野菜振興部
昭和40年代後半に野菜消費の多様化・平準化などの進展の中で野菜の価格の高騰や低落に対する国民の関心が高まったことを背景に、昭和51年に野菜出荷安定法が改正され、指定野菜に準じて重要な特定野菜の価格安定制度が創設された。「特定野菜」とは、指定野菜に準じて国民生活上および地域農業振興上重要な野菜で、アスパラガス、かんしょ、ブロッコリー、やまのいもなど、私たちの食生活に身近で地域を代表する35品目が選定されている。
指定野菜価格安定制度は、国や機構が中心となって運営されているが、特定野菜等価格安定制度(特定野菜35品目と指定野菜14品目が対象)は、地域農業振興上の重要性などから都道府県や都道府県野菜価格安定法人が中心となって運営されている。特定野菜等価格安定制度では、都道府県知事が選定する全国で961の「特定産地」が消費地への安定供給の役割を担っており、特定産地から出荷される野菜の価格が大幅に低落した場合に生産者補給金を交付し生産者の経営と野菜価格の安定を図っている。
今回は、特定野菜の生産・流通・消費の動向、価格安定制度の運営状況、水郷つくば農業協同組合(以下「JA水郷つくば」という)のれんこんと小山農業協同組合(以下「JAおやま」という)のブロッコリーの産地の取り組みを紹介する。
特定野菜等価格安定制度(特定野菜等供給産地育成価格差補給事業)は、
① 特定野菜などの消費地への安定供給を担う「特定産地」の育成
② 特定産地による計画生産・安定供給・価格安定の確保
③ 生産者補給金による野菜農家の経営安定と次期作の確保
の三つの役割があり、これらを通じて、消費地への特定野菜などの安定供給を確保し、価格の安定を支えている。
指定野菜に準じて国民生活上および地域農業振興上重要な野菜を「特定野菜」に選定(農林水産省令)するとともに、特定野菜などを安定供給する集団産地を都道府県知事が「特定産地」に選定し、生産者、都道府県、国が積み立てた資金をもとに、販売した特定野菜などの市場価格が過去6年の平均価格の80%(指定野菜は90%)を下回った場合にその差額の8割を生産者補給金として交付し、生産者の経営安定と次期作の確保を通じた生産出荷と価格安定を図っている。資金造成割合は、①特定野菜は、国33%、都道府県33%、生産者33%(重要特定野菜のアスパラガス、かぼちゃ、スイートコーン、ブロッコリーは国50%、都道府県25%、生産者25%)、②指定野菜は、国50%、都道府県25%、生産者25%である(図1)。
特定野菜は、制度が創設された昭和51年度に16品目が選定されて以降順次増加し、平成20年度にみずな、24年度にみょうが(高知県・特認野菜)が選定され、現在、35品目(特定野菜29品目、特認野菜6品目)となっている。北海道のかぼちゃ、青森県のにんにく、茨城県のれんこん、栃木県のいちご、千葉県のかぶ、鳥取県のらっきょう、高知県のしょうが、鹿児島県のかんしょ、沖縄県のにがうりなど、私たちの食生活に身近で地域を代表する野菜が選定されている。また、23年度と25年度に特定野菜のうち輸入品と競合し生産量、販売金額が相対的に大きく重要度が高い「重要特定野菜」としてかぼちゃ、スイートコーン、ブロッコリー、アスパラガスの4品目が選定されている(表1)。
特定産地の共同出荷組織と生産者(特定野菜は作付面積が概ね1.5ヘクタール以上、指定野菜は2.0ヘクタール以上)は、野菜の種別ごとに月別生産計画、月別・対象市場群別出荷計画、対象出荷期間別・対象市場群別交付予約計画数量などを記載した「供給計画」を策定し(都道府県知事が承認)、この供給計画に従って特定野菜などの消費地への計画生産・安定出荷に取り組んでいる。そして、特定産地が供給計画に従って計画生産・安定出荷に取り組んでもなお天候などの影響で作柄が変動し野菜の価格が大幅に低落した場合は生産者補給金を交付し生産者の経営安定と次期作の確保を通じた生産出荷と価格安定を図っている。
(1)特定野菜の作付面積・出荷量は減少傾向
