公立小松大学 国際文化交流学部 教授 盛田 清秀
6次産業化を先行して展開してきた京都市の農地所有適格法人「こと京都株式会社」の 事例である。同社は京野菜である九条ねぎの生産に加え、カット加工した九条ねぎを外食企業や量販店に供給している。売上額は年々成長し続けて13億円に達しており農業法人としては有数の規模に到達している。さらにグループ企業としてねぎ専門商社や冷凍加工 会社を設立し、品ぞろえを拡充しつつ、ねぎを中心とする京野菜生産・加工事業規模全体の拡大を図っている。グループでは日本のねぎ生産全体の1割のシェア確保を目標に掲げ、さらなる事業展開を進めている。
日本農業の将来方向の一つとして6次産業化が推奨されている。農産物の加工、直接販売、観光農園、都市農村交流事業への展開による付加価値の増大が目的である。
農業生産の規模拡大が、農地、施設、飼養家畜など生産手段の投入増大によって生産量・生産額の拡大を図り、加えて「規模の経済」を実現して生産効率を向上させ、経営収益の増加を図る戦略とすれば、6次産業化は経営の多部門化(多角化)によって経営活動の範囲を拡大し、「範囲の経済」の実現を通して複合化の利益を確保するとともに、付加価値の内製化や価値形成機会の拡大によって経営収益の増加を目指す経営戦略であるといえる。
今回紹介する「こと京都株式会社」(以下「こと京都」という)は、京都市伏見区に本社(代表取締役社長 山田敏之氏)を置き、農地所有適格法人として農業生産(主品目は京野菜の九条ねぎ)とねぎ加工事業を担うとともに、商社機能、冷凍加工を担当する関連法人の設立により、事業の総合的展開を図っているところである(写真1、表1)。
広く知られた事例の一つであり、最近では平成30(2018)年度の第57回農林水産祭多角化部門でその業績が高く評価され、天皇杯を受賞している。本稿では、6次産業化に大規模に取り組む現在のこと京都の活動をできるだけ正確に描くことに努めたい。筆者の評価をあれこれ加えることよりも、こと京都の取組実態を正確に提示し、読者の理解を深めることで、多くの示唆を得る手助けとなればと考える。
なお、以下では単に「ねぎ」という表記も用いているが、断りのない限り本稿では「九条ねぎ」を指している。普通のねぎは「一般ねぎ」、白ねぎは「白ねぎ」と表記している。
こと京都は、関連会社とともに野菜の加工・供給事業を展開する企業集団の中核をなす農業法人である。関連会社として、一般ねぎを扱う専門商社である「こと日本株式会社」(以下「こと日本」という)、野菜冷凍加工を担当する食品加工企業である「こと京野菜株式会社」(以下「こと京野菜」という)、京都府南丹市美山町に本拠をかまえ水田受託を進めている「こと美山株式会社」(以下「こと美山」という)がある(表2)。
こと日本は、資本金1000万円でこと京都が100%出資する子会社であり、山田氏が社長を兼ね、こと京都の管理部長A氏(48歳)が副社長として業務の中心を担っている。
こと京野菜は、資本金が8000万円で、国が出資して官民ファンドとして設立された株式会社農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)による議決権なしの出資4000万円を受け、残りの4000万円はこと京都が51%、ガス・エネルギー関連企業の岩谷産業株式会社が49%をそれぞれ出資している。社長は同じく山田氏が兼ねているが、こと京都の元加工部長B氏(40歳代半ば)が取締役に就任している。冷凍原料は近年の天候不順で調達量が減少傾向にあるので、多めに生産されたときに購入して集中的に加工するようにしているという。こうした加工事業は、起ち上げ時に原料確保、生産、販売の均衡をとることが極めて重要だと山田氏は述べている。
こと美山は、耕作放棄の増えてきた南丹市美山町での農地保全を目的に設立し、2018(平成30)年にはライスセンターも完成し、将来は50ヘクタール規模の経営を目指している。中山間地域でいのししなどの被害もあり、米単収は10アール当たり400キログラム程度と高くはない。こと美山の借地水田の一部においては、特定作業委託という形式でこと京都が3年に一度ねぎを栽培している。このねぎと水田の輪作によって 、ねぎでは連作障害防止と品質向上、水稲では大幅な肥料節減という相乗効果がみられるという。こと美山には、こと京都が40%を出資し、こと京都の農産部長C氏(55歳)が副社長として業務を取りしきっているが、この方は山田氏の義弟に当たる方である。
