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調査・報告 (野菜情報 2020年12月号)


野菜価格安定制度と産地の取り組み(第8回) ~加工・業務用野菜需要の増大と契約指定野菜安定供給事業~

野菜振興部

1 はじめに

日本の野菜の需要構造は、近年、食の外部化・簡便化などにより購入店舗はスーパーからコンビニ、ネット通販宅配へ、購入形態は野菜原体からカット野菜、半調理調理済み総菜などへ変化しており、これに伴い加工・業務用野菜の需要が全体の約6割に増大している。野菜の家計消費用はほぼ全量国産で賄われているが、加工・業務用では国産比率は約7割にとどまり、残りの約3割は輸入品で賄われている。米の需要減退の中で加工・業務用野菜は水田を活用した付加価値の高い農業の展開にとって重要である。

加工・業務用野菜食品加工業者、外食事業者などの実需者は、定量・定価格での供給が求めているが、野菜の作柄は天候などに大きく左右されるため、契約取引であっても豊凶による過剰生産や契約数量不足などのリスクは避けられず、近年の異常気象の頻発によりリスクが増大している。国産青果物の約8割は卸売市場経由で流通しており、豊凶による契約取引数量の過不足は、卸売市場機能を通じて調整されるため価格変動が増幅する。国は、加工・業務用野菜の出荷量(直接取引分)を平成29年度の98万トンから令和12年度までに145万トンに拡大することを目標としており、加工・業務用野菜の生産拡大や価格安定のためには、生産性の高い加工・業務用野菜の産地づくりとともに、契約取引の安定化を図ることが重要である。

このため、平成14年の野菜生産出荷安定法の改正により契約指定野菜安定供給事業が創設され、契約取引における豊凶による価格低落、生産過剰、数量不足に対し生産者補給金を交付し、契約取引を行う生産者の経営と生産出荷の安定を図っている。

今回は、加工・業務用野菜の需要動向、契約指定野菜安定供給事業の仕組みと実施状況、取事例などを紹介する。

2 加工・業務用野菜需要の増大と契約取引

農林水産政策研究所の調査によれば、食の外部化などを背景に野菜の需要は家計消費用から加工・業務用に徐々にシフトしており、加工・業務用需要は全体の約6割を占めている(平成27年度主要野菜13品目全体で57%)。品目別には、にんじん64%、ねぎ64%、トマト62%、だいこん61%、たまねぎ59%、レタス59%、さといも58%が加工・業務用需要の割合が高い。加工原料用と業務用に分けると、全体では加工原料用の割合が35%を占めており、品目別には、レタス43%、たまねぎ36%、だいこん35%、キャベツ34%となっている。

家計消費用の国産割合はほぼ100%だが、加工・業務用は、大ロットで定時・定量・定価格の供給に対応する輸入野菜の増加により約7割にとどまっている(図1、2、3、4)。加工・業務用野菜は、家計消費用とは実需者・用途別ニーズが異なるだけでなく、定時・定量・定価格での供給ニーズが高いが、その価格は、家計消費用に比較して安価な場合が多い。他方、用途に応じて大型規格、水分含有率、歩留まりなどの多様な品質・規格や、バラ詰め、無包装、通い容器などの出荷形態が求められ、そうした特性に応じた生産・流通の合理化・効率化が可能である(表1、2)。

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加工・業務用野菜の契約取引では、産地・生産者と食品製造業者や外食事業者などの実需者をつなぎ産地から購入した野菜を実需者ニーズに応じて安定供給する卸売業者などの「中間事業者」が重要な役割を果たしている。現状では、実需者は中間事業者を通じて加工・業務用野菜を調達することが多く、中間事業者が生産者から野菜を調達する際は生産者と書面または口頭の契約で仕入計画を立てており、中間事業者を経由した実需者への通年安定供給や契約取引の円滑化を図ることが重要となっている(図5)。

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生産者にとって契約取引は、販路確保や収入安定化のメリットがある一方、天候などよる作柄変動に伴う価格低落、生産過剰、数量不足などのリスクがある。平成28年度の機構調査では、契約内容は、「価格だけを決めて、納入量は販売先からの指示による」が55%と最も多く、次いで「1カ月分の納入量と価格を決めている」(27%)「日々の納入量と価格を決めている」(26%)「1週間分の納入量と価格を決めている」(21%)の順となっており、契約取引であっても豊凶による価格低落や契約数量の過不足などリスクがある(図6)。29年度の機構調査では、契約数量の一部が不足しそうな場合の不足分の調達先について「卸売市場から国産品を調達する」が65%と最も多く、次いで「契約先に前進出荷などをしてもらう」(49%)「卸売市場外から国産品を調達する」(46%)の順となっている(図7)。