平成2年産から30年産にかけての特定野菜の需給動向をみると、作付面積は、2年産27万1831ヘクタール、14年産20万9644ヘクタール(2年産比77%)、30年産18万5131ヘクタール(同68%)と、32%減少している。出荷量も2年産408万7381トン、14年産320万9295トン(2年産比79%)、30年産271万8499トン(同67%)と、33%減少している(図2)。
品目別の出荷量をみると、にがうり(2年産比429%)、こまつな(同299%)、ブロッコリー(同180%)、ちんげんさい(同155%)、オクラ(同110%)などが増加する一方で、わけぎ(同8%)、さやえんどう(同32%)、グリーンピース(同33%)、メロン(同36%)、らっきょう(同42%)、カリフラワー(同42%)、すいか(同43%)、さやいんげん(同44%)などが減少している。
30年産の特定野菜の野菜全体に対する作付面積と出荷量の割合はそれぞれ37パーセント、23パーセントを占めており、特定野菜は、国民消費生活上および地域農業振興上重要な地位を占めている(表2)。
(2)特定野菜全体の消費減少の中でブロッコリー・生しいたけが増加
特定野菜35品目のうち家計調査の対象となっているブロッコリー、かんしょなど10品目の1人当たり年間購入数量をみると、平成2年1万2225グラム、14年1万713グラム(2年比88%)、30年8194グラム(同67%)と、33%減少している。1人当たり年間購入金額は2年7117円、14年5908円(同83%)、30年5566円(同78%)と、22%減少している(図3)。
品目別の購入数量をみると、平成30年から令和2年にかけてブロッコリーは2.6倍、生しいたけ8%増加している。特にブロッコリーの購入数量は1371グラムと、指定野菜のほうれんそう(1025グラム)、ピーマン(982グラム)、さといも(504グラム)を上回っている。これに対し、いちご、すいか、メロンの果実的野菜の購入数量は大きく減少している(順に2年比59%、48%、35%)。
平成30年の特定野菜10品目の生鮮野菜全体に占める割合は、購入数量で14%、購入金額で21%となっており、国民消費生活上重要な地位を占めている(表3、4、5、図4)。
ブロッコリーは、栄養素の宝庫と呼ばれ、免疫力維持に必要なビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素に富む緑黄色野菜でビタミンCはレモン果汁の2倍以上含まれている。れんこんもビタミンCが豊富で糖質で守られているため加熱による損失が少ないと言われている。かぼちゃは、体内でビタミンAに転換され免疫力を高めるβカロテンが豊富で冬場の貴重な緑黄色野菜である。このほかにも、にんにく、しょうが、こまつな、しゅんぎく、アスパラガス、にらなど、特定野菜は健康づくりや免疫力向上などに役立つ栄養素・機能性成分を豊富に含んでいる。
注:詳しくは、農畜産業振興機構「野菜ブック」https://https://www.alic.go.jp/y-suishin/yajukyu01_000313.htmlを参照
(3)特定野菜の輸入量の7割が冷凍・生鮮品
特定野菜の輸入量の動向をみると、平成20年の64.6万トンから30年の66万トンへ7%増加しており、生鮮野菜と冷凍野菜で輸入量の7割以上を占め、30年に冷凍野菜の輸入量が生鮮野菜を上回った。品目別には、かんしょ(冷凍)(平成20年比453%)、ブロッコリー(冷凍)(同252%)、しょうが(酢調整野菜)(同143%)、えだまめ(冷凍)(同137%)、スイートコーン(その他調整野菜)(同135%)などの輸入量が大きく増加している。
30年の輸入量上位3品目は、全体では、スイートコーン11.9万トン(平成20年比129%)、かぼちゃ10.3万トン(同103%)しょうが7.9万トン(同81%)、生鮮野菜では、かぼちゃ10.3万トン(同103%)、ごぼう4.9万トン(同110%)、メロン2.7万トン(同88%)、冷凍野菜では、えだまめ7.8万トン(同139%)、ブロッコリー5.9万トン(同260%)、スイートコーン5.3万トン(同117%)となっている(図5、6、表6、7、8)。
