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調査・報告 (野菜情報 2020年1月号)


インショップ型地産地消の取組実態
~ NPO法人「のら倶楽部」の活動事例から~

 愛媛大学 社会共創学部 特命教授 香月 敏孝

【要約】

 愛媛県は野菜の地産地消活動が盛んである。県内に展開している大型農産物直売所による効果が大きい。しかし、もう一つ無視できないのが、スーパーや生協店舗による地元産野菜の販売が盛んなことである。本稿では、こうした動きをけん引しているNPO法人「のら倶楽部」のユニークな活動を紹介していく。同法人は、地産地消を目指す農家を組織し、スーパーや生協の農産物直売コーナーの企画・運営を請け負っている中間販売組織である。

1 はじめに

本稿では、まず、愛媛県における野菜の地産地消をめぐる実態を農産物直売所の動向を中心に整理した上で、地産地消は農協や第3セクターが設置した農産物直売所ばかりでなく、スーパーや生協でのインショップ販売も盛んであることを指摘する。

次いで、地場産野菜のインショップ販売を促進している愛媛県松山市に所在するNPO法人「のら倶楽部」(以下「のら倶楽部」という)に注目して、その活動の経過と実態を紹介する。

さらに、これらを踏まえ、松山市を中心に愛媛県における野菜の地産地消の実態について改めて整理してみたい。

2 愛媛県における野菜の地産地消の実態と特徴

愛媛県農業の最大の特徴は、かんきつ類を中心とした果樹生産に特化している点である。かんきつ産地形成を行い、県外大都市圏に向け大量出荷を行ってきたことは周知のことである。一方で、それとは対照的なのが野菜作である。野菜は、県内消費の多くを県外産の移入に依存しており、県外市場向け産地形成も活発とはいえない。しかし、こうした状況の下で、直売所を中心とする地産地消の取り組みはかなり盛んである。規模の大きな直売所が展開し、地元向け野菜生産が活発なのも、愛媛県農業の特徴といえる。

日本農業新聞(2017年8月12日)によれば、農協が運営する直売所で売上高が10億円を超える直売所は、全国で39カ所あり、愛媛県にはそのうち四つが所在している。販売金額規模順に、越智今治農協「さいさいきて屋」(21億8000万円・全国第3位)、周桑農協「周ちゃん広場」(20億7000万円・同5位)、えひめ中央農協「太陽市(おひさまいち)」(18億5000万円・同7位)、愛媛たいき農協「愛たい菜」(11億4000万円・同25位)である。そのほかにも、第3セクター系の道の駅での農産物直売所についても、「フレッシュパークからり」(内子町)など、大型直売所が展開している。

表1は、「6次産業化総合調査(農林水産省)」などの結果を用い、農産物直売所における野菜の販売状況について、全国、四国と愛媛県とを比較したものである。2016年、人口1人当たりの販売額は、全国2581円に対して愛媛県は6771円とかなり高い(四国は5717円)。

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さらに、この金額を販売量に換算した上で、粗い推計ではあるが、野菜全供給量に占める農産物直売所の供給割合を求めたところ、全国が7%に対して、愛媛県は18%(四国は16%)となった。すなわち、愛媛県では野菜消費の2割ほどが、農産物直売所から供給されているとみられる。

このように愛媛県における野菜供給に農産物直売所が果たしている役割は大きいといえるが、これは、前述したような大型直売所による効果ばかりとはいえない。地場産の野菜の供給は、スーパー、生協などのインショップでの販売も無視できないほど盛んである。特に県庁所在地である松山市はそうした傾向が強い。

表2は、松山市に所在している主な農産物直売所(単独施設)および農産物産直コーナー(インショップ)の箇所数を示したものである。農産物直売所(単独施設)は農協設置の大型施設「太陽市」(駐車場150台規模)、小型施設2カ所(それぞれ、駐車場30台、駐車場なし)があるが、インショップはそれぞれ、農協系統の食品スーパー11カ所、コープえひめ(生協)が5カ所、ローカルスーパーチェーン「フジ」(注1)が18カ所を運営しているなどである。

