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調査・報告 (野菜情報 2020年9月号)


野菜価格安定制度と産地の取り組み(第5回) ~全国一の夏秋レタス産地 JA長野八ヶ岳の取り組み~

野菜業務部

1 はじめに

レタスの原産地は、地中海から西アジアといわれ、古代ギリシャやローマでは非結球タイプのレタスが食べられていたとされる。日本には、奈良時代に、葉を下の方からかき取って食べるものが中国から伝わり、「ちしゃ」と呼ばれていた。現在のような結球レタスが導入されたのは江戸時代末期で第二次大戦後、アメリカ進駐軍が食べていたシーザーサラダがきっかけとなり、本格的な栽培が始まった。

レタスの生育適温は15度前後と冷涼で乾燥した気候を好み、出荷時期によって春レタス(4月~5月)、夏秋レタス(6月~10月)、冬レタス(11月~翌3月)に区分される。春レタスは茨城県や兵庫県などの大都市近郊、夏秋レタスは長野県や群馬県の高冷地、冬レタスは静岡県や香川県などの比較的温暖な地域へと産地がバトンをつないでリレーすることで、周年供給体制が構築されている。

レタスは、野菜全体の消費が減少傾向にある中で、生食が可能で調理に手間がかからないことから、サラダやカット野菜として、家庭のみならずコンビニエンスストアやファストフード、レストランなどの中食・外食用の需要も多く、手軽に消費できる野菜として幅広い層から人気が高い野菜である。

今回は、レタスの需給動向、野菜指定産地の動向、全国一の夏秋レタスの指定産地である南佐久地区を管内に持つJA長野八ヶ岳の取り組みを紹介する。

2 レタスの需給動向

(1)レタスの作付面積・出荷量~作付面積減少の中で出荷量を維持~

平成2年産から18年産、30年産にかけてのレタスの需給動向をみると、作付面積は、2年産2万2400ヘクタール、18年産2万900ヘクタール平成2年比93%)、30年産2万1700ヘクタール(同97%)と、2年産から18年産にかけて7%減少したが、その後30年産にかけて4%増加しており、2万2000ヘクタール程度で推移している。種別にみると、春レタスは、2年産4660ヘクタール18年産4400ヘクタール(同94%)、30年産4390ヘクタール(同94%)、夏秋レタスは、2年産9280ヘクタール、18年産8590ヘクタール(同93%)、30年産9260ヘクタール(同100%)、冬レタスは、2年産8440ヘクタール、18年産7960ヘクタール(同94%)30年産8030ヘクタール同95%)となっており、2年産から18年産にかけてすべての種別で作付面積が減少したが、18年産から30年産にかけて夏秋レタスと冬レタスは作付面積が増加している(表1)。

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レタス全体の出荷量は、2年産47万6400トン、18年産51万600トン(平成2年産比107%)、30年産55万3200トン(同116%)となっており、作付面積が微減する中で増加している。種別に見ると春レタスは、2年産10万600トン、18年産10万7200トン同107%)、30年産11万3400トン同113%)、夏秋レタスは2年産22万900トン、18年産22万9800トン(同104%)、30年産26万7200トン(同121%)、冬レタスは、2年産15万4900トン18年産17万3600トン同112%)、30年産17万2700トン(同111%)となっており、どの種別も増加し、特に夏秋レタスが約2割増加している。30年産の種別の出荷割合は、夏秋レタス48%、冬レタス31%、春レタス20%となっており、夏秋レタスが全体の5割を占めている(表2)。

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30年産レタスの都道府県別作付面積と出荷量を見ると、レタス全体の作付面積上位5県は、長野県6160ヘクタール(全国シェア28%)、茨城県3710ヘクタール(同17%)、群馬県1330ヘクタール(同6%)、兵庫県1200ヘクタール(同6%)、福岡県1140ヘクタール(同5%)となっている。出荷量上位5県は、長野県20万2700トン(同37%)、茨城県8万6600トン(同16%)、群馬県4万3500トン(同8%)、長崎県3万500トン(同6%)、兵庫県2万7500トン(同5%)となっており、長野県と茨城県が2強で、群馬県、長崎県、兵庫県などが続いており、群馬県と長崎県が出荷量を伸ばしている。夏秋レタスは長野県18万3100トン(同69%)に、春レタスは茨城県4万300トン(同36%)に生産が集中している(表3、4)。東京都中央卸売市場のレタスの月別入荷実績をみると、4~5月の春レタスは、4月が茨城県、5月が長野県、6~10月の夏秋レタスは、6~9月が長野県、10月が茨城県、長野県、11月~翌3月の冬レタスは、茨城県、静岡県が多くなっており、季節、種別などですみ分けしながら産地がリレーして消費地に周年で安定供給していることがうかがえる(図1)。

