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〔特集〕さらなる加工・業務用野菜の安定生産を目指して (野菜情報 2019年12月号)


加工事業を統合した大規模野菜経営の展開~ワールドファームを事例として~

 東京農業大学 国際食料情報学部 国際バイオビジネス学科
 嘱託教授 佐藤 和憲

【要約】

 加工・業務用野菜の周年安定的な供給が求められているが、茨城県つくば市に本社を置く有限会社ワールドファームは、北は秋田から南は熊本に至る14カ所に露地野菜の直営農場、合弁法人、委託生産を展開し周年的な生産体制を確立している。さらに生産した野菜の多くを、直営工場で生鮮カット野菜と冷凍野菜に加工することにより、高付加価値を得るとともに価格変動を回避しており、これが急速な事業拡大につながっている。

1 野菜産業の直面する課題

野菜を素材としたサラダやデリカの消費が増加しており、その原料としての加工・業務用野菜の需要が増大している。これに対応して野菜をめぐる川上生産・出荷から川下(加工・流通)に至るプレーヤーが連携したサプライチェーン物流とバリューチェーン価値連鎖の確立が課題となっている。しかし、わが国ではチェーンの始点である生産・出荷段階において、加工・業務用野菜に求められる低コスト、周年安定供給などのニーズに応えられる野菜作経営のビジネスモデルが未確立であることが問題である。

そこで、本稿では野菜の大規模生産のみならず一次加工まで統合化している事例として、茨城県つくば市に本社を置く有限会社ワールドファーム(以下「ワールドファーム」または「同社」という)を対象とし、その実態調査を通じて加工・業務用野菜のニーズに応え得る野菜作経営のビジネスモデルの在り方を検討する。

2 ワールドファームの展開過程と現況

(1) 設立と事業展開

ワールドファームは、2000年茨城県つくば市に設立された農業法人(農地所有適格法人)であるが、代表取締役の上野裕志氏はテニスショップ経営から農業参入したという異色の人材である(写真1)。上野氏は20世紀の末、知人を通じてつくばみらい市のある農家が新しい形の農業をやりたいと考えているとの話を聞き、農業も生産だけでなく生産物の売り買いもあるので、やり方次第では自分にもできるのではないかと考え農業への参入を決意した。隣接するつくばみらい市で農地を借地して、露地野菜キャベツを生産し、カット野菜メーカーに原体のまま納品しようと考えていたが、結局、自分たちで加工芯取りして、総菜メーカーに販売する、つまり当初から6次産業化に取り組むことになった。

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その後は、表のような経過を辿り急速に事業展開してきた。

2002年には、つくば市の現本社に茨城工場を建設し、本格的に加工事業を開始した。原料キャベツは春と秋の自社生産を基本としながら、夏季は群馬県の嬬恋村、冬季は愛知県の渥美地域からも調達することにより周年加工を可能とした。

2007年10月には、熊本県大津町に支店を設置し、ほうれんそう、こまつなの生産と冷凍加工を開始した。翌年には隣接する大分県竹田市荻地区にじょうを確保しほうれんそうの生産を開始した。

2012年には、鳥取県倉吉市との協定を締結して支店を設置し、現地でのごぼう、キャベツなどの生産を開始した。2015年には同市に冷凍工場を建設して冷凍千切りごぼう、冷凍ささがきごぼう、冷凍ほうれんそう、冷凍こまつなの製造を開始した。

2014年月には社内外に向けて「アグリビジネスユートピア構想」を発表した。これは、野菜の生産、加工、販売を中心として、一定の圏域内で農業振興、地域経済の活性化、雇用創出、循環型社会を実現することによって農業の理想郷(一定地域内で農業に係る事業をすべて完結できる事業モデル)を築こうとするもので、ワールドファームはこの構想に基づいて全国的な事業展開を図ることとした。

2015年月には広島市に本社を置く電気工事関係の株式会社中電工との業務資本提携に合意し、同年11月には株式会社中電工ワールドファーム出資総額億2000万円を合弁企業として設立し、キャベツ生産などに乗り出した。

また、この間、茨城県常陸太田市、同筑西市、石川県能登町、広島県庄原市などと野菜の生産、加工、販売に関する協定を締結し、農場を設置し野菜生産に乗り出した。さらに最近では、埼玉県深谷市、兵庫県姫路市、栃木県芳賀町と協定を締結している。

