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調査・報告 (野菜情報 2020年3月号)


山形県庄内地域における雪中軟白ねぎの統一ブランド生産の取り組み

山形大学 農学部 准教授 藤科ふじしな 智海ともうみ

【要約】

 山形県庄内地域にある5農協では、統一ブランドとして「雪中軟白ねぎ」を栽培している。ビニールハウスで栽培する軟白ねぎは柔らかく、特に雪が降る時期に収穫する軟白ねぎは雪中軟白ねぎのブランドで出荷し、近年知名度も上がっている。
 庄内地域全体として、統一規格によるブランド構築を図ったことにより、市場に対する量的存在感を高めることができている。また、農協ごとに栽培指導体制をしっかり取っているので、新規に参入する若手生産者を増加させることにもつながっている。

1 調査の目的

山形県庄内地域(鶴岡市、酒田市、三川町、庄内町、遊佐町の5つの農協(庄内みどり農業協同組合以下「JA庄内みどり」という)酒田市袖浦農業協同組合(以下「JAそでうら」という)余目町農業協同組合(以下「JAあまるめ」という)庄内たがわ農業協同組合(以下「JA庄内たがわ」という)鶴岡市農業協同組合(以下「JA鶴岡」という(図1)が連携して、冬場に出荷する軟白ねぎを「雪中軟白ねぎ」というブランド名で2016年から販売している。統一ブランドとしての「雪中軟白ねぎ」の知名度が高まるなか、軟白ねぎの栽培を始める若手生産者も多い。なかでも、JA鶴岡では、長ねぎ専門部が月のしゅから12月の収穫・選別に至るまで、重要な栽培管理ごとに栽培講習会を開催するなどして、若手生産者に対する栽培指導体制をしっかりと組んでいる。統一ブランド化を推進している全国農業協同組合連合会山形県本部の園芸部園芸庄内推進室と、軟白ねぎの出荷量が最も多いJA鶴岡への調査をもとに事例報告する。

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2 庄内地域全体における軟白ねぎの 規格統一

水稲栽培の盛んな庄内地域では、水稲の育苗のためにハウスを所有している農家が多い。しかし、育苗に使う時期は春先に限られており、それ以外の時期に育苗ハウスを有効活用しようということで、1990年代からJA鶴岡、JA庄内たがわおよびJA庄内みどりの管内で軟白ねぎが生産されてきた。露地栽培のねぎ(以下「露地ねぎ」という)と違って、ハウス内で土寄せをせずに、専用フィルムなどで覆って白い部分を作るため、柔らかいのが特徴で、主に関東の市場出荷されている。

市場からの要望もあり、庄内地域全体で規格を統一して出荷した方が市場での評価が上がるのではないかという戦略のもと、2016年10月から統一規格で出荷するようになった。軟白ねぎのうち、「雪中軟白ねぎ」の名称を使えるのは、雪の降る時期である11月30日から3月30日までに出荷するものとし、それ以外の時期は、通常の軟白ねぎとして出荷している。統一規格では、全長72センチメートルと他産地のねぎと比べてもかなり長く、表に示すように、軟白部分の長さや曲がり方によって、A品、B品と格外に分かれている。階級は、表に示すように、A品、B品の場合は、軟白中央部の太さで、2L、L、M、Sに分かれ、それぞれ300グラム相当の本数を一袋に詰めている。ねぎの荷姿はテープでの結束というのが通常であるが、軟白ねぎは柔らかいので、袋に入れるという荷姿にしている(写真1)。この袋に期間内であれば雪中軟白ねぎのロゴを入れ、12袋分を一つの段ボールに入れて、出荷している(写真2)。5農協で規格を統一し、同じロゴの入った袋を使用しているので、スーパーの店舗で並べる時なども一緒に扱えると評判がよいという。表3に示すように、庄内地域全体で、2018年度は生産量184トン、生産額7700万円であった。JA全農山形の担当者によると、2018年度は暖冬だったということもあり、鍋用のねぎ需要が減り、生産額が少し落ちてしまったが、市場からの引き合いは強いという。

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3 JA鶴岡の軟白ねぎ生産

JA鶴岡の管内で、軟白ねぎの生産を始めたのは1998年で、鶴岡市西にしごう地区の砂丘地で露地ねぎを作っていた斎藤和則氏(当時、農協の長ねぎ専門部長)が最初に取り組んだ。初めての試みだったので、山形県の農業技術普及課に栽培方法を相談しながら進めたという。翌1999年から生産者は8名に増加した。その後、2001年に斎藤氏と同じ西郷地区の伊藤鉄也氏が仲間に加わった。2003年より長ねぎ専門部長となった伊藤氏は、急速に軟白ねぎを生産する仲間を増やしていった。

