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調査・報告(野菜情報 2019年3月号) 


香川県における研修制度と連携した雇用型野菜作経営の展開
~「近藤農園グループ」および「ファーマーズ協同組合」の事例から~

愛媛大学 社会共創学部 特命教授 香月 敏孝

【要約】

 香川県では、急速に雇用型の大規模野菜作経営が増加している。こうした動きをけん引している近藤農園グループおよびその仲間達によって結成されたファーマーズ協同組合の取り組みを紹介する。そこでは新規就農を目指す研修生の育成と外国人技能実習生の受け入れとを一体的に実施する組織的な活動が行われている。

1 はじめに

まず本稿では、香川県における野菜作経営の実態を整理し、近年、大規模な野菜作経営が増加していることを指摘した上で、それら経営は水田借地型で若年層を中心とする雇用労働の投入が多いという特徴を明らかにする。

次いで、こうした動きをけん引していると目される善通寺市に拠点を置く近藤農園グループの経営展開を紹介していく。同グループの活動は、新規就農をめざす若手農業者の育成を目指しているが、こうした取り組みをより強固なものとするために、同グループを含め50社を超える農業者によってファーマーズ協同組合が結成されている。この組合では新規就農を目指す研修生の育成と外国人技能実習生の受け入れとを一体的に実施している。こうした取り組みの実態について紹介していく。

2 香川県における野菜作経営の特徴

 近年における大規模作付経営の増加

わが国の露地野菜作経営は、長らく北海道を除いて大規模作付経営が多く展開する状況ではなかった。しかしながら、図(左)に示したように2000年以降、都府県では野菜作付面積は全体としては減少が続いているが、こうした中にあって作付面積がヘクタールを超える規模の大きな経営が占める割合は徐々に拡大している。すなわち、都府県における作付面積のうちヘクタール以上作付経営が占める割合は、2000年の34%から2015年の49%(ヘクタール以上では26%)にまで拡大している。

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これに対して、香川県の動きはどうであろうか。香川県は従来から小規模水田経営が多数を占める農業構造が特徴であり、2000年の段階では、販売農家戸当たり経営面積が72アール(都府県は120アール)、耕地面積に占める水田割合が83%(同71%)である。そうした中で、冬期温暖な気象条件もあって、専業的な農業経営は水田裏作を含めたレタス、ブロッコリー、ねぎなどの野菜生産を指向してきたが、戸当たり野菜作付け面積(2000年)は、都府県46アールに対して、香川県は34アールで都府県平均と比較すると狭小であった。

しかし、その香川県において、図(右)に示したように、ヘクタール以上が占める作付面積の割合は2000年の11%から2015年の40%まで増加している(ヘクタール以上は29%で都府県の平均値を凌いでいる)。注目すべきは、2010年から2015年にかけての動きである。

すなわち、香川県では、従来は大規模作付経営の形成が弱かったが、2010年以降こうした動きが転換し、今や大規模経営が形成される動きが活発となっている。かつ、それまで減少傾向にあった全体の作付面積も増大に転じる動きを示している。

 大規模作付け経営の実態

こうした実態について、最近年次である2015年時点でヘクタール以上作付規模の野菜経営を対象に、さらに詳細な検討を行ってみよう。表1は、香川県ほか県のヘクタール以上作付け規模の露地野菜経営の特徴について示したものである。従来から露地野菜作経営が多く展開している茨城県、長野県、熊本県とを比較している。香川県の特徴を列挙すれば以下のようになる。

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 ヘクタール以上の経営数は少ないものの、法人経営の割合は高い。法人数および法人経営による作付面積だけをみれば他3県と比較しても遜色がない。むしろ、農家数や耕地面積が少ない香川県において規模の大きな法人野菜作経営が展開していることは、注目すべき実態である。1経営体当たりの野菜作付面積も13ヘクタールと大きい。

② 経営耕地について、他3県では畑が主体であるのに対して、香川県では大半が水田であることは、やはり大きな特徴である。このことは、香川県において野菜作をめぐって、水田利用方式が大きく変化していることを示唆している。表には示していないが、香川県60経営体のうち、54経営体が水田借地をしており、借地面積は500ヘクタールに達している。経営体当たりで9.3ヘクタールもの水田借地が行われており、このことが大規模野菜作経営増加の主たる要因となっている。野菜経営による大規模な水田借地集積が実現しているのである。

