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調査・報告(野菜情報 2019年8月号) 


中山間水田地帯における白ねぎ導入による野菜産地形成
~広島県内のJA連携を事例として~

広島大学大学院 統合生命科学研究科 准教授 細野 賢治

【要約】

 中山間水田地帯は、「小規模・自給的農家」層が農業経営体数の60%を占めており、 農業従事者の高齢化が最も進んだ農業地帯であった。米価の下落により収益性が低下した水田作において「小規模・自給的農家」層の農業生産を持続的にするため、広島県では水稲作との複合が可能であり需要が見込まれる白ねぎの産地化が農協主導で進められていた。広島県では、水田転作農家と定年帰農者が地域農業の維持にとって重要な存在となっており、この層の技術水準の向上がカギとなる。縮小再編下の中山間水田地帯では、農協組織は営農指導を前提とした「生産農家の機能的組織化」の一環として、広島県白ねぎ共販のような中小規模産地の形成に取り組むことが肝要である。

1 はじめに

近年における米価の低迷は、東北型水田稲作地帯はもとより、条件不利な中山間水田地帯の家族経営農家に強い負のインパクトを与えており、耕作放棄地の増大や農村集落機能の低下など、農業・農村の存亡自体が懸念される状況にある。一方、青果物産地では、かつて大規模化により大都市市場と強固な結合関係を構築していた農協共販が、農産物価格の低迷や生産基盤ぜいじゃく化によりロット確保が厳しい状況にあり、縮小傾向をみせている。農協共販体制は、中規模家族経営農家層がその主要な担い手であったが、前述の環境変化の下で階層分解が進み、政府が進める「強い農業」「農協改革」などの政策展開とも相まって、新たな展開方向を示す必要性に迫られている。

このような中、耕地面積の89.5%が中山間地域に位置付けられる広島県では、水田転作の一環として広島北部農業協同組合(以下「JA広島北部」という)が平成21年から開始した白ねぎ共販が29年には販売金額が広島県内JA全体で1億8000円にまで拡大した。このような成果は、条件不利地域における農地の維持方策として、あるいは縮小傾向にある農協共販に対して新たな展開方向を示すという点で、注目すべきである。

そこで本稿では、広島県内JAの白ねぎ共販を事例として、中山間水田地帯における農協共販による野菜産地形成の意義と展開方向を関係者のヒアリング調査をもとに明らかにすることを目的とする。

2 中山間水田地帯における農業生産基盤の状況とその変化

(1) 中山間地域率およびコメの特化係数による農業地帯区分

磯辺(1984)は、日本農業の地帯構成を検討するにあたって、賃金と地代をその指標として「低賃金・高地代・農業進展」の「東北型」「高賃金・低地代・農業後退」の「近畿型」に区分した(注1)。それは、高度経済成長期以降の日本農業において、農業条件(地代)兼業条件(賃金)その関係性が地域農業を進展させるか後退させるかのポイントとなったからである。

一方、本稿では、グローバル経済化以降の日本農業について、農業条件の不利性と農業構造が、それぞれの地域農業を「産業的であるか」あるいは「自給的であるか」に性格づけると仮定した。そして、農業条件の不利性を表す指標として、経営耕地面積に占める中山間地域の比率を用い、農業構造を表す指標として、(基幹的作物であるコメの位置付けが地域農業構造を性格づけるとの観点から)コメの農業産出額特化係数を用いた。すなわち、平成12年を基点として、経営耕地面積に占める中山間地域の割合が50%以上である都道府県を「中山間」、50%未満の都道府県を「非中山間」とし、コメの特化係数が1.0以上の都道府県を「コメ多」、1.0未満の都道府県を「コメ少」とした。

12年を基点としたのは、11年に食料・農業・農村基本法が施行され、このことがグローバル経済化時代における日本農政のスタート・ポイントであった点、および日本の食料自給率(供給熱量ベース)が12年前後から40%前後でほぼ横ばいとなっており、この時期が日本の食料需給構造変化のポイントとなっている点に起因している。

図1はこれらの基準をもとに、北海道を除く各都府県を農業地帯区分した結果を示している。「非中山間/コメ多」地帯は、東北、北陸を中心に16県が該当する。国内では有利な農地条件を生かしてコメを商業的に生産する農業地帯と位置付けられる。「非中山間/コメ少」地帯は、関東・東海・四国東部、九州北部の15都府県が該当する。コメ以外の商品作物を生産する農業地帯と位置付けられる。「中山間/コメ多」地帯(中山間水田地帯)は、中国地方を中心に9府県が該当する。比較的不利な農地条件の下、自給的農業を展開する農業地帯である。「中山間/コメ少」地帯は、四国西部、九州南部および長野県、和歌山県などが該当する。早くから傾斜地における商業的農業を確立した農業地帯である。

