住友ベークライト株式会社 P-プラス・食品包装営業部
評価CSセンター<大阪> 大槻 みどり
近年、青果物の流通を取り巻く環境が変化しつつある。収穫後の青果物の品質をできるだけ長く保持し、おいしさや栄養価を保つことがこれまで以上に重要視され、鮮度保持のニーズが拡大傾向にある。本稿では、青果物の鮮度劣化の要因とそれを踏まえた鮮度保持技術、ひいては、そうした鮮度保持技術が食品ロスの削減に貢献することを紹介する。
近年、青果物の流通を取り巻く環境が変化しつつある。例えば、地球温暖化により高温傾向であることや気象災害の影響により、農産物が不作となり安定した供給が困難となっている。このような苦難を乗り越えて収穫された青果物の品質をできるだけ長く保持することは今後、これまで以上に重要視されていくと考えられる。
また、単身世帯や共働き世帯、高齢者世帯の増加、少子化や核家族化により年々食の簡便化が進んでいる。最近コンビニやスーパーで目にするカット野菜は、カットや洗う手間無しに適量だけを食べることができ、食の簡便化の対応にはうってつけの製品であり、市場が拡大している。外食、中食(総菜)向けや業務用としても使用されている。カット野菜はホール野菜と違い包装して流通させることが必要であるが、この包装によりカット野菜のおいしさや、さらに鮮度を保つことが出来れば、多くの人により良い食を提供できると考えられる。
このように青果物の鮮度保持のニーズは拡大傾向にあり、私たちは鮮度保持技術について良く知るとともに、こうした青果物を取り巻く環境の変化に柔軟に対応できる体制を整えておく必要があると考えている。
本稿では、食品ロスの削減に貢献する鮮度保持青果物包装を紹介するに当たって、まずは青果物の鮮度保持技術について述べ、その方法の一つとしての「包装」に的を絞り、その種類やサステナビリティ(持続可能性)、また品目ごとの具体例を紹介する。
青果物の鮮度劣化の要因として次の4点が挙げられる。環境ガス組成(酸素、二酸化炭素、エチレンガスなど)、温度、湿度、微生物である。これらのうち一つだけが要因のこともあるが、たいていは複数の要因が重なって青果物の鮮度劣化である萎れや変色、腐敗を引き起こす。ここでは、各要因について順番に解説していく。
(1)環境ガス組成
青果物は収穫された後も呼吸を継続している。青果物の呼吸の基質となる主なものは糖と酸であり、これを分解しながら最終的に二酸化炭素と水になるまで数多くの成分の転換、分解、生成を経て呼吸は行われる。もし青果物を裸で放置すると、呼吸は自由に行われ、糖や酸の消耗が激しくなり、鮮度劣化が進んでしまう(図1)。
C6H12O6(糖) + 6O2(酸素) →6CO2(二酸化炭素)+6H2O(水)+エネルギー
一方、酸素が無い環境下でどうなるかというと、無酸素状態下でも呼吸は続くのである(図2)。
C6H12O6 (糖) →2C2H5OH(エタノール)+2CO2(二酸化炭素)+エネルギー
するとエタノール、さらには酸化したアセトアルデヒドが発生し、今度は異臭により商品性が低下してしまう。
そこで青果物の鮮度保持のためには呼吸をコントロールする必要が出てくる。この方法の一つとして、青森県で実施されているりんごのCA(Controlled Atmosphere)貯蔵(注1)がある。りんごを保管する大きな倉庫の環境ガスを低酸素、高二酸化炭素状態に保ち、さらに冷蔵することで、呼吸を抑制し鮮度劣化を遅らせることができる。そして、このCA貯蔵を包装で実現する方法としてMA(Modified Atmosphere)包装がある。弊社製品の鮮度保持フィルムP-プラスもこの一つであるが、MA包装は包装フィルムのガス透過量を調整することで袋内を低酸素、高二酸化炭素状態に保つものである(図3)。包装フィルムのガス透過量の調整方法にはさまざまな方法があるが、これは後述する。
また、環境ガスという観点ではエチレンガスによる影響もある。エチレンガスはよく知られている通り青果物の老化の引き金となるホルモンで、1ppm(注2)でも存在すると青果物の軟化やボケ、果皮障害など青果物の鮮度保持にマイナスの現象を引き起こす。
なお、エチレンの生成量やエチレンに対する感受性は品目によって大きく異なる。エチレンの影響を抑制する薬剤としては、1-MCP(1-Methylcyclopropene)(注3)がよく知られている。1-MCPは果実用のエチレン阻害剤であり、エチレンの代わりに果実のエチレン受容体に入り込み、エチレンの作用を阻害する働きがある。1-MCPは日本ですでに農薬登録されており、りんご、なし、柿などの果実に使用されている。処理方法は、密閉容器(処理庫)に対象の青果物を入れ、1-MCPを0.5~1ppmの低濃度で12~24時間処理することで十分効果が得られる。