注:詳しくは、農畜産業振興機構「特定野菜の生産・流通・消費動向」 https://www.alic.go.jp/content/001184326.pdfを参照
(1)全国の961の特定産地が地域を代表する多種多様な野菜を生産
特定野菜の特定産地の数は、制度が創設された翌年の昭和52年度に217産地が選定されて以来増加し、平成2年度の1183産地をピークに減少に転じ、29年度は、京都府を除く46都道府県に625産地が選定されている。品目別には、ブロッコリーが91産地と最も多く、次いでアスパラガス64産地、スイートコーン34産地、すいか33産地、にら31産地となっている。都道府県別には、熊本県が36産地と最も多く、次いで青森県・福島県各31産地、茨城県・香川県各30産地の順となっている。
指定野菜の特定産地は、昭和51年度に34産地が選定されて以来増加し、平成15年度の398産地をピークに微減傾向で推移し、29年度は40都道府県の336産地となっている。品目別には、秋冬ねぎが36産地と最も多く、次いで夏秋なす29産地、冬春トマト25産地、夏秋トマト23産地、春キャベツ・冬キャベツ各21産地となっている。都道府県には、茨城県が35産地と最も多く、次いで広島県25産地、長崎県22産地、岡山県16産地、愛知県・熊本県各15産地の順となっている(図7、表9)。
特定野菜の特定産地の作付面積は、平成10年度の4万2823ヘクタールから20年度の4万7042ヘクタールに増加した後減少傾向にあり、29年度は4万3072ヘクタールとなっている。品目別には、ブロッコリーが7839ヘクタールと最も多く、次いで、かんしょ6062ヘクタール、やまのいも4469ヘクタール、かぼちゃ2570ヘクタール、アスパラガス2413ヘクタールの順となっている。都道府県別には、茨城県が7433ヘクタールと最も多く、次いで青森県5505ヘクタール、北海道3542ヘクタール、長野県3110ヘクタール、熊本県2131ヘクタールの順となっている。出荷量も10年度の67万7487トンから20年の78万6316トンへ増加した後減少傾向にあり、29年度は69万1839トンとなっている。品目別には、かんしょが13万1825トンと最も多く、次いでやまのいも9万7374トン、ブロッコリー7万1922トン、すいか6万7627トン、ごぼう3万9146トンの順となっている。都道府県別には、茨城県が14万9964トンと最も多く、次いで青森県8万7144トン、北海道6万8117トン、熊本県4万9945トン、高知県3万8583トンの順となっている(図8、表10)。
(2)特定産地は特定野菜の全国作付面積の23パーセント・出荷量の25パーセントを占める中核供給基地
特定産地の収穫農家1戸当たりの作付面積は、0.72ヘクタールとなっており、野菜販売農家1戸当たりの作付面積0.57ヘクタールの1.3倍となっている。品目別には、ブロッコリーは全国平均の2.8倍、やまのいもは1.5倍、すいかは2.8倍、いちごは2.3倍、メロンは1.6倍で、これら5品目全体の平均では約2倍となっている。平成10年度から29年度にかけて全国の特定野菜の出荷量が2%減少する中で、特定産地は経営規模の拡大や集約化などを進め出荷量を維持している(10年比102%)。この結果、特定産地は特定野菜の全国作付面積の23パーセント、出荷量の25パーセントを占める中核供給基地となっている(表11)。
(1)特定産地の特定野菜の出荷量の4割、指定野菜の5割で価格安定制度が活用
