[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

調査・報告 (野菜情報 2020年7月号)


野菜価格安定制度と産地の取り組み(第3回)~野菜の生産・流通・消費および指定産地の動向~

野菜業務部

1 はじめに

野菜は、ビタミン、ミネラル、食物繊維などを含んでおり、健康な生活を送る上で欠かせない生活必需品であるが、貯蔵性が低く、天候などにより豊作・不作の差が大きいことから、価格が乱高下しやすい傾向がある。このため、野菜価格安定制度により野菜農家の経営安定を通じて次期作を確保し野菜の価格安定を図っているが、制度創設時と現在では、野菜の生産・流通・消費の動向は大きく変化している。

野菜価格安定制度の中核的な役割を担うのが全国893地区の「野菜指定産地」である。野菜指定産地は、毎年、種別・出荷期間ごとに供給計画を策定し、消費地に指定野菜を計画的安定的に供給しているが、それでも天候などにより価格の著しい変動があった場合は、生産者補給金により農家の経営安定を通じて次期作の確保を図るとともに、出荷の前倒し、出荷の後送り、加工用販売、フードバンクへの提供、一時保管などの緊急需給調整を実施している。

今回は、指定野菜の生産・流通・消費の動向の変化と野菜指定産地の動向について、平成2年産、18年産、30年産の3年度を比較することにより紹介する。

2 指定野菜の需給動向

(1 指定野菜の作付面積・出荷量
~作付面積・出荷量ともに減少~

指定野菜とは、全国的に流通し国民消費生活上重要な野菜でキャベツ、だいこん、レタスなど14品目が指定されている。平成2年産から18年産、30年産にかけての指定野菜(キャベツ、だいこん、レタスなど14品目)の需給動向をみると、作付面積は、2年産45万ヘクタール、18年産34万ヘクタール(平成2年比75%)、30年産31万ヘクタール(同69%)となっており、30年産は2年産に比べ3割減少している。この間、野菜全体(41品目)の作付面積は、2年産65万ヘクタール、18年産51万ヘクタール(平成2年比78%)、30年産46万ヘクタール(同72%)で推移しており、指定野菜の作付面積は野菜全体の約7割を占めている(表1)。

046a

出荷量も、2年産1166万トン、18年産966万トン(平成2年比83%)、30年産929万トン(同80%)と、30年産は2年産に比べ2割減少しているが、作付面積の減少に比べると出荷量の減少は小さくなっており、作付面積の減少を経営規模の拡大や単収増などでカバーしていることがうかがえる。品目別にみると、品目により傾向が異なっており、さといも(30年/2年比51%)は出荷量が大幅に減少しているのに対し、レタス(同116%)、キャベツ(同101%)、トマト(同100%)は出荷量が増加または維持している。作付面積の減少の中で、各産地が消費者ニーズなどに応じて品目選択を行い経営規模の拡大、施設化・機械化などを進めながら出荷量を維持・拡大してきたことがうかがえる。この間、野菜全体の出荷量は、2年産1432万トン、18年産1175万トン(平成2年比82%)、30年産1120万トン(同78%)で推移しており、指定野菜の出荷量は野菜全体の約8割を占めている(表2)。

046b

(2 指定野菜の消費動向 
~購入量は減少、支出額は微増、品目で違い~

指定野菜の1人当たり年間購入量は、平成2年4万1789グラム、18年3万7670グラム(平成2年比90%)、30年3万7561グラム(同90%)となっており、2年から18年に10%減少したが、その後は横ばいで推移している。この間、生鮮野菜の購入量は、2年5万8284グラム、18年5万4840グラム(94%30年5万5470グラム(同95%)で推移しており、指定野菜の購入量は生鮮野菜全体の約7割を占めている(表3)。

