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調査・報告 (野菜情報 2020年2月号)


地域流通を担う卸売業者による地場産青果物のブランド化
~鎌倉いちばブランドの取り組み~

日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 准教授 木村 彰利

【要約】

 鎌倉市は、歴史ある街として国内外から多くの旅行者が訪れる人気の高い観光地である。また、野菜をはじめとする園芸が盛んな地でもあり、卸売業者が自社に入荷する地場産野菜を対象に「鎌倉いちばブランド」の確立に向けた取り組みが鎌倉青果株式会社で行われている。
 一時は廃業が検討されるまでに取扱高が減少していた鎌倉青果株式会社だが、ブランド化により取扱額が拡大しただけでなく、出荷者数の増加や新規販売先の拡大がもたらされ、市場の活性化に結びついている。一方で、数量的な問題から販売先の求めに充分対応できない状況にあり、今後の課題となっている。

1 はじめに

わが国では青果物の産地段階における集出荷はJAなどの系統組織が果たす役割が大きく、いわゆる主要産地とされるものの多くは過去において農協主導のもとで形成・発展してきたケースが多い。その一方で、現在においても生産者自身による地元卸売市場への個人出荷(注1)が盛んに行われており、これらは青果物流通において一定の地位を占めている。そして、このような個人出荷品は地域の専門小売店で販売されるだけでなく、その鮮度の良さや生産地が見えることによる安心感も手伝って、大手量販店においても高品質な差別化商品として優先的に取り扱われるなど、店頭における顧客訴求力のあるアイテムとして重要視されている。特に、都市近郊に展開される野菜生産地域においてはJAによる共販が盛んでないこともあって、地域内に設置されている卸売市場は主要な出荷先の一つであり、これら市場は地域流通の担い手として不可欠の機能を果たしていることは明らかであろう。

しかし、近年においては都市近郊に立地する卸売市場においても都市化の進展に伴う農地の改廃、農業生産者や専門小売店経営者の高齢化および廃業などによって、市場の経営基盤自体が損なわれつつある。そして、このような現状の打開策の一つとして、卸売業者が生産者と提携しながら付加価値の高い差別化商品を開発・認証し、それをオリジナルなブランド品とすることによって、市場の活性化を図る方策が考えられる。このため、本稿においては、神奈川県鎌倉市の卸売業者である鎌倉青果株式会社(以下「鎌倉青果(株)」という)を事例として、『鎌倉いちばブランド』(以下「いちばブランド」という)の確立に向けた取り組みとその効果について検討したい。

なお、同市場は取扱額的には小規模ではあるものの、その取り組みの具体的内容は全国のJAなどがブランド化を推進し、地域農業を活性化させていくうえにおいて意味のある事例となることが期待される(写真1)

注1:『平成30年度卸売市場データ集』によれば、平成29年において中央卸売市場に入荷する野菜の7.2%、果実の4.4%が個人出荷による。

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2 鎌倉市の概要と農業

(1)鎌倉市の概要

鎌倉青果による野菜のブランド化についてみる前に、鎌倉市の概要と同市における農業生産について確認したい。

鎌倉市は神奈川県の6つの地域区分のうち横須賀三浦地域(注2)に含まれており、同地域のなかでは最西端に位置している。また、市の西側は湘南地域に属する藤沢市、同じく北側は横浜市と接しており、大消費地に隣接する位置関係にある。同市の人口は表1で示すように17万7458人であることから、市内自体にも大きな消費需要が存在している。このため、人口密度についても一人当たり4473平方キロメートルと全国平均のみならず神奈川県平均と比較しても高くなっており、総じて都市化の進んだ地域といえる。ちなみに、後述のように鎌倉青果に入荷する野菜の生産者の多くは藤沢市やさらにその西側に位置する茅ヶ崎市の割合が高いことから、両市の人口密度についても確認すると、いずれも鎌倉市以上に高く、都市化が進んだ地域である。

注2:横須賀三浦地域には、鎌倉市以外に横須賀市、逗子市、三浦市、三浦郡葉山町の4市1町が含まれている。

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(2)鎌倉市の農業

市内の耕地面積は、105ヘクタールとなっており、十分な農地が確保されているとはいい難い状況であるが、藤沢市で901ヘクタール、茅ヶ崎市で349ヘクタールというように周辺地域には比較的多くの農地が存在している(表2)。また、農地に占める畑の割合についてみるならば、鎌倉市で99.0%、藤沢市で84.9%、茅ヶ崎市でも87.7%というように、全国の45.6%や神奈川県の80.1%と比較して畑作に特化した地域となっている。