特定野菜事業の交付予約数量は、平成2年度36万441トン、20年度30万2340トン、29年度26万8337トン、特定産地の出荷量に対する割合(制度加入率)は、2年度51%、18年度39%、29年度39%となっており、特定産地の特定野菜の出荷量の4割で価格安定制度が活用されている。交付予約数量が多い上位5品目は、①ブロッコリー4万7872トン、②すいか4万3993トン、③やまのいも2万1810トン、④かんしょ2万302トン、⑤セルリー1万7159トン、制度加入率が高い上位5品目は、①わけぎ166%(543トン)、②スイートコーン95%(5415トン)、③らっきょう90%(3080トン)、④えだまめ89%(4071トン)、⑤さやいんげん86%(1546トン)の順となっている。交付予約数量が多い上位5県は、①青森県2万9618トン、②熊本県2万3508トン、③長野県1万8881トン、④茨城県1万6264トン、⑤香川県1万4030トンの順となっている(表12)。
平成2年度と令和元年度の特定野菜事業の交付予約数量の品目別・都道府県別の割合をみると、上位5品目は、平成2年度はすいか28%、かんしょ8%、やまのいも6%、かぼちゃ6%、スイートコーン6%であったが、令和元年度はブロッコリー18%、すいか16%、かんしょ8%、セルリー6%となっている。上位5県は、平成2年度は熊本県9%、宮崎県8%、青森県7%、石川県7%、鹿児島県6%であったが、令和元年度は青森県11%、熊本県9%、長野県7%、茨城県6%、香川県5%となっている(図9)。香川県のブロッコリー、いちご、福島県のアスパラガス、さやえんどう、長野県のアスパラガス、やまのいも、ブロッコリー、香川県のブロッコリー、にんにく、鹿児島県のかぼちゃ、オクラなど、各地域が地域の特色を生かして特定野菜の産地づくりを推進してきたことがうかがえる。
指定野菜事業の交付予約数量は、平成9年度10万1491トン、18年度10万2749トン、29年度9万5669トン、特定産地の出荷量に対する割合(制度加入率)は、9年度53%、18年度39%、29年度48%となっており、特定産地の指定野菜の出荷量の約5割で価格安定制度が活用されている。29年度の交付予約数量が多い上位5品目は、①春キャベツ1万2772トン、②冬春トマト1万61トン、③秋冬ねぎ6695トン、④夏秋トマト5748トン、⑤冬春きゅうり5511トン、制度加入率が高い上位5品目は、①夏秋キャベツ88%(3872トン)、②夏はくさい75%(540トン)、③冬にんじん72%(1690トン)、④夏だいこん71%(119トン)、⑤夏秋トマト69%(5748トン)の順となっている。交付予約数量が多い上位5県は、①茨城県1万1798トン、②愛知県8134トン、③長崎県7427トン、④熊本県6173トン、⑤岡山県4930トンの順となっている(表13)。
特定産地の特定野菜の出荷量の4割、指定野菜の5割で野菜価格安定制度が活用されており、特定産地が天候などによる価格変動リスクに対応しながら計画生産・安定出荷に取り組んでいることがうかがえる。
(2)全国の約6万戸の野菜農家が特定野菜等価格安定制度に加入
機構は、令和元年度に登録出荷団体等の協力を得て野菜価格安定制度の加入状況調査を行ったが、特定野菜等価格安定制度の加入戸数は、特定野菜事業4万9883戸、指定野菜事業1万1123戸、計6万1006戸となっている。
加入戸数が多い上位5県は、特定野菜事業では、①青森県5171戸、②福島県4937戸、③長野県4185戸、④香川県3,122戸、⑤鹿児島県2869戸、指定野菜事業では、①茨城県1244戸、②愛媛県745戸、③福井県738戸)、④青森県726戸、⑤岡山県632戸の順となっている。
加入戸数が多い上位5品目は、特定野菜事業では、①ブロッコリー9335戸、②アスパラガス6371戸、③やまのいも2805戸、④スイートコーン2709戸、⑤にんにく2622戸、指定野菜事業では、①ねぎ2303戸、②なす1404戸、③ピーマン1263戸、④トマト1210戸、⑤キャベツ1178戸の順となっている。