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(2)レタスの輸入動向~台湾などから冬場に輸入が増加~

レタスの輸入は大半が生鮮品であり、生鮮結球レタスの輸入量は、平成20年の1824トンから30年は1万6840トンと9倍に増加している。30年に輸入が増加したのは、29年秋の台風および天候不順の影響により出荷量が大幅に減少し国内産の価格が高騰したためとみられる。国別輸入量の割合は、台湾産が約70%を占め、次いで米国産25%となっており、台湾産が圧倒的なシェアを占めている(図2)。

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生鮮結球レタスの月別輸入量をみると、冬場の12月~翌3月に増加している(図3)。これは、冬場は国産が天候の影響で不作の場合が多く、外食などの業務用として台湾などからの輸入が常態化しているためとみられる。30年の生鮮レタスの輸入価格(CIF価格)は1キログラム当たり134円で、国内価格(東京都中央卸売市場卸売価格1キログラム当たり187円)の7割程度となっている。30年の生鮮レタス非結球の輸入量は543トンで、主に米国から肉厚で歯ざわりのあるロメインレタスなどが業務用として輸入されている。

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(3)レタスの消費動向~サラダに欠かせない食材として年間購入量が増加~

生鮮野菜全体の1人当たり購入数量が減少する中で、レタスの1人当たり年間購入量は、平成2年1648グラム、18年1823グラム(平成2年比111%)、30年2108グラム(同128%)と増加している(表5)。1人当たり年間支出額も、2年794円、18年658円(平成2年比83%)、30年861円(同108%)と増加している(表6)。

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レタスには、骨の健康維持や止血効果があるビタミンKやナトリウムを体外に排出する作用があるカリウムのほか、風邪予防や疲労回復に効果的なビタミンBやビタミンCが含まれている。生食での消費が多く、調理に手間がかからないことから、サラダやカット野菜として、家庭のみならずコンビニエンスストアやファストフード、レストランなどの中食・外食用の需要も多く、比較的手軽に消費できる野菜として幅広い層から人気が高い野菜である(注1)

注1:詳しくは、農畜産業振興機構「野菜ブック」https://www.alic.go.jp/y-suishin/yajukyu01_000313.htmlを参照。

3 レタスの指定産地の動向

(1)指定産地は全国の作付面積・出荷量の約8割を占めるレタスの中核供給基地

レタスの指定産地の数は、平成2年産90地区、18年産74地区(平成2年産比82%)、29年産67地区(同74%)と減少している。他方、レタスの指定産地の作付面積は、2年産1万5445ヘクタール、18年産1万5990ヘクタール(同104%)、29年産1万6457ヘクタール(同107%)と、全国作付面積が微減する中で増加している。出荷量も、2年産36万2743トン、18年産42万693トン(同116%)、29年産43万1022トン(同119%)と約2割増加している。この間、指定産地の収穫農家1戸当たりの作付面積は、2年産0.43ヘクタール、18年産0.83ヘクタール(同193%)、29年産1.20ヘクタール(同279%)と2.8倍に拡大し、指定産地外と比べて4.3倍となった。これらのデータから各指定産地が経営規模の拡大により効率的な経営を展開し、全国の作付面積が減少する中で出荷量増を実現していることがうかがえる(表7)。

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レタスの指定産地の種別の作付面積上位5県の推移をみると、春レタスは、2年産は、茨城県1037ヘクタール(全国シェア41%)、長野県442ヘクタール(同18%)、兵庫県231ヘクタール(同9%)、香川県202ヘクタール(同8%)、栃木県137ヘクタール(同5%)、29年産は、茨城県1187ヘクタール(同44%)、長野県490ヘクタール(同18%)、兵庫県332ヘクタール同12%)、福岡県230ヘクタール(同8%)、香川県146ヘクタール(同5%)となっており、茨城県がさらにシェアを伸ばしている(表8)。