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国産青果物の約割は卸売市場経由で流通し、加工・業務用野菜の調達は、契約取引と卸売市場の双方で行われているため、不作で契約数量を確保できないときは卸売市場から調達し、不足がないよう余裕をもって作付けし豊作になった場合は余剰分が卸売市場に出荷され、価格変動が増幅する。このため、契約取引に伴うリスクの軽減を図ることが野菜全体の価格・需給の安定にとって重要である。

3 契約指定野菜安定供給事業などの概要

(1)契約指定野菜安定供給事業(平成14年度創設)

野菜指定産地(全国に887産地)で指定野菜(キャベツ、レタス、トマトなど14品目)を生産・出荷する登録出荷団体生産者(生産者は作付面積概ねヘクタール以上)と実需者(食品加工業者、外食事業者、量販店、中間事業者など)との契約取引の内容に応じて、つの事業タイプがある。資金積立ての負担割合は、国50%、都道府県25%、生産者25%である。なお、特定野菜(アスパラガス、ブロッコリー、かぼちゃなど35品目)を対象とする「契約特定野菜等安定供給促進事業」も基本的な仕組みは同じであるが、資金積立ての負担割合は国33%、都道府県33%、生産者33%である。

ア 価格低落タイプ

市場価格に連動して取引価格が変動する契約を締結している生産者に対し、平均取引価額(全国主要10市場の加重平均販売価額で旬ごとに算定)が過去6年の平均価格の9割を下回った場合にその差額の9割が補てんされる(図8)。

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イ 出荷調整タイプ

定量供給契約を締結した生産者が契約数量確保のために余裕のある作付けを行い、平均取引価額が過去6年の平均価格の7割(基準価額)を下回り出荷調整(土壌還元など)を行った場合に、基準価額または契約価額のいずれか低い額の4割が補てんされる(図9)。

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 数量確保タイプ

定量供給契約を締結した生産者が天候不順や不作により契約数量を確保できない場合に、平均取引価額が過去6年の平均価格の130%(指標価)を上回っているときに、①市場出荷予定のものを契約先に出荷した場合は平均取引価額と契約価額の差額の7割②市場などから購入したものを契約先に出荷した場合は購入価額と契約価額の差額の9割が補てん─される。交付予約数量の上限は、契約数量の2分の1以内で、生産者は、契約価額に2分の4、2分の6または2分の8を乗じて得た価額を購入限度価額として選択できる(図10)。

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(2)契約野菜収入確保モデル事業(平成23年度創設)

指定野菜を生産・出荷する生産者・中間事業者と実需者との契約取引の内容に応じて、つの事業タイプがある。資金積立ての負担割合は、国50%、生産者・中間事業者50%である。生産者の作付面積の制限はなく、指定産地以外の産地も対象である。毎年度前期(月)と後期(8月)の回の公募により事業者を募集している。

ア 出荷調整タイプ(令和元年度新設)

実需者と定量供給契約を締結した生産者が契約数量確保のための余裕作付け分を価格低落時に出荷調整(土壌還元など)した場合に積立単価または契約価額の割のいずれか低い額が交付される(図11)。

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イ 出荷促進タイプ

実需者と定量供給契約を締結した生産者が価格高騰時に市場でなく契約に沿って出荷した場合に市場平均取引価格と発動基準額(市場平均価格の110~130%)の差額の一部が交付される(図12)。

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ウ 数量確保タイプ(中間事業者が対象)

実需者と定量契約を締結した中間事業者が市場平均取引価格が指標価額(市場平均価格の110~130%)を上回った場合に契約数量不足分を市場などから調達した場合に、調達価格と取引予定価格の差額(掛かり増し経費)の一部が交付される(図13)。

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4 契約指定野菜安定供給事業の実施状況

(1)事業の交付予約数量は価格低落タイプを中心に増加

事業全体の交付予約数量は、平成14年度の1419トンから令和元年度の万5653トンへ11倍に増加している。タイプ別には、価格低落タイプが平成14年度の1269トンから令和元年度の1万4545トンへ11.5倍に増加し、交付予約数量全体に占める割合も平成15年度の%から令和元年度の93%に増加し、全体の9割超を占めている。

