[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

調査・報告(野菜情報 2019年10月号) 


冷凍野菜事業者をめぐる情勢~国産冷凍野菜の生産・消費拡大に向けて~

野菜業務部管理課(現鹿児島事務所)北原 俊樹

【要約】

 国産冷凍野菜の生産および消費拡大には、さまざまな課題があるものの、農作業の機械化を推進するなどして原料野菜を安定的に確保した上で、実需者のニーズに合わせた製品を供給していくなどの対応を図ることで、販路拡大の可能性がある。

1 はじめに

一般社団法人冷凍食品協会などの資料によると、平成元年に約43万トンであった冷凍野菜の国内流通量は、中国産ほうれんそうによる残留農薬問題などの発生を受けて、冷凍野菜を含む冷凍食品全体への安全・安心が疑われた一時期を除けば増加傾向で推移し、平成24年には初めて100万トンを超え、平成30年には約112万トンとなった(図1)。

036a

しかし、国産冷凍野菜の生産量は、平成元年以降、8万トンから11万トン前後で推移していることから分かるように、国内流通量における増加分の大半が輸入冷凍野菜によるものであり、国産冷凍野菜はその増加する需要に応えきれていない。

本報告では、こうした状況を踏まえ、販路の拡大などに成功した事例も紹介しながら、国産冷凍野菜の生産および消費拡大への課題を報告する。

2 冷凍野菜事業者へのヒアリングの実施

機構では、平成25年度に、国産冷凍野菜の生産振興と販路の確保・拡大、野菜の全体的な需給の安定に資する目的で冷凍野菜等需要構造実態調査(以下「平成25年度実態調査」という)を実施し、国産冷凍野菜の生産振興と販路の確保・拡大に向けての課題を明らかにしている。

今回、平成30年11月から12月にかけて、冷凍野菜の原料となる加工用野菜の大産地である宮崎県において、国産冷凍野菜の製造事業者(以下「冷凍野菜事業者」という)の3社を訪問し、

① 平成25年度実態調査において報告されていた課題について、現状ではどのように対応されているか。

 の対応が行われている中で、従来の課題に加えて、どのような課題が生まれているか。

 およびの課題に対応していく中で、国産冷凍野菜の販路拡大の可能性はあるのか。また、その課題は何か。

を明らかにするため、ヒアリングを実施した。

3 宮崎県における加工用野菜の生産概要(産地の生い立ちから成り立ちまで)

宮崎県は、平均気温が高く、温暖な気候に恵まれ、日照時間および快晴日数は全国のトップクラスにあるなど、恵まれた自然条件を有しているものの、大消費地域から距離があるため、以前から野菜の加工が盛んな地域であった(図2)。

037a

宮崎県における畑作の主要作物は、古くはでん粉原料用かんしょであったが、昭和40年代にその価格が低迷したため、多くの業者が他の野菜を利用した漬物加工、缶詰加工に転換した。その後、昭和50年代になると包装技術が進歩したことを契機として、缶詰製品の流通が減少したことにより、冷凍野菜の生産にシフトした。

現在では、加工・業務用として、ほうれんそう、だいこん、にんじん、ばれいしょの生産が多く(図3)、中でも秋から春にかけて収穫される加工用ほうれんそうでは、全国でも有数の産地となっている。

038a

4 国産冷凍野菜の生産に係る課題

ここでは、冷凍野菜事業者へのヒアリング結果をもとに、国産冷凍野菜の生産に係る諸課題について、項目ごとに「平成25年度実態調査において報告された課題への現状の対応」と「新たな課題(今回のヒアリングで明らかとなった課題)」に分けて整理していく。

(1) 原料野菜の安定的な確保

ア 平成25年度実態調査において報告された課題への現状の対応

冷凍野菜事業者では、工場の年間稼動と稼動の平準化を図るため、生産者などとの契約取引により、原料野菜の安定的な確保を進めていくことが課題とされていた。

今回、ヒアリングした冷凍野菜事業者では、高齢化などによる生産者の減少により、安定的な原料調達が年々難しくなっていた(図4表1)。さらに、販売先から安全・安心な製品を求められることを踏まえ、原料野菜は外部調達から自ら生産する方向にシフトしていた