注1:引用・参考文献(1)参照

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) 中山間水田地帯における農業生産基盤の状況

表1は、農業地帯区分ごとの農業生産基盤および農業構造について、平成17年と27年の数値を比較したものである。

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1経営体当たりの経営耕地面積は、全国的な経営体数の減少とあいまってすべての地帯で増加傾向にあるが、「非中山間/コメ多」を除く3つの地帯の数値が小さい。一方、10アール当たりの農業産出額は「中山間/コメ少」地帯が最も高く、この地帯の農業構造に注目すると、果実および畜産の特化係数が高いことが確認できる。次いで「非中山間/コメ少」地帯の数値が高く、農業構造に注目すると、野菜の特化係数が高い。

一方、「中山間/コメ多」地帯は、1経営体当たりの経営耕地面積が小さく、10アール当たり農業産出額も低いことから、1経営体当たり生産農業所得が最も低くなっている。農業構造もほとんど変化しておらず、構造改善があまり進んでいない状況がみてとれる。基幹的農業従事者の高齢化率(65歳以上の割合)は最も高く、70%を超えており、その持続性が危ぶまれる。

図2は農業地帯区分ごとの販売金額規模別の農業経営体の構成比を示している。経営体数ベースの割合の変化をみると、北海道を除くつの農業地帯とも販売金額50~700万円の「中規模農家」層が縮小し、50万円未満の「小規模・自給的農家」層および700万円以上の「大規模・認定農業者」層の割合が拡大している。中でも、「中山間/コメ多」地帯は「小規模・自給的農家」層の割合が60%近くにまで達している。なお、北海道では「大規模・認定農業者」層の割合が70%近くにまで達している。

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に、販売金額ベースの構成比を見ると、北海道を含むすべての農業地帯において27年における「大規模・認定農業者」層の割合が70%を超えている。一方、「小規模・自給的農家」層の割合は「中山間/コメ多」地帯が最も高く、当該農業地帯の農産物販売金額に対する小規模層の貢献が小さいながらも一定程度存在することが確認できる。

このように、中山間水田地帯においては、農業経営の持続性は深刻な状況に直面しており、収益性を向上させるためには、「大規模・認定農業者」層の生産拡大を期待しつつも、経営体数では60%近くを占める「小規模・自給的農家」層の農業生産を維持し、これらの層から「中規模農家」層に引き上げる農家層を輩出するための農業収益性向上の取り組みが必要となっている。

(3) 広島県の農業生産基盤と農業構造

本稿では、中山間水田地帯における野菜産地形成の意義を検討するにあたって、広島県における白ねぎ導入をその事例として位置付けた。

広島県は、平成27年における経営耕地面積に占める中山間地域率が89.5%であり、都道府県別でみると全国で最も高い値となっている。前掲表1から27年の数値に注目すると、農業産出額特化係数は、コメ1.07、野菜0.59、果実1.38、畜産1.40となっている。また、10アール当たり農業産出額は34.1万円と「中山間/コメ多」地帯の平均を上回っているが、経営体当たりの経営耕地面積が1.15ヘクタールと小さいため、経営体当たり生産農業所得が136万円と「中山間/コメ多」地帯の平均より低い。このような状況とも相まって、基幹的農業従事者の高齢化率は、80.1%と山口県富山県いずれも80.6%)に次いで番目に高い値となっている。

図3は、広島県における農業部門別産出額の推移を示している。農業産出額は昭和59年の1660億円をピークに減少傾向にあったが、平成22年以降、漸増傾向にある。ピーク時からの農業産出額減少の最大の要因はコメ産出額の減少である一方、22年以降の漸増傾向に貢献しているのは畜産物および野菜の産出額増加が挙げられる。

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広島県では、22年12月に「2020広島県農林水産業チャレンジプラン」を策定し、農山漁村地域の産業の核となる農林水産業を実現するため「産業として自立できる農林水産業の確立」を最も重要な目標として取り組んでいる。このプランに基づいて26年11月に策定された「アクションプログラム」では、農業振興にかかる重点品目を設定し、令和年度を目標年度として園芸品目では「キャベツ16億円産地」「アスパラガス10億円産地」「レモン22億円産地」を目標に掲げた。また平成28年月には新たに「ほうれんそう22億円産地」「トマト34億円産地」「ねぎ等45億円産地」を目標に追加した。22年以降の農業産出額漸増傾向にはこのような農業施策の後押しも少なからず影響を与えている。