047a

品目別にみると、購入量全体が減少する中で、30年が2年に比べ10%以上増加している品目は、ピーマン(30年/2年比138%)、レタス(同128%)、トマト(同112%)、たまねぎ(同112%)の4品目で、逆に30%以上減少している品目は、さといも(同46%)、ほうれんそう(同56%)、だいこん(同69%)の3品目となっている。購入量が増加している品目は、調理に手間がかからず、和食以外にもいろいろな調理に利用されるなど使用用途が広いという特徴があり、減少している品目は、あく抜きなど調理に手間がかることや、漬物や煮物といった比較的伝統的な調理に利用されることが多いという特徴がある。

1人当たり年間支出額も、2年1万2822円、18年1893円(平成2年比85%)、30年13231円(同103%)となっており、物価変動を考慮する必要があるが、2年から18年にかけて15%減少した後増加に転じ、30年は2年に比べ3%増加している。この間、生鮮野菜の支出額は、2年2万2501円、18年2万235円(同90%)、30年2万4257円(同108%)で推移しており、指定野菜の支出額は生鮮野菜全体の5~6割を占めている(表4)。

048a

平成30年国民健康・栄養調査結果によると、平成30年の野菜摂取量の平均は281.4グラム(男性290.9グラム、女性273.3グラム)であり、野菜の摂取目標量350グラム(厚生労働省「健康日本21(第二次)」の目標」)を下回っており、野菜の一層の消費拡大が望まれる。

(3)野菜の輸入動向

年間の野菜供給量は、約1500万トンでこのうち国内生産量が約1200万トン(約8割)、輸入量が約300万トン(約2割)である(図1)。食の外部化などを背景に加工・業務用野菜の需要が増えており、野菜需要全体の約6割を占めている。家庭消費用野菜のほとんどは国産であるが、加工・業務用の国産比率は7割程度となっている。主な輸入先国は、中国、米国、ニュージーランド、主な輸入品目は、たまねぎ、にんじん、かぼちゃ、ねぎ、ごぼうであるが、かぼちゃ(ニュージーランド、メキシコなど)以外の品目は中国からの輸入が非常に多い(表5)。

049a

049b

指定野菜を含む野菜全体の輸入量は、平成2年109.2万トン、18年278.7万トン(平成2年比255%)、30年292.8万トン(同268%と2.7倍に増加している(表6)。類別では、生鮮野菜が2年26.1万トン、18年95.6万トン平成2年比366%)、30年98.3万トン(同377%)と約4倍に増加、冷凍野菜が2年34.5万トン、18年85.7万トン(同248%)、30年107.5万トン(同312%)と約3倍に増加する一方で、塩蔵等野菜は2年19.7万トン、18年15.8万トン(同80%)、30年8.6万トン(同44%)と5割以上減少している。冷蔵・冷凍技術の進化や消費者ニーズの変化などに応じて、輸入が塩蔵野菜から生鮮野菜などにシフトしたことがうかがえる。

049c

輸入量が多い野菜を品目別にみると、生鮮野菜では、2年はかぼちゃが最も多く、たまねぎは2番目に多い品目だったが、18年、30年ともたまねぎが最も多く、シェアも全体の約3割を占めるなど、加工・業務用需要の伸びと相まってたまねぎの輸入が大きく増加した(表7)。主な輸入先国は、たまねぎは中国(30年輸入量シェア92%)、かぼちゃはニュージーランド(52%)、メキシコ(42%)である。中国からのたまねぎは、皮付きのほか、現地の加工場でむきたまねぎ、上下芯取りたまねぎなどに加工して日本に輸出されており、主に外食などの加工・業務用に供給されている。冷凍野菜では、各年ともばれいしょが最も多く、いずれも全体の約4割を占めるなど、フライドポテトなどの加工用に使用されるばれいしょが安定して輸入されている。主な輸入先国は、米国(71%)、オランダ(9%)、ベルギー(8%)である。