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夏秋レタスは、2年産は、長野県5617ヘクタール(同78%)、岩手県826ヘクタール(同12%)、群馬県331ヘクタール(同5%)、北海道126ヘクタール(同2%)、佐賀県96ヘクタール(同1%)、29年産は、長野県5543ヘクタール(同72%)、群馬県1001ヘクタール(同13%)、茨城県625ヘクタール(同8%)、岩手県360ヘクタール(同5%)、北海道96ヘクタール(同1%)となっており、南佐久地区を擁する長野県が全国の7割を超える圧倒的シェアを誇っている(表8)。

冬レタスは、2年産は、茨城県1242ヘクタール(同22%)、香川県1040ヘクタール(同18%)、静岡県819ヘクタール(14%)、兵庫県620ヘクタール(同11%)、千葉県403ヘクタール(同7%)、29年度は、茨城県1152ヘクタール(同19%)、兵庫県816ヘクタール(同14%)、静岡県796ヘクタール(同13%)、香川県714ヘクタール(同12%)、福岡県624ヘクタール(同10%)となっており、茨城県が第1位であるが、他の種別に比べて関東から九州まで主要産地が分散している(表8)。

レタスの指定産地の作付面積上位5県の合計は、春レタスは、2年産2049ヘクタール、18年産2437ヘクタール(平成2年比119%)、29年産2385ヘクタール(同116%)、夏秋レタスは、2年産6996ヘクタール、18年産7248ヘクタール(同104%)29年産7625ヘクタール同109%)、冬レタスは、2年産4124ヘクタール、18年産4042ヘクタール(同98%)、29年産4102ヘクタール(同99%)となっている。

レタスの全国作付面積が2年産から29年産に3%減少(表1)する中で、指定産地上位5県では7%増加しており、大規模な指定産地が効率的な経営を展開し全国シェアを増加させていることがうかがえる。また、上位2県および上位5県の全国作付面積シェアは、それぞれ春レタス62%、88%、夏秋レタス85%、99%、冬レタス33%、68%と、主産県に生産が集中している(表8)。

レタスの指定産地の全国シェアは、作付面積では、2年度69%、18年度77%、29年度75%、出荷量では、2年産76%、18年産82%、29年産79%で推移しており、指定産地は、作付面積及び出荷量の約8割を占めるレタスの中核供給基地となっている(表9)。

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(2)レタスの全国出荷量の約5割が野菜価格安定制度を活用

レタスの野菜価格安定制度の交付予約数量(制度加入数量)は、平成2年度22万2799トン、18年度26万6525トン(平成2年比120%)30年度26万6933トン(同120%)と2割増加している。種別には、春レタスが2年度3万1247トン、18年度4万4197トン(同141%)、30年度3万6968トン(同118%)、夏秋レタスが2年度9万2717トン、18年度11万160トン(同119%)、30年度12万4092トン(同134%)、冬レタスが2年度9万8835トン、18年度11万2168トン(同113%)30年度10万5873トン同107%)となっており、夏秋レタスの加入が増えている。

レタス全体の全国出荷量に対する交付予約数量の割合(制度加入率)は、2年度47%、18年度52%、30年度48%と5割程度で推移している。種別には、春レタスが2年度31%、18年度41%、30年度33%、夏秋レタスが2年度42%、18年度48%、30年度46%、冬レタスが2年度64%、18年度65%、30年度61%となっており、冬レタスの制度加入率が割と高くなっている。レタスの全国出荷量の約5割が野菜価格安定制度を活用しており、全国で67地区の指定産地が露地で栽培されるレタスの天候などによる価格変動リスクに対応しながら安定生産・安定出荷に取り組んでいることがうかがえる(表10)。

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(3)レタスの入荷量・価格の変動は縮小・安定化

レタスの価格動向を、東京都中央卸売市場月別販売単価を使って、昭和41年度~43年度の「制度創設期」、昭和62年度~平成元年度の「中間期」、平成28年度~30年度の「最近年」で比較する。春レタスの平均価格(1キログラム当たり)は、制度創設期68円(100%)、中間期219円(322%)、最近年149円(219%)、夏秋レタスは、制度創設期67円(100%)、中間期197円(294%)、最近年144円(215%)、冬レタスは、制度創設期113円(100%)、中間期255円(226%)、最近年242円(214%)となっており、いずれの種別も制度創設期から最近年にかけて2倍以上上昇しており、特に冬レタスの価格昇率が高く販売単価も高くなっている(表11)。

