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調査・報告 (野菜情報 2020年10月号)


沖縄県島尻郡八重瀬町におけるピーマンの生産
~地域ブランド「ぐしちゃんピーマン」の産地形成の取り組み~

那覇事務所 佐藤 哲史(現 酪農乳業部)

【要約】

 沖縄県島尻郡八重瀬町の具志頭地区では、冬春期に大型ピーマン「ちぐさ」を地域ブランド「ぐしちゃんピーマン」として県内外に出荷している。同地区では、JAおきなわかみ支店野菜生産部会が中心となり、エコファーマーの取得や栽培講習会の開催など、積極的な生産振興を行い、高品質で安全・安心なピーマンづくりに取り組み、出荷量、生産者数ともに増加しており、今後もGI制度への登録などによる更なる生産拡大に取り組んでいる。

1 はじめに

沖縄本島の南部地域に所在する沖縄県島尻郡八重瀬町は、平成18年1月に東風平こちんだ町と具志頭村の合併によって誕生し、東風平町と具志頭村にまたがる八重瀬岳が町名の由来となっている(図1)。

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同町は、昔から肥沃な土壌に恵まれていたことから、農業の町として発展してきた。昭和60年代前半までは、養豚を中心とした畜産業が盛んに行われていたが、価格低迷の影響から畜産業は衰退した一方で、5060年代にかけての土地改良や平成4年以降のかんがい施設の整備などによって野菜や果樹の生産が増加した。近年では、県都那覇市に近接する町の北部地域(旧東風平町)は基幹道路や住宅地の整備により都市化傾向にあるものの、南部地域(旧具志頭村)では都市近郊型の農業が行われている。

主要な生産品目は、ピーマン、さやいんげん、かんしょ、さとうきび、マンゴーなどである。同町の平成30年の農業産出額(推計)は、総額で50億3000万円であり、内訳は養豚が19億4000万円と最も高く、野菜が11億1000万円、さとうきびを含む工芸農作物が3億2000万円などとなっている(図2)。

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27年の農業経営体数は626経営体であり、工芸農作物が377経営体と最も多く、次いで、野菜が209経営体などとなっている。経営体数は、22年では701経営体があったが、5年間で1割以上減少する一方、冬春ピーマンは生産者数、生産量ともに増加している(注)

本稿では、八重瀬町具志頭地区における「JAおきなわ具志頭支店野菜生産部会ピーマン専門部(以下「生産部会」という)」による冬春ピーマンの生産の取組みについて紹介する。なお、同地区は9年に国の冬春ピーマンの指定産地に指定され、18年には沖縄県の拠点産地の認定を受けている。

注:農林業センサス2015、2010参照。

2 ぐしちゃんピーマンの生産

)栽培の歴史と特徴

八重瀬町具志頭地区でのピーマンの生産は、昭和58年に久米島(沖縄県島尻郡久米島町)から取り入れられ、当時の生産者数は10、出荷量は12トン程度であった。導入された品種は、現在でも具志頭地区で生産されるピーマンの約9割を占める「ちぐさ」である。

ちぐさは、大型ベル系ピーマンのひとつで、日本で最も多く出回っている中型ピーマンが1個当たり約30~40グラムなのに対し、ちぐさは約70グラムと約2倍の重量があり、非常に大きなサイズが特徴のつである。また、果肉は肉厚でみずみずしく、ピーマン特有の苦みが少なくリンゴのような甘さがあり、火を通さず生で食べてもおいしいピーマンとして需要がある。県外では、南九州で若干の生産がみられるが、市場流通しているもののほとんどは沖縄県産であり、県外市場で安定したシェアを獲得している。具志頭地区で生産されるこの「ちぐさ」を地名の具志頭(沖縄の方言で「ぐしちゃん」と発音する)にちなみ「ぐしちゃんピーマン」として出荷している(写真1)。

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また、現在は、中型ピーマン「みおぎ」も全体の1割ほど生産している。みおぎは耐病性が高く、病原菌による立枯病もほとんどみられないことから、主に地区内の排水性が低い地域で生産されている。

