那覇事務所(現企画調整部広報消費者課)針ヶ谷 敦子
調査情報部 吉田 由美
沖縄県は野菜の市場競争力の向上などを目指し、16の野菜を重点品目として定め生産振興に力を入れている。本島中部の読谷村の圃場は、米軍基地の跡地を含む比較的新しい産地だが、平成30年に県内3ヵ所目のにんじんの拠点産地として認定され、地域一体となって機械の導入を含めた生産振興に取り組んでいる。
沖縄県は、亜熱帯海洋性気候に属し、年間平均気温23.1度と1年を通じて温暖な地域である。夏秋期は台風、冬期は季節風や寡日照の影響を受けるものの、亜熱帯海洋気候の特性を生かした野菜や果実の生産が盛んである。平成29年の農業産出額は1005億円となっており、野菜に関しては153億円で畜産、サトウキビなどの工芸農作物に次いで3番目に位置している(図1)。県では、「沖縄21世紀農林水産業振興計画」を策定し、消費者、市場などのニーズに対応した各種農畜産物の「おきなわブランド」の確立を目指して生産供給体制の強化に取り組んでいる。今回は、野菜の戦略品目の一つであるにんじんについて、30年1月に拠点産地に認定された読谷村の取り組みを報告する。
沖縄県の野菜生産に関しては、地元での消費のほか、他産地の端境期である冬春期の供給産地にもなっており、本島の中南部地域で野菜生産が盛んな、うるま市、豊見城市、南城市、八重瀬町、糸満市が野菜の指定産地(注1)に指定されている(図2)。野菜の収穫量を全国比率でみると、にがうり(ゴーヤー)が39.6%で最も多く、次いで、とうがん24.2%、オクラ13.3%となっており、いずれも暑さに強い作物となっている(表1)。
県外出荷量(平成28年産、JAおきなわ取扱分)は6183トン、出荷額は30億円であり、品目別(出荷額)では、さやいんげん、かぼちゃ、ゴーヤー、オクラの4品目で全体の7割を占める。
注1:キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、たまねぎ、トマト、なす、ねぎ、にんじん、はくさい、ばれいしょ、ピーマン、ほうれんそう、レタス(これらを「指定野菜」といいます。)の生産地域であって、野菜生産出荷安定法に定める作付面積及び共販率を満たす産地について、農林水産大臣が指定する産地を 『指定産地』 という。指定産地の区域は、原則として市町村単位で構成されており、この指定産地で生産、出荷される野菜は、指定野菜価格安定対策事業及び契約指定野菜安定供給事業の対象野菜となる。
沖縄県では、野菜の市場競争力の強化により生産拡大および付加価値を高めることができる品目として戦略品目16品目、拠点産地33カ所を定めている(表2)。拠点産地とは、戦略品目について組織力をもち、「定時・定量・定品質」の出荷原則に基づき、一定量の生産物を安定的に出荷し、消費者や市場から信頼され得る産地と定義されている。県では、ハウスや農業機械などの整備と併せて、新技術や新品種の普及など、ハード、ソフトの両面から拠点産地の形成を推進するほか、流通面では、遠隔地の不利性を解消するため、出荷団体が県産農林水産物を本土へ出荷する際に要する輸送費の一部について補助するなど、輸送コストの低減にも取り組んでいる(図3)。
にんじんについては、指定産地であり拠点産地でもある糸満市、うるま市、そして拠点産地である読谷村など主に本島中南部地域で生産が盛んである。出荷量は全国で15番目(平成29年)であり、全国シェアの約0.5%である(表3)。東京市場における沖縄産にんじんの入荷量をみると、2月から4月が中心となっており、輸送コストがかかることから比較的、価格が高い時期に集中していることがわかる(図4)。
一方で、那覇市は一世帯(二人以上)当たりのにんじん購入数量が10キログラム強と全国1位となっており、全国平均の1.3倍にあたる(図5)。これは、全国的に有名な沖縄料理である“ニンジンシリシリ”、具沢山の炊き込みご飯“ジューシー”など、にんじんを利用した料理が多く、沖縄の食卓には欠かせない野菜の一つであることによるとみられる。