価格低落タイプの交付予約数量は、平成24年度から27年度の年間に5383トンから2万1481トンへ約4倍に増加した。これは、19年度の制度改正により契約相手に食品加工業者、外食事業者、量販店などの実需者に加え、中間事業者が追加されたことによるものである。中間事業者は、契約取引において産地・生産者と実需者をつなぐ重要な役割を果たしており、産地集荷業者や農産物販売会社などの中間事業者の契約取引による交付予約数量が増加した。30年1月に収入保険制度が開始されたが、価格低落タイプは収入保険と同時利用できないこととされた。収入保険の加入対象は青色申告農業者であるが、価格低落タイプの利用者は経営規模の大きな生産者が多いことから、収入保険への移行などにより令和元年度の交付予約数量は前年度比35%減の1万4545トンとなった。なお、令和3年1月から当分の間、新規保険加入者かつ1年限定で収入保険と野菜制度の同時利用が特例として認められることになった。

出荷調整タイプの交付予約数量は、平成14年度の制度創設以降3000~4000トンで推移していたが、27年度に前年度比7割減の317トンと大きく減少し、令和元年度は196トンであった。この要因としては、主な利用者が大規模な交付予約数量を有する生産出荷団体から個別経営者にシフトしたことがあげられる。元年度の利用者はすべて登録生産者である。

数量確保タイプの交付予約数量は、平成19年度の4381トンをピークに減少し、令和元年度912トンとなった。数量確保タイプは、価格高騰時対策として不作時に生産者が契約数量確保のため市場出荷分を契約先に仕向け変更などを行った場合に掛り増し経費の一部を補てんするものであるが、事業発動を要するような価格高騰場面が多く発生せず交付率も総じて伸び悩んだことなどが要因と考えられる。平成24年度の制度改正で、次産業法に基づく産地連携野菜供給契約を締結した場合は指定産地以外の産地の生産者も利用可能となり26年度に交付予約数量が一時的に増加した。

交付額は、交付予約数量の増加に伴って増加し、29年度に最高の1億8400万円となり、27年度~令和元年度の5年間の平均交付額は1億700万円となった。交付率は、平成14年度の制度発足後は一桁台であったが、価格低落タイプの交付予約数量の増加に伴って増加し、24年度に最高の23%となり、27年度~令和元年度の年間の平均交付率は11%となった(図14、表3)。

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(2)加入者は生産出荷団体から個別経営者にシフト

平成16年度と令和元年度の業態別制度加入者数の割合を比較すると、平成16年度(計者)は、生産法人12%、登録出荷団体(農協、全農県本部、経済連)88%であったが、令和元年度(計51者)は、生産者53%、生産法人41%、登録出荷団体6%と、ほぼ全員が個別経営者となっている(図15)。

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(3)レタスとキャベツが交付予約数量の約割を占めるメインユーザー

平成15年度と令和元年度の野菜の種別交付予約数量を比較すると、平成15年度は、10品目10種別8374トンであったが、令和元年度は、品目13種別万5653トンに増加している。

平成15年度の交付予約数量が多い上位5品目は、たまねぎ7350トン、きゅうり461トン、なす140トン、キャベツ115トン、ばれいしょ100トンであったが、令和元年度は、レタス8364トン、キャベツ5000トン、にんじん1200トン、だいこん730トン、トマト209トン、きゅうり150トンとなっており、レタスとキャベツで全体の約85%を占める。主な産地は、レタスは静岡県、長野県、群馬県、キャベツは群馬県、長野県、にんじんは北海道、だいこんは青森県、群馬県、トマトは静岡県、きゅうりは高知県である(表4)。

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5 契約野菜収入確保モデル事業の実施状況

(1)主に価格高騰時対策として活用

契約野菜収入確保モデル事業は、平成23年度に収入補填タイプの事業が開始され、25年度に出荷促進タイプ数量確保タイプが創設され、令和2年度に収入保険の導入に伴い収入補填タイプが廃止され、出荷調整タイプが創設された。

平成23年度から令和元年度までの9年間に、536契約に対し2.3億円、年平均では60契約に対し2600万円が交付され契約取引に取り組む生産者や中間事業者を支援してきた。タイプ別には、価格高騰時対策である出荷促進タイプと数量確保タイプの交付決定額の割合は割程度で推移し、元年度は92%となっており、主に価格高騰時対策として活用されている(表5)。

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2利用者は個別経営割、中間事業者・生産出荷団体

令和元年度の業態別事業利用者の割合(169契約)をみると、野菜生産者58%、野菜生産法人14%、流通・卸売業13%、生産出荷団体(農協、全農県本部、経済連)15%となっており、個別経営者が割弱を占める一方で、中間事業者である流通・卸売業と出荷団体が割強を占めている。