③ 労働投入量が多いことも特徴である。香川県では、150日以上農業就業している経営者・役員数も多いが、雇用規模も大きい。1経営体当たりの野菜作付面積が多い分、労働投入量が多いことにはなるが、それを割り引いたとしても、香川県の150日以上就農の経営者・役員数2.8人、雇用延べ人数1921人日、雇用のうち周年的に雇用されている常雇数は7.3人であり、いずれもが他3県の倍程度の投入量となっている。それとあわせて、常雇の中でも若年層の雇用が多いという際立った特徴が指摘できる。1経営体当たり35歳未満の常雇数は、香川県は4.9人である。こうして、香川県の大規模野菜経営は、豊富な若年層の労働投入を行いうる環境にあるといえる。

以下、本稿では、こうした香川県における大規模雇用型野菜作経営の形成をめぐる状況変化を、近藤農園グループおよび同グループが所属するファーマーズ協同組合の活動から探っていくことにする。

ところで、図2に示した通り、香川県における新規就農者(農業全部門合計)は、増加の傾向にある。その中でも、特に注目すべきは2007年まではほとんどいなかった雇用就農(法人経営などで雇用されて就農)が増加している点である。そして雇用就農のほとんどを40歳未満の若年層が占めている。そうした新規就農者の増加を支えている農業部門の代表が野菜作である。

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また、こうした新規就農者の増加は、2012年に創設された国レベルでの青年就農給付金制度を追い風としているが、香川県ではそれに先駆けて新規就農者が増加している点が見逃せない。香川県下における新規就農者をめぐる独自の取り組みの一環として、近藤農園グループの活動を捉えることができる。

3 近藤農園グループの活動

 近藤農園グループの概況

農業求人サイト「あぐりナビ」での近藤農園グループ紹介(2018年10月時点)には、以下のような内容が記載されている。

近藤農園グループは、一年を通して温暖な気候条件にある香川県善通寺市で、50ヘクタールのじょうを構え、地域特産のレタスやブロッコリー、青ねぎといった葉物野菜のほか、減農薬・減化学肥料にこだわった水稲栽培も行っている。こだわりを持って育ているのは野菜だけではなく、未来の農業を担う人材である。

近藤農園では、農業で独立をめざす人材を育成するために、栽培技術、機械整備のほか、生産原価や作業時間など経営収支に関する係数把握も含めた研修を実施している。希望者には、「10アール農園の仮想社長」の体験をしてもらっている。10アールの圃場管理を全て自分で行い、売り上げやコストを併せて把握してもらうシステムである。この実践で、自分で経営した場合の時給(1時間当たり所得)を算出し、その成果を自ら評価して、十分な時給が得られなかった場合には、その原因を探って作業効率向上につなげるようにする。

さて、以上のような研修制度をもった近藤農園グループは、近藤隆氏(68歳)が設立した株式会社近藤農園(以下「(株)近藤農園」という)のほか、有限会社やさい畑(以下「(有)やさい畑」という)、有限会社めぐみ(以下「(有)めぐみ」という、株式会社まっ赤なトマト工房(以下「(株)まっ赤なトマト工房」という)の3社から成る

 近藤農園グループの展開 

近藤隆氏および近藤農園グループ関連の年表を表2に示した。

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近藤隆氏の農業実践の経歴は、大きく3期に分けることができる。

第1期は、同氏が大学を卒業し、派米農業研修を経て、実家の農業経営を次いた時点(1977年)から個別の家族農業経営としての蓄積を続けた1994年辺りまでである。

父親の代にはたまねぎ、にんにくなどを栽培していたが、大規模な機械化営農を目の当たりにした米国での体験などから、輸入量が多い品目では太刀打ちできないと考え、軟弱野菜への転換を図っている。

第2期は1995年からである。近藤氏の事故・入院体験から、自らの経営を追求するだけではなく、地域の農業担い手を育成することを目指すことになった。こうしてIターン就農者を受け入れる取り組みが開始される。なお、1995年時点では、近藤農園は、売上高6000万円、外国人を含む従業員20名をかかえる雇用型大規模経営となっている。