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単独施設の直売所と比較すれば、それぞれの規模は大きくはないが、インショップ直売コーナーは市内に分散し多様な形態で展開している。本稿は、このうち、コープえひめに3店舗、イオン1店舗の産直コーナーの企画・運営を担っているのら倶楽部の活動を紹介していく。

注1:愛媛県を中心に多店舗展開しているローカルスーパーチェーンである。食料品ほか生活雑貨、衣類を販売する総合スーパーが主体たる業態である。松山市に所在する店舗のほとんどに、地場産野菜コーナーを設けて、生産者の顔写真を掲げて地場産をアピールしている。コーナー面積は、販売棚の横幅が3~4メートル程度と比較的狭小な店舗が多い。こうした取り組みとは別に、2012年には、地元産の生鮮食品販売に特化した新業態店舗を開業している。店内には、青果物販売用として7メートル×3メートルほどの平台が6基配置されている。

3 のら倶楽部の活動

(1) のら倶楽部の組織概要

のら倶楽部は、松山市鷹子たかのこ町に事務所をかまえるNPO法人である。松山市役所の南東、直線距離で6キロメートルほどに位置している。この法人(代表・たかいちとく氏、70歳)は、会員農業者数が146名(2019年度当初)、2018年度の実績で野菜など農産物1億円ほどをスーパー、生協などで販売している組織である(図1)。

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直売コーナーでの販売方式の多くが、生産者と販売コーナーを運営している企業などとの契約に基づき、個々の生産者が農産物の売り場に持ち込んで販売を委託するというものである。それに対して、のら倶楽部は、生産者会員が倶楽部の施設事務所に搬入した野菜など農産物に値付けシールを貼り、依頼があった場合には原体で持ち込まれた農産物を小売包装するなどの商品化作業を施した上で、販売店舗に持ち込み、配荷・陳列するという方式をとっている。このように生産者と販売店舗とをつなぐ中間販売組織として活動していることが、のら倶楽部の特徴である。

この組織がユニークなのは、NPO法人という組織形態をとっている点である。定款によれば、「この法人は、農家とすべての地域住民に対して、農家の生産販売支援事業・生産者と消費者とのふれあい活動を通じて、農業経営の活性化、農業をつうじた環境保全及びえひめ食文化の継承と発展に寄与すること」を目的とし、その事業として環境にやさしい持続可能な農業の推進活動、②農作物の受託販売事業、③農家の生活支援活動、④生産者と消費者の体験・交流活動、⑤その他この法人の目的を達成するために必要な事業―を挙げている。こうした点から、この組織が、単なる農産物販売組織にとどまらず、地域活性化のための多様な活動を指向していることがうかがえる。

では、のら倶楽部の組織運営についてみてみよう。

のら倶楽部は、年1回の総会を開き、重要事項について審議して決定している。その内容は、前年度の事業報告と決算報告、当該年度の事業計画と予算承認などである。この組織で特徴的なのは、正会員は10名で、残り大多数の会員は準会員である点である。10名の正会員から理事4名、監事1名が選任される。このため、総会は、正会員と事務所職員とが参加して、こじんまりと行われている。正会員が10名と少数なのは、設立当初より、少数精鋭で運営するのが目的だからだという。正会員が退会すると、準会員の中から正会員を補充する対応を行っている。

(2) 活動の経過

ア 設立は、2008年 

のら倶楽部のこれまでの活動経過をたどりながら、現時点での到達点を確認し、あわせて、今後の展開方向について検討してみたい。

同法人は、2008年に設立されているが、その前史がある。2000年に農産物の販売、加工などを目的に農業者が出資して設立した「のうみん株式会社」(松山市)が取り扱っていた農産物のうち野菜部門の販売効率が悪く軌道に乗らず、野菜販売事業から撤退することになった。

しかしながら、地元向け野菜委託販売事業の継続を望む農業者たちから、新たな組織設立の機運が盛り上がり、のら倶楽部が設立された。

 