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次にレタスの三つの期間の入荷量の変化を東京都中央卸売市場月別入荷量の変動をみる。「変動係数」とは、「標準偏差÷平均」で求められ、バラツキや振れの大きさを示し、値が小さいほどバラツキが小さい。春レタスの月別入荷量の変動係数は、制度創設期0.24、中間期0.08、最近年0.05、夏秋レタスは、制度創設期0.25、中間期0.10、最近年0.13、冬レタスは、制度創設期0.35、中間期0.15、最近年0.22となっている。制度創設期は0.24~0.35の入荷量の変動がみられたが、中間期0.08~0.15、最近年0.05~0.22と低下している。

レタスの三つの期間の価格変化を東京都中央卸売市場月別販売価格の変動係数でみると、春レタスの月別価格の変動係数は、制度創設期0.32、中間期0.22、最近年0.16、夏秋レタスは、制度創設期0.29、中間期0.36、最近年0.28、冬レタスは、制度創設期0.28、中間期0.33、最近年0.22となっている。制度創設期は0.28~0.32の価格変動がみられたが、中間期0.22~0.36、最近年0.16~0.22と低下している。レタスは、露地で栽培されるため天候の影響を受けやすいという特性があるが、この間、指定産地が全国作付面積および出荷量の約8割を占めるようになり、野菜価格安定制度の加入率も全国出荷量の約5割に達しており、しっかりした指定産地が育成され安定生産・安定出荷が行われるようになったことが入荷量と価格の安定に寄与しているものと考えられる(表12)。

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(4)野菜価格安定制度の効果(制度加入農家と非加入農家の比較)

野菜価格安定制度による価格低落時の経済効果について、天候の影響を受けやすい露地で栽培される夏秋レタスの出荷量全国一の長野県の指定産地である南佐久地区の平均的な規模の農家を想定(同地区の平均作付面積3.5ヘクタール)し、制度に加入していた場合と加入していない場合の収益を試算し比較する。

レタス農家の平年収益(粗収入-農業経営費)を、作付面積3.5ヘクタール、出荷量(8月~10月)114トン、関東市場向け夏秋レタスの1キログラム当たり平均販売価格158.27円として試算すると362万円の黒字、つまり売上げから諸経費を差し引いた362万円が農家の手元に残ることになる。

同じ条件で梅雨の影響などで平均販売価格が3割下落し、1キログラム当たり110.8円(158.27円×0.7)となった場合、野菜価格安定制度に加入していれば、平均販売価格と保証基準額142.5円(平均販売価格158.27円×9割)と110.8円の差額の9割である325万円が生産者補給金として交付されるため農家収益は146万円の黒字となる。一方、野菜価格安定制度に加入していなかった場合の農家収益は179万円の赤字となる(表13)。

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長野県指定産地の夏秋レタスの生産は、1年1作で経営規模が大きく、2月下旬から数回に分けて種をまいて苗を定植し、6月~10月に集中的に収穫・出荷する。レタスのような露地野菜は特に天候により作柄が大きく左右され、実際に令和2年は暖冬の影響で年明けレタスの卸売価格が平年に比べ4割程度下落した。単純な試算であるが、平均販売価格が平年に比べ3割低下すると夏秋レタスの大規模農家の収益は180万円程度の赤字に転落し、経営への打撃のみならず次期作の確保にも影響を及ぼすことになる。これに対し、制度に加入していた場合は、平年と比べれば4割程度となるが、150万円程度の資金が手元に残り、農家経営の安定と次期作の確保が可能となる。

4 全国一の夏秋レタスの指定産地  「南佐久地区」の取り組み

(1)指定産地「南佐久地区」の生産・出荷動向 ~出荷量12万トン、平均経営規模3.4ヘクタールの夏秋レタスの大産地~

昭和44年に夏秋レタスの指定産地に指定された南佐久地区は、小海町、川上村、南牧村、南相木村および北相木村の1町4村からなり、夏秋レタスの作付面積3058ヘクタールを擁する全国一の夏秋レタスの指定産地である(表14)。

