きいと考えられる。