050a

3 野菜指定産地の動向

(1 指定産地は作付面積の5割、出荷量の7割を占める野菜中核供給基地

指定産地数は、平成2年産1187産地、18年産988産地(平成2年比83%)、30年産893産地(同75%)と減少している。

作付面積は、2年産14.8ヘクタール1817万ヘクタール(平成2年比115%)、30年産16.9万ヘクタール(同114%)となっており、指定野菜の全国作付面積が3割減少している中で、30産の指定産地の作付面積は2年産に比べ14%増加している。品目別には、ばれいしょ、レタス、ねぎ、トマトの作付面積が増加する一方、だいこん、秋冬さといも、はくさい、きゅうり、なすは減少している(表8)。

051a

出荷量は、2年産518トン、18643.2トン(平成2年比124%)、30年産636.9万トン(同123%)となっており、指定野菜全体の出荷量が2割減少している中で、30年産の指定産地の出荷量は2年産に比べに23%増加している。品目別には、にんじん、ばれいしょ、キャベツ、レタス、ねぎ、トマト、ピーマンの出荷量が増加する一方、だいこん、秋冬さといも、はくさい、ほうれんそう、たまねぎ、きゅうり、なすは減少している。

指定産地の収穫農家1戸当たりの作付面積をみると、平成2年度0.35ヘクタール18年度0.83ヘクタール(平成2年比237%)、29年度1.15ヘクタール(同329%)と3.3倍に拡大しており、指定産地外(29年度0.16ヘクタール)の約7倍となっている。経営規模の拡大が大きく進んだ品目は、ばれいしょ(29年度/2年度比705%)、だいこん(同505%)、たまねぎ(456%)、にんじん(407%)、ほうれんそう(388%)などである。全国の指定野菜の作付面積が減少する中で、指定産地が経営規模の拡大や集約化などを積極的に進めてきたことがうかがえる(表9、10)。

052a

052b

指定産地の全国シェアは、作付面積では平成2年産33%、18年産50%、30年産54%、出荷量では2年産44%、1867%、3069%と着実に増加しており、指定産地は、全国作付面積の約5割、出荷量の約7割を占める指定野菜の中核供給基地となっている(表8)。

(2 指定野菜の全国出荷量の3割で野菜価格安定制度が活用

指定野菜の野菜価格安定制度の交付予約数量(制度加入数量)は、平成2年度249.7トン18年度274.5トン平成2年比110%)、30年度282.1トン(同113%)と着実に増加しており、品目別にはトマト30度/2年度比178%)ばれいしょ(160)、にんじん(同158%)、たまねぎ(同141%)、ねぎ(同140%)が大きく増加している。

指定野菜の全国出荷量に対する交付予約数量の割合(制度加入率)は、平成2年度21%、18年度28%、30年度30%と着実に増加している。30年度の制度加入率が高い品目は、たまねぎ55%、レタス48%、にんじん46、ピーマン44%、キャベツ38%などであるが、これらの品目は、過去に価格が大きく下落し、生産者から制度の活用がセーフティネット対策として有効と認識されたことも要因の一つになっていると考えられる(表11

053a

指定野菜の全国出荷量の3割で野菜価格安定制度が活用されており、指定産地が天候などによる価格変動リスクに対応しながら安定生産・安定出荷に取り組んでいることがうかがえる。なお、野菜制度の加入者は、指定産地で指定野菜を生産・出荷する登録出荷団体と登録生産者であるが、30年度末の登録出荷団体は53、登録生産者は108となっている。

(3 指定野菜の入荷量・価格の変動は縮小

指定野菜の価格動向を、東京都中央卸売市場の月別販売価格を使って、昭和41年度~43年度の「制度創設期」、昭和62年度~平成元年度の「中間期」、平成28年度~30年度の「最近年」で比較すると、平均卸売価格(キログラム当たり)は、制度創設期40円(100%)、中間期145円(363%)、最近年184円(460%)となっており、物価変動を考慮する必要があるが、制度創設期から中間期にかけて3.6倍、最近年にかけて4.6倍に上昇している。品目別には、ほうれんそう(最近年/制度創設期比897%)、ねぎ(同714%)、だいこん(同572%)、ばれいしょ(同500%)などの価格が大きく上昇している(表12)。