(2)栽培概況

平成30年産の沖縄県全体における冬春ピーマンの作付面積は19ヘクタール、出荷量は1416トンとなっている。このうち、具志頭地区で生産されているぐしちゃんピーマンの作付面積は約16ヘクタール、出荷量は約1200トンとなっており、県全体で生産される冬春ピーマンの8割以上を占めている(図3)

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令和元年度、JAおきなわ具志頭支店野菜生産部会には103が在籍し、そのうち約7割にあたる73が生産部会に所属している。JAの担当者によると、生産部会の生産者数は増加傾向で推移しており、親からの承継によって就農している者が多く、平均年齢は54歳ほどと他の品目の生産者に比べて低く、20~30歳代も10が在籍しているとのことであった。

(3)作型

作型はしゅの時期の違いにより、台風対策の必要なものとそうでない2種類に分かれている。前者は、7月中旬に播種、8月下旬に定植、10月下旬から翌年の6月中下旬にかけて約8カ月間にわたり収穫が行われる。後者は、9月中旬に播種、10月中旬に定植、12月上旬から翌年6月中下旬にかけて約7カ月間にわたり収穫が行われる(図4)。

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二つの作型の違いは、8、9月を中心に襲来する台風の影響による減産のリスクを低減するためのもので、どちらの作型もハウス栽培であるものの、台風の強風に耐えうるハウスは7月中旬に播種を始め、耐風性の弱いハウスは9月中旬に播種を始める点が異なる。耐風性に強いハウスは、7月中旬に播種を始めるため収穫期が長くとれるものの、導入コストは、耐風性の弱い方よりも約3倍高くなる。

(4)温暖な気候のもとでの栽培

一般に、ピーマンの成長には気温15度以上の環境が必要とされ、同様に冬春期にちぐさを生産している宮崎や鹿児島などの南九州地域では、生育温度を確保するためヒーターを焚いて加温している。沖縄地方は年平均気温が23.1度であり、最も冷え込む1月でも月平均気温が17.1度と年間を通じて栽培に適した温暖な環境を確保できることから、ハウス内の加温が必要なく燃料代をかけずに栽培できるメリットがある。

一方で、高温多湿な気候によって発生するダニやアザミウマによる食害や立枯病の発生、台風によるハウスの破損、台風通過後の塩害を防ぐための水の散布といった台風への対応などは沖縄特有の課題といえる(写真2)。

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3 生産部会の取り組み

ここからは、生産部会による生産振興の取り組みなどについて紹介する。

(1)生産部会の主な活動

生産部会では、主な活動として、栽培に関する勉強会、目揃え会を実施している。栽培に関する勉強会は毎月開催しており、農薬メーカーや県の農業改良普及センターの担当者から農薬の効果的な使用方法や土づくりのポイントなどの講習を受け、会員の栽培技術と品質の向上を図っている。また、目揃え会では出荷する際の規格や品質を会員同士で共有、統一することで、品質の平準化が図られ、取引先の安定的な確保につながっている。なお、生産部会に所属する生産者数などについては、前述した通りである。

(2)エコファーマーによる安全・安心なピーマン作り

ぐしちゃんピーマンは、安全・安心な生産を訴求キーワードとし、生産部会では、会員に対しエコファーマーの取得を推奨している。

エコファーマーは、沖縄県の持続性の高い農業生産方式の導入に関する指針に基づき作成する「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」の沖縄県知事の認定を受け、化学肥料・化学農薬の使用低減などの環境に配慮した農業(環境保全型農業)により農作物を生産し、環境負荷を低減するとともに、消費者の求めるより安全・安心な農産物供給に努める農業者とされている。

生産部会では、エコファーマー認定制度ができて間もない20年前に当時の部会長が初めて取得し、生産部会としては10年前から会員の生産意欲を高める目的で取得を推奨してきたが、現在では、食の安全意識の高まりの中でぐしちゃんピーマンの中心的な訴求ポイントとなっている。

エコファーマーの取得には、①土壌分析に基づくたい肥や緑肥による土づくり②化学肥料(窒素分で換算)の使用量の3割程度低減③化学農薬の有効成分使用回数の3割程度低減―を組み合わせて作成する5カ年計画について、県知事の認定を受ける必要があり、同計画に基づく取り組みとして、土壌分析、太陽熱や緑肥による土壌消毒、天敵農法による防除などを実施している。