令和元年度の業種別実需者契約先(169契約)の利用者の割合をみると、流通・卸売業66%、食品製造・加工業33%、小売業1%となっており、中間事業者である流通・卸売業が約7割を占めている(図16)。

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(3)キャベツ・たまねぎ・レタスが申込数量の約割を占めるメインユーザー

令和元年度の野菜の種別の事業への申込数量をみると、キャベツ9337トン、たまねぎ2771トン、レタス(結球)1684トン、レタス(非結球)144トン、はくさい482トン、だいこん400トン、トマト163トン、ピーマン113トン、ねぎ68トン、なす82トン、ねぎ(青ねぎ)60トンなど、合計万5333トンで、キャベツ、たまねぎ、レタスで全体の91を占めている。主な産地は、キャベツとたまねぎは愛知県、岡山県、レタスとはくさいは茨城県、長野県、だいこんは神奈川県、トマトは宮城県である(表6)。

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(4)契約取引のメリットとリスク

契約取引では、不作時には、市場価格が高騰しているにもかかわらず契約価格で出荷しなければならず、豊作時には、実需者による取引数量の変更や余剰生産分の売り先の確保などのリスクがある。令和元年度の事業利用者へのアンケート結果(回答者53者)をみると、契約取引のメリットについては、「定量定価格契約のため収入の安定化が図られる」「作付時から販路が確保でき計画的な生産が可能となる」「実需者のニーズに応じた生産が可能となる」との回答が多かった。契約取引の際のリスクとして感じる時については、本事業が主に価格高騰時対策として利用されていることから、「不作時」が最も多く、次いで「不作時と豊作時の両方」であった。また、不作時のリスクとしては、「契約数量が確保できないおそれがある」豊作時のリスクとしては、「実需者等の都合により取引数量が減らされる懸念がある」の回答が多かった(図17)。

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契約取引には、収入安定化や計画生産化といったメリットがある一方で、天候などによる作柄変動に伴う価格低落、過剰生産、数量不足などのリスクがある。契約取引の推進のためには、こうした契約取引に伴う生産者などのリスク軽減を図ることが重要であることがうかがえる。

6 契約指定野菜安定供給事業などの効果

(1)契約指定野菜安定供給事業(価格低落タイプ)の効果

価格低落タイプの事業効果について、冬レタスの指定産地である静岡県の平均的な規模の農家を想定し、制度に加入していた場合と利用していない場合の収益を試算し比較する。

令和元年度の市場価格の場合、静岡県小笠・周智地区の平均的なレタス農家(1戸当たりの作付面積1.87ヘクタール、出荷量(11月~3月)48トン)が出荷期間を通じて毎旬均等に出荷した場合、レタスの販売収入965万円、経営費473万円で492万円が収益として手元に残る。

取引価格が平年比で3割低落した場合、レタスの販売収入は674円、経営費は473万円となり、制度に加入していなければ、収益は201万円に大幅に減少する。これに対し、制度に加入していれば、生産者補給金173万円が交付されるため、収益は374万円となり、平年時の76%の収益が手元に残り、農家経営の安定と次期作の確保が可能となる(表7)。

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(2)契約野菜収入確保モデル事業(出荷促進タイプ)の効果

出荷促進タイプの事業効果について、春キャベツの指定産地である愛知県の平均的な規模の農家(作付面積0.91ヘクタール、出荷量(4~6月)50トン)が、令和元年度に出荷促進タイプ(春キャベツ、対象出荷期間日~月30日、契約数量合計50トン)を申し込み、不作により市場価格が高騰し、事業が発動した場合を想定する。当該農家が、契約数量を契約取引先に出荷した場合、価格が高騰している市場に出荷した場合と比べて119万円の増収の利益を逸失する。価格高騰時は契約数量の不足や品質低下などに対応するため追加的な経費がかかるが、事業に加入していた場合は、逸失した利益の半分相当の交付金60万円が交付されるので契約取引を安定的に継続していくことが可能となる(表8)。

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7 取り組み事例

(1)A農場(契約指定野菜安定供給事業:価格低落タイプ)

A農場は、小売事業者や外食事業者を相手としたレタスやはくさいなどの契約取引を行っている。A農場は、契約書で支払い条件などの基本的な事項を定めた上で、出荷期間開始直前に週単位の出荷数量や基本となる価格を覚書として取り交わしている。契約価格は、数か月先の生産・出荷状況の予測が難しいことから、ベースとなる価格を決めた上で市場価格と一定の乖離が生じる場合に連動して変更する取決めとなっており、市場価格の低落の影響を受ける。このため、市場価格が低落した場合に交付金が交付される価格低落タイプを活用し価格低落リスクの軽減を図っている。