こうした新規就農希望者を支援する取り組みをより効果的に実施するために、前述の近藤農園グループ4社が設立されている(「(有)やさい畑」などの法人設立が先行し、近藤農園が法人化するのは遅れて2008年のことである)。

第3期は、2008年以降である。この年に、人材育成をより組織的に行うために、仲間の農業者と共同してファーマーズ協同組合を設立している。この期には、近藤氏は、県、農協の役職や講師を勤めるなど、より広がりをもった新規就農者支援の活動を実施するところとなっている。

 近藤農園グループの概要

ファーマーズ協同組合の活動紹介は、後述することとし、近藤農園グループ4社について、紹介すれば以下のようになる(表3)。4つの農場は、いずれも雇用型の農場ではあるが、それぞれ役割がある。(株)近藤農園は、グループ農場の核として雇用就農を指向する研修生の受け皿となっているが、農地集積も同農園が中心となって行っており、必要に応じて集積された農地の一部を、独立就農を希望する就農者に「のれん分け」する機能を果たしている。

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(有)やさい畑および(有)めぐみは、いずれも独立就農を希望する新規就農者の実践農場の役割を果たしている。(有)やさい畑は、前述のような、圃場の一部を使って個々の経営を経理を含めて実践する農場と位置付けられているが 、(有)めぐみは、農場全体の権利を取得して農業実践してもらうことを想定した農場である。現実に、2010年に(有)めぐみはこうした方針に基づき売却されている。(有)やさい畑も研修を経た新規就農者が取締役に就任するなど、経営者としての実践の場ともなっている。(株)まっ赤なトマト工房は施設野菜作の経営実践農場である。

なお、これら農場の栽培品目や作付規模は、のれん分けのほか、研修生を含めた従事者数の変化、作物の価格動向などによって、変動することがあるという。また、農協共販による卸売市場出荷が、これら農場の基本的な販売対応となっている。そうした点で、契約生産に基づき、固定的な生産・販売対応を指向している法人経営とは異なった対応を行っている。販売対応は農協にまかせながら、その時々の条件にそってさまざまな作物を組み合わせて生産販売するという管理方式が、新規就農を指向する研修生にとって経営実践感覚を養う場となっていると言える。

 (株)近藤農園の現況

現地調査に基づき最近年次の(株)近藤農園の経営実績について紹介しておこう。2017年度では、経営耕地は15.2ヘクタールである。主要な作付品目は、表の通りで、ブロッコリー10ヘクタール、サニーレタスヘクタール、グリーンリーフヘクタールの3品目、その他作付けが多い順に、かぼちゃスイートコーン、赤たまねぎ、ねぎ、レタスと続き、他にうるち米をヘクタール耕作し、延べ面積で40ヘクタール栽培している(写真1)。栽培期間が短い葉茎菜類を中心に、圃場を2~3回転して栽培する集約的な露地野菜生産が行われていることがわかる。売上高は約9000万円である。

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経営耕地について詳しくみてみよう。2018年度は16.4ヘクタールであるが、そのうち自作地は0.1ヘクタールに過ぎず、残りは水田借地である。借地は50人を超える地主からの借入であり、9割は使用貸借、すなわち無償貸借によるものである。賃貸借の場合は、10アール当たり1万2000円程度(米1俵相当)での借り入れとなっている(写真)。

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自ら耕作することも困難で、荒らしておくこともできないという地主側の事情が使用貸借を増加させている。こうして、水田借地による耕地確保が容易となっている状況が、(株)近藤農園のような大規模経営を成立させる基礎条件となっている。借り手市場となっていることから、収穫時の搬出が効率的にできるトラック(1トン車ないし2トン車)が横付けできる圃場を中心に借り入れているという。

ただし、この地域の水田はコンクリートけいはん(注)に囲われた10アール区画程度の圃場が多く、生産条件が恵まれかつ連反した圃場を確保することは必ずしも容易ではない。(株)近藤農園の場合は、地元地区での集積はヘクタール程度にとどまり、他は地区外に分散している。なお、同農園が行っている「のれん分け」は、離れた地域でまとまりがある圃場が集積できた場合、これを独立営農を希望する新規就農者に任せるといった手法をとっている。