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南佐久地区の夏秋レタスの作付面積は、全国の作付面積が約9200ヘクタールと現状維持の中で、平成2年度2404ヘクタール、18年度2597ヘクタール(2年度比108%)、29年度3058ヘクタール(同127%)と27%増加している。出荷量も、2年度7万9604トン、18年度8万6629トン(2年度比109%)、29年度11万9997トン(同151%)と51%増加している。この結果、南佐久地区は、全国の夏秋レタスの出荷量の約5割を占める全国一の産地となっている(表14)。

南佐久地区の夏秋レタスの収穫農家数は、全国の収穫農家数が減少する中で、2年度1632戸、18年度871戸(同53%)、29年度888戸(同54%)と大幅に減少したが、18年度から29年度にかけては若干増加している。収穫農家1戸当たりの作付面積は、2年度1.47ヘクタール、18年度2.98ヘクタール(同203%)、29年度3.44ヘクタール(同234%)と2.3倍に拡大し、全国のレタス農家の平均作付面積の約12倍となるなど、南佐久地区は、農家数が減少する中で積極的に経営規模の拡大や集約化などを進め、出荷量を大幅に増加させてきたことがうかがえる(表15)。

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(2)JA長野八ヶ岳のレタス戦略~徹底した安全・安心、品質保持の取り組み、全ての生産者が野菜価格安定制度を利用~

長野八ヶ岳農業協同組合(以下、「JA長野八ヶ岳」という)は、平成13年に当時JA小海、JA長野川上、JA南牧、JA南相木村、JA野辺山開拓が合併し発足した。組合員数は約3900人、管轄地域は小海町、川上村、南牧村、南相木村、北相木村の1町4村で構成され、標高850~1500メートルの高低差と内陸性気候などの自然条件を生かし、レタス、キャベツ、はくさいなどの高原野菜を生産している。昭和10年の小海線の開通で作物を遠方に出荷できるようになり、昭和35年頃からレタス、キャベツなどの高原野菜が導入され、今では高原野菜の一大産地に発展している。

レタスは、露地で栽培されるため天候の影響を受けやすく、天候次第で価格が大きく変動し、1年1作の農家経営に大きな打撃を与えるため、農家にとって価格安定と経営安定が非常に重要である。このため、JA長野八ヶ岳管内では、レタスについては、全ての生産者が野菜価格安定制度を活用しながら(注2)、生産・流通から販売に至るさまざまな取り組みを行うことにより、市場ニーズに合わせた信頼と競争力のある産地づくりを推進している。

注2:野菜価格安定制度の加入率は全国平均で約5割である。

ア 生産面での取り組み

生産面では、全国に先駆けて、全面マルチ栽培を行っていることが大きな特徴である。また、根腐れ病対策として、抵抗性品種の導入、輪作、土づくり対応を進めている。これらの取り組みが、レタスの品質の安定につながっている。

イ 高原野菜「太陽に一番近い野菜たち」のブランド化

JA長野八ヶ岳では、年間約580万ケース(1ケース10キログラム相当)、約5万8000トンのレタスを全国に出荷し、JA長野八ヶ岳の夏秋レタスは全国出荷量の2割強を占めるが、標高850~1500メートルで生産される高原野菜という特徴を生かし、「太陽に一番近い野菜たち」として高原野菜のブランド化を進め、安全・安心や品質保持の取り組みを強化している(写真1)。

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ウ 安全・安心の取り組み

JA長野八ヶ岳では、安全・安心の取り組みとして、防除日誌の記帳コンピューターシステムを使った栽培履歴管理③外部検査機関による残留農薬検査―を行っている。特に防除日誌の記帳では、JAが野菜ごとに防除基準を設定し、それらの基準に基づき生産者へ指導を行うとともに、生産者が記帳した防除日誌をJAがチェックするなど、JAが中心的役割を果たしている。また、JGAPレタス部会を立ち上げ、平成30年8月にJGAP(注3)を取得した。