注1:青果物の貯蔵法の一つ。貯蔵庫内の空気の組成と温度・湿度を調節して、青果物が呼吸や蒸散などで成分を消耗するのを遅延させる。
注2:100万分のいくらであるかという割合を示す表記による単位。「parts per million」の頭文字をとったもので、100万分の1の意。1ppm = 0.0001% であり 10,000ppm = 1% である。主に濃度を表すために用いられる。
注3:化学合成によって作られる、植物の成長制御因子である。構造的には、植物ホルモンのエチレンと類似していて、商業的には果実の成熟を抑えたりカットした果物の傷みを抑えるのに用いられる。
(2)温度
青果物の呼吸は品目はもちろんのこと、温度によっても大きく変化し、35度程度の温度までは環境温度が高いほど呼吸量は増大し鮮度劣化を加速する(表1)。ちなみに限界温度を超えると酵素活性などが破壊され、呼吸量はむしろ減少に向かう。
例えば、えだまめは温度が5度から25度に変化すると、呼吸量が5~6倍にも上昇することが分かる。このため、青果物の流通におけるコールドチェーンや予冷後出荷などは、青果物の鮮度保持のための重要な手段である。
(3)湿度
温度だけでなく、湿度も青果物の鮮度保持に大きく寄与する。湿度が高い場合は微生物の増殖を促進し、腐敗やカビの発生、かんしょやばれいしょなどでは萌芽も進めてしまう。一方で、湿度が低い場合は水分蒸散が進み、萎れやシワを発生させ特に葉茎菜類や、果実類では目立つ。呼吸量は、同じ温度であれば湿度が低い方が一般的に低下する。しかし、鮮度保持の観点からは当然好ましいものではない。
(4)微生物
青果物の品質劣化を招く微生物は環境中に広く存在する。例えば雨天の中で収穫作業をした場合、土壌由来の微生物が付着しやすくなる。できるだけ青果物への微生物の付着を防ぐことが、品質保持に必要である。この対策として、微生物が増殖しにくい低温に保持することや、青果物の損傷を極力無くして微生物の侵入を防ぐこと、抗菌剤などの薬剤での処理をすることが挙げられる。
青果物の鮮度保持のためには、上記の劣化要因をコントロールする必要がある。その手段の一つとして包装材料(包材)がある。包材による鮮度保持はCA貯蔵のように大掛かりな設備の必要が無く、包材を手に入れるだけで簡単に実施することができる。また、包材であれば貯蔵中だけでなく店舗陳列中、さらに各家庭に保管し調理をするまで、包材に入っている期間をとおして効果を得ることができる。
(1)MA包装
2⑴環境ガス組成の項で、環境ガス組成を制御することで青果物の呼吸を適切に抑制し、鮮度保持できることを述べた。MA包装は、包装のガス透過量(主に酸素透過度)を調整することで環境ガス組成を制御する包装である。環境温度を下げると呼吸量が下がるのは先述の通りであるが、環境酸素濃度を大気の酸素濃度20.9%よりも下げることで呼吸量が低下することが分かっている。図4にアスパラガスの酸素消費速度(呼吸量)と酸素濃度の関係を示す。
この図から、同じ環境温度30度でも、酸素20.9%環境下では酸素消費速度は、1キログラム1時間当たり240ccであるが、酸素6%環境下では同60ccであり、4分の1に呼吸量が下がっていることが分かる。このことから温度を下げにくい流通環境であっても、MA包装を使えば呼吸抑制による鮮度保持が可能であることが分かる。
また、呼吸量は品目や品種、温度、収穫時期などのさまざまな要因で変化するため、それぞれに対応した酸素透過度を持つ低酸素、高二酸化炭素状態に保つMA包装が望ましい。フィルムの酸素透過度の調整方法は穿孔による方法、傷などの凹凸による方法、フィルムの材質による方法などがあるが、酸素透過度をコントロールする方法としては穿孔による方法が最適と考えている。弊社製品である「P-プラス」も穿孔によるMA包装であるが、穿孔は孔の径や数を詳細に、かつ精度高くコントロールすることができるため、包装フィルムの酸素透過度を自在に設定することができる。
(2)抗菌フィルム
抗菌剤を包材に塗布、または練り込んで微生物の増殖を抑制する方法がある。抗菌剤としては人体への安全性が保証されている事、また青果物の味や風味を損なわないように無臭に近いことが強く望まれる。しかし、包装フィルムの抗菌剤の包含量は限りがあるため、カビや菌数の抑制により鮮度保持期限を延長する、などの効果を発揮するためには低温保管や洗浄の徹底など包装以外の要因のコントロールも並行して実施する必要があると考えている。
(3)活性フィルム
フィルムに電磁波などを発生させる機能を持たせることで、青果物の水分子を活性化させ、鮮度を保つという包装フィルム製品も存在する。