(2)産地集荷業者B社(契約指定野菜安定供給事業:価格低落タイプ)

B社は、キャベツの一大産地において集荷を行い、主に卸売市場に出荷している産地集荷業者である。B社と同じ産地の複数の生産者が、契約に基づいた取引を行っている。契約書には、出荷期間を通じた総出荷予定数量と取引価格が明記されているが、取引価格は市場価格と連動する取決めとなっているため、価格低落タイプを活用し価格低落リスクの軽減を図っている。B社に出荷を行う生産者は、生産した全量をB社に出荷しているため、売り先の確保を心配せずに安心して生産を行うことができる。また、B社は各生産者の出荷量をすべて把握し、生産者は事業の手続きをB社に委託し事務負担の軽減を図っている。事業の手続きの代行は生産者がB社へ出荷するインセンテイブにもなっている。

(3)C農園(契約指定野菜安定供給事業:価格低落タイプ)

C農園を含む複数の生産者は、D販売会社を通じてレタスを出荷し、全国に店舗を持つ外食事業者で利用されている。D販売会社は、この外食事業者以外にも小売業者など販売先を広く確保しており、仕入れた野菜は状況に応じて振り分けて出荷している。仕入れ元となる生産も複数の県に所在しているため、D販売会社は季節の進み具合に応じて産地リレーにより安定的に出荷している。C農園とD販売会社の契約では、基本契約で価格(市場価格に連動)を決定し、数量は別途覚書で取り決めており、価格低落タイプの活用により価格低落リスクの軽減を図っている。C農園は事業の手続きをD販売会社に委託し、生産者の事務負担軽減を図っている。D販売会社は、C農園以外にも他県の生産者の事業手続きを受託しており、事務作業の効率化を図っている。

(4)Fファーム(契約指定野菜安定供給事業:出荷調整タイプ)

Fファームは、カット野菜製造加工業者とレタス、キャベツなどの契約取引を行っている。契約では、出荷数量は出荷期間開始前に大宗の数量を決めておき、詳細な数量は、前週に翌週分の出荷数量を双方で確認している。取引価格は、出荷期間開始前に送料込みの価格を覚書で取り決めている。Fファームは、このカット野菜製造加工業者以外にも幅広く契約取引を行っており、契約に基づき計画的な生産・出荷を行っている。契約数量の確保のため不作時に備え余裕をもって作付けを行い、豊作で過剰となった場合は値崩れを防ぐため出荷調整を行っている。このため、出荷調整タイプを活用し、豊作による過剰生産分の出荷調整コスト増のリスク軽減を図っている。

(5)産地集荷業者G社(契約野菜収入確保モデル事業:出荷促進タイプ)

多品目に渡る野菜産地に営業所を持つ産地集荷業者のG社は、地元の農家と固定価格による契約取引を行い、量販店などに販売している。生産者に対しては、生産契約の策定や生産管理などの支援も行い、農家の安定的な生産・出荷を支援している。豊作で計画以上に生産された野菜は、契約価格でG社が買い取るが、不作時に生産量が減少した際は、契約価格は変わらずに出荷量が減少するため、生産者の収入は減少する。一方で、品不足により市場価格が高騰するため、市場に出荷先を変更する方が有利と考える生産者も出てくる。このため、G社の取引農家は、出荷促進タイプを活用し、価格高騰時に市場平均取引価格と発動基準額(市場平均価格の110~130%)の差額の一部の補てんを受けることにより、契約に沿った安定出荷を確保している。

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8 まとめ

食の外部化簡便化などに伴い加工・業務用野菜の需要が増大しているが、野菜の家計消費用はほぼ全量が国産で賄われている一方で、加工・業務用は約7割にとどまっている。加工・業務用野菜は、契約取引による定量・定価格での供給が求められるが、豊凶による過剰生産や契約数量不足などのリスクは避けられず、卸売市場の調整機能を介して価格変動が増幅する。加工・業務用野菜は、水田を活用した付加価値の高い農業の展開にとって重要である。需要が増大する加工・業務用野菜の生産拡大や価格安定には、生産性の高い加工・業務用野菜の産地づくりとともに、価格安定事業により契約取引の安定化を図ることが重要である。機構としては、契約指定野菜安定供給事業及び契約野菜収入確保モデル事業の普及・活用を通じて契約取引に伴う生産者のリスクを軽減し、生産者の経営安定野菜の生産出荷の安定に取り組んでまいりたい。



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