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鎌倉市内には72の農業経営体があり、うち販売実績のあるものは87.5%で、このうち単一経営経営体(62.5%)の経営内容をみるならば露地野菜が48.6%となっているように、全国平均と比べて露地野菜の生産が盛んな地域である。同じく藤沢市や茅ヶ崎市も一部で果実生産が行われているが、同様の傾向にある。

農業生産額は、市町別の数値が公開されていないため県全体でみると、神奈川県では781億円の農業産出額のうち野菜が56.9%、果実では11.3%を占めている。全国と比べて、神奈川県は園芸生産の構成比が高くなっており、都市近郊という立地環境もあって全県的に園芸生産に特化する傾向にある。そして、この傾向は鎌倉市などにおいても同様の傾向にあると考えられる。

鎌倉市は、比較的都市化の進んだ地域であることから、市内に青果物の消費需要が集積されている。一方で、藤沢市や茅ヶ崎市を含めた地域の農業生産については、露地野菜を中心とする野菜生産が行われており、同一地域内に野菜生産と消費需要が併存した野菜の地域流通が成立しやすい環境であるといえる。

3 鎌倉青果地方卸売市場の現状

(1)市場の沿革

鎌倉青果(株)が入場する鎌倉青果地方卸売市場の起源は、おおよそ90年前にまで遡ることが可能であり、戦前の段階において鎌倉市民に青果物を供給する市場として誕生したとされている。1971年の卸売市場法の制定に伴って地方卸売市場となり、他市場との合併を経ながら1982年3月には「地域拠点モデル民営市場」として、市の補助を受けて現在地に移転し地域流通の拠点となっている。また、市場開設者であるとともに卸売業者でもある鎌倉青果(株)は、移転に先立つ19815月に旧卸売業者の業務を発展的に継承する形で設立されている。

しかし、市場周辺における生産者の減少に加え、専門小売店などの減少もあって、2012年には市場の廃止が検討され、取扱額も2014年には過去最低の2億6200万円にまで落ち込んだ。そのような背景がありつつも、関係者の協議により存続の方針が打ち出されたことをきっかけに、市場の活性化に向けた方策が模索されることになり、後述する市場ブランドの確立に向けた取り組みにつながっている。

(2)市場の概要

鎌倉青果は、湘南モノレール深沢駅からほど近い鎌倉市梶原360番地にあり、JR東海道線の藤沢駅と大船駅からもほぼ等距離の場所に立地している。2017年の年間取扱額は億5909万円、従業員は名となっている(表3)。また、用地取得にあたって市の協力があったことから、総敷地面積は8300平方メートル、卸売場も1500平方メートルの面積が確保されている(表4)。しかし、同社の市場施設は1982年の設立当時のものが現在まで使用されているように、その老朽化が課題となっている(注3)。取扱額は、市場ブランド確立に向けた取り組みの効果が現れだした2015年以降は上昇に転じ、2017年には5億5909万円にまでに回復している(図2)。

注3:2019年10月の調査時現在では市場敷地を含む湘南深沢駅西側の再開発が予定されており、鎌倉青果(株)についても代替地への移転が検討されている。このため、現在の市場施設は移転に伴う全面更新までの使用となることが予定されている。

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(3)市場の集荷

鎌倉青果の集荷に関しては、60%が個人出荷者からとなっており、それ以外の40%が他市場仲卸業者からである(表5)。このうち個人出荷者については登録で280名であり、その所在地域は同社が所在する鎌倉市内よりも、多くの農地が存在する藤沢市や茅ヶ崎市の割合が高く、この2市で個人出荷品の60%程度を占めている。それ以外にも、西は小田原市、東は横浜市戸塚区、三浦市からの出荷もみられ、湘南地域および横須賀三浦地域から広く集荷されている。また特定の品目に限るならば、みかんは和歌山県、ばれいしょ、たまねぎでは北海道の個人からの集荷も行われている。なお、個人からの集荷に関しては全て委託出荷である。一方、他市場からの転送集荷については東京都中央卸売市場豊洲市場と大田市場の仲卸業者各1社から野菜類を、横浜南部市場の仲卸業者1社から果実類を買い付けている(写真2)。