全国の特定産地の約6万戸の野菜農家が野菜価格安定制度で天候などによる価格変動リスクに対応しながら、地域の特色を生かした産地づくりと消費地への野菜の安定供給に取り組んでいることがうかがえる(表14、15)。
(3)特定野菜等価格安定制度の生産者補給金の交付状況
特定野菜事業の生産者補給金の交付状況は、野菜の価格動向によって変動しているが、平成22年度から令和元年度の10年間の平均交付額は8.0億円、交付率は4.9%、交付額が多かった上位5位の年は、①平成17年度34.2億円、交付率17.9%(やまのいも、ごぼう、すいかなど)、②昭和61年度31.8億円、交付率18.6%(やまのいも、にら、ブロッコリーなど)、③平成13年度27億円、交付率15.0%(アスパラガス、にら、すいかなど)、④平成15年度22.7億円、交付率12.0%(すいか、アスパラガス、ブロッコリーなど)、⑤昭和62年度21.6億円、交付率12.1%(すいか、スイートコーン、かんしょなど)であった。
指定野菜事業の生産者補給金の平成22年度から令和元年度までの10年間の平均交付額は5.1億円、交付率は10.6%であった。交付額が多かった上位5位の年は、①平成13年度14.1億円、交付率27.6%(秋冬だいこん、春キャベツ、冬春ピーマンなど)、②平成15年度11.6億円、交付率22.3%(秋冬だいこん、冬キャベツ、夏秋ピーマンなど)、③平成17年度11.4億円、交付率24.0%(夏秋ピーマン、夏秋なす、夏秋キャベツなど)、④平成12年度10.9億円、交付率23.1%(春キャベツ、夏秋なす、春夏にんじんなど)、⑤平成18年度9億円、交付率18.5%(冬キャベツ、秋冬ねぎ、冬春ピーマンなど)であった(図10、表16)。
令和元年度の特定野菜事業の生産者補給金の交付額は、10億536万円で、上位5品目は、①ごぼう3億192万円(全体シェア30%)、②ブロッコリー2億8287万円(28%)、③にんにく8200万円(8%)、④みつば8000万円(8%)、⑤こまつな4000万円(4%)、上位5県は、①青森県3億2889万円(33%)、②愛知県1億4403万円(14%)、③群馬県7200万円(7%)、④徳島県6700万円(7%)、⑤高知県4000万円(4%)であった(図11)。
野菜価格の大幅な低落時に生産者補給金を交付することで生産者の経営安定を図り、野菜生産を安定的に継続して行えるようにすることで消費地への野菜の安定供給と価格の安定を図っている。
特定野菜等価格安定制度による価格低落時の経済効果について、全国有数のブロッコリーの特定産地の長野県とすいかの特定産地の茨城県の農家を想定し、制度に加入していた場合と加入していない場合の収益を試算し比較する。
(1)長野県のブロッコリー農家の収益試算
長野県の初夏まきブロッコリー農家の平年の収益(粗収入-農業経営費)は、栽培面積0.86ヘクタール、粗収入463万円/ヘクタール、経営費328万円/ヘクタールから「136万円の黒字」となる。ブロッコリーの市場価格が天候などの影響で3割下落し粗収入が324万円(463万円×0.7)となった場合、野菜価格安定制度では平均販売価額と保証基準額(308.0円=平均価格384.87円の8割)の差額の8割が生産者補給金として交付される。野菜価格安定制度に加入していなかった場合の農家収益は、平年比3割安の影響で「4万円の赤字」となるのに対し、制度に加入していた場合は、生産者補給金26万円が交付されるため農家収益は「22万円の黒字」となる。単純な試算であるが、平均販売価額が平年に比べ3割低下するとブロッコリーの農家の収益は4万円の赤字に転落し経営への打撃になるが、制度に加入していた場合は、22万円が手元に残り、農家経営の安定が図られる(表17)。
(2)茨城県のすいか農家の収益試算
