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調査・報告(野菜情報 2019年4月号) 


鹿児島県における青果用さつまいも(かんしょ)の輸出拡大への取り組みと課題~農業生産法人有限会社南橋商事を事例として~

前日本大学 生物資源科学部教授 下渡 敏治

【要約】

 年のかんしょの輸出額は対前年比42.0%増の137910万円となり、2015年以降、順調に輸出を伸ばしている。全国一のかんしょの産地である鹿児島県では、2018年月に「県農林水産物輸出促進ビジョン」を策定し、かんしょなどの農林水産物の戦略的な輸出促進に取り組んでいる。鹿児島県鹿屋市の農業生産法人有限会社南橋商事は年前にかんしょの輸出事業に着手し、アジア地域でのかんしょの需要拡大を追い風に急速に輸出を伸ばしている。かんしょの輸出は今後も伸び続けるのか、輸出拡大の課題と今後の輸出の見通しについて検討した。

1 はじめに

稼げる農林水産業の実現に向けて農林水産物の輸出促進に取り組む産地が増えている。全国第2位の農業産出額(2017年5000億円)を有する鹿児島県では、2018年月に「県農林水産物輸出促進ビジョン」を策定し、競争力のある農業生産基盤の確立によって、青果物の需要が拡大しているアジア地域などへの販路拡大に向けた戦略的な取り組みが進展している。農林水産物輸出促進ビジョンでは2023年度の輸出目標額を300億円(基準年となる2015年度は155億円)に設定しているが、2017年の輸出額は畜産物に加えて茶かんしょなどの輸出が好調だったこともあって過去最高の200億円(対前年度比29.6%増)に達している。全国一の生産量を有し、鹿児島県の輸出重点品目であるかんしょは、アジア市場での急速な需要拡大を背景に、大幅な輸出増加が期待される有望な輸出品目である。

本報告では、近年、アジア市場で急速に需要が拡大しているかんしょを調査対象に、鹿児島県におけるかんしょの輸出拡大への取り組みと鹿屋市の農業生産法人有限会社南橋商事(以下、「南橋商事」という)のかんしょの輸出事業に焦点をあてて、かんしょの輸出拡大の課題と今後の展望を探ることにした。

2 鹿児島県における野菜生産の状況

鹿児島県は、温暖な気候と全国第位の広大な畑地を活用した野菜生産が盛んであり、かんしょとさやえんどうの生産量が全国位、そらまめとかぼちゃが同位、ばれいしょが同位にランクされるなど野菜生産で上位を占める品目が少なくない。また加工・業務用野菜などを生産する農業生産法人も九州で最多となる1124法人(2017年)に達している。

2017年の県内の野菜の作付面積は万8745ヘクタール、収穫量は44万9704トン、だいこん、にんじん、ごぼう、ばれいしょ、さといも、かんしょなどの根菜類、はくさい、キャベツ、ほうれんそう、ブロッコリー、レタス、ねぎ、たまねぎ、らっきょうなどの葉茎菜類、きゅうり、かぼちゃ、なす、トマト、ピーマン、スイートコーン、オクラ、にがうり、いちご、メロン、すいかなどの果菜類、さやいんげん、さやえんどう、グリーンピース、そらまめ、えだまめなどの豆類といった多種多様な野菜が生産されており、九州圏内はもとより全国各地に出荷されている。

温暖な気候を利用して生産されるそらまめ、さやえんどう、グリーンピースなど豆類の生産量はそれぞれ全国生産量(2017年)の24.5%、23.2%、16.2%と高い割合を占めており、ピーマン(8.6%)、さやいんげん(8.9%)、にんじん(3.1%)、さといも(5.1%)、キャベツ(5.0%)、かぼちゃ(4.4%)なども全国有数の生産量を有している。

に示すように、2006以降の野菜の作付面積、生産量、産出額はともに増加傾向にあり、2017年の作付面積、生産量増加している。しかしながら、2016 /2015年比では作付面積は101.3%、生産量は99.0%と若干減少、産出額も111.2%となっており幾分鈍化傾向にある。