次いで、労働力であるが、同農園の代表者はA氏(隆氏の奥さんが務め、経営はB氏(隆氏の長男)が担っている。そのほか、従業員が日本人名(うち事務名)、外国人技能実習生が8人である。農作業に従事している日本人従業員名は、いずれもこの農園での研修生を終えた後、職員として採用されている。30歳代2名、20歳代と10歳代が名で、2名が県外出身者である。

(株)近藤農園では、独立就農希望者を主に採用していることから、いずれは、のれん分けなどの手法により自営農業者に移行してもらうことになりそうである。

外国人技能実習生は、カンボジア人名、ラオス人名、フィリピン人名である。年間の実習期間の中で経験を重ねてもらいながら、新規の人材を順次補充し、この規模の雇用を確保している。今後はベトナムからの実習生も受け入れる予定である。

圃場作業は、日本人職員がトラクター耕耘、防除、出荷といった機械操作を伴う作業を、外国人技能実習生は、トンネル・マルチ被覆、土寄せ、収穫・調製といった手作業を担当するといった分業体制をとっている。

トラクターは台保有し(大型のものでは65馬力)、マルチャー、ブームスプレアーの専用アタッチメントも装備している。

注:水田に流入させた用水が外にもれないように、水田を囲んで作った盛土などの部分のことをいう。

4 ファーマーズ協同組合の活動

 ファーマーズ協同組合の組織概要

近藤隆氏を代表理事とする「ファーマーズ協同組合」が設立されたのが2008年である。近藤農園グループでは、新規就農希望者を研修生として受け入れる一方で、外国人技能実習生も雇用することで、露地野菜作としては労働集約的な性格を持つ葉菜生産を大規模を実現していたが、そうした取り組みをより広範かつ組織的に実施する目的で設置されたのがファーマーズ協同組合である。同組合の事務所は、(株)近藤農園の事務所施設内に設置されている(写真)。

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「ファーマーズ協同組合」(図3)は、中小企業など協同組合法に基づく、事業協同組合である。同組合の定款によれば、区域内(徳島県、香川県)に事業所を有する耕種農業、畜産農業、農業サービス業(園芸サービスを除く)、畜産食料品製造または農畜産物・水産物卸売業を組合員としている。2018年時点での組合員は56社(非法人の農家を含む)である。組合員の地理的分布は、善通寺市が含まれる仲多度地区が23社と最も多いが、他の5地区を合わせ県下全域をカバーしている。

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徳島県にも組合員がいるが、これは、(株)近藤農園で研修に入った就農希望者が、徳島県で第三者継承によって就農したことがきっかけとなった。「農業経営の第三者への継承」とは、家族以外の新規就農者に対して農地、技術、信用などを一括して譲り渡すによる農業継承であるが、この場合、サラリーマンから転身した新規就農者が、当初から大規模な経営を実践することが可能となっている。そうした経営を核に徳島県下でもファーマーズ協同組合の組合員の加入につながったのである。

同じく、定款によれば、「ファーマーズ協同組合」の事業として以下が挙げられている。

農業資材などの共同購買、②外国人技能実習生共同受け入れ、③経営・技術の改善、知識普及教育・情報提供、④福利厚生、⑤無料職業紹介、⑥附帯事業である。このうち外部人材確保・育成にかかわる事業が②と⑤である。

なお、ファーマーズ協同組合には名の職員がいるが、そのうち4名が外国人であり、彼らは日本への留学経験のあるスタッフである。同組合が、外国人技能実習生を受けれていることから、その円滑な事業実施に向けた人事対応である。

(2) ファーマーズ協同組合の外部人材確保・育成事業

ファーマーズ協同組合の外部人材確保・育成事業のうち日本人新規就農希望者の研修受け入れを行っている法人の一部を示したのが表である。こうしたリストを示したパンフレットには、「相談を進めていく上で、興味がある希望者には見学先や研修先のあっせんをしています。もちろん費用は一切かかりません。見学のみもOK。規模や栽培品目もさまざまなので、あなたにピッタリな研修先がきっと見つかると思います。」と記述されている。

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近藤農園グループが単独で実施していた研修よりも、地区も農業部門も広範な受け入れが可能となっていることがわかる。

ついで、同組合が実施している研修生受け入れの流れは図に示した通りである。まず、研修を希望する者は、履歴書と応募理由書を作成して提出する。その後、短期研修を受けることになるが、前段で現地視察を行って研修の日程を調整する。短期研修期間は一週間程度であるが、その最終日に今後の対応について相談する。