イ 設立後の活動経過

表3に沿って、設立後の「のら倶楽部」の活動経過を追跡してみよう。設立時の会員数が59名であったが、同年度末には80名までに増加し、このうち松山市の会員が60名と大半を占めている。のら倶楽部の販売先は、当初からコープえひめ(3店舗)とジャスコ松山店(2011年からイオン)が中心であるが、コープえひめは前組織時代から取引が多かったが、ジャスコは、のら倶楽部になった後の拡大が大きい(図2参照)。

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のら倶楽部は、販売先確保に努めてきた。障害者福祉施設が野菜ボックスの宅配事業を行うため、野菜を原体で提供していたが、その拡大を図ったのが2008年である。2009年には松山大学生協、松山市学校給食への提供を開始している。一方で、2012年には、コンビニでの販売に挑戦したが、3カ月で撤退している。このほか、年表には掲示していないが、2008年には、コープえひめでの共同購入、2013年、2014年には、ネット販売の可能性を検討しているが、いずれも実現には至っていない。以上のように、販路の拡大は試行錯誤しながら展開している。

販売先別の販売実績の推移を図2に示した。販売額は2012年に落ち込んでいる。この年、学校給食の納入価格10%切り下げと納入量の減少があり、コンビニ向け販売事業の撤退もあった。こうした中、えひめ中央農協の「太陽市」(生産者1000人規模)がリニューアルオープンし、本格的な大型農産物直売所としての地位を確かなものにし、併せて、ローカルスーパーのフジが直売所方式による地元産の生鮮食品販売に特化した新業態である「エフ・マルシェ古川店」(生産者400人規模)が開業している。松山市内における産直をめぐる競合が深まったのである。

こうした状況をのら倶楽部は、コープえひめ、イオンとの連携を深めることで、乗り越えている。コープえひめは、店舗移転やリニュ―アルを機に、のら倶楽部産直コーナーを拡張している(2014年、2015年)。同様に、イオンの産直コーナーも大幅に拡張されている(2016年)。この間、コープえひめ、イオン向けの販売以外の販売実績は縮小している。

以上のような経過の中で、のら倶楽部の対応で特徴的なのは、生産者による店舗での試食販売・餅つき実演(2008年)など生産者と消費者との交流を行っている点である(写真1)。また、取引先である障害者施設と生産者との交流会、のら倶楽部スタッフなどによる生産者援農も行っている(いずれも2010年)。表3に掲示したのは、交流事業の一部であるが、そのほかにも、例えば、学校給食納入開始に当たって、地元の中学校美術部に制作してもらった看板を生産者のじょうに掲げるなどの取り組みを行っている。こうした取り組みが、まさに、NPO法人として地域の活性化を意識した活動となっているといえる。

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一方で、生産者向けの活動として、外部からの講師をしょうへいするなどして、さまざまな勉強会を開催している(写真2)。表3に掲げた農薬についての勉強会(2013年)、食品表示基準変更に向けた勉強会(2018年)のほか、料理研究家による講演、有機肥料に関する勉強会などを開催している。また、2015年から生産者に対して「のらだより」を配布して、販売をめぐる取り組みの成果や倶楽部の交流活動などを紹介している。

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また、のら倶楽部と県、市など地元行政部局との関係も、生産者会員のためにハウスなど導入補助事業(「松山市地元野菜など産地活性化事業」2012年)の申請窓口を務めたり、愛媛県が実施している農業生産者と飲食店などとの交流・マッチング事業(愛媛県中予地方局「中予農産物おみあいプロジェクト」2012・2013年)に参加したりと活発である。

以上のような公益性を帯びた地域活性化の取り組みをしていることが、行政からも評価されているとみられる。このため、松山市農業指導センター(松山市農業の振興と農業経営の安定を図るために、市が設置している研究・指導機関)から紹介されて、のら倶楽部の新規会員となった農業者も少なからずいるという。

ところで、のら倶楽部の会員数(年度当初)は、2014年度には120名までに増加した後、減少に転じたが、販売増加の基調がはっきりしてきた2016年度以降は、再び増加傾向となり、2018年度に122名、2019年度は146名にまで増加している。