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市場の分荷と取引方法

鎌倉青果からの分荷に関しては、専門小売店や納品業者の割合が高く、全体の80%を占めている(表6)。そのほか、都内のスーパー8%や都内の外食業者7%、他市場仲卸業者3%、地元学校給食2%という構成である。なお、次章でみるように、これら販売先のうちスーパー、外食業者および学校給食は、市場ブランドの取り組みが契機となって新たに開拓された販売先である。

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同社の取引方法で特徴的なのは、通常、仕入価格が決まっている買付の場合はセリ取引を行わないが、ばれいしょ、たまねぎおよび輸入果実を除き、買付価格に関係なくセリによって取り引きされている点がげられ、セリ取引率は全体の8割を占める。一般的に仕入原価のある商品をセリで販売することには大きなリスクが伴う(注4)。しかし、セリを行うことで市場に活気がもたらされるだけでなく、出荷者や売買参加者にとっての魅力になる(写真3)。鎌倉青果は取扱規模こそ小さいものの、地域の出荷者や専門小売店などにとって大きな魅力のある、青果物の地域流通の拠点として機能しているといえる。

注4:買付品をセリで販売することには、仕入価格を下回る価格で落札される可能性があることから卸売業者の側に大きなリスクが存在するが、取り引きに参加する売買参加者は大田市場等における相場を知っており、それを踏まえて相応の価格で競り落としているため、十分な利益率が維持されているとのことであった。

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4 卸売業者によるブランド確立に向けた取り組み

取り組みの経緯

鎌倉青果によるいちばブランドの確立に向けた取り組みは、2012年6月に髙橋伸行氏が代表取締役社長に就任したことの影響が大きい(写真4)(注5)。同氏の就任は市場の継続を前提として、その立て直しのために迎えられたという経緯によるものである。しかし、前述のように当時の同社は取扱額の減少が続き、市場の廃場が検討されるような状況であった。このため、社長就任後は中小企業診断士の資格を持つコンサルタントなどと協議を重ねながら、市場で取り扱われる青果物、なかでも高品質な野菜のブランド化を図ることを通じて市場の価値を高めていく方針が打ち出され、いちばブランドの確立が志向されることになった。ここでいちばブランドの趣旨を同社資料から引用するならば、「鎌倉青果市場に入荷する高品質な野菜を他市場の物と差別し、ブランド化によって生じた付加価値を買参人に還元し、地域農業の活性化に貢献する事。地産地消の優れた野菜の販路を拡大し地産他消にする」と示されている。

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髙橋社長の就任直後には、「鎌倉いちばブランド」の商標登録を特許庁に申請しており、2013年3月に登録されている。さらに、ロゴマークの策定にあたっては、「ロゴマーク審査等委員会」を組織するだけでなく、公募を行うことによって案を広く募集した。公募は同社のホームページのほか、広範囲に周知するため鎌倉市役所広報課メディアセンターに協力を仰ぐとともに、鎌倉市内の高等学校やデザイン専門学校、大学などに応募要領を配布し、さらには地元放送局である鎌倉FM局などのメディアを活用した宣伝も行われた。その結果、2014年5月末の締め切りまでに合計219点の応募があり、委員会の検討を経て、現在のロゴマークが決定された。同年11月に特許庁の認可が下りたことから、12月には記者発表も行っている(表7)。

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上記のような取り組みと並行して、各種メディアを通じた宣伝活動を行い、ロゴマーク決定後はロゴマーク入りのスズランテープやたばねらテープ(注6)の製作、ブランド名を用いたのぼり旗の製作・頒布などが展開され、青果物専門小売店や鎌倉市民などに対するいちばブランドの普及が行われた(写真5)。

注5:鎌倉青果(株)の代表取締役社長に就任する以前の髙橋伸行氏は、同社で青果物を購入する青果物専門小売店の経営者であったが、前社長の引退時に請われて同社の経営を継承している。

注6:スズランテープ及びたばねらテープはいずれも葉物野菜等の結束具である。

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(2)ブランド認証制度の概要~鎌倉いちばブランド認定基準~