ア 土壌分析

土壌分析は、県の農業改良普及センターの協力を得て、毎年6月頃に実施している。希望する生産者は、肥料メーカーの担当者と打合せを行い、施肥の計画を立てる際にアドバイスをもらっている。生産部会では、毎年150160点の検体を分析にかけているが、他の地区は2030点ほどであり、検体数からも日頃から栽培に関して意識の高い生産者が多いことが分かっている。また、特に新規就農者など経験の少ない生産者にとっては、肥料の使用方法などを相談できる貴重な機会であり、生産部会によるこのようなサポート体制があることも生産者数が増加している一因と考えられる。

イ 土壌消毒

太陽熱消毒は、2~3年に1回の頻度で、収穫後の7~8月頃に実施しており、ほ場に水をまき、透明のビニールをかぶせて土の中を40度以上にして約1カ月間、この状態を保持することで雑草や病原菌の発生を抑制している(写真3)。JAの担当者によると、特に、ピーマン栽培で悩まされることの多い立枯病に効果を発揮するため、立枯病が発生した年に実施する生産者も多いとのことであった。また、緑肥植物(ソルゴー)の植え付けと太陽熱消毒を交互に実施している生産者が多く、ソルゴーは土壌の排水性の向上や過剰肥料分の除去に効果があり、成長後は肥料として土にすき込んでいる生産者が多い。

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ウ 天敵農法

天敵農法による防除は5年前から本格的に導入し、17の生産者が実施している。天敵農薬には、スワルスキーカブリダニやタバコカスミカメを使用しており、10アール当たり5万頭をほ場に放飼し、アザミウマやダニを捕食することで食害被害を低減している。

4 出荷と販路

(1)選果の流れ

収穫されるピーマンの9割は共同販売しており、八重瀬町内にある大頓ピーマン選果場(以下「選果場」という)で選果され、市場などへ出荷されている。

選果場は、増加する出荷量に対応するため平成23年度に特定地域経営支援対策事業を活用して新設された。出荷コンテナには1籠当たり1314キログラム入っており、出荷の最盛期には1日当たり6~7トンが搬入される。

搬入されたピーマンは選果レーンに乗せられ、初めに職員が目視で選別を行い、実に傷がついているものや、赤い発色がでているものは規格外品として除外される。目視による選別作業を行うパート職員は常時15~20程度を通年雇用しており、ピーマンの出荷時期以外はマンゴーの選果などを行っている。

目視による選別後、ピーマンの表面積を計測する装置で等級(A~C)と階級(S~2L)が決まり、等階級ごとに分けられたレーンを通り、出荷用の段ボール(7キログラム詰め)に箱詰めされる(図5、6、7)。以前は、1個当たりの重量によって階級を決めていたが、毎年、4月以降は気温の上昇によって肉厚になる傾向があり重量も重くなるため、重量ではなく表面積によって決める方法に変更されたことで、段ボール1箱に入る個数や大きさのバラつきが改善された

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(2)販売経路

販売先は、約5割が県内卸売市場、約3割が県内量販店および仲卸業者、約2割が関西を中心とした県外卸売市場となっている。卸売市場での取引価格は出荷時期によって1キログラム当たり2001000円と値幅が大きく、他の産地が端境期になる1~3月は高値で取引されるため、なるべく3月までに出荷することを心がけている(図8)。また、近年は卸業者とあらかじめ取り決めた価格により売買する契約取引を行っており、市場の価格変動に左右されることなく安定して販売代金が入ってくることで、生産者の経営の安定につながっている。

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また、販路拡大の取り組みとして、京都など県外の量販店の店頭で販促活動を行っている。販促活動には生産者も同行し、消費者の声を直接聞ける貴重な機会となっている。

今後の販路拡大に向けた取り組みとしては、GI制度(地理的表示保護制度)の登録による他産品との差別化と付加価値の向上や、ふるさと納税の返礼品に選定されることによる認知度の向上などを予定している。