038b

039a

イ 新たな課題

冷凍野菜事業者が農業生産を行う場合には、人手不足やコスト面への対策として、しゅから収穫まで機械化が進められており、効率的な機械の運用を図る必要があるため、農地確保および集積が新たな課題となっている。また、原料野菜の安全・安心を確保するため、施肥や農薬散布などの生産履歴を記録・管理すること、トレーサビリティに取り組むこと、さらにそうした取り組みを証明するため、例えば、GAP(農業生産工程管理)、ISO 9001(品質マネジメントシステム)などの認証を取得することが新たな課題となっている。

(2) 冷凍野菜工場の円滑な稼動

ア 平成25年度実態調査において報告された課題への現状の対応

冷凍野菜の製造には、多くの機器(設備)が必要となることから、その維持・更新に多額の費用が必要となる。特に、冷凍空調機器に冷媒として使用されている特定フロン(HCFC)については、令和2年以降に全廃されることから、ノンフロン型の冷凍空調機器への更新が必要であるものの、多額な費用の捻出が課題とされた。このため、今回も冷凍野菜事業者にヒアリングしたところ、現時点においても、ノンフロン型機器への更新は一部にとどまり、高額な費用の捻出が引き続き課題となっていた。

また、異物除去など一部の作業は、完全に機械化することは難しく、目視、手作業が必要となることから、工場の稼動には、一定の従業員数を確保する必要があるものの、人手不足で従業員が高齢化していることが課題とされていたが、その確保は年々難しくなっており、人手不足・高齢化はさらに進んでいた。

冷凍野菜を製造する工場は生産現場に近いことから、過疎化の進む地域であることが多く、ただでさえ人員の確保は難しい状況にあるが、「冷たい工場の中で、長時間作業をすること」など、厳しい労働条件も人手不足の原因と考えられる。

イ 新たな課題

近頃では燃料代の高騰、ドライバー不足の影響など、流通をめぐる情勢は厳しさを増しているが、冷凍野菜事業者も輸送費の値上げを求められることが多く、コストの増加要因となっている。

(3) 販路の確保

ア 平成25年度実態調査において報告された課題への現状の対応

平成25年度実態調査では、国産冷凍ほうれんそうの主な販売先は、給食事業者、食品卸売会社、量販店などであった(表2)。こうした販売先の多くは、製品に対して、価格の安さよりも「安全・安心」を強く求める傾向があり、今後も安全・安心を担保しつつ、取引先を確保していくことが課題とされていた。

040a

今回、ヒアリングした冷凍野菜事業者の販売先においても、家庭用は食品卸売会社や量販店など、業務用は給食事業者が多く、取引先の安全・安心に対する意識に応え、生産現場から製品の製造に至るまで管理機能を強化し、残留農薬の検査を自主的に行い商品に問題がないことを証明することなど安全・安心を担保する取組みを進めていた(写真1)。

040b

イ 新たな課題

機構が実施した「平成28年度 加工・業務用野菜の実態調査」では、冷凍野菜事業者を含む中間事業者と小売店などの契約取引の内容は、価格だけを決め、販売数量は納品日の直前に販売先から受注するケースが多いとされた図5

041a

今回、ヒアリングした冷凍野菜事業者では、価格だけを先に決めるだけでなく、年間の販売量についても取決めてるケースも見られた。

これは、冷凍野菜がカット野菜と比較すると、長期保存できることから、事業者は次期作分の製造開始まで、在庫を持ちながら販売できる特性があるためである。

しかし、長期的な生鮮野菜の価格高騰が起きた場合には、代替として冷凍野菜の需要が増えることになり図6、次期作分の製造開始を待たずに在庫がなくなる可能性もある。この際に、冷凍野菜事業者が冷凍野菜製品を納入できないことにより、その後、販売先からの取引量減少や、仕入先の変更などにつながりかねない。

041b

販売先が優位な立場にあるケースが多いと考えられる中で、冷凍野菜事業者では、十分な在庫を確保した上で、安定的な供給に対応する必要がある。

5 国産冷凍野菜の販路拡大の可能性とその課題

国産冷凍野菜の販路拡大には、輸入品との価格差があること、供給可能数量が少ないことなど課題があるものの、従来からの安全・安心なイメージに加え、製品に新たな価値を創造する、実需者のニーズに対応することなどにより販路を拡大した事例も見られる。