ウ 資金調達の経過

次いで、この組織の運営と関連して、資金調達の経過について整理しておこう。NPO法人は、組織の目的に賛同する仲間を集めることができれば、設立は可能であり、出資金を集める必要はない。しかしながら、のら倶楽部は、農産物販売を事業としており、一定の資金確保が必要である。この点についてどのように対応してきたのだろうか。

組織の設立にあたって、会員からの寄付金60万円があり、これを配送車両2台、店舗什器に手当てしている。事務所については、会員の施設を借り上げ、コピー機、事務用品などはリースでまかなっている。また、のら倶楽部は、輸入球根が入っていたプラスチック容器を地元農協から貰い受け、それを生産者の出荷容器として利用してもらっている。のら倶楽部に搬入された容器は、そのまま店舗陳列箱として活用され、それが再び生産者に戻る通い箱となっている。以上のように、事業運営にかかる経費を切り詰めるさまざまな工夫が行われている。

とはいえ、農産物の販売事業に必要な運転資金は、やはり必要である。設立年2008年度末の財務状況は、正味財産は約40万円であったが、固定負債(長期借入金)は150万円であり、この負債も会員からの借り入れである。その後、剰余金を積み立てることで、2011年度末には正味財産は80万円近くまで増加した。この資金を使って、冷蔵庫と配送車両2台を購入している。資金が不足した分は、再び、会員からの寄付(37名から41万円)で賄っている。

こうした固定資本の取得を受けて、2012年度から減価償却費の積み立てが始まっている。2014年度あたりから販売額が増加基調となったことから、2015年には長期借入金の返済が始まっている。2017年度末には、正味財産が160万円程度にまで増加している。このことは、必要な固定資本(冷蔵庫、配送車両など)の更新も借入金無しでできるまでに財務状況がよくなっていることを示している。別途、負債については、会員からの短期借入金にも依存することがあったが、これも2017年度以降は、計上されていない。こうした良好な財務状況の実現は、やはり販売金額の伸びに支えられているといえよう。

 活動の現状

のら倶楽部による販売対応については前掲図1に示したが、その詳細な内容を以下、紹介していこう。

ア 会員の加入要件

のら倶楽部は、会員に対して特に資格条件などを設定しておらず、年会費3000円を払うことで加入することができる。加入に際しては、「作付計画表」、「栽培、防除記録」(生産日誌)を提出してもらう。「作付計画表」は、60品目ほどの野菜などリストについて、面積、しゅ・定植時期、出荷予定時期(月別)を記入してもらい、「栽培、防除記録」は栽培品目について、作業工程、使用資材(肥料など)、防除記録などのほか出荷農産物のPR文言を添えてもらう。こうした資料に基づき、のら倶楽部は大まかな販売計画を立てている。

イ 出荷・支払い対応

さらに、生産者には、出荷・支払いなどに関する要項を配布して、具体的な対応を求めている。その要点は次のようなものである。

①出荷準備:生産者は、出荷前週までに倶楽部事務所に、出荷可能品目、数量を連絡する。これを受けて、事務所は必要な調整を行って、生産者に搬入してもらう品目・数量の発注をかける。

②出荷・搬入:生産者は、時45分までに事務所に搬入する。これが原則であるが、当日11時までの搬入(午後の店舗配送に充当)や前日の搬入(翌日売り)にも対応している。また、生協店舗については、生産者が直接、店舗に搬入することも可としている。

③清算:生産者への支払いは、月末締め・翌月末支払いとし、販売金額(税込み)から店舗手数料(15%)、のら倶楽部手数料(15%)、ラベル代(点当たり2円)を控除して支払う。

④その他:生産者は、原体のまま事務所に搬入することも可能であるが、その場合は、事務所職員が小袋包装作業(有料サービス)を行う。依頼があれば、ポップ制作も実施している。また、これも生産者からの要望があれば包装資材の供給も行っている。生産者が包装することが多いが、どのような資材を使って包装するかについては、生産者個々の判断に任せている。