5 伊森氏のピーマン生産

本稿では生産部会で役員を務める伊森正秀氏の取り組みを報告する。

(1)経営概況と栽培の工夫

伊森氏は現在58歳で、40歳の時に会社員を辞め就農して18年になる(写真)。会社員として働いていた当時から友人3人とともにピーマンを栽培していたが、よりおいしいピーマンを作りたいという想いが強くなり、専業農家として就農することを決め、20アールの農地を借用して生産を開始した。また、当時はJAの担当者からハウス導入の補助事業の紹介などのサポートがあったことも就農を決める後押しになり、就農後も特定地域経営支援対策事業などの補助事業を活用してハウスを整備し、経営規模を拡大してきた(写真)。

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現在、栽培面積は離農した近隣の農家などから借用し40アール(すべて借地)まで拡大し、年間出荷量は51トンとなっている。労働力は、伊森氏夫妻、娘の3人で、収穫の繁忙期を含め従業員は雇用していない。

年間の作業スケジュールは、前述した作型のうち台風に対応したハウス栽培によるもので、7月中下旬に播種、8月20日頃に定植、10月下旬から6月中旬まで収穫を行っている(写真)。苗は自家生産とJAから購入したものを半分ずつ使用し、定植は収穫時期を分散させるため、10日おきに行い、1回当たりの植え付けは7~10アールとなっている。収穫の最盛期には、1日当たり500キログラムを出荷し、全量が共選出荷となっている。

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伊森氏によると、ピーマンの生産は土づくりが最も大切であり、生産部会でも推進している太陽熱消毒を毎年実施することで立枯病対策を徹底することや、土壌の表層部に木くずを散布することで土壌の保温保湿効果を高める取り組みなどきめ細かな栽培管理を行っている。

(2)生産部会の活動への参加

伊森氏は、生産部会の役員も務ており、積極的に各活動に参加している。また、自身が就農時に生産部会を通してさまざまな知識などを学ぶことができた経験から、これからも栽培に関する勉強会や会員同士の交流から得る知識・情報の共有など継続的に活動していきたいと語ってくれた。

加えて、これらの活動を支えてくれるJAは、販売会議などで生産者の意向も考慮しながら販路を確保してくれているため、生産者が栽培に集中できると感謝の思いを口にした。こうした生産者、生産部会、JAの連携がぐしちゃんピーマンの生産と普及の強い支えとなっている。

(3)今後の展望

伊森氏は、現在のところ家族労働だけでも十分に作業ができているため、従業員の雇用は考えていないとのことであった。また、現在の栽培面積は、自身が管理可能な最大規模であることから、これ以上の経営規模の拡大は難しいとしている。今後は、自身がよりおいしいピーマンを作ることはもちろんであるが、生産部会には若い世代の生産者も増えており、これまでの自身の経験や栽培技術を伝えることでぐしちゃんピーマンの普及にも積極的に取り組んでいきたいとしている。

6 おわりに

生産者の高齢化や担い手不足は品目によらず農業の共通課題となっているが、本稿で取り上げたぐしちゃんピーマンを栽培する生産部会では、若い世代を中心に生産者は増加傾向にある。

増加の背景には、栽培技術の講習やハウス導入の補助事業の紹介といった生産部会や関係機関によるサポートの充実、エコファーマーの取得推奨による安全・安心を訴求ポイントにした販売促進による出荷量の増加、契約取引による収入の安定化などが挙げられる。また、GI制度への登録やふるさと納税の返礼品として取り扱うなど、今後の販路拡大とともに魅力ある生産地域として生産者数も増加していくものと考えられ、さらなる生産拡大が期待される。

最後に、今回の取材にあたりご協力をいただいたJAおきなわ南部地区営農振興センター 伊森加奈恵様、野原銀次様、生産部会 役員 伊森正秀様にこの場を借りて御礼を申し上げます(写真)。

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引用・参考文献

1 JAおきなわ南部地区営農センター 野菜果実指導課 松堂学(2007)「沖縄県八重瀬町(ピーマン)沖縄の温暖な気候のもと大型ピーマン「ちぐさ」を生産しています」『野菜情報』2007年10月号 独立行政法人農畜産業振興機構

2 沖縄県「エコファーマー制度について」

https://www.pref.okinawa.jp/site/norin/eino/kankyo/ecofarmer.html〉(2020/07/30アクセス)

3 農林水産省「農林業センサス(2015)、同(2010)」



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