茨城県のすいか農家の平年の収益(粗収入-農業経営費)は、作付面積1.39ヘクタール、出荷量(6月)48トン、関東市場向けすいかの平均価格1キログラム当たり166.89円などから試算すると「228万円の黒字」となる。関東市場向けの茨城県産すいかの平均販売価額が天候などの影響で3割下落し1キログラム当たり116.82円(166.89円×0.7)となった場合、野菜価格安定制度では平均販売価額と保証基準額(133.5円=平均価格166.89円の8割)の差額の8割が生産者補給金として交付される。野菜価格安定制度に加入していなかった場合の農家収益は、平年比3割安の影響で「12万円の赤字」となるが、制度に加入していた場合は、生産者補給金64万円が交付されるため農家収益は「52万円の黒字」となる。単純な試算であるが、平均販売価額が平年に比べ3割低下するとすいか農家の収益は12万円の赤字に転落し経営への打撃になるが、制度に加入していた場合は52万円の資金が手元に残り、農家経営の安定が図られる(表18)。
(1)霞ヶ浦周辺の水田転作で全国一のれんこん産地を育成・出荷量の9割で野菜価格安定制度が活用
JA水郷つくばは、平成31年2月にJA茨城かすみ、JA竜ケ崎、JA土浦の3農協が合併して発足し、管内は霞ヶ浦周辺の土浦市、龍ケ崎市、牛久市、かすみがうら市、阿見町、利根町、美浦村の4市2町1村にまたがっている。もともと霞ヶ浦周辺では水稲が栽培されていたが、田んぼが深く水稲栽培には不向きであったことから、昭和20年代に水田転作作物としてれんこんが栽培されるようになり、40年代後半のポンプによる「水掘り」の導入により作付面積が拡大し全国一のれんこん産地となった。令和元年の茨城県のれんこんの全国シェアは出荷量の52%(2万3000トン)、作付面積の42%(1660ヘクタール)、東京都中央卸売市場入荷量の92%を占める。
JA水郷つくば管内のれんこんの作付面積は約850ヘクタール(系統外も含む)で茨城県全体の約50%を占める。JA水郷つくばには4つの部会があり、最大の部会は「蓮根本部会」である。平成8年に旧JA土浦で「JA土浦蓮根本部会」(現「JA水郷つくば蓮根本部会」)が発足し、令和元年の所属生産者数は324人、作付面積は540ヘクタール、1戸当たりの作付面積は1.67ヘクタールとなっている(表19)。家族経営が中心であるが、10ヘクタールを超える大規模農家もいる。昭和51年にかすみがうら地区、57年に土浦地区がれんこんの特定産地に選定され、JA水郷つくばのれんこん出荷量および生産者の約9割で特定野菜等価格安定制度が活用されている。
(2)露地とハウス栽培の組み合わせでれんこんの周年供給体制を構築
JA水郷つくばでは、8月中旬から翌5月までは露地もの、6月から8月上旬はハウスものを出荷し1年を通じた周年供給体制を構築している。露地ものは、3月かられんこん田の代かきを始め、4月~5月上旬に種バスの植え付け、6月~7月に病害虫(主にアブラムシ)の防除(3回)、8月中旬~翌5月に収穫・出荷を行い、年末の12月が出荷のピーク(日量約80トン)となる。栽培品種は主に金澄系を中心に、節の詰まった短茎種を栽培している。施肥は主に有機堆肥やれんこん専用肥料を投入している(図12)。
れんこんの収穫は、人力で「水掘り」と呼ばれる機械で水をくみ上げてポンプの水圧でれんこんの泥を飛ばして行われる。収穫されたれんこんは、「JA水郷つくばれんこんセンター」などにボードに積んだ状態で持ち込まれ、乾燥を防ぐためのミスト下での一時保管、洗浄機による洗浄後、五つの規格に選別・箱詰めされる。出荷は主に4キログラム詰め段ボールで行われ、11月~翌4月は鮮度フィルムを段ボールに入れ、気温が高い5月、8月~10月は氷詰め発砲ケース(2キログラム)に入れて出荷される。ハウスものは全て発砲ケースで出荷される。出荷に際しては、日々の出荷物検査、年に2回(8、10月)の統一目揃い会、8月上旬に栽培講習会を行い、れんこんの品質の維持・向上に取り組んでいる(写真1~6)。
(3)東京オリンピック・パラリンピックに向けて県版GAPの取得を推進