3 広島県における白ねぎ導入による野菜産地形成

 広島県におけるねぎ生産の状況

広島県はもともと、青ねぎ(葉ねぎ)の生産が盛んであり、広島市西区観音地区は「観音ねぎ」の銘柄産地として知られている。一方、広島県内において白ねぎ(根深ねぎ)生産は、本格的には平成20年前後に開始されており、当県にとっては比較的新しい作物であるといえる。

図4は、広島県における昭和48年以降のねぎ収穫量の推移である。統計上は青ねぎ(葉ねぎ)と白ねぎ(根深ねぎ)の区別が存在しないため、データの制約上、ねぎ全体のものを示している。48年に7300トンであったねぎ収穫量は、平成年に4930トンにまで減少した。その後は横ばいで推移するが、21年から再び増加に転じ、29年には7130トンにまで回復している。

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図5は、広島市中央卸売市場における21年以降のねぎ入荷量の推移を示している。青ねぎは広島県産の入荷量減少がそのまま全体の入荷量の減少につながっている。一方、白ねぎも市場全体の入荷量は減少傾向にあるが、広島県産が漸増傾向にあり、21年に4%前後であった広島県産のシェアは、29年には15%にまで拡大している。

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(2) JA広島北部のねぎ共販開始の経緯

JA広島北部は、安芸高田市、北広島町千代田地区および大朝地区を管轄区域とする総合農協である(図6)。平成30年3月現在の組合員数は1万7490人(うち正組合員1万822人)である。販売品販売高は44億円であり、うちコメ19億8000円、野菜15億4000円、ファーマーズマーケット億6000円などとなっている。

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当JAにおける白ねぎ生産開始のきっかけは、北広島町千代田地区の産直グループに白ねぎ生産者がおり、採算性が高かったことからJAが安芸高田市高宮町で平成19年に試験栽培を開始した。その後、高宮町を中心に口コミで生産が拡大し、21年にJAにおいて栽培品種・生産方法の確立とともに生産者54人で生産部会を設立し、白ねぎの産地として有名な鳥取県と同じ規格で広島市中央卸売市場に個選共販にて出荷を開始した。22年には部会員数が101人に達し、同時期に広島県の補助事業を活用して建設された野菜選果場が稼働を開始したため、個選共販と併用して共選共販を開始した。年間販売量は144トン、販売金額は4883万円に達した。24年には部会員163人となり、全国農業協同組合連合会大阪府本部(以下「全農大阪府本部」という)を通じた大阪市場への販売を開始した。年間販売量は268トン、販売金額は7879万円に達した表2)

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30年の実績は部会員数115人で栽培面積20ヘクタール、年間販売金額は4827万円である。部会員の減少は、高齢農家のリタイアが主な原因であり、販売金額の減少は、同年7月に起こった西日本豪雨災害の影響が大きい。販売金額を回復させるためには、新規部会員の勧誘による生産拡大や各部会員の技術力向上による生産性向上の取り組みが課題となっている。

(3) JA広島北部における白ねぎ共販の特徴

JAにおける白ねぎ共販に関する特徴であるが、まずは販売面の特徴としてはマーケットインが挙げられる。白ねぎ販売に関しては、系統組織である全国農業協同組合連合会広島県本部(以下「全農広島県本部」という)の販売担当者とタッグを組んで農協担当者が精力的に川下側とコミュニケーションを取っている。その中で、大阪の大口需要者からの要請で出荷規格を平成24年から「関西サイズ」(A品L=直径1.6~2.0センチ×3本入り)から「関東サイズ」(A品L=直径1.7~2.1センチ×2本入り)に変更したという経緯がある。「関西サイズ」は当時、鳥取県産が大阪市場をほぼ独占しており、広島県は後発産地であった。大阪の大口需要者であるローカルスーパーは、競合他社との差別化を図るため関東サイズで白ねぎを出荷する西日本の産地を確保したかったという。大阪市場での出荷を確保したい産地と戦略的な仕入れを行いたい大口需要者の思惑がマッチした形である。