読谷村は、沖縄本島中部の西側にあって東シナ海に面し、那覇市からは北に28キロメートルに位置している(図6)。総人口は約4万1000人であり、日本一人口の多い村(平成26年)としても知られている。さらに、県内有数の景勝地の一つである残波岬や世界遺産である座喜味城跡があり、焼物愛好家からは「やちむんの里(注2)」として知られており、観光地としても人気のスポットである。
注2:やちむんとは、沖縄県の言葉で焼き物を指す。
土壌は、主に島尻マージと呼ばれる暗褐色を呈する中性~弱アルカリ性の石灰岩土壌であり、保水力が小さい。また、沖縄の夏は台風を除くと雨が少なく、しばしば干ばつにも悩まされているが、県営かんがい事業により、平成6年に県内最大級の農業用水ダムである長浜ダムが村内に完成し、農業用水を確保できたことが農業の発展に寄与している。
農業生産額は14億3000万円となっており、沖縄本島中部地域の農業生産額の約20%を占めている(図7)。14年度には小菊、16年度にはかんしょ(紅芋)が沖縄県の拠点産地に認定されており、農業算出額においても花きおよびいも類の占める割合が大きい地域である。
読谷村では、約20年前から小規模ながらにんじんが栽培されてきたが、平成18年に読谷補助飛行場跡地が全面返還されたことをきっかけに、跡地利用の新規戦力品目として、土壌条件が合っていたにんじんの本格的な栽培が始まり、同年、読谷村野菜産地協議会が設立された。
24年には、特定地域経営支援対策事業によって読谷村集選果場施設(以下「選果場」という)が整備され、それまで生産者が行っていた作業を選果場で代行することにより、生産者の負担が軽減され規模拡大が進むこととなった。さらに、26年には県の地域農業振興総合指導事業によって実証展示圃も設置された。生産体制の整備などが進み、栽培技術の向上にも注力したことにより、年々、作付面積が増えており、収穫量も27年には、にんじんの指定産地となっている糸満市、うるま市に次ぐ県内3位になっている(図8)。30年1月には、産地協議会および生産出荷組織の設置、作付面積の拡大、安定生産・安定出荷体制を確立するための取り組み方針が認められ、拠点産地に認定された勢いのある産地である。
現在、読谷村で主に栽培されている品種は暑さに強く、味の良いTE30である。にんじんの生育適温は18~21度で比較的、低温を好むことから、9~10月ごろに播種、2~4月ごろに収穫を行っている(図9)。県の農業改良普及センターが発行している「~は種機、収穫機、緩効性肥料を用いた~にんじん省力化栽培マニュアル」では、栽培のポイントや病害虫情報、雑草対策、出荷基準が分かりやすく示されており、これに沿って作業機械による栽培管理がなされている。
読谷村では、平成28年に園芸ブランド機械整備事業(国庫補助事業)により収穫機を整備し、他の拠点産地に先駆け、植え付けから収穫までの作業の効率化を図るため、機械化一貫体系による生産を目指している。多くの農業機械では試験圃場が本州にあり、沖縄県とは土質や湿度といった環境が大きく異なるため、本州で利用されている機械をそのまま利用すると、故障などの不具合が発生することが多い。また、同じ品種でも生育状況が違うため、機械導入に際しては、数年かけて実証実験を行い試行錯誤しながら「沖縄型」にカスタマイズする必要がある。このため、収穫機、播種機および防除機などの講習会も実施している。現在は、植え付けから収穫まで、全ての作業を機械化している生産者もいるが、一部の作業のみ機械化している生産者もおり、圃場の大きさなどにあわせ最も効率的な利用方法を生産者が選択するようになっている(写真1、2)。
機械収穫後、ひげやへたを取って整えられたにんじんは生産者により選果場に運搬され、重量選別機を用いて等級別(A品、B品、C品、規格外)、階級別(3L~S)に選別される。1~4月中に収穫されたにんじんは、あらかじめ決められた価格でJAおきなわが生産者から買い取ることとしており、単収が上がれば売り上げに直結するので、生産意欲の向上につながっている。