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野菜の作付面積の上位品目と主な生産地を表2に示した。1位はばれいしょの4410ヘクタール(県内比率24%)、位がだいこんで2090ヘクタール(同11%)、位はキャベツで1980ヘクタール(同11%)、位がさつまいもで1379ヘクタール(同%)、位がかぼちゃの779(同%)ヘクタールとなっており、上位品目で作付面積の57%を占めている。

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野菜生産農家の高齢化などに伴い、全国的に野菜の栽培面積と生産量が減少傾向にあるのとは対照的に、鹿児島県では野菜の栽培面積、生産量、産出額ともに増加する傾向にあり、加工・業務用需要の増加などを背景に、キャベツ、さやえんどう、ばれいしょ、ごぼう、ブロッコリーの生産が増えている(表)。

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調査対象のかんしょは、でん粉用と焼酎原料用の栽培面積が全体の割、生食用と菓子、調理用などその他が割を占めている。2004年以降の全国的な焼酎ブームを背景に作付面積が拡大基調をたどってきたかんしょも、焼酎需要の停滞と高齢化に伴うかんしょ生産農家の減少によって、2011年度以降は栽培面積が減少傾向にある。2017年のかんしょ作付面積は1万1900ヘクタール、生産量は28万2000トン、このうち生食用の栽培面積は1379ヘクタールとなり、全体のおよそ12%を占めている(表4、5)。

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鹿児島県の青果用かんしょは、ハウスとトンネルを使った超早掘栽培による「ベニサツマ」の5月出荷に始まり、9月以降に収穫する普通堀栽培による「べにはるか」、「安納紅」などを貯蔵して翌年8月まで出荷しており、長期間の出荷が可能である。表5に見るように、主な栽培品種は、「ベニサツマ」「べにはるか」と種子島の在来品種をもとに育成された「安納紅」「安納こがね」、通称「安納いも」が大部分を占めている。これらのブランドいもは、近年、その食味の良さから焼きいも用や調理用などとして人気が高まり、国内はもとより海外でも急速に需要が増加している。

その一方で、焼酎原料用かんしょの10アール当たりの労働時間が35時間と短いのに対して、生食用のかんしょの生産には収穫・調整に多くの時間が必要であり、焼酎原料いもの3倍にあたる125時間もの作業時間が必要であることから、省力技術の確立が大きな課題となっている。さらに生食用は貯蔵中に腐敗等が発生し、品質の低下やコスト増に繋がることから、貯蔵技術の確立と貯蔵体制の整備が課題となっている。

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3 大隅地域の農業(野菜)生産の概況

大隅半島には町(鹿屋かのや市、たるみず市、錦江町、南大隅町、きもつき町、東串良町)を擁するきもつき地域と町(市、志布志町、大崎町)を擁する曽於地域がある。人口は23万8064人(県人口の14.4%)、耕地面積は万7880ヘクタールでその割が畑地である。耕地の割が黒ボク土壌とシラス台地で覆われた大隅地域では水稲、養豚、肉用牛のほかに、かんしょ、ピーマン、ばれいしょ、さやいんげんなどの露地野菜、ユリ、菊などの花やお茶の生産が盛んであり、他にもマンゴーやパッションフルーツといった多様な農産物が作付されている。

大隅地域は、県農家数の25.3%、経営体数の25.4%、10ヘクタールの経営体数の33.9%、販売農家数の25.5%、専業農家の29.4%、耕地面積の31.4%、一戸あたりの耕地面積の124.1%、部門別(2015年度現在)では耕種作物の30.3%、畜産部門の48.0%、加工部門の26.6%を占めており、農業産出額は1870億円に達し、県全体の42.2%を占め、野菜生産の44.0%、いも類生産の35.9%を占めるなど鹿児島県農業の中で重要な位置にある(表6)。