こと京都は、関連会社を含めた「こと京都グループ」ともいえる企業グループの中核をなしており、農地所有適格法人として農業生産を担うとともに、ねぎ加工事業の主力をも担っている。また、これまでの事業展開と関連するのであるが、農業生産部門では九条ねぎ生産が主力事業であるものの、南丹市美山町に支社を置き、養鶏(採卵鶏)を行っている。主力のねぎ生産は、京都府内3地区(京都市伏見区、亀岡市、南丹市美山町)で行い、収穫したねぎ加工は本社工場(横大路工場)と近隣にある向島工場でカット加工して出荷している(写真2)。
その沿革は、1995(平成7)年に社長の山田敏之氏が33歳でUターン就農し、先代の指導の下、キャベツ、九条ねぎなど少量多品目野菜栽培を開始したことにさかのぼる(表3)。1年目は販売額が400万円であったが、目標を1億円に置き、1997(平成9)年には九条ねぎに生産特化して販売額を1600万円へと大きく伸ばしている。
さらに2000(平成12)年からは、ねぎカット事業に取り組み、東京の外食店(主にラーメン店)、製麺業界、量販店への営業を行うなど販路の確保・多角化を進め、「カット九条ねぎ」として全国チェーンとの契約も実現している。この結果、2001(平成13)年の加工部門を含めた事業全体の売り上げは6200万円、翌2002(平成14)年には最初の加工場(年間加工能力500トン)を建設したこともあり9800万円へと飛躍的に拡大している。京野菜である「九条ねぎ」というブランドであること、生産者自らによる加工事業であることが取引先開拓に結び付いたようである(写真3、4)。
2003(平成15)年には、加工工程で排出されるねぎ残渣を飼料として活用する狙いで養鶏(採卵鶏)を開始し、平飼い・有精卵による高付加価値鶏卵(ブランド名「美山の子守唄」)を生産し、鶏糞の圃場還元による循環型農業の取り組みも開始している。養鶏事業は現在も継続(500坪、2000羽)しているが、この間鶏卵加工(プリン、ケーキ製造)も行い、一時は卵と加工品合わせて売り上げが1億円近くあったが、現在は卵加工から撤退している。
また後述するように、加工原料ねぎは自社農場生産に加え、「ことねぎ会」という京都府内生産者グループを組織して調達しているが、2009(平成21)年にはねぎの品質安定を図るため、栽培・作業管理の支援、栽培・作業履歴記録の保存や出荷調整が可能となる「農業工程支援システム」を構築し、生産者間の連携を強化する仕組みを整備している。
最近10年ほどの事業規模急拡大において、大きく影響したのはいわゆる中国産餃子の残留農薬問題であった。2007(平成19)年12月から2008(平成20)年1月にかけて千葉、兵庫で3件の中国産餃子に起因する食中毒事件が発生した。その原因は、有機リン系農薬のメタミドホス残留であることが明らかとなり、それまで中国産をはじめ輸入に依存していた加工・業務向けのねぎ需要が一気に国内産に向かうこととなった。
ねぎを扱う商社は、実需者・消費者の要望に対応すべく国産ねぎに調達先を切り替えたのである。こと京都はこの事件を契機に一気に生産・売り上げの拡大を実現していったのである。その中で山田氏は、素性の確かなねぎを供給すべく、またニーズを的確にとらえ、ねぎに関しては、それまで味が重視されない育種による品種が多かったところ、伝統野菜である九条ねぎのブランド化を推し進めたのである。
九条ねぎは作りづらい品種であるが、曲がったものでも加工すれば問題ないことに着眼し、柔らかくて味の良い京野菜である九条ねぎの系統を50%以上受け継ぐ品種を確保し供給していったのである。これは明確な製品差異化(product differentiation)戦略である。それを発展させたのが、こと京野菜による京野菜ブランドでの冷凍野菜生産である。こうしてねぎ(九条ねぎ)は外食業(ラーメン店、居酒屋なと)、総菜加工業、小売業に広く用いられるようになっていった。現在ではねぎとカットねぎの6割程度は外食業向けとなっている。