東京オリンピック・パラリンピックの食材供給に向けて、JA、茨城県普及センター、蓮根本部会などが連携し、茨城県版GAP (Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)の認証取得のため、講習会・勉強会の開催、評価員による定期巡回・指導などに積極的に取り組み、令和元年度までに蓮根本部会の若手が作ったGAP推進班のメンバー22名が認証を受けており、更なる拡大を目指している。
(4)直売など販路拡大の取り組み
JA水郷つくばでは、京浜市場を中心に青森県から大阪府までの約40社の卸売市場へ出荷しているが、市場取引を主体としつつ、スーパーや6カ所の直売所などの直接販売による販路の拡大に取り組んでいる。現在の出荷先は、卸売市場が8割、直販などが2割であるが、産地・市場・実需者・スーパーが一体となった販売事業を展開するためこれらのメンバーでチームMD(マーチャンダイジング)を組織し、月に1回程度会議を開催し情報共有を図っている。スーパーや直売所などの販売向けの商品の鮮度保持のため独自に真空パックを開発するとともに、全農茨城県本部VF(ベジタブル・フルーツ)センターの真空パック機の導入により収穫から真空パック化、店頭陳列までの期間が5~6日から4日に短縮され、スーパーなどへの直接販売の促進につながっている。
また、新型コロナウイルス禍でれんこんに特化したポータルサイト「JA水郷つくばれんこんチャンネル」(https://renkon-channel.com)を令和2年3月から準備を進めて10月に立ち上げ、産地情報、イベント情報、地元専門学校生が考案したれんこんレシピ、小学生向けのれんこん教室などの情報をYoutube、Twitter、Facebookも活用し積極的に発信している(写真7、8)。
(5)農業人材確保の取り組み
れんこん生産は収益性が高いため、JA水郷つくば(土浦地区、霞ヶ浦地区、阿見地区)のうち土浦地区では、ここ1~2年で世代交代によりれんこん農家の若返りが進んでいるほか、JA水郷つくば全体では新規就農者も毎年10名程度おり、後継者は確保されている(表20)。れんこん栽培は水田を転用して始めることが多いが、水深が水稲の倍以上あることから、JAが営農指導を行い新規就農者をサポートしている。また、JA水郷つくばでは、大規模農家の人材確保のために自らが管理団体となって外国人技能実習生の受入れをサポートしており、30戸のれんこん農家が技能実習生48名、特定技能実習生14名を受け入れている。
(1)レタス生産からの転換と苗供給によるブロッコリー産地づくり・出荷量のほぼ全量で野菜価格安定制度が活用
小山地区では、平成11年の広域合併前の小山市農業協同組合の時代に少数の生産者が個選出荷していたが、国産ブロッコリーの生産振興を推進していた全農生鮮食品集配センター(現「全農青果センター」)の提案によりレタス部会の中に「ブロッコリー専門部」(平成19年に独立し「ブロッコリー部会」)が設置され、手間のかかるレタスよりも省力化できる品目としてレタス生産者が本格的に生産を始めた。当初は、栽培が容易な11月出荷中心の秋冬作のみであったが、JAおやまがブロッコリーを園芸重点推進品目に指定し、JAおやま西部育苗センターが苗供給を開始したことから、春作・秋冬作ともに作付面積が増加し、平成16年度におやま地区がブロッコリーの特定産地に選定された。令和元年度の育苗センターの供給苗の作付面積カバー率は68.7%となっている。令和2年産の春作ブロッコリーの作付面積は9ヘクタール、生産者32名、秋冬作の作付面積は39.1ヘクタール、生産者数107名となっている。JAおやまのブロッコリー出荷量のほぼ全量で特定野菜等価格安定制度が活用されている(表21、写真9、10)。
小山地区のブロッコリー生産は、春作と秋冬作の2作体系となっており、春作は、12月下旬から中早生種のおはようなどの品種を育苗、2月から定植し、4月下旬から5月まで出荷される。秋冬作は、7月中旬から中早生種のおはよう、中晩生種のグランドームなどの品種を育苗、8月中旬から定植し、10月上旬から12月下旬まで出荷される(図13)。