054a

次に、東京都中央卸売市場の月別入荷量の変動係数を使って、指定野菜の三つの期間の入荷量の変動をみる。「変動係数」とは、「標準偏差」÷「平均」で求められ、平均値が異なる集団のバラツキや振れの大きさを比較するための値であり、値が小さいほどバラツキが小さい。指定野菜の月別入荷量の変動係数(平均)は、制度創設期0.14(品目別0.171.16)、中間0.070.090.60)、最近年0.080.130.69)となっており、制度創設期から中間期にかけて2分の1に低下し、最近年までその水準を維持している。品目ごとの変動も低下している(表13)。

055a

また、東京都中央卸売市場の月別卸売価格の変動係数を用いて、3つの期間の価格変化をみると、指定野菜の月別価格の変動係数(平均)は、制度創設期0.25(品目別0.300.68)、中間期0.140.180.46)、最近年0.140.150.49)となっており、制度創設期から中間期にかけて2分の1程度低下し、以後その水準を維持している。この間、指定産地の指定野菜の全国作付面積シェアは5割、出荷量シェアは7割まで増加するとともに、野菜価格安定制度の加入率も全国出荷量の3割に増加しており、しっかりした指定産地が育成され安定生産・安定出荷が行われるようになったことが入荷量・価格の安定に寄与しているものと考えられる(表14)。

055b

4 野菜価格安定制度の加入状

機構は、令和元年度に登録出荷団体などの協力を得て野菜価格安定制度の加入状況調査を行った。野菜価格安定制度への加入戸数は、全国で約17万戸(延べ。以下同じ。)、このうち指定野菜事業で約11万戸、特定野菜等事業で約6万戸であった(参考:平成27年野菜販売農家数37万戸)。

都道府県別の上位5県は、全体では、長野県1932戸)、青森県(197戸)、兵庫県9755戸)福島県(9332)、北海道(8659戸)、指定野菜事業では、兵庫県(9174戸)、千葉県(7663戸)、北海道(7598戸)、長野県(6747戸)、群馬県(5828戸)、特定野菜事業では、青森県(5171戸)、福島県(4937戸)、長野県(4185戸)、香川県(3122鹿児島県(2896戸)となっている。青森県が特定野菜事業第1位、兵庫県が指定野菜事業第1位、長野県が両事業とも上位5位以内に入っている(表15)。

057a

品目別の上位5品目は、指定野菜事業では、きゅうり(13665戸)、キャベツ12360戸)、トマト11820戸)、レタス11131戸)、たまねぎ(1935戸)、特定野菜事業では、ブロッコリー(9335戸)、アスパラガス(6371戸)、やまのいも(2805戸)、スイートコーン(2709戸)、にんにく(2622戸)となっている。指定野菜事業で最も加入農家数が多いきゅうりの上位3県は、福島県、宮崎県、群馬県、特定野菜事業で最も加入農家数が多いブロッコリーの上位3県は、香川県、徳島県、長野県となっている(表16、17)。

058a

059a

全国の野菜主産地の約17万戸の農家が野菜価格安定制度に加入しており、天候などによる作柄・価格変動リスクに対応しながら、産地づくりと消費地への野菜の安定供給に取り組んでいることがうかがえる。

5 おわりに

野菜価格安定制度創設以来約半世紀が経過し、指定野菜の全国作付面積・出荷量が減少する中で、指定産地は、野菜価格安定制度で天候などによる価格変動リスクに対応しながら、全国作付面積の約5割、出荷量の約7割を占める指定野菜の中核供給基地として、消費地への安定供給と野菜の価格安定を支えている。全国の約17万戸(延べ)の野菜農家が制度に加入し、指定野菜の全国出荷量の3割が制度を活用しており、高齢化・人口減、人手不足、輸送費などのコスト増などのさまざまな課題がある中で、野菜価格安定制度は、野菜農家の経営安定と野菜の価格安定に重要な役割を果たしている。



元のページへ戻る


このページのトップへ