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調査対象企業の南橋商事が立地している鹿屋市は鹿児島市に次ぐ人口10万3608人の地方都市であり、2016年の市の農業生産額は400億7000万円、耕種部門では、野菜類が47億2000万円、いも類が25億7000万円、花きが12億6000円、米が10億8000円、畜産部門は肉用牛が127億7000万円、豚が102億円、鶏が36億円などとなっている。

また、広大な畑作地帯が広がる大隅地域では畑地かんがいが普及しており、その受益面積は1万921ヘクタールに達している。これらの畑地かんがい地区では、だいこん、にんじん、ごぼう、キャベツ、レタス、はくさい、ばれいしょ、さといも、かぼちゃなどの露地野菜、ピーマン、いちごなどの施設野菜、きくなどの施設花卉、茶などが重点品目、拡大品目に、かんしょは水利用推進品目に指定されている。

4 野菜輸出におけるかんしょの位置付けと輸出に関する施策

畜産物と水産物が輸出の過半を占める鹿児島県では、野菜類の輸出額に占める割合は%程度と大きくはない。輸出されている野菜には、かんしょ、かぼちゃ、だいこんなどがあり、香港、台湾、タイ、マレーシア、シンガポール向けに輸出されている。野菜の中では特産品のかんしょの輸出額が最も多く、日本から輸出されているかんしょ全体の1割程度(8050万円)を占めている。

鹿児島県では「県農林水産物輸出促進ビジョン」(2018年3月策定)の実現に向けて「つくる」「あつめる・はこぶ」「うる」のつの柱を軸に、輸出拡大に向けたさまざまな条件整備が進んでいる。県農林水産輸出促進ビジョン推進本部青果物部会である鹿児島県園芸振興協議会では「さつまいも輸出拡大取組方針」を策定し、かんしょの輸出拡大に向けた戦略的な取り組みによって、県産かんしょのブランド力向上と生産者の所得向上を図り、地域経済の活性化に繋げたい考えである。かんしょは、①輸出の際の植物検疫の制約が少ないこと、②調理がしやすいこと、③自然な甘みが消費者好まれていること、④アジア地域で健康志向が高まっていることなどを背景に、急速に需要が増加していることから、県農政部としても、かんしょの輸出拡大に向けた体制整備を進めている。品目別輸出戦略に示された輸出目標額は様々なリスクを想定して見積もられているが、実際にはこの10倍程度の輸出が可能と想定される。

かんしょは、いちご、ながいもに次いで輸出金額の多い青果物であり、輸出額の対前年比は42.0%増となっている(表)。鹿児島県の青果物輸出に占めるかんしょの割合は高く、総輸出額のおよそ割を占めている(表)。かんしょの主な産地は、西之表市、南九州市、なか市、市、いぶ宿すき市などであり、作付面積は1万2000ヘクタール、栽培農家数は1万1580戸で総農家数の割を占めている。

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鹿児島県は、①全国一のかんしょ産地であること、②特産の「安納いも」や「べにはるか」といったブランド力のあるかんしょが生産されていること、③青果物の中では比較的海外への輸送が容易であること、④年間を通じた周年出荷が可能であることなどの優位性を活かして、かんしょの需要が高まっている香港、台湾、タイ、シンガポールなどでの食品見本市への出展や県産品フェアの開催など、県産かんしょをPRしたことが奏功して、海外での販路拡大に成功し、平成27年度以降、香港、シンガポール、タイ、台湾などに定期的な輸出が行われるようになっている。しかしながら、輸出されているかんしょは国内出荷用に生産されたものであることから、今後は、輸出を前提とした栽培技術や貯蔵技術を確立し、安定的、周年的な輸出を実現するための輸出産地の育成など取り組むべき課題も少なくない。