生産者数は、2003年に34名だったが、ピークとなった2009年には99名に増加し、その後、いったん減少したものの持ち直して2018年現在では88名となっている。一方、作付面積のピークは2008年の630アールで、2018年現在では566アールと推移している(図2)。生産量と生産額も作付面積と同様の傾向にあり、2018年の生産量は130トン、生産額は6075万円となっている(図3)。

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斎藤氏や伊藤氏のじょうのある西郷地区は砂丘地で、水稲に加えメロンの栽培が盛んな地区である。6月下旬から8月上旬ごろまでがメロンの出荷時期で、6月下旬ごろから早めに出すハウス栽培メロンの後作として、ハウスにミニトマトや軟白ねぎを栽培する生産者が多い。西郷地区は7~8棟と多くのハウスを所有している生産者ばかりなので、軟白ねぎの播種や育苗を他のハウスで行い、ハウス栽培メロンの収穫後の6~7月に定植を行っている(表4)。砂丘地でない土畑の地区では、水稲とえだまめを生産しながら軟白ねぎを作っている生産者が多い。この場合は、水稲の育苗ハウスの利用である。土畑の地区では、露地ねぎを作っている生産者もいるが、えだまめの生産量が多い生産者は、露地ねぎを栽培せずに軟白ねぎを栽培している生産者が多い。軟白ねぎは露地ねぎとは異なり、夏場の暑い時期の土寄せをせずに済み、重要ポイントでしっかり管理をすればできるという良さがある。倒伏防止のひも張りの時期は、えだまめの収穫時期と重なり、フィルムセットの時期は水稲やミニトマトの収穫時期と重なるが、作業のタイミングが重要なので、忙しい中でもひも張りやフィルムセットの作業ができるかどうかが重要になる。

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軟白ねぎの栽培を新たに始めるためには、ひもやフィルム、支柱などの資材費として、100坪ハウス当たり30万円程度かかるが、播種器や定植機は専門部で貸し出すので、ハウスが既にある場合、他には大きな初期投資はない。また、昨年度から鶴岡市とJA鶴岡で、資材費の3分の1を補助する鶴岡市周年農業確立モデル事業も始めている。昨年度は5名が利用し、その内2名が20代から30代の若手の新規参入であったという。JA鶴岡の担当者も資材購入に対しての補助事業があまりない中で、画期的な取り組みではないかと評価している(写真3)。

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4 JA鶴岡の軟白ねぎ販売戦略

JA鶴岡の2018年の長ねぎ全体の生産量は234トンで、その内軟白ねぎが130トンと56%を占める。販売額で見ると、軟白ねぎが69%を占めている。露地ねぎを10~12月に出荷し、軟白ねぎはそれにリレーする形で12~翌3月に出荷している(図4)。軟白ねぎの市場評価が高いので、露地ねぎと赤ねぎは現状の出荷量を維持しながら、軟白ねぎについては出荷量を拡大するという戦略を描いている。

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軟白ねぎの出荷先は、7~8割が京浜市場で、露地ねぎの出荷先とも重なっている。それ以外では、地元の庄内青果物地方卸売市場や東北各所の販売先へ出荷している。東北各所の販売先への企画販売は、2~3カ月前から価格を決定して取引しているため、市場のように値崩れする心配がない。西日本は、食文化的に白ねぎよりも青ねぎという傾向があることから、出荷先として選択していない。京浜市場では、1~2月に軟白ねぎを出荷する競合産地は東北地方にしかないので、その時期を中心に出荷し、4月以降は関東地方の産地が出荷してくるため3月で売り切るという戦略を取っている。

スーパーの店舗などでは、生産者の写真をポップに使いたいという要望もあるので、販売先には生産者の写真などと一緒に商品を紹介している。JA鶴岡が作成したリーフレットには、消費者を意識した販売戦略から軟白ねぎを使用したレシピが数多く掲載されている(写真4)。

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5 JA鶴岡の長ねぎ専門部の取り組み

JA鶴岡で販売額の多い品目は、品目ごとに専門部を作って活動をしており、長ねぎ専門部の活動はその中でも活発である。長ねぎ専門部長である渡部あき氏(写真5)は前任の伊藤鉄也氏から2018年にバトンを引き継ぎ、専門部長になった。伊藤氏は8期16年にわたり専門部長として、軟白ねぎ生産を引っ張ってきたが、現在69歳になったこともあり、一世代下の53歳の渡部氏に次を任せることとなり、渡部氏もこれから10年くらいは自分が引っ張っていかなければと抱負を語っていた。