(2)水田転作によるブロッコリーの生産拡大の取り組み
JAおやまは、令和2年度に「小山西部地区産地づくり構想」を策定し、大規模な米麦二毛作経営が展開している小山市西部地区において、大規模なかんがい排水事業整備による水田の汎用化、農地中間管理機構などを活用した農地の集積・集約、機械化などにより、水田転作によりブロッコリーの作付面積を元年度の6.9ヘクタールから4年度の11.9ヘクタールに拡大していくこととしている。また、市場出荷を中心としながらリスク回避のため契約販売などにも取り組む方針である(表22)。
(3)輸入ブロッコリーとの差別化のための葉付き横詰め出荷の取り組み
従来はブロッコリー収穫後に葉(側枝)をカット調整し4キログラム詰めダンボールに縦詰めし出荷していたが、カット調整やダンボールへの縦詰め作業の手間がかかることや店頭で輸入ブロッコリーと判別しにくいことなどから、収穫後、葉付きブロッコリーを8㎏詰めダンボールに横詰めし出荷している。葉付きにすることで輸入ブロッコリーとの差別化と輸送中・陳列時の花蕾の保護が可能となる(写真11、12)。また、南部の野木地区では、量販店からの朝どりブロッコリー供給の要望を受け、10月~11月に葉付き横詰めのリターナブルコンテナ(20株入)で朝どりブロッコリーの出荷を行っている。生産者は早朝ほ場で収穫後リターナブルコンテナに詰めて午前9時までに集荷所に持ち込み、品質検査・集荷量確認後にトラックに積載され、当日の午後には量販店の店頭に陳列される。
(4)品質向上や鮮度保持に向けた取り組み
小山地区は、従来は気象災害が少なく栽培環境は良好な地域であったが、近年は、気温上昇、夏期の高温乾燥、秋期の台風・大雨などの気象被害のリスクが高まっている。このため、JA、ブロッコリー部会、県振興事務所、種苗会社が連携し、現地検討会や営農指導により気象要因に強いほ場づくりや栽培・肥培管理などに取り組んでいる(写真13)。具体的には、①10アール当たり1トンの堆肥など有機物施用による団粒構造の構築促進、②高温乾燥によるホウ素欠乏予防のための微量要素肥料の施用、③排水性の劣るほ場の高畝化(10~15センチメートル)による排水路の確保、④過湿時の病害防止のため早生種の中生・晩生種に対する定植本数の抑制、⑤水田転作ほ場の排水性向上のための深さ30センチメートル程度の額縁排水路の設置などに取り組んでいる。
輸送中の品質保持のため、ブロッコリーの呼吸抑制ができる鮮度保持袋の使用、急激に品温を5度前後に下げる真空処理により輸送中の花蕾黄化や軟化を防止している(写真14)。また、食育や消費者との交流推進のため、JAおやま、ブロッコリー部会、観光エージェントが連携し、首都圏在住の消費者を対象にブロッコリー収穫体験ツアーなどを行っている。(写真15)。
昭和51年の特定野菜等価格安定制度の創設以来45年が経過し、特定野菜の全国作付面積や出荷量が減少する中で、全国の961地区の特定産地は、価格安定制度で天候などによる価格変動リスクに対応しながら、特定野菜の全国出荷量の25%、作付面積の23%を担う中核供給基地として消費地への安定供給と価格安定、さらには、地域の気候・自然・環境を活かした多種多様な野菜生産を通じて地域経済を支えている。
JA水郷つくばでは、れんこん出荷量の9割、JAおやまではブロッコリーの出荷量のほぼ全量で野菜価格安定制度を活用し、価格変動リスクに対応しながら水田を活用し全国有数の特定野菜の産地をつくり上げた。北海道から沖縄までの約6万戸の野菜農家が特定野菜等価格安定制度に加入しており、高齢化・人手不足、輸送費などのコスト増などの課題がある中で、生産者、生産出荷団体、自治体など地域の関係者が一体となって地域の特色を生かした特定野菜の産地づくりと消費地への安定供給に取り組んでいる。
本稿の作成にあたり、ご協力いただいたJA本郷つくば、JAおやまの皆様に深く感謝申し上げる。