野菜業務部
令和元年度は、暖冬の影響で野菜の生育が良好で、キャベツ、レタス、だいこん、はくさい、ばれいしょなどの価格が平年に比べ30~40%程度安値で推移した。価格が安ければ消費者は助かるが、野菜農家は収入が落ちこむ。野菜は日々の生活に欠かせない生活必需品だが、貯蔵性が低いうえ、豊作・不作による供給量の変動が大きい。また、作付品目の転換が容易なため、価格の大幅な低落により次期作で別の品目に転換されると、豊作による価格低落→作付減少→価格高騰という循環で価格が乱高下してしまうという特徴がある。そのような背景から野菜価格安定制度は、野菜の価格低落時に生産者、県、国が積み立てた資金をもとに生産者補給金を交付し、野菜農家の経営安定および野菜の価格安定を図る目的で創設された。
同制度は、昭和41年の制度創設から半世紀が経過し、この間、産地、生産者団体、消費者などの懸命な取り組みにより、野菜指定産地の育成と野菜農家の経営安定を通じて消費地への野菜の安定供給と価格安定の役割を果たしてきた。
この半世紀の野菜の生産・流通・消費の変化、野菜指定産地の発展と取り組み、同制度が果たしてきた役割などを数回に分けてご紹介する。
昭和30年代後半、高度経済成長に伴い野菜の消費が伸びる中、都市化による都市近郊野菜産地の減少により供給力が低下したことから、野菜の価格変動が大きくなり、社会問題になった。道府県がたまねぎ、キャベツ、きゅうり、トマトなどの品目で野菜価格安定事業を実施する中で、農林省の「野菜対策研究会」の検討を経て、昭和41年7月の野菜生産出荷安定法の制定により「野菜価格安定制度」が創設された。その後、昭和46年の都道府県法人が実施する特定野菜価格安定制度の創設、平成14年の契約野菜安定供給制度の創設など、いくつかの改正を経て現在に至っているが、この半世紀、野菜価格安定制度の基本的な役割や機能は変わっていない。
野菜価格安定制度は、
① 消費地への安定供給を担う野菜指定産地の育成
② 生産者補給金による野菜農家の経営安定を通じた次期作の確保
③ 野菜指定産地による計画生産・安定供給・価格安定の確保
の三つの役割があり、これらを通じて、消費地への野菜の安定供給を確保し、価格の安定を支えている。
(1)野菜生産の中核となる野菜指定産地
全国的に流通し、特に消費量が多く重要な野菜14品目を「指定野菜」と定めている(表1)。また、指定野菜を安定供給する集団産地は「野菜指定産地」に指定されている。
指定野菜価格安定対策事業は、生産者、県、国が積み立てた資金をもとに、販売した指定野菜の市場価格が過去6年の平均価格の90%を下回った場合、その差額の9割を生産者補給金として野菜農家に交付する仕組みであり、資金造成割合は国60%、県20%、生産者20%となっている(図1)。天候不順などにより安値になった場合でも、生産者補給金の交付により野菜農家の経営安定を図り、次期作を確保することにより野菜の安定供給につながっている。
野菜価格安定制度の中核的な役割を担うのが野菜指定産地である。昭和30年代後半の野菜農家は総じて零細で、また、その多くが個別に出荷を行っていたため消費地に計画的、安定的に出荷することが難しかった。そのため、一定規模以上のまとまったロットで安定出荷できる野菜集団産地の育成が課題となっていた。
野菜指定産地数は、制度が創設された昭和41年度の310産地から増加し、昭和60年度の1236産地をピークに減少又は横ばいで推移し、令和元年度現在では892産地となっている(図2)。群馬県嬬恋村(キャベツ)、長野県川上村(レタス)、熊本県八代市(トマト)、北海道網走地区(たまねぎ)などが野菜の産地として有名だが、野菜指定産地では、指定野菜14品目の全国出荷量の約7割を供給し、全国の作付面積の約5割を占めるなど野菜供給の中核基地になっている。また、野菜指定産地の収穫農家1戸当たりの経営規模(1.1ヘクタール)は、指定産地外(0.16ヘクタール)の約7倍と効率的な経営を行っている(表2)。北海道から沖縄県に至る892の野菜指定産地が、季節ごとにバトンをつなぎながら全国の消費地に年間を通じて野菜を安定供給している。キャベツを例にみると、4~6月の春キャベツは千葉県、神奈川県、7~10月の夏秋キャベツは群馬県、長野県、北海道、岩手県、11~翌3月の冬キャベツは愛知県、神奈川県、千葉県というように全国の産地からのリレー出荷により年間を通じた安定供給を目指している(図3)。
(2)生産者補給交付金の交付状況
平成20年度から令和元年度の指定野菜事業の生産者補給金の交付額の推移を表3に示した。この12年間の平均交付額は109億円、最も多かったのは、24年度で159億円、次いで30年度の157億円となっている。30年度は、4月以降に温暖な気候が続き、夏場に台風・大雨による被害があったものの、11月以降は、気温が高く、日照時間も長かったことから生育が良く野菜価格は平年を下回って推移した。令和元年度は、暖冬で野菜の価格が大幅に低下しているため、さらに交付額が増える見込みである。生産者補給金により野菜農家の経営安定を図り、安定生産・安定出荷が確保されるように取り組んでいる。
(3)計画生産・安定供給・価格安定の確保
野菜指定産地では、毎年、野菜の種別・出荷期間ごとに国の需給ガイドラインに即して販売実績や見通しをもとに「生産・供給計画」を策定し、安定生産・安定出荷に取り組んでいる。
しかし、こうした取り組みを行っていても天候不順などにより主要露地野菜(キャベツ、たまねぎ、だいこん、はくさい、レタス、にんじん)の価格が大幅に高騰又は低下することがある。その場合、国、産地、機構などが連携し、「緊急需給調整事業」を実施し、生活必需品である野菜の価格安定を図っている(表4)。
この事業は価格高騰時と低落時の2パターンがあり、価格高騰時には早取りによる出荷の前倒し、国・県の要請による計画出荷などを実施し(図4)、価格低落時には供給過剰となった野菜の出荷先送り、加工用販売、フードバンクへの提供、冷蔵施設への一時保管、土壌還元を実施する(図5)。
暖冬による大幅な価格低下となった本年3月には、緊急需給調整事業による有効利用用途への活用として、千葉産の冬キャベツ約5トンをフードバンクへ提供した。
また、都道府県法人では「特定野菜価格安定制度」を実施しており、国民消費生活や地域農業振興において指定野菜に準じて重要な野菜としてアスパラガス、ブロッコリーなど35品目を「特定野菜」として指定している(表1)。この事業では、都道府県法人が生産者、県、国が積み立てた資金を原資に、特定野菜の市場価格が過去6年の平均価格の80%を下回った場合にその差額の8割を生産者補給金として野菜農家に交付している。資金造成割合は生産者:県:国=1:1:1となっている。
野菜価格安定制度は、全国の野菜指定産地が季節ごとにバトンをつないで消費地に日々の生活に欠かせない野菜の安定供給と価格安定を支え、消費者にも生産者にも欠かせない重要な役割を担っている。
次回は、トマトの指定産地の動向と全国一のトマト産地である熊本県八代地域の取り組みを紹介する。
野菜価格安定制度の詳細については、
「野菜価格安定・振興事業のご案内」https://www.alic.go.jp/content/001175833.pdfをご覧ください。