現在の事業規模であるが、2000羽の養鶏部門を別にして、主力である九条ねぎは自社農場で400トンを生産、前述した「ことねぎ会」から600トンを調達して合わせて1000トンのねぎを2工場で主にカット加工している(以上生産実績は2018年)。九条ねぎブランドの条件としては、産地(京都府内生産)、栽培方法(慣行農法を超えない肥料・農薬使用)、品種(九条ねぎ原種割合50%以上)の3点であり、商標登録もしている。収穫されたねぎは向島工場で選別・洗浄して横大路工場に持ち込まれ、ここでカット幅1~5ミリ(ねぎの状態により0.1ミリ幅で調整)にカット加工され出荷される(図1、写真5)。こと京都ではブランド化強化を図るため、それまでの「カット九条ねぎ」から「こと九条ねぎ」へとブランド名を変更している。
このほか、より加工度の高い九条ねぎブランド名を冠したねぎ油、ドレッシング、マヨネーズ、カレー、ポタージュ、みそ、餃子、乾燥ねぎなど20品目を製造し9000万円を売り上げている(図2)。この中では乾燥ねぎが売り上げ6000万円でトップである(売上実績は2016年)。
経営面積は水田8.4ヘクタール(うち借地8.2ヘクタール)、借地料は10アール当たり5万円と極めて高い。加えて特定作業受託面積が26.5ヘクタールがある。この特定作業受託は実質的に期間借地であり、これらの圃場にねぎ23ヘクタールが作付けられている。ねぎ栽培面積は拡大を予定しており、2019(平成31)年にはさらに10ヘクタール拡大を計画している。栽培地区は3カ所(京都府伏見区、亀岡市、南丹市美山町)にまたがっているが、各地区ほぼ同じ面積でねぎが栽培され、加工向けにリレー出荷されている。このうち南丹市美山町の圃場は、前述の通り3年に1度は水田としており(田畑輪かん)、連作障害の防止、ねぎ品質の改善につながっている。
こと京都ではねぎの自社生産を行い、例年30ヘクタールを超える面積でねぎを栽培している(2018(平成30)年の23ヘクタールという栽培面積は、台風、長雨なとの天候不順で栽培面積が確保できなかったものである)。
加えてことねぎ会から契約栽培(生産者40人、契約面積20ヘクタール、調達量600トン)でねぎを調達している。ことねぎ会への加入要件は、京都府内の生産者であること、生産計画を策定しJGAP認証を取得すること、年4回以上の会合出席があること、である。会員になると、ねぎ生産数量の半分以上をこと京都に出荷することになる。基本的に青田買い(面積数量契約)である。会員数は高齢者のリタイアもあって増減がある。
実はねぎ生産は、自社生産のほうがコスト高である。それにもかかわらず自社生産しているのは、自社生産を原料調達のバッファ(緩衝)と位置付けているからである。ことねぎ会会員は必ずしも全員が生産計画通りに出荷しないことから、会員による供給だけではカットねぎの安定生産・供給が不可能なのである。会員には前年6月に生産計画を提出してもらうのであるが、計画自体が月ごとの生産量に変動があり、それを埋め合わせるように自社生産するのである。特に近年は自然災害が頻発し、ねぎの安定確保が難しくなっていて、自社生産の意義は大きい。
具体的に言うと、2018(平成30)年のねぎ生産(加工原料調達量)は、自社生産とことねぎ会で合わせて1300トンを計画していた。2016(平成28)年の調達実績が1300トンだったが、前年2017(平成29)年は天候不順で調達実績が1200トンにとどまり、それを100トン上乗せして。2016(平成28)年の水準に戻したのである。ところが、2017(平成29)年には10月という遅い時期に超大型台風21号が上陸(上陸地は静岡県)し、風雨被害により2018(平成30)年1月から3月にかけて収穫予定だったねぎが壊滅的被害を受けてしまった。このため2018(平成30)年の調達実績は、予定量を大きく下回る1000トン程度にとどまってしまった(表4)。2018(平成30)年に入ってからも7月から8月にかけて台風が来襲し、大雨・長雨によって甚大な被害を被ったという事情も重なり、このような結果となったのである。