に、かんしょの過去カ年の輸出実績を示した。輸出取り組みが浅いこともあって、2015年度212トン、2016年度202トン、2017年度405トンと数量的にはまだそれほど多くない。現在、県内でかんしょの輸出を行っているのは鹿屋市の南橋商事のほか農業生産法人や農業協同組合などであり、南橋商事は4年前から商社経由でタイ向けに、その他の法人や農協は、香港、台湾など向けに輸出しており、輸出先国での評価も高く順調に輸出を伸ばしている。

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5 かんしょに特化した農業生産法人  南橋商事の事業概要

(1) 企業概要

鹿児島県鹿屋市に本拠を置く南橋商事は、かんしょの生産、販売、仲買、加工、輸出に特化した農業生産法人である。会社設立は1992年5月、資本金2000万円(一部アグリビジネス資金を活用)、従業員27名、2018年度の売上高は3億円、創業者である南橋茂氏が代表取締役会長、代表取締役社長は矢羽田竜作氏である。13ヘクタールの自社農場でのかんしょの生産のほかに30戸(55ヘクタール)の周辺農家と契約栽培を結んでかんしょの売買を行っており、仲買分を合わせた年間取扱量はおよそ3000トン(2017年度実績)に達している。主力商品である「べにはるか」を中心に、加工用の「こがねせんがん」は地元の焼酎メーカーと垂水のでん粉工場に、青果用かんしょは兵庫、四国、福岡、沖縄などの食品スーパーや外食店などに出荷されている。

月から収穫期を迎える青果用かんしょは、収穫後本社の調整施設に運び込まれて選別、洗浄されて貯蔵施設に保管された後需要に応じて周年出荷されている。一方、焼酎用、でん粉用のかんしょは収穫後、直ちにフレコンパックで地元の焼酎工場やでん粉工場に出荷されている。

2018年月には、収穫後の品質保持のために鉄骨平屋建て1235.3平方メートルの集出荷貯蔵施設棟と冷蔵貯蔵施設620.5平方メートル、キュアリング設備159.7平方メートルが完成した(写真)。総事業費6000万円の大半は産地競争力の強化を目的とした「農業・食品産業強化対策整備交付金(通称、強い農業づくり交付金)」で賄った(表10)。南橋商事では、「べにはるか」を焼き菓子にする次産業化にも取り組んでおり、2013年月には次産業化の認定を受けている(写真)。

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(2) かんしょの生産と販売管理の状況

南橋商事ではかんしょの栽培にあたって、育苗専門会社からウイルスフリーのバイオ苗をポットで購入している。購入した稚苗は自社のビニールハウスでヵ月間増殖、成長させた後圃場に移植している。バイオ苗を使用することによって品質の安定が可能だという。育苗用のビニールハウスは全部で12棟、このうち連棟のビニールハウスの面積は10アール、残り9棟の面積が15アール、すべてべにはるかの育苗に使用されている。ちなみに、昨年度は3000ポット、今年度は1700ポットの稚苗を購入した。

自社農園以外にも30戸の生産農家と契約栽培を実施しており、契約面積は55ヘクタールにおよんでいる。現在、自社生産と契約栽培と仲買分を合わせた3000トンのかんしょの割が国内市場向けに、約割が商社経由でアジア市場に輸出されているが、近い将来、国内出荷用と輸出用の割合が大きく変化する可能性がある。自社農園の栽培品種は「べにはるか」が過半を占め、紫いもが20~30アール程度栽培されている。契約農家から購入している「べにはるか」は収穫時期によって買取価格が異なっている。規格外品は「焼き菓子」「干し芋」などの加工用に使用されている。

契約農家から購入するかんしょの多くは菓子原料のほか、焼酎原料として県内の焼酎メーカーと地元のでん粉工場に出荷されており、栽培品種は「こがねせんがん」である。生食用に出荷しているかんしょの品質管理には育苗、生産・(栽培)段階から取り組んでおり、バイオ苗によっていもの形状と皮色の向上に取り組むと同時に、品質管理のために300万円の管理システムを導入し、コンテナごとにQRコードで管理するなど、生産から集荷、貯蔵に至るすべての履歴が厳格に管理されている。