(2) 現況

現在の経営概況は表2に示す通りで、資本金は5500万円と比較的大きい。従業員75名は全て正社員で、表のように全国の農場と工場で勤務している。事業は野菜生産部門と加工部門に分けて考えられるが、同社の組織図上図1は茨城県つくば市の本社の下に熊本、鳥取、石川の各支店があり、本社と各支店の下に農場と加工場が付いている形態をとっている。

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年間売上は近年急速に拡大しており、2016年月期に10億5000万円であったのが2019年月期には16億7000万円と大幅に伸びている。

野菜生産は、表3のように全国14農場の合計282ヘクタールの経営耕地中電工ワールドファームを含むで、キャベツ、ほうれんそう、ごぼう、こまつな、トマト、その他を合わせて合計513ヘクタール(その他に提携先100ヘクタールを含めると613ヘクタール)を作付けしており、単独の野菜作経営としては全国でも最大級の生産規模と見られる。これらの農場で生産された野菜は、その多くが冷凍野菜とカット野菜に加工され、加工・業務用として外食・中食向けとして問屋などを通じて販売されている。このうち約割が冷凍野菜、割がカット野菜、残り割が原体(青果)での販売となっている。

以上のように、ワールドファームは加工・業務用の野菜を事業領域とし、生産事業では品目を徐々に増やしながら全国各地へと水平展開するとともに、カット品、冷凍品の製造といった加工事業へと垂直展開するといった事業展開を示している。

3 事業体制

(1) 生産体制

野菜の生産事業は、品目をキャベツ、ほうれんそう、ごぼう、こまつなの品目に絞り込み、何れも農場品目当たり最低ヘクタール、平均22ヘクタールの大面積を栽培している。こうした品目を絞り込んだ大面積栽培は、農作業の効率化だけでなく、資材調達の低コスト化、さらに販売面で大ロット販売による優位性にもつながっているとみられる。ただし多数の地権者からの借地であることもあり団地の圃場面積は決して大きくはない。例えば茨城農場つくば地区の場合、平均32アールである。

農場は表のように北は秋田県から南は熊本県まで、14カ所に開設されている。こうした広域化によって、生鮮カット加工場と冷凍加工場は、最寄りの農場から、ほぼ周年的に野菜を調達できる。このことは同時に、同一時期にも異なる立地条件の農場が複数配置されていることになり、天候などによる不作などのリスクを最小限に抑えることができている。この点は特に生鮮カット品の多いキャベツでメリットが発揮されていると見られる。

品目別にみると、表のようにキャベツはほぼ全ての農場で生産されており、その作付面積は合計216ヘクタールで、全社的な広がりを持つ最も面積の多い品目である。ほうれんそう合計156ヘクタールとこまつな合計126ヘクタールは商品特性、栽培特性とも似ているためか、何れも石川、兵庫、鳥取、大分、熊本の農場で生産されている。ごぼう合計100ヘクタールは鳥取、トマト10ヘクタールは茨城の農場でのみ生産されているが、このうちごぼうは冷凍用で鳥取で集中的に大量生産されている(表)。

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こうした全国展開を進めるためには、現地との良好な関係を築いて優良農地、工場用地および雇用を確保する必要がある。このため進出予定地の自治体とは野菜の生産、加工、販売に関する連携協定を結び、場合によっては現地での栽培試験を経てから、農場開設、工場建設へという手順を踏んでいる。

ワールドファームは一般には困難とみられている野菜の生産コスト削減に取り組んでいる。まず人件費については、従業員が圃場作業と工場作業を兼務し、農作業にありがちな適期待ちや手待ち時間を加工作業に仕向けて有効利用し、生産物・製造物当たりの人件費を減している。また、社内向けを主とした加工用は青果出荷用よりもサイズを大きくし単収10アール当たり収量を向上するとともに、また裂球や傷害球などの規格外品や収穫残もできるだけ利用することによって重量当たりのコストを低減している(写真)。また、物流費については、収穫用コンテナを繰り返し利用して段ボール代などを削減するとともに、圃場を加工場からおおむね10キロメートル圏内に配置することにより社員によるトラックでの搬入を可能とし運送の外注を削減している。

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(2) 加工体制

加工事業は、商品特性の異なる生鮮カット品と冷凍品の二本立てとなっている。このうち生鮮カット品は、キャベツの芯取りとみじん切りの2種類で、茨城本社工場で製造されている。原料は何れも原則として本社周辺の茨城県、栃木県、埼玉県および秋田県の社内農場や提携農家から調達されている。カット作業は衛生管理された加工場内で行われているが、芯取りキャベツは包丁を用いた手作業であり、みじん切りには業務用のみじん切り機が用いられているが手作業に依存する部分が多い(写真4)。