長い取引を通じた信頼関係から、ことねぎ会の生産者はこと京都への供給をそれなりに優先してくれるとは言え、生産量そのものが確保できないので調達量は計画未達成にならざるを得ない。それを少しでも補うためには自社生産が不可欠なのである。
しかし、2018(平成30)年については、自社農場も災害により大きなダメージを受けたため、全体をカバーできずに取引先の要望には応えきれなかったのが実情である(ほとんどの取引先は、こと京都の状況を理解しており、むしろこと京都による供給が他に比べて安定さえしていることを評価している)。
さらに、もともとねぎ供給の端境期として9~10月、1~2月があり、この時期を乗り切るためにも自社生産が必要という事情がある。その意味では、ねぎの自社生産はそれ自体が原料確保対策であるが、むしろ安定供給を支える「安全弁」として重要なのである。近年の気候変動によって端境期の安定供給がさらに困難になってきており、その対策として1~2ヘクタールのハウス設置を計画している。露地栽培のほうが味は良いのだがやむを得ないと山田氏は考えている。
ちなみに、カットねぎの取引先企業は200社、400店舗に及ぶが、前述のようにねぎの不作によりねぎ出荷を2018(平成30)年9月から減らしたうえで、カットねぎについてもスーパーなど量販店に6割、外食業に4割供給していたものを、逆の割合として量販店4割、外食6割とせざるを得なかった。これは外食の場合、必要なねぎが調達できないとメニューが維持できず、営業継続が難しくなることに対し、量販店ではねぎがなくても(不足しても)店舗を閉じるほどのことではないからである。
なお、こと京都では山田社長の妻C氏(59歳)が取締役総務担当として、長女D氏(30歳)がこと日本の広報担当社員として、また長男E氏(29歳)が静岡工場担当として活躍している。規模は大きいが家族経営的性格の強い企業である。社員の育成については、適性を見ながらOJTを実施し、リーダー・幹部育成に取り組んでいる。JGAPは社員教育に有効であるとのことである。
ことねぎ会のメンバーは、当初京都市内の生産者が多かったが、こと京都の研修生を経て独立就農する場合はことねぎ会に加入することが条件であり、南丹市美山町や亀岡市で営農開始するケースが多かったので、京都府内に拡がりをもつようになっている(写真6)。
その研修生であるが、2013(平成25)年に「独立支援研修生制度」を創設し、最長5年間(通常3~4年間)の研修期間中に生産・加工技術、経営知識を実地教育で教え、農業委員会への農地あっせん申請や融資を受けるために必要な事業計画の作成を支援している。
就農後は種子、肥料、農薬などの貸し付けを行い、収穫後に返済する仕組みで間接的な資金支援を行っている。研修生は社員扱いとして業務に従事し、月額で1年目15万円、2年目20万円(独立後法人設立が条件)などの「研修手当」が支給されている。社員扱いなので労災、雇用、社会保険にも加入することとなる。募集人員は6人程度だが、年2~3人受け入れる研修生のほとんどが男性で、うち半数は家族帯同で、出身地は7割が京都府内、就農地はほぼ京都府内だが、静岡や奈良など他県就農の例もあるという。就農地区は研修生が決めて現地の関係者に話を持ち込むことになるが、「こと京都の研修生」ということで地元が信頼してくれることも多いという。
これまでの研修生の就農実績は、社員からの独立を含めて8人である。研修生は各地の農業フェアなどを通じて情報を自ら集めて希望してくることが多く、1週間程度の収穫作業体験とこと京都の審査を経て採用が決まる。おおむね3~4年で終了するが、卒業まで至るのは7割程度だという。農業の場合、体力が伴わないと続けられないので、最初の1~2年は農業に耐えられる体力づくり期間という位置付けである。