次に集荷・選別対応面での特徴であるが、当JAの白ねぎ共販は、販売先の多様なニーズに合わせた規格・本数の組み合わせを実現するため、個選と共選を併用した販売対応を行っている(写真1、2)。共選品は、大型ロットの定時・定量・定質販売に対応したラインである。また個選品は、販売先の多様なニーズに対応したラインであり、販売先からイレギュラーな規格の要請があれば、それに対応できる生産者を挙手によって決定する。また、選果場の利用料金はサイズと本数によっており、生産者が2LおよびLサイズを多く出荷すれば精算金額が高くなるように設定し、ニーズの高い規格への出荷促進を図っている。また生産者にできるだけ早期に現金がわたることによる生産意欲の向上を企図して、共選品(A品)については、出荷時に仮渡金(1束60円)が生産者に支払われている。

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そして、生産対応面での特徴であるが、キーワードは「中層農家の育成」である。当JAでは白ねぎの各生産者の目標を育苗箱1箱当たり収量40キログラムと設定している。これは育苗箱箱でLおよびLサイズを130束生産すると達成される。苗はJAの育苗センターで生産し、生産者に供給されている。前年収量が育苗箱箱当たり3040キログラムの出荷者を「中層農家」と位置付け、重点的に生産支援を行っている。

常に目標が達成できる「上層農家」が10人程度存在しているが、この「中層農家の育成」は、もう少しで目標が達成できる出荷者30人程度に対して、営農指導員が実施項目のチェックや改善指導を個別指導で行う方法である。人的資源を集中投下しながらも、出荷者の自己改革欲求を刺激することで、生産性の底上げをねらっている。

また、出荷者を水田転作農家、園芸作農家、定年帰農者に区分し、それぞれの特性に合わせた指導を行っている。これの理由について営農指導担当者は、稲作と園芸作で技術構造が全く異なっている点と、定年帰農者が他産業での従事経験から生産マニュアルへの適応能力が高い点を挙げている。

そして、生産者と営農指導員とのコミュニケーションの媒体として、積極的にSNSを利用している。SNS利用のメリットは画像送信機能を活用することで現地に赴く時間がなくても写真で状況を確認することができ、適切な技術指導につながるという。また、手軽にコメントを送信できることから、情報共有が以前よりも密になったという。当JAでは、高齢農家に対してSNSの利用方法を解説することも営農指導の一環と位置付けている。

(4) JA間連携による白ねぎ生産の拡大~JA広島中央の白ねぎ共販~

広島中央農業協同組合(以下JA広島中央という)は、東広島市西条町、八本松町、高屋町、志和町、黒瀬町、福富町、豊栄町、河内町および三原市大和町を管轄区域とする総合農協である(図6)。平成28年月現在の組合員数は万3227人(うち正組合員万8715人)である。

当JAは26年に全農広島県本部の統一規格による白ねぎ生産・販売を開始した。実は22年ごろに八本松町内で白ねぎの生産部会が立ち上がっており、当時すでに確立していたJA広島北部の栽培方法を参考にしたという。その後、JA広島北部の営農指導員(白ねぎ担当)から全農広島県本部の統一規格によって連携した販売を行うことを提案され、26年から統一規格による出荷を開始した。30年の実績は出荷者数108人、栽培面積は31.5ヘクタール、年販販売金額は9400万円となっている。当JAは全量個選共販であるが、うち全農広島県本部経由の市場出荷が全体の7割、全農大阪府本部経由の契約出荷が割となっている。また、JA広島北部の白ねぎ販売担当者がJA広島中央の出荷の目合わせ会に出席するなど、JA間の連携による規格・品質統一の取り組みがなされている。

JA広島中央の場合、収量目標は10アール当たりトンと設定している。また、当JAの営農指導員は、生産・選別・出荷作業などにかかる労働力や資材コストなどを勘案すると、効率的に収入を得るためにLサイズを出荷量の割以上、Lサイズを割を目標に生産・出荷指導を行っている。そして、生産者に効率的に技術情報を伝えるため、一般の動画投稿サイトとJAの直売所出荷者への販売情報配信システムをうまく併用した情報提供を行っている。具体的には、例えば白ねぎに病気が発生した場合、動画投稿サイトに病状を動画で掲載し、それに対する防除対策について販売情報配信システムを使って生産者に情報提供している。このような広島県内におけるJA間連携による白ねぎリレー出荷は、JA広島中央での連携を皮切りに、JA三次、JA福山市、JA三原、JA尾道市など、県内13JA中10JA行われており29年の販売金額は全体で億8000円に達している。