生産されたかんしょの大部分は、焼酎原料用、でん粉用として地元の焼酎メーカーと垂水市のでん粉工場に出荷されており、生食用は兵庫県の高級スーパー、香川県と沖縄の食品スーパーと直接取引している。さらに調理・加工用として福岡県の天ぷら屋や愛知県や沖縄県の飲食店などにも販売されており、菓子原料用の販売も若干ある。生食用に出荷するかんしょは空気調和機で13~14℃に温度管理され、湿度はミスト機で90%以上に保たれている。昨年月に完成した貯蔵施設では700トンのかんしょの貯蔵が可能であり、旧貯蔵庫の100トンと合せて800トンのかんしょを貯蔵し、需要に応じて周年的な出荷が可能になっている。過去5年間の売上高の推移を見ると2017年に若干、低下したものの、2018年は億1873万円となっており販売業績を伸ばしている(表11)。

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6 南橋商事のかんしょ輸出事業と  輸出戦略

南橋商事は年前からかんしょの輸出に着手した。輸出を始めたきっかけは南橋商事のかんしょの品質の高さに着目した福岡県の輸出商社A社からアジア向けの輸出を持ちかけられたことによる。その後、かんしょの保管施設を建設した際に融資を担当した農林中金から福岡のB社、同じ福岡県のC社、沖縄県のD社、東京のE青果などを紹介され、これらの輸出商社を通じてアジア市場向けに本格的な輸出事業がスタートした。輸出初年度となる2016年度はタイ向けに65~66トンを輸出した。2017年度はタイ30トン、シンガポール30トン、マレーシア、台湾、香港にそれぞれ週3.5トン~5.0トン単位で輸出している。輸出は福岡県のA社、東京のE青果に委託して実施しているが、2018年度は新たな取引先となったB社の香港向けのかんしょの輸出が好調であり、輸出量は香港だけで563トンに達している(表12)。2018年度の輸出内訳(2018年月~2019年月現在)を見ると、タイ向けが40トン、シンガポール向けが46トン、マレーシア向けが15トン台湾向けが3.5トン、香港向けが563トンとなっており、2016年度の65トンから2017年度の68トン、そして2018年度の669トンへと僅か1年で輸出量が10倍に増大したことになる(図2)。輸出量が短期間に増加したのには、アジア各地店舗展開している香港の二大流通グループのひとつと取引関係のあるB社との間で新たな取引が開始されたことによる。

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図3にさつまいもの輸出チャネルを示した。輸出チャネルはつに分けられる。そのつは、福岡のA社経由によるタイの現地スーパー、青果物卸売市場向けの輸出である(写真3、4)。二つ目は新たな取引先となったB社経由による香港、台湾向けの輸出チャネルである。三つ目は、福岡県のC社からマレーシアの現地スーパーに輸出するチャネルである。四つ目のチャネルは沖縄の貿易商社D社でシンガポールの現地スーパーに輸出するチャネル、五つ目が東京のE青果を通じた総合ディスカウントストアのシンガポール店への輸出で、焼き芋用として販売している。

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輸出には輸出専用のパッケージが使用されており、「かのやべにはるか」のブランドで5キログラムと10キログラムの2つのサイズの段ボール箱で出荷されている。

南橋商事の担当者によると、香港、台湾などではサイズの小型のかんしょが好まれているが、逆にタイなどでは大きめのサイズの人気が高く、一方、シンガポールではサイズが好まれている。そのため、S~2Lまで、国毎に輸出するかんしょのサイズを調整しているという。また、需要の多い小さいサイズの収穫量を増やす必要があり、栽培にあたっては株間を狭くするなど栽培方法に工夫を凝らしている。

シンガポール向けとマレーシア向けは現地の百貨店や高級スーパーなどの量販店に輸出しているが、タイでは露店での販売割合が高く、市場流通している日本産かんしょの割から割程度が南橋商事の「べにはるか」だという。さらにシンガポールでは、日系総合ディスカウントストアで焼き芋として500グラム500円から個1000円で販売されているという(写真6、7)。