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渡部氏の圃場は土畑の地区であるが、西郷の砂丘地にも畑を所有しており、水稲を中心にメロンと露地ねぎおよび軟白ねぎを栽培している(表5)。ハウスは7棟所有しており、メロン、軟白ねぎ、水稲育苗ハウスとして利用している。労働力は夫婦2名で、周年通して収入を得るために、ねぎは欠かせないと話す。7月下旬~8月中旬にメロンの収入があり、9月上旬に夏ねぎ、10月下旬に水稲、10月中旬~12月上旬に秋冬ねぎ、1月中旬~3月上旬に軟白ねぎとねぎを栽培していることによって、周年で作業があり、収入もバランスよく入ってくるという。

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長ねぎ専門部では、新たに始める生産者も多いため、栽培技術に関する講習会を実施している(表6)。播種から収穫・選別まで、作業ごとにきめ細やかに実施されているのが分かる。なかでも、コツをつかむのが難しいひも張りやフィルム張りは複数回、実施している。圃場巡回では、ベテランの役員が新規に栽培を始めた生産者の圃場に出向き栽培指導を行っている(写真6)。特に、軟白ねぎに関しては30代以下の若手生産者が約20名おり、生産者総数88名(2018年)に占める割合が高い。そのため、新規参入者への栽培指導を長ねぎ専門部でしっかりと担っている。また、出荷に際しては、生産者ごとの格差を無くしていくことが重要であるため、栽培技術の底上げをするために、丁寧な栽培指導が不可欠となっている。

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長ねぎ専門部では現在、落ちた生産量を回復させ、軟白ねぎ、露地ねぎ、赤ねぎで再び合計1億円の販売額を超えることを目標に掲げている。作付面積を拡大する努力もさることながら、軟白ねぎの品質を上げて、販売額目標を達成しようとしている。特に軟白ねぎは、栽培管理によって品質が左右されるため、「の時期にどのような管理が必要か」といった対策を示した情報を、FAXで専門部員に逐一送っており、その回数は、年間25~30回にもなる。

6 軟白ねぎの生産・販売における課題

軟白ねぎは市場評価も高いため、JA鶴岡としては作付面積や生産者数を増やしたいところではあるが、現在のところ維持するだけで精一杯である。しかし、庄内統一規格を打ち出し、これまで軟白ねぎをほとんど栽培していなかったJAあまるめでも専門部を作って栽培を始めるなど、庄内全域として生産量を増やしていく余地はある。

栽培における課題としては、最近は連作障害が出るようになってきており、防除に労力が割かれている。また、温暖化の影響により、特に夏場の立ち枯れが顕著になっており、夏場の管理が課題だが、遮光シートでの被覆やハウス側面のビニールを開放して、風通しを良くするなどの対策を取っている。

7 まとめ

本稿では、2016年より庄内地域で統一規格を実施した雪中軟白ねぎの取り組みを取材した。庄内地域において、軟白ねぎ生産量の約7割を占めるJA鶴岡では、生産量や生産額については、ピーク時に比べれば少し落ちているが、しっかりと維持されていた。

若手の軟白ねぎ栽培の新規参入者に対する栽培指導は、JA鶴岡の営農指導員と長ねぎ専門部の取り組みが充実しており、ベテラン農業者が新規参入者に指導する栽培講習会を栽培管理上の作業項目ごとに、その時期に合わせて実施していた。

このような手厚い指導や資材費の3分の1を補助する鶴岡市周年農業確立モデル事業によって、新規参入する生産者が増えてきており、近年、連作障害や地球温暖化への栽培対応が課題となっているが、これも栽培指導で解決していけるのではないかと思われる。

水稲栽培が盛んな庄内地域において、水稲と作業時期が被らず、冬場の労働と収入を確保する品目である雪中軟白ねぎは、生産者の収入源として大きな可能性を秘めている品目である。また、単一農協だけでは生産拡大の余地は限られるが、庄内地域全体の統一規格にしたことにより、市場に対して産地としての存在感や評価も高まっており、今後ますます伸びていく可能性のある品目である。

最後に、お忙しい折に、本調査にご協力いただいたJA全農山形園芸部園芸庄内推進室室長の仲條正俊氏、JA鶴岡の園芸特産課営農指導係の本間一輝氏、販売係の菅原望氏、生産者であり長ねぎ専門部部長の渡部昌良司氏、同じく生産者の瀬尾正一氏他、関係者の皆様に感謝申し上げます。



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