京都府内での就農研修生はことねぎ会に加わり、生産するねぎは全量をこと京都が買い入れる。これによって就農研修生は販売への不安はなくなることとなる。研修生出身者の場合はほとんどがねぎの計画生産に協力してくれるという。一方、既存の生産者の場合、ねぎ生産が副自部門であるため生産計画から大幅にずれてしまうことがある。それに対応して、計画通りの出荷単価は高く設定し、計画以外の出荷価格と10アール当たり10万円程度の差があるようにしている。就農研修生のなかには自ら加工事業に乗り出した例もあるという。
このほか、こと日本が取り扱う一般ねぎの生産者グループを組織しており、大分、香川、徳島、高知、兵庫、長野、静岡、埼玉と九州から関東まで広がっている。基本的にはリレー出荷による周年供給を狙っており、各県に1人ないし1グループの生産者が配置され、およそ600トンのねぎを調達している。
今後の事業展開であるが、基本戦略として日本全体のねぎ生産40万トンの10%、4万トンを、青ねぎに関しては全国生産10万トンのうちの20%、2万トンを九条ねぎとして供給するという目標をもっている。ねぎという品目は奥深くて幅の広い野菜であるという。そしてそれだけの量を持つと価格交渉力がもてるようになり、それを踏まえて他品目でも価格交渉力が強化されるというように山田氏は見ている。だから当然自社生産も拡大していく計画である。
京都府内では亀岡市ですでに2019(平成31)年に10ヘクタールのねぎ栽培用地を確保している。さらに、静岡県藤枝市にこと日本の新工場(一次処理・カット加工、建坪300坪の2階建て)を建設中であり、増加基調の関東地方の白ねぎ需要に対応して白ねぎカットを主力品目とする計画である。この工場にはこと京都の九条ねぎ加工も委託する予定であるが、工場の操業規模に合わせて、3000トンの原料ねぎ確保が現在の課題になっている。
この静岡工場の立ち上げには長男E氏夫婦がかかりきりになって準備に当たっているという。この新たな事業展開が、山田氏の壮大な構想の実現に向けた第一歩になるのだろう。
なお、ねぎ以外の部門では、こと美山で現在の水稲作13ヘクタールを50ヘクタール、もしくは100ヘクタールに拡大する構想がある。立地する美山地区全体の水田面積が360ヘクタールあるので、その15%の担い手として活動し、農地保全に当たる考えである。将来的には美山地区で農業公園を始める構想もあるようである。
こと京都の事業をビジネスモデルとして捉えると、①九条ねぎという京野菜ブランドで差異化を図りつつ、②農業生産を基幹部門として位置付け、③実需向けの契約生産を事業の主力部門としながら、④生産者の組織化と、⑤自社農場生産を組み合わせて安定供給を図り、⑥このビジネスモデルを拡張して事業規模拡大を進めてきた、⑦これからはさらなる飛躍的事業規模拡大を目指している、と整理することができるのではないか。
京野菜である九条ねぎは、土地利用型作物ではないことから機械化体系が未確立で、規模の経済が作用しない。それゆえ自社農場を拡大しても生産性の向上はあまり期待できず、生産者の連携・組織化が有効な規模拡大方法となる。その場合、露地栽培という気象変動の影響を避け難い栽培方式であることに加え、緩やかな連携・組織化であるために生産・調達量の安定はさらに望み難いこととなる。それに対応して自社生産も一定の規模を維持する必要があるのだと言える。
こうした生産上のボトルネックに対して、加工、流通事業は規模拡大がそれほど難しい分野ではない。重要なのは、取引先に対し、品質が保証された製品を安定的に供給することである。こと京都の順調な発展は、京野菜ブランドを十分に活用したこととともに、取引先である実需者への供給安定を重視したことが大きな要因である。他の産業では当然ともいえることであるが、常に大きな変動に見舞われる農業生産への対処がカギを握るのである。施設園芸であればそれほどまでに大きな問題とはなりえないが、業務用露地野菜の場合は事業規模拡大とともに安定供給の重要性が飛躍的に強まってくる。こと京都はそこで強みを発揮してきたのだといえよう。
最後になりますが、極めて多忙な中、筆者の調査を快く受け入れていただき、また貴重な情報と資料をご提供いただいた、こと京都株式会社山田敏之代表取締役社長に衷心よりお礼申し上げます。