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短期研修期間中には給与は発生しないが、引き続き長期研修(年間)に入る場合には、月17万円以上の給与が支給される。同研修中は、事業所にもよるが、各種保険に加入し、週日の休日が与えられる。研修は、圃場作業のほか、農機会社、種苗会社、卸売市場、小売業といった農業関連組織の視察なども組み込まれている写真4)

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また、この研修で特徴的なのは、研修生にとって多くの選択肢を用意している点である。研修生の希望と研修先が合わない場合などは、組合以外の法人なども紹介している。研修後の就農選択については、独立就農、法人への就職就農の双方に対応している。香川県内でののれん分けもありうるし、県外出身者は出身地に帰っての就農も可能である。法人での就農も、法人職員として就職するほか、法人役員への就任、法人代表就任という選択肢も用意されている。

さらに、海外での就農も可能となっているのは、同組合が、カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナムなどから農業技能実習生を受け入れており(調査時点で184人の実習生を受け入れ)、彼らが帰国した先で一緒に農業を実践することを目指しているからである。外国人農業技能実習生とのつながりを重視し、海外農業の発展にも寄与する取り組みである。2018年の段階ではカンボジアの農場に日本人研修生を派遣することがパンフレットに記載されている。なお、近藤隆氏は、こうした海外での事業展開を担当し、現地に足を運ぶ機会が増えているという。

最後に、ファーマーズ協同組合が受け入れた研修生の就農実績を示したのが図である。

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2010年から2015年の6年で、毎年、研修生を募集し、研修を受けた者の中で、実際に就農したのが45人である。この間の募集農家数(延べ)79戸に対して、応募者が99人であったから、5割弱の定着率である。

近藤農園グループが単独で行っていた段階での就農支援の実績は、独立新規就農者で10人強であった。それに加えてのファーマーズ協同組合による成果が大幅に上乗せされたことになる。

5 おわりに

野菜作経営は、大きな転換期を迎えている。1980年代後半以降、高度経済成長期に形成された野菜産地の多くで、生産者の減少と高齢化とが併進するところとなっている。このため、育苗やポストハーベスト作業の外部化、圃場作業の機械化など産地維持の取り組みが行われてきた。しかしながら、近年、これだけでは不十分な状況が深化している。一層の生産後退を受けて、新たな担い手形成が求められているからである。農家子弟の中から次の農業の担い手を確保していくという家族経営を基本とした継承システムのあり方の変革が、野菜作部門でも必要となっている。

今回取り上げた香川県の実態は、そうした野菜作をめぐる担い手変革の先端的な動向を示しているといえよう。

近藤隆氏は次のように語っている。「農業なら何でもそろっている香川県に、新規就農をめざした若者に来て欲しい。そのための受け皿つくりをしてきた。めざす農業者タイプはさまざまありうるが、少数の大規模経営が香川県農業を支える方向性も展望できる。そうした農業経営者の輩出に向けた人材育成は引き続き重要である。」外国人技能実習生制度の新たな運営方式が開始されることもあり、新規就農者の育成と外国人技能実習生の受け入れとを同時に追求している香川県野菜作の今後の展開が注目される。

引用・参考資料

(1)メディアコア香川(2009)「やさい畑 取締役社長 近藤隆さん」(インタビュー記事)『ビジネス香川』(2009年5月8日版)。

(2)和歌山県(2013)「担い手の確保と育成」(普及活動情報)。

(3)香川県(2007)「一年中、緑の大地で農業を」『香川県情報誌さぬき野』2007冬。

(4)ヤンマー(株)(2013)「農業経営の第三者継承を活用して新規就農」『FREY』第2号。

(5)全国農業新聞(2010)「改正外国人実習制度スタート 人材育成・国際貢献も視野に入れて-近藤隆さん-」(同紙2010年7月23日記事)。

(6)吉田光宏(2017)「農業に成功を得るには、まず数字にあり」『AFCフォーラム』2017.1、日本政策金融公庫 。

(7)井関農機(2017)「数字で見える化する人材育成 次代の農業経営者を輩出する」『ふぁーむ愛らんど』(井関農機営農情報誌)No.47。



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