ウ 販売品目別売り上げ

図3は、のら倶楽部の販売品目別売上構成(2018年度)を示している。併せて、図には、これら野菜の松山市中央卸売市場での品目別占有割合を掲示している。これで分かるように、のら倶楽部では、トマト、ブロッコリー、きゅうり、さといも、白ねぎ、といった野菜品目が販売上位を占めている。これらの品目は、総じて労働集約的な作物であり、生産者は狭小な経営耕地にあっても収益が上がる営農をめざしていることがうかがえる。一方で、たまねぎ、キャベツといった重量野菜は、松山市中央卸売市場での品目別占有割合と比較して販売割合が低く、地場野菜としての位置付けは高くはない。

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販売割合が高い品目のうち、トマト、きゅうり、さといもは、松山市中央卸売市場においても愛媛県産の入荷割合が高い。このため、のら倶楽部による店舗販売にあたっては、単に地場産ということだけではなく、完熟、新鮮、形状などの品質をよりアピールして販売していく必要があるといえる。ブロッコリー、白ねぎはスーパー店舗などで、それぞれ徳島県、鳥取県といった県外産の販売が多い。

のら倶楽部のスーパー・生協店舗への配送は、軽ボックスカー2台を使って、朝と昼の2回である。午後の販売対応は、午前中の売れ行き状況を見ながら行っている。のら倶楽部の職員は、8名(2018年度、2019年度は9名)で、事務担当2名が正職員、6名がパート職員である。職員のうち7名までが女性である。1月1日、2日を除き、年中無休で営業しているため、職員が順番で休みをとるローテーションを組んで対応している。

この職員たちが、各店舗での販売スペースにあわせて、地場産販売コーナーのコンセプトを明確にし、ポップを使うなど顧客目線でより多くの品目を見てもらい、売上向上につながるような品目陳列レイアウトを考案するなど、さまざまな工夫を凝らしている。このため、のら倶楽部の場合、生産者が直に店舗に搬入することが多い他の直売コーナーと比較して、商品が整然と陳列されている印象を受ける(写真3)。

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また、野菜など農産物の個包装について、のら倶楽部が生産者の依頼を受けて包装する場合は、ぼうどんフィルム袋を使って内容物がよく見え、かつ見栄えがする包装となるように意を用いており、生産者自ら包装する場合にも、そうした対応を勧めている。これらの一連の商品化作業は、主婦層を中心とする女性の視点を生かしたマーケティング対応といえよう。このように、職員たちは、店舗ごとの売れ行きなど販売に関する情報を共有化しており、そうした情報を基に、生産者会員からのさまざまな問い合わせや相談に対して、的確なアドバイスができるように努力している。

なお、最終的に店舗で売り残りが生じた場合には、それらを持ち帰り、のら倶楽部事務所に設けている無人販売所で販売している。少しでも販売を拡大し、それを生産者に還元しようという取り組みである。

エ 販売店舗の立地環境

最後に販売店舗の立地環境についてみてみよう。図4は、松山市の中心部を示した地図である。市役所本庁が管轄するA地区は、旧市街地であるが、人口は13.1万人(2019年9月末、以下同様)である。また、A地区を囲むB地区(B1~B9地区、各地区は市役所支所単位)の人口は24.1万人で、A地区と合わせると37.2万人となり、松山市の人口(50.9万人)の74%を占める。市役所を中心に半径6キロメートルほどの比較的狭い範囲に、松山市の人口が集中している。このうち、A地区は1世帯当たりの世帯員数1.78人と単身世帯が多いのに対して、B地区は2.26人であるから、生鮮野菜購入層としては、家族世帯が多いB地区の方がより厚みがあるといえる。

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松山市の農産物直売所、直売コーナーの多くは、A、B地区に立地している。えひめ中央農協の大型農産物直売所「太陽市」は、A地区、JR松山駅にほど近い地点に立地している。全国的にみれば大型直売所は、都市郊外に所在していることが多いが、市街地に立地している点で特異である。A地区には、ほかにスーパー「フジ」やホームセンター「ダイキ」の直売コーナーなどが営業している。

