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調査・報告 (野菜情報 2020年5月号)


茨城県における加工・業務用野菜の動向~JA水戸・加工キャベツ部会の取り組みを中心に~

千葉大学大学院 園芸学研究科
教授 櫻井 清一
博士前期課程 胡 暁丹こぎょうたん

【要約】

 茨城県では、早くから産地レベルで加工・業務用野菜の生産・出荷強化の取り組みを進めてきた。中でも農協組織が加工・業務用の出荷を前提とした出荷者の組織化と実需者とのコーディネート、技術指導に取り組んでいる。実需者との取引交渉の場では、価格の全国的な平準化傾向もみられるが、価格と収益性の双方を安定させ、継続的に取引先を確保する機会ととらえ、努力が積み重ねられている。また、加工・業務用野菜に取り組む農家の属性が多様化しているため、農協には組合員の多様性を踏まえた出荷コーディネートと技術支援が期待されている。

1 はじめに

食の外部化の進行に伴い、消費者は生鮮野菜を購入して自ら調理し食するだけでなく、すでにカット、加工、ないしは調理された野菜を購入し食することが常態化している。野菜産地は、こうした食の外部化に対応するため、これまでの主流であった卸売市場向け共同出荷だけでなく、加工・業務用(注1)への対応または量販店などの小売業向けの直接販売を強化することが求められている。

今回取り上げる茨城県は、野菜産出額が1708億円となっており、全国第2位(注2)を誇る園芸県である。また大消費地である東京圏に隣接し、食品製造業者や量販店との物理的距離も近いという立地特性を有する。そのため、全国的にみても早くから加工・業務用ないし直接販売に積極的に取り組んできた地域である。

意欲的な農業経営体が個別に取り組んだ例もあれば、農協が主導した例、さらには産地商人・民間企業が組織化した例など、さまざまな事例があるが、今回は農協が核となって取り組んでいる加工・業務用野菜の出荷をめぐる新たな動きに着目する。農協による加工・業務用野菜の取り組みでは、県レベルの組織である全国農業協同組合連合会茨城県本部(以下「全農いばらき」という)が主導する取り組みと単協レベルで進める取り組がある。今回は単協レベルで古くから取り組んでいるケースとして、県中央部に立地する水戸農業協同組合(以下「JA水戸」という)管内の加工・業務用キャベツの産地化のプロセスを紹介しながら、加工・業務用野菜の産地化・出荷強化に資するポイントを抽出することにする。また、後半では、部会員農家を対象にしたアンケート調査の集計結果も参照し加工・業務用野菜に取り組む経営体の特性についても言及する。

 

注1:加工・業務用とは、主に食品製造業者および外食産業向けの原料野菜の出荷を指す。

注2:生産農業所得統計2018年

2 JA水戸の加工キャベツ部会の取り組み

JA水戸は水戸市、茨城町、城里町(常北地区、かつら地区)、大洗町の町を管轄し、2018年度の正組合員数は万1704戸、販売事業取扱高は74億2000万円となっている(図1)。販売事業取扱額のうち47%にあたる35億1000万円を野菜部門が占めており、なかでもメロン、加工向けばれいしょ、いちご、みずななどが主力品目となっている。

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加工キャベツ部会の部会長である平澤協一氏は、長きにわたり加工用ばれいしょの契約生産に取り組んできた。しかし、実需者側からの品質に対する要求が高まり、高価格で取引される「正品」率が低下するとともに、収益率も期待できなくなりつつあった。一方で、食の外部化や個食志向の高まりとともに、カット野菜向けキャベツへのニーズは年々、高まっていたことから、平澤氏は2003年から加工向けキャベツ生産に着手した。2006年には県内に立地するカット野菜製造業者・A社との契約栽培をスタートさせるとともに、生産者計3戸による継続的な出荷体制を整えた。同時に、実需者との交渉、契約および物流は生産者が担い、商流(代金決済)その他のサポートはJA水戸で行うという機能分担の関係を構築した。交渉と物流を農家側が担っているため、農協の手数料は通常に比べやや低めに設定されている。

その後、加工用キャベツに取り組む農家は増え、また、A社以外の実需者からの引き合いも増えたことから、2012年には農家の組織化に踏み切り「JA水戸加工キャベツ部会」を設立した(図)。

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ユニークなのは、部会設置以来、以前よりA社への出荷があり契約取引に精通している農家をAグループ、A社以外の食品メーカーに出荷する比較的、小規模な農家や加工業務用野菜については経験のない新規に取り組む農家をBグループと分離し、農家の特徴や力量に合わせた部会活動を展開している点である。