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冷凍品は、冷凍ほうれんそう、冷凍こまつな、冷凍千切りごぼう、冷凍ささがきごぼうの4種類で、冷凍加工場は鳥取県倉吉市と熊本県大津町に設置されている。このうち鳥取の冷凍加工場は、冷凍ほうれんそう、冷凍こまつな、冷凍千切りごぼう、冷凍ささがきごぼうの4種類を、熊本の冷凍加工場は冷凍ほうれんそう、冷凍こまつなの2種類を製造している(写真)。原料は、何れも周辺の農場で生産された野菜を使用している。鳥取と熊本の冷凍工場は、冷凍後の品質低下を最低限に抑えられるIQF(注1)冷凍機によるバラ凍結を行っている。さらに鳥取工場ではスチームブランチング(注2)を使用して、さらなる品質向上に努めている。

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加工品の製造は、顧客からの仮受注を受けて、原料を生鮮カット品は秋田、茨城、栃木、埼玉の農場、冷凍品のうちほうれんそう、こまつなは鳥取または熊本の農場、ごぼうは鳥取の農場で生産することから始まる。これらの原料から製品別の生産計画に基づいてカット品と冷凍品を製造する。日々、現場からの日報により使用した原料、機器、資材を記録するとともに、在庫チェックを実施している。大手冷食メーカーの納品業者基準をクリアしている。また生産のところでも述べたように、加工場のある支店の従業員は農場作業と加工場作業の両方に携わることになっており、その時々の天候や作業状況によって臨機応変に対応している。加工場の操業度を優先して、野菜の作型や面積の調整、外部から原料調達、逆に受託加工するようなことはせず、あくまで農場の立地条件に応じた作型で作付け、適期に収穫したものを、最寄りの加工場で生鮮カット品または冷凍品に加工して販売するといったスタイルを守っている。このように農場にできるだけ近いところで加工することにより、物流経費をかけずに原料を集荷し品質の良い状態、品質の安定した状態で加工できるとしている。

なお、売上構成では加工品がを占めるが、ワールドファームはあくまで生産事業を主幹事業としている。加工品として販売するメリットは、価格の安定化、廃棄ロスの削減(青果規格外品の活用)、高付加価値による輸送費負担の軽減を通じて売の安定と向上につながるためとしている。

注1:Individual Quick Frozen の略で、個別急速冷凍のこと。

注2:ブランチングとは野菜や果実を熱水や蒸気で短時間加熱して酵素の働きを弱めることにより品質低下を抑制することで、その中でもスチームブランチングは蒸気によるブラチングのことで、短時間で処理でき、水溶性成分の溶脱が防げるので、熱水を用いたブランチングより品質低下が抑えられる。

 

(3) 販売体制

ワールドファームが販売する野菜は、冷凍品、生鮮カット品、青果品の3ジャンルに分けられるが、売上構成では先に述べたように冷凍割強、カット割弱、青果割強弱で冷凍品のウエイトが高い。用途はいずれも基本的に業務用で事業者への卸売のみである。カット品のうち芯取りキャベツは、主に総菜メーカー、コンビニベンダー向けに販売されている。みじん切りキャベツは主に餃子メーカーなど向けである。冷凍品は、大手商社、食品メーカー、外食向けである。販売チャネルとしては、全体の約割は商社を通じた販売となっている。ただし販売会社のオンリージャパン社経由の取引も約割あり、将来はこのチャネルを伸ばしていく計画と見られる。

冒頭でも述べたように国産野菜冷凍品の需要は高まっており、現状の製造量の約18倍の引き合いがあるという。しかし、ワールドファームは経営理念、販売ポリシーを理解していただけるお客様と取り引きすることにしており、発注に応じて外部から原料を入れて増産することはしていない。

4 経営ビジョンと経営戦略の特徴

ワールドファームは経営ビジョンとして「農業の抱えるK(きつい、汚い、危険、稼げない)を、新K(簡単、感動・感謝、稼げる、家族のために)に変え、儲かる農業を実践しながら次世代を担う若者を育て、農業を成長産業として振興する」ことを掲げている。