出荷先は、8割が県内、2割が県外向けである。当初は、県外出荷を前提としていたが、近年、冬春期野菜の値崩れから、輸送費の回収が難しいため、現在は県内出荷が中心である。他の産地で品薄状態になった際には県外にも出荷している。県内出荷の場合、JAおきなわ営農販売部を通して主に量販店に販売され、県内の消費者の元に届く。県外出荷の場合は、箱詰めされたまま船で低温輸送され、約1週間かけて関東市場に到着する。
また、規格外品については、JAおきなわゆんた支店女性部が加工品の開発を行っており、これまでに「読谷にんじんチャンプルー麩」と「にんじんドレッシング」の2つが商品化され、読谷ファーマーズマーケット「ゆんた市場」で販売されている(写真3、4)。チャンプルー麩は、人気商品となり販売からわずか3ヵ月で当初の年間目標であった3000袋を売り上げた。
これまでは、選果場持込の約1割が規格外品として返品または廃棄されていたことから、規格外品をJAおきなわゆんた支店がファーマーズマーケットをとおして加工品とすることで生産者の収入増につながっている。
また、JAおきなわゆんた支店女性部は、規格外品を利用した加工品の開発が評価され、平成30年度の「沖縄、ふるさと百選」(生産部門)に認定されている(注3)。
注3:沖縄県では、農林水産業と関わりを持ち、地域が誇れる魅力ある農山漁村を形づくる地域団体を「沖縄、ふるさと百選」と認定している。
作付面積および単収を増加させ、より一層安定的な生産・出荷体制を構築することにより、将来的には現在の2倍以上の700トンを収穫することを目標としている。例えば、図10のように、かんしょとにんじんの輪作を行い、収穫を2回に増やすことが検討されている。しかし、近年、9~10月ごろに大きな台風が襲来することが多いため、播種の遅れにより出荷時期が3~4月にずれ込み値崩れしてしまうことが懸念材料である。
また、機械化一貫体系については上述したように、読谷村の圃場に適用できるまでに何年もかかる上、部品の交換や修理などが必要になった場合、県内に部品がなく、修理を行う技術者がいないという課題もある。本州からの部品の送付などに期間を要することも課題である。
近年、沖縄県では、クルーズ船の寄港回数が増えるなど、観光客数が増加しており、1年を通して野菜の需要が高まっている。観光客は食への興味も高く、ホテルなどの宿泊施設では、県産野菜を利用したいという要望も多い。しかし、現在の技術では冷涼な気候を好むにんじんを夏場に生産することは困難であり、低温貯蔵するにも、大型の低温貯蔵庫の整備や、貯蔵庫に係る電気代などコスト高となることが予想される。このため、現状においては耐暑性品種の適応性(導入)にも取り組んでおり、耐暑性品種の選定により出荷・生産期間の拡大につながることが期待されている。また、あわせて貯蔵性の改善、貯蔵技術の研究・開発により低コストで長期間貯蔵が可能となれば、収穫・出荷期以外の出荷が可能となり、生産者の所得向上も期待される。
読谷村は、沖縄県のにんじん拠点産地に認定されたばかりであり、糸満市やうるま市といったほかの地域に比べにんじん生産地としては後発地域である。しかし、機械化をはじめマニュアルの徹底、規格外品の商品化など、積極的な産地育成に取り組んでいる。現在、生産者は60代が中心だが、後継者もおり今後も生産拡大が期待される。
最後に、今回取材に御協力いただいた読谷村、JAおきなわゆんた支店、沖縄県農林水産部中部農業改良普及センターをはじめ、関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
出典:JA読谷村資料より
沖縄特有の野菜に黄色く細長い“島にんじん”がある。東洋種の一種で、一般的なオレンジ色で短い西洋種とは品種が異なる。滋養食として利用され、漢方のような風味がある。生産量、消費量ともに減少傾向であるが、いまだに沖縄県では欠かせない野菜である。
にんじんといえば、代表的な沖縄料理に細切りしたにんじんをツナなどと一緒に油で炒めた「ニンジンシリシリ」がある。シリシリ器というスライサーも商品化されており、現在では、じゃがいものシリシリ、とうがんのシリシリなど、細切り野菜の油炒めをシリシリと呼ぶこともある。