家庭用製品としては、冷凍ほうれんそうにおいて、「健康(機能性表示)」を加えた商品を販売している事例がある(写真2)。

042a

一方、業務用製品としては、人手不足などにより、原料であるさといもの皮むきが大きな負担となっていた惣菜製造工場に対して、皮むきした「冷凍さといも」の製品を提案し、取引につなげている事例がある(写真3)。

042b

また、国内の惣菜市場の規模は、年々増加傾向にある図7中で、惣菜を作るスーパーなどでは、各店舗での調理にかかる衛生面、調理スペース人員確保などの視点から、原料となる野菜について、カット野菜、キット野菜、冷凍野菜などの使用の割合が高く、今後も人手不足などを背景に、利用は増えていくと見込まれる図8

043a

043b

このように、惣菜市場は国産冷凍野菜の販売先として有望であり、実需者のニーズに合わせた製品の供給を可能とすることにより、販路を拡大できる可能性が十分あると考えられるものの、上記のように、原料野菜の確保、工場での人員確保など、多くの課題も抱えていることから、現状の販路の維持にも苦慮する冷凍野菜事業者も多いと考えられる。

6 おわりに              ~国産冷凍野菜の生産・消費拡大に向けて~

冷凍野菜事業者は、安全・安心な冷凍野菜を安定した価格で、安定して供給することが求められる中で、安定して製品を供給するためには、安定的な原料野菜の確保、冷凍野菜の製造に当たってのリスクの解消、販路の確保・拡大が必要となり、その対応は年々難しくなっている。

一方で、女性の社会進出や高齢化などの進展により、冷凍野菜の需要は増加しているものの、現状では、この増加分は輸入冷凍野菜が担っている状態にあり、国産冷凍野菜はその需要に応えきれていない。

こうした状況の中、国産冷凍野菜の安定的かつ持続的な生産・流通体制の構築を図る上で、これまで挙げてきた冷凍野菜事業者の抱えている課題の解決に向けた取り組みについては、個々の努力だけではなく、業界全体で、また実需者・消費者を含む関係者全体の理解と連携ので進めていくことが不可欠である。

具体的には、国産・輸入にかかわらず、業界全体として冷凍食品の安全管理に努め、冷凍食品に対する消費者の信頼に応えること、原料野菜の安定的な確保のために、担い手への農地集積、作業の機械化を推進するなどして産地を強化すること、農産物の生産には天候不順など管理の難しいリスクが伴うことなどについて、実需者・消費者に理解を求めていくことが必要である。

謝辞

本報告の作成にあたり、ご助言を頂きました東京聖大学の藤島廣二客員教授、石川県立大学の小林茂典教授、またお忙しい中、ヒアリングに協力いただいた宮崎県の各冷凍野菜事業者の皆様に、この場を借りて謝辞を申しげます。

引用・参考文献

(1) 吉田由美、加藤なづき(2007)「宮崎県における冷凍ほうれんそう生産の概要とJAグループ宮崎の取り組み」『月報野菜情報』2007年10月号 独立行政法人農畜産業振興機構

(2) 一般社団法人日本冷凍食品協会(2014~2019)「平成24~29年(1~12月)冷凍食品の生産・消費について」および「平成30年(1~12月)冷凍食品の生産・消費について(速報)」

(3) 独立行政法人農畜産業振興機構(2014)「平成25年度冷凍野菜等需要構造実態調査 報告書」 平成26年3月

(4) 独立行政法人農畜産業振興機構(2016)「平成27年度冷凍野菜等の消費動向調査 調査結果報告書」 平成28年3月

(5) 独立行政法人農畜産業振興機構(2017)「平成28年度 加工・業務用野菜の実態調査 報告書」 平成29年6月

(6) 税田勇(2018)「冷凍ほうれんそうの機能性表示について」『野菜情報』2018年11月号 独立行政法人農畜産業振興機構

(7) 独立行政法人農畜産業振興機構(2019)「冷凍野菜事業者をめぐる情勢」 平成31年2月5日

(8) 宮崎県農政水産部(2019)「統計でみる宮崎県の農業2018(6月更新版)」令和元年6月

(9) 一般社団法人日本惣菜協会(2019)「2019年版 惣菜白書-ダイジェスト版-」

(10) 宮崎県農産園芸課「市町村集計による野菜生産出荷実績並びに計画」



元のページへ戻る


このページのトップへ