のら倶楽部事務所は、B3地区に所在し、同じく生協店舗(注2)の一つが同地区にある。ほか生協2店舗はB5、B9地区に、スーパー店舗はB4地区に立地している。以上のように、店舗販売は、市南部のB3、B4、B5地区が中心となっている。この南部3地区は1970年当時は、地区面積のほぼ半分を農地が占めていたが、南部環状道路の建設などに伴う都市・住宅開発によって、人口が急増し、その過程で農地面積は大幅に縮小している。とはいえ、なおもって2015年には地区面積の1割程度は農地として存続している。こうした農地での野菜生産の一部が産直コ―ナーでの販売に繋がっている。南部地区の中でもB4(石井)地区は、5.9万人と人口が多く、産直コーナーは、のら倶楽部のイオン店舗のほか、スーパー「フジ」店舗(うちつは前出の新業態)、農協系スーパー2店舗、ホームセンター「ダイキ」1店舗などが展開する地場産販売の激戦区となっている。

こうした状況の中で、のら倶楽部は、前述のような販売方式で、他店との差別化を図っているといえよう。

注2:のら倶楽部が野菜などを販売しているコープえひめは、市内に5店舗あり、のら倶楽部以外にも、西予市野村町の産直グループ「百姓百品」の産直コーナーを設けている。店舗の所在地は、図4のB2、B5、B8地区である。すべての店舗に産直コーナーを設けることで、スーパーなどとの差別化を図っているといえる。

4 おわりに

松山市における地場産野菜の販売は、直売所だけでなくインショップでも盛んである。本稿では、そうした実態の一端について、のら倶楽部の活動に焦点を当てて紹介してきた。このような取り組みによって、松山市では、消費者は、身近にある直売所や直売コーナーで新鮮な地場産野菜を購入した上で、不足分をスーパー店舗などで買い足すといった買い回りができ、野菜購買の選択幅を広げている。

一方で、地場産野菜を生産している農業者は多様である。従来から近郊野菜作を営んできた農家はもちろんのこと、無農薬栽培などこだわりをもった栽培方法に挑戦している若手農業参入者、趣味的な園芸活動の延長として、あるいは年金だけでは不足する所得を補うために野菜生産を開始するサラリーマン退職者など、である。

この点に関わって、産直に取り組んでいる農業者の中で、のら倶楽部の場合は、比較的規模の大きい野菜経営を行っている生産者が多い。規模が大きいために、多くの直売所を回って出荷したり、個包装することに負担を感じる生産者に代わって、配送、個包装などの作業を請け負っているのが、のら倶楽部である。

今後ののら倶楽部の展開方向について、髙市代表は、生産者にはそれぞれの技術を生かしてもらって、品質の高い品目を周年的に供給して欲しいと述べている。品質が良い品目が販売店舗で一定の割合を占めていることが、産直コーナー全体の売上向上にもつながるという。また、今後は、野菜だけではなく、地場産で食味の良い果実の販売も増やしていきたいという。これも販売拡大のための戦略である。今後ののら倶楽部の展開が注目される。

(付記)

本稿とりまとめのために実施した現地実態調査(2019年9月18実施)では、髙市徳治氏のほかのら倶楽部職員の髙市佳奈氏に対応いただき、貴重な情報を収集することができました。厚く御礼申し上げます。

引用・参考文献

(1)NPO法人のら倶楽部(各年度)「総会資料」。

(2)愛媛県(2018)「産直市ガイドマップえひめ(改訂3版)」。

(3)フードくるむ(2013)「特集 市場の活気、店内で再現―株式会社フジ」(「WEBフードくるむ」バックナンバー21)。

(4)山藤篤・香月敏孝(2018)「大規模直売所の運営と効果」(『愛媛大学社会共創学部紀要』2(1))

(5)山藤篤・香月敏孝(2018)「地域活性化の課題と展望―愛媛県西予市「百姓百品」の実践から―」(地域活性学会『地域活性研究』9)



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