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輸出用かんしょは、選別作業に多くの時間が必要であり、形が整って肌質が良く食味の良い高品質のものだけを厳選して輸出するため、入念に選別作業を行うことから、キログラム当たりの販売単価は国内出荷用よりも高い。ちなみに、生食用に国内出荷されるかんしょのキロ当たりの平均単価は焼酎用、澱粉用よりも5割程度高い。さらに輸出用かんしょは国内出荷用よりも3割程度の高値で取引されている。

このため、輸出用には高品質のかんしょを安定的に確保する必要があり、それには契約農家の理解と協力と栽培技術のレベルアップが欠かせない。南橋商事では、契約農家のモチベーションを高め、栽培技術を向上させることを目的に定期的な研修会を開催するなど生産体制の確立に努めている。

7 輸出上の課題と今後の展望

かんしょは、香港、台湾向けに比較的早くから輸出されてきた商品であるが、タイ、マレーシア、シンガポールなどの東南アジア向けに輸出されるようになったのはここ数年である。東南アジアでは近年かんしょの需要が急速に増加しており、近い将来、現在の10倍程度の量の輸出が可能であると推測される。南橋商事の輸出取り組みからも明らかなように、アジア市場で潜在的な需要の大きいかんしょの輸出拡大を図るには、①品質力、②貯蔵力(鮮度保持)、③周年的な商品供給、④安定量の供給、⑤クレームに対する迅速・適切な対応が重要なカギとなる。輸出用かんしょは品質保持が重要であり、そのためには腐敗防止と周年供給を可能にするためのキュアリング処理と定温貯蔵が重要である。高品質のさつまいもを生産し、輸出するには育苗段階から圃場への定植、栽培管理、収穫、調製作業、貯蔵に至るまで一貫した品質管理が不可欠であり、契約農家毎に集荷、貯蔵、出荷までロットと品質管理を徹底する必要がある。

さらに重要な課題になっているのが産地から輸出先国までの輸送中の温度管理の問題である。かんしょは他の野菜などに比べて比較的劣化しにくい商品であるが、香港、台湾などには日程度で輸送できるもの、マレーシア、タイ、シンガポールなどへの輸送には週間程度のかなり長い時間が必要であることから、商品の一部に荷痛みや腐敗、劣化が発生し、商社経由で劣化商品の写真が送られてくるケースがあるという。こうした輸送中の荷痛み、商品の劣化をどう防止するか、輸送中の温度管理が重要な課題になっており、温度管理が可能なCAコンテナなどの利用を含めて、クレームなどへの迅速な対応が求められている。

鹿児島県産かんしょの輸出拡大に向けた、南橋商事のかんしょ輸出事業はまだ年目を迎えたばかりであり、現時点で輸出事業を評価するのは難しいが、バイオ苗を用いた栽培方法、キュアリング処理を施して貯蔵する品質管理力を含めて高い技術的優位性を備えており、今後の輸出の見通しは明るいといえる。南橋商事では、将来、商社経由ではなく自社で直接アジア市場に輸出することも含めて輸出事業に取り組んでいきたい意向である。輸出量が増えれば増えるほど高品質なかんしょの確保のための生産体制の整備、安全対策など取り組むべき課題も多くなるが、かんしょの生産、仲買・集荷、販売に特化した農業生産法人だからこその強みが発揮できるのではないか。南橋商事のかんしょ輸出事業は今後ますますその勢いを増してゆくものと思われる。今後のさらなる輸出展開に期待したい。

年末の多忙な時間を割いて調査にご協力いただいた農業生産法人南橋商事の牧谷商品企画開発部兼営業部長、農林水産物輸出促進ビジョンやかんしょの生産、販売、輸出に関する貴重な資料の提供とヒアリング調査にご協力いただいた鹿児島県農政部関係各位に衷心よりお礼を申し上げたい。



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