鎌倉青果のいちばブランドの特徴として、市場に入荷する青果物が全て同ブランド品に該当するのではなく、同社が組織した「ブランド認定委員会」が承認した生産者・品目のみが対象となっている点が挙げられる。ブランド認定委員会は、長年の経験により高い評価眼をもった鎌倉青果の役職員5名によって構成されているが、それ以外に買参人および消費者の意見を反映させるため、3名の買参人が認定アドバイザーとして参加している。

いちばブランドの定義については、『鎌倉青果市場周辺産地より出荷される高品質の野菜、および鎌倉青果株式会社が指定している産地の果物で、「安心、安全、美味しい」を基本に鎌倉いちばブランド認定委員会が認めた青果物を鎌倉いちばブランドとする』と定められており、認定委員会によって作成された基準に従って審査が行われている。

この「鎌倉いちばブランド認定基準」は、市場に入荷する全ての青果物に用いられるものであることから、基準自体も抽象的な表現とならざるを得ないが、いずれにせよ、いちばブランド品として認められるためには一般品と比較して何らかの形で優位性や独自性が存在し、差別化が可能となることが要件となっている。また、出荷者は生産に際して栽培開始前に委員会へ申請を行うとともに、出荷直前にも申請書を提出し、委員会の審査を受けることが求められている。

(3)いちばブランドの現状と課題

いちばブランドにとって特筆すべきこととして、2014年の「第6回フード・アクション・ニッポン・アワード」における審査員特別賞の受賞についてみておきたい。同賞は農林水産省の共催のもと国産農産物などの消費拡大に寄与する事業者、団体などの優れた取り組みを表彰する制度である。同賞の受賞によって、市場の活性化にも大きな効果がもたらされている。

いちばブランドについては、調査時現在で同社取扱額の20~30%を占めており、出荷者数では50名にまで拡大している。市場取扱品に占めるシェアは、時期により大きく異なっており、総じて地場産野菜の出回り時期である秋~冬の時期に高くなる傾向にある。品目的には葉物野菜に限らず多品目の野菜と一部の果実となっている(表8)。また、一般品を含めた出荷者数も2015年段階の71名から90名にまで増加している。このような出荷者の増加は、いちばブランド品が一般品の120~150%の価格で取引されているだけでなく、一般品の価格もいちばブランド品の価格に影響を受けて、比較的高く維持されていることが一因となっている。

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いちばブランド品を購入する主要な専門小売店の所在地は、鎌倉市内が中心的であり、次いで隣接する藤沢市が多くなっているものの、横須賀三浦地域から湘南地域の東部にかけて比較的広範囲に所在している(表)。そして、受賞がもたらした変化の一つが新たな販路の拡大であり、具体的には、前掲の表6にある都内のスーパーや外食業者及び地元学校給食が新たに確保された販売先である。それに加えて、受賞後は多くのスーパーなどからオファーが寄せられたが、市場ブランド品の数量的な問題から対応することができなかったという事実がある。このため、ブランド品の潜在需要はさらに大きいことは明らかであり、これに対応していくためにも今後は技術力の高い出荷者の新規確保や既存出荷者の生産拡大が課題となっている。

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以上、みてきたように鎌倉青果(株)による市場ブランド確立に向けた取り組みによって、市場の出荷者や販売先の増加に加えて取扱品単価の上昇がもたらされ、取扱額の増加に結びついている。

5 いちばブランド野菜の生産者

以下では、鎌倉青果の利用者について紹介し、卸売市場およびいちばブランドの利用状況や評価について報告する。

(1)葉物野菜の生産者

川戸吉隆氏(写真)は横浜市戸塚区俣野町で主として葉物野菜の生産を行っている。圃場面積は露地75アール、施設25アールとなっており、年間を通じてこまつな、ほうれんそう、かぶ、しゅんぎく、紅などのいちばブランド野菜を栽培している。このうち、中心となる品目はこまつな(金額割合で40%)とほうれんそう(同30%)であり、それ以外の品目については特定品目の連作を避けるため作付けのローテーションに組み入れている。

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川戸氏は年により変動はあるものの、年間2000万円程度の販売を行っている。このうち鎌倉青果への出荷額は4割を占める。同時に地元のAコープのインショップコーナーや農産物直売所でも販売しているが、長年にわたって中心的な販売先として利用されてきたのが卸売市場であり、現在においてもその位置付けに変化はない。ただし、市場はその時々の状況により相場が変動することから、相場低迷時のリスクヘッジとして複数の販売先が必要となっていることが、Aコープなどを併用する理由である。同氏によれば、鎌倉青果にはブランド品を求める買参人が多数存在していることから、相場も比較的高く維持される傾向にあり、出荷者からみて魅力の高い市場であるとしている。