注3:JGAPとはJapan Good Agricultural Practiceの略で、農作物の安全、環境保全、労働安全などの確保のための農場管理の手法。

エ 農業労働力確保の取り組み

JA長野八ヶ岳では、生産現場の人手不足に対応し、令和元年度に設置されたJA長野県農業労働力支援センターと連携し、農業労働力確保に積極的に取り組んでいる。管内5町村にはベトナム、フィリピンなどの外国人技能実習生約850人が収穫作業などに従事している。今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により外国人技能実習生の一部が入国できなくなったため、JA、生産者、技能実習生の監理団体などが連携し、COVID-19の影響で仕事を失った別の職種の技能実習生や他業種の人材、海外農業研修が延期された学生などを雇用し切り抜けたが、COVID-19の先行が見えない中で、来季以降の労働力確保が重要な課題となっている。

オ 品質保持流通の取り組み

JA長野八ヶ岳では、流通過程での鮮度・品質低下をできる限り抑えられるように、着荷状況調査を定期的に行うほか、真空予冷施設と低温輸送車を導入することにより収穫から市場出荷までのコールドチェーンを構築し、品質保持流通に取り組んでいる。収穫は、まだ気温が上がらない深夜1~2時ごろから行い、夜の間にレタスが蓄えたミネラルや糖分を出来るだけ逃がさないようにしている(写真2)。

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収穫後は、予冷施設がある集荷場に運ばれるが、JA長野八ヶ岳が導入している真空予冷施設は、品温が下がるまでに時間がかかる通常の予冷庫と異なり、20分程度で5まで冷却できる。これを全集荷場に整備することで集荷から輸送までの劣化を最小限にしている。また、冷蔵機能を有した低温輸送車は、時間の経過とともに庫内の温度が上昇する通常の保冷車とは異なり、温度を一定に保つことができるため、輸送中の劣化を防止できる(写真3、4)。

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カ 最適な品種の選定

品種については、作柄に大きく影響するため、毎年何回も栽培試験を重ね、有望品種を選定し、しゅ期に応じていくつもの品種を使い分けている。主な品種は、ルシナ66、ファンファーレ、エスコートなどである。

キ 契約取引による販売形態の多様化

加工・業務用需要の増大などの市場環境の変化に対応するため、あくまでも市場出荷が中心だが、卸売市場を経由した量販店、外食、加工業務などとの契約取引による顧客の見える販売と販売形態の多様化を推進しており、加工・業務用向けレタスはJA長野八ヶ岳の出荷量の約4割を占めるようになっている。

ク 食育活動

JA長野八ヶ岳では食育活動にも力を入れており、県外の小学生が産地に来て、種まきから定稙作業までを体験してもらい(写真5)、収穫したものをその小学生に都内のスーパーで売り子として販売体験をしてもらうなどの取り組みを行っている(写真6)。

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ケ 意欲ある若い生産者の割合が高い

JA長野八ヶ岳管内の生産者は他地区に比べて後継者が多く生産基盤が盤石で、生産意欲も高くなっている。これは予約相対取引の推進と拡大を進め、安定収入が確保された結果、若い生産者の就農意欲にも繋がっていることから、49歳以下の若い生産者の比率が全国平均の2.6倍の37%と若い生産者の割合が高くなっている(表16)。

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(3)まとめ

JA長野八ヶ岳は、昭和44年に南佐久地区の夏秋レタスの指定産地の指定を受けた。以来半世紀にわたり、野菜価格安定制度を活用しながら、高原地帯冷涼な気候をかし、「太陽に一番近い野菜たち」のブランド化、最適な品種選定、防除日誌の記帳や栽培履歴管理による安全・安心の確保、真空予冷施設や低温輸送車の導入による品質保持流通などの取り組みを積極的に推進し、全国の夏秋レタス出荷量の約5割を担う全国一の夏秋レタスの産地を作り上げた。後継者も育ち意欲のある若い生産者の割合が高い。

他方で、露地で栽培される夏秋レタスの生産は、1年1作で天候の影響を受けやすく、価格下落は農家経営に甚大な影響を与えるため、JA長野八ヶ岳では、夏秋レタスの全ての生産者が野菜価格安定制度を活用している。高齢化・人手不足、人件費・輸送費などのコスト増などの課題がある中で、野菜価格安定制度でレタス生産の価格変動リスクに対応しながら、契約取引による販売方法の多様化、労働力確保などに積極的に取り組み、将来にわたる市場ニーズに応える信頼と競争力のある産地づくりを推進している。

本稿の作成に当たり、情報提供をいただいたJA長野八ヶ岳、全農長野県本部の皆様に深く感謝申し上げる。



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