2015年、国連で持続可能な開発目標SDGsが17項目掲げられており、2030年での達成が望まれている。青果物の鮮度保持包装はこのSDGsに寄り添った開発製品であると言える。包装により青果物の鮮度を保つことで、まず第一に食品ロスを減らすことが出来る。これは目標2である「飢餓をゼロに」につながる。また、青果物の鮮度を保つことは、人々がより栄養価の高い食品を摂取することを手助けできる。さらに腐敗した食品の摂取を防ぐことにもつながる。これは目標3である「すべての人に健康と福祉を」を達成する。また、生産者の視点に立つと、これまで日持ちしなかったために近郊への出荷に限られていた品目が、青果物の鮮度保持包装により長距離出荷できるようになり、日本国内、さらには海外へ展開できるようになることは農業改革と言えるだろう。これは目標9である「産業と技術革新の基盤をつくろう」につながると考えられる。
このように青果物の鮮度保持包装を使うことは、サステイナブルな青果物の生産消費体制の構築につながり、その全体の活動が目標12「つくる責任 つかう責任」の達成にもつながっていくと考えている(図5)。
ここからは、実際に青果物の鮮度保持包装を各品目に使用した具体例を紹介し、そのメリットをお伝えしたい。
(1)かんしょ
国産のかんしょは海外需要も大きく、主に香港や台湾、東南アジア方面に向けて輸出されており、平成29年度には輸出額はおよそ10億円、輸出量はおよそ2500トンとなった。しかし、国内流通と比較して輸出中は温度や湿度の変化が大きいため、原体は腐敗、萌芽、カビなどのダメージを受けやすく、現地到着時のロス率は40%に及ぶこともあるという。
弊社のP-プラスは本来呼吸抑制に特化したMA包材であるが、一般のOPP(延伸ポリプロピレン)フィルムやポリ袋では袋内の湿度が100%近くに達し、かえって腐敗や萌芽、カビを増長させてしまうため、内部の湿度を低く保つことができる「結露防止フィルム」を開発し、ラインナップに加えた。
図6に結露防止フィルムの透湿メカニズムを示す。結露防止フィルムはスポンジのように中の水分を吸って外に放出する。これはフィルム表面に高い親水性を持たせ、さらに水蒸気透過度の高い材質を用いて水蒸気透過度を調整する機構を持たせていることによる。これによりかんしょをはじめ、一般のP-プラスでは対応できなかった高湿度が問題となる品目においても鮮度保持効果を得ることができるようになった。いわばMA効果と調湿効果を併せ持つ包材であると言える。
写真1は一般のOPPフィルム、写真2は結露防止フィルムにかんしょを保存し、20度30日間保存した後の写真である。写真1は表面の水濡れと軟腐、カビが見られるのに対して、写真2は表面が乾いており目立った品質劣化も見られないことを確認できる。包材により呼吸抑制と湿度調整の両効果を組み合わせた結露防止フィルムは、現在海外輸出にも盛んに活用されている。
(2)メロン
アールスメロンなどの高級メロンは、紙の箱や木の箱に入っていて大事に保管され販売されているイメージがある。しかし、紙の箱や木の箱に入った状態は、青果物の呼吸の観点からは、裸と同様でどんどん呼吸が進み、ツルの萎れ、果肉の老化を促進する。そこでMA包装を活用するとその差は歴然である。
写真3は裸のまま、写真4は結露防止フィルムにメロンを保存し、20度で11日間保存した後の写真である。写真3はツルの萎れ、変色が目立つ一方で、写真4では特に目立った劣化は見られない。さらに内部状態を示す。写真5は裸のまま、写真6は結露防止フィルムに保存した後のメロンの断面である。写真5は過熟状態になっているのに対して、写真6は適熟状態で十分な商品価値が認められるであろう。
青果物の鮮度保持技術から始まり、「包装」、特に「MA包装」に的を絞り、その原理や効果、社会全体への貢献も含めたメリットを紹介してきた。一つの袋が生み出す効果を感じていただければ幸いである。昨今は「脱プラ」が流行となっているが、プラスチックでなければ達成できない開発目標もあり、「脱プラ」しなくても環境負荷を削減する方法はある。プラスチックメーカーとして今後も農業、食品分野の発展に寄与できることを考え、自社だけに留まらず産地、市場、量販、また大学などの研究機関と連携を取りながら活動を広げていくことで、さらに社会に良い影響を与えられるように努めたい。
<参考文献>
1 農産物流通技術研究会編, 青果物流通技術の基本知識, (株)流通システム研究センター, 2007
2 石谷孝佑, 農産物流通技術, 2014, 126 (2014)
3 溝添孝陽他, Material stage 18(8), 27-30 (2018)
4 農林水産省 農林水産物輸出入統計 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/index.html