Bグループの農家は漸増しており現在は約20となった。Bグループを組織した当初は、将来的に大規模な継続出荷が可能となり、技術水準も向上した農家についてはAグループへの「移籍」も視野に入れていたそうだが、現時点ではAグループに移籍した例はないという。

部会員の年齢構成をみると半数が50以下であり、近年は若い後継経営者や新規参入者の加入がみられる。新規参入者の多くは、加工・業務用野菜の収益性や機械化により大規模経営を目指すことができる点に魅力を感じている。また、ほとんどの部会員が生食用の卸売市場出荷から加工・業務用への出荷にシフトしており、生食用と加工・業務用を同時に取り組むケースは移行期を除き極めて少ない。その理由は、栽培技術上の差異だけでなく、実需者向け出荷に専念することで先方との信頼関係を構築することが契約野菜栽培では重要だと認識されているからである。

部会員が多く居住する茨城町では、独自の新規参入者受け入れ支援制度を設けているため野菜作を中心に一定の新規参入者が存在する。当初は小規模な直売所向け出荷からスタートした新規参入者が、一定の技量と経営耕地を確保すると加工キャベツへの「転換」を目指す動きもあるという。直売所向け出荷も加工・業務用出荷も、顧客・実需者の特性は全く異なるものの、顧客のニーズにフィットする方向で栽培・出荷の仕組みを改善するという方向性は共通しており、加工・業務用への転換に対する違和感は意外にないとのことである。しかし、一定の農地を確保したうえでさらに機械などへの投資を行い、加工・業務用のキャベツ生産に対応できる生産体制を整えるには資金面でのハードルがある。

実需者との契約は部会が責任をもって交渉している。契約の形態は買取で価格はしゅ前のシーズン値決め(収獲期間中は一定)を原則としている。また生産量の変動リスクに対しては、契約面積に対する全量取引を導入し、豊作時でも契約内容を変更することなく励行することとしている。加工キャベツ部会は複数の取引先を有し、契約条件が少しずつ異なっているため、不作時においても、他産地のキャベツを購入して納品することは行わず、特定の業者向けの数量が不足する場合でも、部会員のなかで、比較的、余裕のある別の業者向けキャベツを充当することでクリアしている。

出荷量変動リスク軽減に大きく貢献しているのが、2013年にJA水戸が導入した低温貯蔵庫である。この貯蔵庫の最大収容能力は、キャベツ300キログラムが入った鉄コンテナ300基となっている。この貯蔵庫の活用により、実需者への出荷量の平準化と出荷期間の拡大が実現されている。

また加工用キャベツの契約価格については、以前に比べ他県産地との価格差が小さくなり平準化する傾向がみられるという。平澤部会長は「産地サイドにとって確保されるべきミニマムな価格が全国的に揃ってきたと考えれば、それは良い傾向でもある。そのうえで収量を高めれば収入は増えることになる」と前向きに評価している。

部会で当初から取り組んできた活動として、単収の改善を目指した技術研修がある。公的研究機関や実需者であるA社、資材メーカーなどの協力も得ながら、1玉当たり自重3キログラム以上、10a当たり収量6トン程度を目標に掲げ品種導入試験を継続している。現状では春作は4~5品種を組み合わせて栽培し、秋作では耐寒性品種と大玉向き品種を組み合わせることで収量の改善と安定化を図っている。品種試験のほかに、部会員のじょうでの栽培試験結果データを基にマニュアルを作成している。マニュアルの内容は、圃場試験の結果を考慮して随時更新され、A、B両グループに共有することで部会全体として新しい栽培技術と継続出荷のノウハウを継承するよう努めている。

こうした技術開発は部会メンバー主導で行われており、JA水戸の営農部署は直接的には関わることはなく、実需者との契約交渉も部会主導で行われている。一方、JA水戸は、部会の事務局として機能しているほか、貯蔵庫の設置とその運用、技術開発や貯蔵庫建設にかかわる補助金の取り扱い、さらには商流機能(代金決済)など、加工キャベツ部会の生産出荷体制を支援しており部会員からの評価も高い。

3 部会員の特徴と加工用キャベツ生産に対する評価

ここでは、加工キャベツ部会員へのアンケート調査により得られたデータをもとに、加工キャベツに取り組む経営体の特徴と加工キャベツ導入が経営に与えた影響を明らかにしたい。調査は2019年10月から12月にかけて、部会員に会合などを通じて調査票を配付し、自宅にて記入の上、部会事務局の担当者が回収する方式で実施した。出荷最盛期だったため回収率はあまり良くないが9戸の回答を得た(表1)。ただし、回答農家は部会員の中でも相対的に規模の大きい農家の可能性が高いことを断っておく。