この理念に則り、まず農作業、加工作業の工程を標準化、マニュアル化し、作業は短時間に集中して行うことにより生産性を高め、残業をしないことを原則としている。このため、適期と天候の影響を受ける農作業でも、変則的ながら週休2日がほぼ実現されている。また、稼げる農業を実現するために産地で野菜に付加価値を付け物流コストを削減するため加工事業に取り組んでいる。

これらの他に、同じ作業員が農作業と加工作業をシフトとすることによる人件費の削減、コンテナ利用による梱包費の削減、加工場周辺に農場を配置することによる輸送費の削減、加工用として利用可能なレベルまで防除回数を減らすことによる防除費の削減、加工用としてサイズを大きく育てることによる収量の向上、および加工用として可食部をできるだけ利用する、などを掲げている。

さらに、野菜の国内外の需給動向と調査データに基づき、食品メーカーなどが大ロットの安定供給を長期的に持続することを望んでいることを把握し、これに対応するために、①行政と提携した大規模農地の確保②南北の気候差や平地と高地の標高差を利用した産地間リレー全国展開によるリスク分散、冷凍加工による需給調整 ③担い手育成の確実な実行を推進している。こうした野菜の国産化は、耕作放棄地の解消と雇用創出、担い手育成につながるとしている。

このような経営ビジョンの下でどの様な経営戦略を展開しているのだろうか。ホームページや文書には明記されていないが、経営実態から整理すると次のように整理できる。なお、ここでは経営戦略を事業領域、経営資源、競争優位性、相乗効果の4つの側面から整理する。

事業領域は、先にも述べたように加工・業務系顧客への自社産野菜キャベツ、ほうれんそう、ごぼう、その他の冷凍品、カット品、青果としての提供である。近年、在庫が可能でロスが出にくい冷凍品の需要が高まっている。ただし、冷凍野菜は輸入品が大半を占めていることが、安全性や消費者イメージにおいて問題であった。この点、国産品は品質が良く安全性も高いが、高コスト=高価格が難点であった。この問題にワールドファームはチャレンジしているといえよう。

経営資源については、他産業での経営実績のある役員と全員が正社員採用のモチベーションの高い従業員から構成される人材、周年的な原料調達が可能な多様な栽培条件を有した全国の農場、高品質な冷凍品製造が可能な鳥取と熊本の冷凍工場、農業界だけでなく異業種や官公庁にもアンテナを広げた情報網およびファンドや社債も活用した資金調達力として特徴づけられる。このうち人材については、若者を正社員として採用し、入社後の年次によるキャリアパスと処遇を示しながら育成している。ちなみに現在、従業員の6割弱が29歳以下であるが、離職率は10%未満とのことである。

競争優位性については、近年ニーズが高まっている国産野菜の冷凍品やカット品を大ロット、低コストで供給できることであろう。製品の低コストには、まず原料の低コスト化が不可欠であるが、ワールドファームでは露地での適地適産による多収化を図るとともに、無駄な作業は行わないことにより労働コストを抑制し、外観に傷や割れなどのある個体でも可食部分はできるだけ利用することにより歩留まりを上げることなどを通じて原料コストの低減を図っている。また、上位3品目の作付面積は何れも100ヘクタールを超え、原料ベースではキャベツ8000トン、ほうれんそう・こまつなでも2000トンを超えていると推定され、ロットの大きさも強みである。

相乗効果については、まず生産事業と加工事業を統合化して野菜を価格の安定している冷凍品、カット品として販売することが売を安定化させているとともに、加工品の品質と安全性の担保にもつながっている。さらに農作業と加工作業の組み合わせにより労働の効率化を図っていることも上げられる。

なお、ワールドファームでは先に述べたように「アグリビジネスユートピア」構想を打ち出している。アグリビジネスユートピアとは、「大規模農場の中心に加工工場を設置することで地域活性化を図るとともに、循環型社会の形成などと合わせていく農場を全国に約100カ所設置していくことを目指すプロジェクト」としている。創業以来ワールドファームが進めてきた茨城、鳥取、熊本への加工場設置と周辺地域への農場展開は、正にこのプロジェクトに沿ったものといえよう。さらに、このプロジェクトは日本農業の抱える担い手不足、農地の遊休化などの問題を解決し消費者ニーズに応えるために、「地域を活性化させるだけでなく、50年後の日本の農業を支える担い手を育てることを最終目的としています」とされている。つまり、このプロジェクトは自社の長期的な発展だけでなく、日本農業の再生にも寄与しようとするもので、長期の経営戦略であるだけでなく社会的責任をも示すものとも理解できよう。