(2)果菜類の生産者

生産者の2人目として、鎌倉市周辺では比較的少ない果菜類を生産する石井大輔氏(写真)についてみていきたい。同氏は鎌倉市関谷においていちばブランドである施設栽培のトマトときゅうりを栽培している。このうち、トマトの施設規模はハウス2棟で約1620平方メートルであり、出荷期間は10月から翌年夏頃までである。一方、きゅうりについては、ハウス2棟で約1458平方メートル、出荷期間は4~7月と9~12月となっている。22年前からロックウールを用いた水耕栽培を行っており、施設規模に制約があるなかで生産性の高い生産が行われている。しかし、2019年の台風15号により施設に深刻な被害が生じたことから、調査時においては新たな施設を設置しているところであった。新施設では、生産管理などの諸作業をコンピュータ制御によって行うこと予定している。

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石井氏の野菜出荷額は年間1500万円となっているが、販売先でみれば鎌倉青果が70%を占めており、それに加えて地元スーパーへの納品商流はJAを経由(注8などが行われている。このように同氏の販売は鎌倉青果がメインであり、それ以外は補完的な位置付けである。同氏は4年前に市場ブランドの認証を取得しているが、販売先として鎌倉青果を重要視する理由として、いちばブランドならば同じ品目の一般品よりも高い相場での販売が実現できるところが大きいと述べている。

注8:同地域のJAは共販を行っていないことから、生産者の販売に対する支援は農産物直売所の設置かこのような間接的な形とならざるを得ないとのことであった。

6 いちばブランド野菜の取扱業者

続いて、鎌倉青果(株)でいちばブランドを含む地場産青果物を購入する事業者についてみていきたい。有限会社小川商店(以下「(有)小川商店」という)は、大船駅にほど近い鎌倉市台にある食料品販売業者である(写真9)。同社の年間販売額は3億5000万円となっているが、このうち8割程度は野菜類によって占められている。また、その販売方法は店頭での対面販売が1割程度であるのに対し、事業者などへの納品が9割を占めていることから、同社は小売業者というよりも納品業者としての性格が強い。ちなみに、納品先は外食業者や学校給食、病院、社員食堂などであり、総数では200件を超えている。

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小川商店の青果物の仕入先は、横浜市中央卸売市場本場や湘南藤沢地方卸売市場の割合が高いが、販売先からの要望が高い地場野菜を調達するために鎌倉青果を併用し、年間1000万円程度を同社から購入している。小川商店によれば、納品先の外食業者のなかにはいちばブランドを指定して発注してくるものも多く、このため鎌倉青果は不可欠な仕入先であるとともに、同社にはいちばブランド品でなくても新鮮な地場産青果物が入荷していることも魅力であるとしている。

以上、鎌倉青果にいちばブランド品を出荷する生産者と購入する事業者の双方からその利用状況と評価を確認したが、いずれについてもブランド品に対して高い評価がなされていた。

7 おわりに

本稿においては鎌倉青果地方卸売市場の卸売業者である鎌倉青果を事例に、同社による「鎌倉いちばブランド」確立に向けた取り組みについてみてきた。その結果、取扱額の減少によって一時は営業の継続が危ぶまれた同社は、いちばブランドの取り組みに加えて「フード・アクション・ニッポン・アワード」における受賞もあって、新規出荷者や販売先が増加するだけでなく、市場における取引単価の上昇がもたらされ、その結果は取扱額の増加となって現れていた。それに加えて、出荷者においてもいちばブランドの認証を取得することによって、出荷額の増加に結びついていることは容易に想像されるところである。

それと同時に、鎌倉青果で青果物を購入する流通業者にとっても、納入先や消費者のいちばブランドに対する支持もあって、経営の活性化に結びついていることは間違いのないところであろう。

しかし、冒頭でも述べたとおり本稿で検討した事例は規模的に小さく、また取り組みを開始してから時間的な経過が短いこともあって、取り組みに対する最終的な評価を行うにはいささか時期尚早であるかもしれない。しかし、将来的な継続に課題が多いとされる都市近郊農業に対する活性化策として、鎌倉青果によるいちばブランドの確立に向けた取り組みは検討に値するものということができる。



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