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回答した部会員メンバーは、年齢が40代から70代までと幅広く分布し、中堅的農家とベテラン農家が混在しており、女性回答者も3名いる。一般的な農家調査では世帯主の男性が代表して回答することが多いが、女性も生産と経営の現場に主体的に加わっていることが示唆される。労働力は平均3.1である。最大値の経営体では、常勤の従業者も雇用していたが他の8経営体はすべて家族労働力であった。従って家族総ぐるみで農業に従事していると思われる。野菜栽培の年間延べ面積の平均値は9.5ヘクタール(ただし、過去に部会で調べた全部会員の平均はヘクタール強)であるが、最大の経営体は45ヘクタールとなっており、経営体間にかなりのバラツキがみられる。このことは加工キャベツの出荷実績にも反映され、年間出荷量、出荷日数ともに最大値と平均値の間にかなりの開きがある。とはいえ、部会員の加工キャベツ生産・出荷規模はかなり大きいことがわかる。

次に、加工キャベツの栽培年数、出荷先、出荷価格などに対する回答状況より、回答経営体がAおよびBどちらのグループに属するかを判定したうえで、加工キャベツの生産・出荷に対する項目別の満足度をグループ別に集計し平均値をとった(図)。両グループとも各項目にて3点程度の評価をしており総じて満足度は高い。ただし、価格についてはAグループの平均が2点を下回っており、やや厳しい評価を下している。実際の加工キャベツ価格は、Aグループのほうがやや高いにも関わらず不満を抱いている経営体は少なくない。これは長年、加工・業務用に特化して生産・出荷を続けてきたAグループ生産者の自信の表れとも解釈できる。

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加工キャベツに取り組んだ当初と現在の状況を比較し、各項目について量的ないし質的な変化が見られたかについて、4段階で評価してもらった上で、グループ別に平均値を比較した(図)。変化が大きいほど数値が大きくなるが、ほとんどの項目で平均値は3を上回っており、加工キャベツの導入により一定の変化があったことがわかる。やりがいや部会参加の意義といった定性的な評価項目もポジティブな評価を得ている。出荷量、売上額、栽培面積といった量的指標についてはAグループのほうが加工キャベツ導入による変化をより多く実感している。言い換えればBグループの経営体は加工キャベツ導入では後発のため、量的指標についてはまだ拡大の余地があると推測される。

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4 まとめ

最後に、JA水戸の加工キャベツ部会の取り組みを振り返り、加工・業務用野菜の産地の動きとして注目される点を整理しておく。

まず一点目として、加工・業務用野菜に取り組む経営体の多様化が進んでいることが挙げられる。加工用ばれいしょへの取り組みから通算すれば、加工・業務用に取り組む経営体はすでに30年程度の経験があり、当初から取り組んでいた第一世代が経営継承ないしはリタイアの時期を迎えている。その一方で、こうした経営体を継承した若い担い手や継続出荷により得られる安定的な経営成果に期待して新たに参入した経営体も存在する。さらに同一の品目あるいは産地においても経営規模や部会組織への参加をめぐって異なる特性を備えた農家が存在する。そのため、多様な農家をいかにコーディネートして実需者に結びつけるかが課題となっており、農協の担当者は生産履歴、出荷実績さらには圃場で得られた情報等を駆使して出荷者のネットワークを構築すべく努力している。

二点目は取引条件についてだが、買取制とシーズン値決めが原則的なルールとなっているものの、実際にセッティングされる契約価格が全国的に平準化する傾向も観察された。卸売市場向けの生食用の市況に比べて、加工・業務用野菜の単価は総じて低めに設定されることが多いため価格の全国平準化はその低位硬直化にもつながりかねない。しかし、加工・業務用に早くから取り組んできたJA水戸では、その傾向をむしろベース価格が確保されつつあるとポジティブにとらえ、技術改良によるコスト改善、多収化による面積当たり売・収益の増加といった新たな目標を設定して収益性の改善につなげようとしていた。

最後に、加工・業務用野菜事業において農協の果たす役割は多様であり、経営体からも期待をされていることが改めて確認できた。集荷・販売段階における量的なコーディネートはもちろんであるが、生産履歴の把握や技術講習を介した栽培技術を高レベルに保つ意味でも農協の存在は大きいと言える。

謝辞:調査にご協力くださった平澤協一部会長アンケート集計にご協力くださったJA水戸ご担当者様に御礼申し上げます。

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