(5) 広島県中山間水田地帯に白ねぎ共販拡大が与える効果

先に述べたように、中山間水田地帯における農業生産の特徴は、自給的な稲作を中心として農業収入があまり高くない点が挙げられた。このような中、広島県では、自給的稲作農家の白ねぎ導入による所得補完や、稲作中心の集落法人の雇用および農業収入の確保を目的とした白ねぎ導入が少なくない。図は、広島県が平成27月に公表した「農業経営指標」における白ねぎ生産にかかる経営収支試算を示している。10アール当たりの所得が水稲で万円であるのに対し、白ねぎは各作柄とも10アール当たり20万円前後の所得が見込まれる。

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(6) 小括

JA広島北部における白ねぎ共販の特徴は、「中層農家の育成」といった明確な目標管理と生産技術・販売情報の共有にあった。

また、農協の営農販売部局が中心となり、水田転作・定年帰農など、小・中規模家族経営にスポットを当て、出荷者が生産技術構造の改善による品質向上を主体的に行える環境に整えていた。

そして、大口需要者とのコミュニケーションを随時取りながら、個選と共選との併用で定時・定量・定質仕入ニーズと機動的仕入ニーズの両方に対応しようとしていた。さらに、単協の管轄区域に留まらず、県全体の取り組みへと広げており、収益性が低下した中山間水田地帯の収益性改善を期待できる。

4 おわりに

本稿の目的は、広島県内JAの白ねぎ共販を事例として、中山間水田地帯における農協共販による野菜産地形成の意義と展開方向を明らかにすることであった。

中山間水田地帯の農業特性は、自給的稲作経営を中核として、「小規模・自給的農家」層が農業経営体数の60%を占めており、農業従事者の高齢化が最も進んだ農業地帯であった。米価の下落により収益性が低下した水田作において、「小規模・自給的農家」層の農業生産を持続的にするためには、集落法人化の取り組みと併せて何らかの支援策が必要となっており、白ねぎのような水稲作との複合が可能であり需要が見込まれる農産物の導入が求められる。

ところで、堀田1995によると、農業基本法以降の「主産地形成」は、産地の規模拡大および、生産農家の機能的組織化が求められていた(注2)。しかしながら、生産基盤が脆弱化した中山間水田地帯においては、「産地」の規模的なハードルを上げず、「生産農家の機能的組織化」に対応しつつも「地産地消型商材」などニッチ市場を見据えた中小規模産地の形成が肝要であるといえる。

中山間水田地帯において収益性確保のための野菜生産振興を考えるにあたっては、生産力の高い「大規模・認定農業者」層への支援を重要視しつつも、生産基盤が脆弱な「小規模・自給的農家」層の生産意欲を維持するという観点から、定年帰農者の技術向上および水稲生産者への園芸作技術の移転が重要であるといえる。このようなで中山間水田地帯に位置する農協の果たす役割は、これまで広島県の白ねぎ共販で明らかにされたような、営農指導を前提とした「生産農家の機能的組織化」への対応であろう。

神田1991は、農協共販の基本原則は「農民の営農と暮らし・地域農業の発展を目指す立場」であると指摘した(注3)。縮小再編段階にある中山間水田地帯において、水田転作農家と定年帰農者は地域農業の維持にとって重要な存在となりつつあり、この層の技術水準の向上がカギとなる。直売所は小規模農家の野菜出荷の受け皿となっているが、農業技術の向上という点では組織的な取があまり進んでいない。広島県の白ねぎ産地化は全国的にみると大規模とは言えないが、地域農業持続性確保という点では大いに評価されるべきである。農協組織は「生産農家の機能的組織化」の一環として、中小規模産地の形成も共販の一方向として取り組むべきではないだろうか。

注2:引用・参考文献(4)参照

注3:引用・参考文献(2)参照

(付記)本稿をまとめるにあたり、快くヒアリング調査に応じて下さったJA広島北部・鉄井義彦様、宮木佳樹様、松田浩幸様、JA広島中央・比山栄二様をはじめ、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。


引用・参考文献

(1) 磯辺俊彦(1984)「日本農業の地帯構成と地域農業の再構成」『日本農業の構造と展開方向』農林統計協会。

(2) 神田健策(1991)「系統農協の園芸事業と卸売市場」『問われる青果物卸売市場』筑波書房。

(3) 岸上光克(2012)『地域再生と農協』筑波書房。

(4) 堀田忠夫(1995)『産地生産流通論』大明堂。



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