5 まとめ

最後にワールドファームのビジネスモデルとしての特徴を整理するとともに、今後の課題を検討する。なお、ビジネスモデルの定義については諸説があるが、ここでは①顧客・顧客との関係 ②製品の価値 ③販売チャネル ④経営資源 ⑤事業活動 ⑥パートナー ⑦収益・コスト構造点をビジネスモデルの要素として整理したい。

(1) 顧客・顧客との関係

主力商品である冷凍品と生鮮カット品の最終的な顧客は、加工・業務用の食品メーカー、コンビニベンダー、外食産業などである。またスーパーマーケットなどの小売業者も青果品の顧客にはなっている。ただし、コンシューマーパックは製造しておらず、バルク品の消費者向け販売も行っていない。

(2) 製品・サービスの価値

冷凍品の価値は、鮮度の、旬の野菜の栄養・風味などをそのまま履歴が明確で安全性の高い製品を相対的に低コスト、大ロットで供給できることである。日本国内にも、契約取引で国産原料を集荷して冷凍野菜を製造している冷凍食品メーカーもあるが、自社産原料を用いて製造している農業法人または冷凍食品メーカーは少なく、ここにワールドファーム製品の価値源泉があるといってよかろう。今後、ワールドファームがアグリビジネスユートピア構想のプロモーターとしての活動を進めていけば、農業法人・農家や関係自治体および食品関連業者をクライアントとしたビジネス展開もあるのではないか。

(3) 販売チャネル

販売チャネルについては、現状では商社帳合が約割を占めているが、高い品質と安全性を備えたワールドファーム製品の商品特性を考慮すれば最終顧客との関係性を強めていく必要性は高く、子会社の販売会社を通じた比率を高めていくことになろう。

(4) 経営資源

まず人材については事業経験のある経営者とモチベーションの高い従業員、農地と施設については周年調達、リスク分散のできる全国の農場と高品質の冷凍品を製造できる工場施設、さらに情報網、資金調達力などがあげられる。今後、事業拡大に伴い、これら資源の重要性はますます高まるとみられるが、中でも本社での企画・管理、現場ではより専門的な能力を有した人材の獲得が課題となろう。

(5) 事業活動

単一企業として野菜の生産から加工、販売に至るプロセスを垂直統合していることが何よりの特徴であろう。こうした垂直統合は、従来、食品加工の立場からすると原料調達面でリスクとコストが高く、農業の立場からすると農業生産リスクと販売面でのリスクが高いと見なされてきた。この点について、工場の操業度を過度に重視せず農場の立地条件に応じた原料生産と社内供給および契約農家からの供給を原則とし、また農作業と加工作業の柔軟なシフトによる効率的な労務体制をとることにより克服してきている。

今後、柔軟な労務体制を生かしながら、事業規模の拡大に伴う製品管理やコスト管理の高度化、専門化の必要性にいかに対処するかが課題であろう。

(6) パートナー

現状では最終顧客への販売は約割が商社経由であり、大手を含めた商社が販売上のパートナーとしては大きな役割を果たしている。また、全国各地への農場の開設や加工場の設置に伴い、各地の自治体と連携協定を結んでおり、資源調達面でのパートナーとなっている。さらに、資金調達においては、政策金融公庫および大手都市銀行もパートナーになっている。今後、アグリビジネスユートピア構想をさらに展開していくには、市町村府県、国との連携関係を一層強化することが必要になろう。

(7) 収入・コスト構造

収入源はほとんどが野菜の冷凍品、生鮮カット品および青果品の販売収入というシンプルな構造である。そのため、これらの需要や価格の変動の影響を受けやすいはずであるが、冷凍品の価格が安定していることが強みである。コストについは今回分析できなかったが、野菜生産、加工とも手作業に依存する作業が多いため人件費の比率が高いとみられる。従って、一方で付加価値率の高い製品・サービスとチャネルの開発を進めるとともに、他方では情報技術なども取り入れた機械化とシステム化による人件費の抑制も長期的な課題であろう。

参考文献

(1)C.W.ホファー・D.シェンデル著,奥村昭博訳『戦略策定-その理論と手法』千倉書房,1981 

(2)A.オスターワルダー・I.ピニョール著,小山龍介訳『ビジネスモデルゼネレーション ビジネスモデル設計書』翔泳社,2012



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