野菜需給部
野菜需給協議会(座長:藤島廣二東京聖栄大学客員教授、事務局:(独)農畜産業振興機構野菜需給部)は、平成30年11月6日(火)、会員(消費者団体、流通・小売団体など)を対象に、野菜の生産現場への理解を深めるため、千葉県の丸朝園芸農業協同組合(山武郡芝山町)で現地協議会を開催し、にんじん・トマトの選果施設、圃場などの視察や、生産者団体と意見交換会を行った。
(1)丸朝園芸農業協同組合の概要
・ 丸朝園芸農業協同組合(以下「丸朝園芸農協」という)は、全国でも数少ない農産物(野菜・果実・花き)の販売と購買のみを行う専門農協である。千葉県山武郡芝山町を中心に5市3町(芝山町・成田市・富里市・山武市・八街市・横芝光町・多古町・千葉市)の組合員で構成されている(平成29年度末の組合員数は、422名)。
・ 初代の組合長が戦後、地域の主な作物であるいも類が、仲買業者に安く買われている状況を憂い、有志数名と東京市場に共同出荷をして成果を得たことを出発点に、同志が集まり、野菜の種類や出荷量を増やしていき、昭和39年に現在の丸朝園芸農協が発足した。
・ 主力の品目は、秋冬にんじん・春にんじん、トマト・ミニトマト、大玉すいか、小玉すいか、かぼちゃ(栗あじ南瓜)であり、いも類、葉物、きゅうり、ねぎなども生産している。また、平成4年からは花きを導入し、40人の組合員が順調に生産量を伸ばしている。
・ 丸朝園芸農協の秋冬にんじんは、栄養価を高めるため、通常の肥料に、ミネラル分を含む肥料を追加して栽培する「ミネラル栽培」を行っている。平成26年度の栄養分析では、通常の肥料のみで栽培した栄養分析指数を100として、ミネラル栽培と比較した結果、β-カロテン112、カルシウム108、カリウム125、鉄124、亜鉛107、と高い栄養価であった。丸朝園芸農協へ出荷する生産者が全員ミネラル栽培を行うことにより、産地としての付加価値が上がり、高値での取引となっている。
・ 丸朝園芸農協の組合員は、それぞれ総合農協(芝山町近辺ではJA山武郡市、JA富里市)にも重複加入している。丸朝園芸農協へ出荷した農産物の代金は、総合農協の生産者口座に振り込まれる仕組みとなっている。
(2)野菜選果施設(BIG SUN)
・ 省力化と将来の規模拡大を見据えて、平成9年度に、にんじんおよびトマトの選果施設を整備、10年度から本格稼働を開始した。24年度には選果機械を更新している(写真1)。
・ 敷地面積9980平方メートル、建物延床面積5681平方メートルであり、29年度の実績では、春にんじんは12万8000ケース、冬にんじんは80万ケース、夏秋トマトは20万ケースの出荷があった。
・ この選果場の特長として、生産者が圃場から収穫したにんじんを、土つきのままフレコンバッグやコンテナに入れて持ち込むと、洗浄、選別し、小さいにんじんは、量販店向けに3本や5本の袋詰めまでをすることができ、学校給食や加工・業務用の大きいにんじんは、自動箱詰機で10キロずつ箱詰めされる。
選果場の整備により、かつては生産者自身が行っていた洗浄・箱詰めを行う必要がなくなり、生産者の労力が大きく軽減され、生産者は栽培に専念できるようになった(写真2~4)。
(3) にんじん圃場
圃場では、生産者の堀越氏から説明を受け、参加者による質疑が行われた(写真5、6)。
Q: 栽培しているにんじんはどのような品種か。
A: 栽培する品種は、年内に収穫するものと年明けに収穫するもので分けており、現在収穫しているのは「愛紅」という品種で、8月1日に播種を行った。一部は既に出荷を終えたが、今年は生育が早く、Lサイズが20%ほどあった。
年明けに収穫する品種は「らいむ」「れいめい」など、霜に強く葉がしっかりしており、収穫機での収穫が可能な品種を導入している。8月15日ごろに播種を行った。年内収穫と年明け収穫で播種の時期にあまり違いがないと思われるかもしれないが、1日の違いでも生育スピードが変わってくる。
Q: 近年は天候が不順だが、どのような影響があるか。
A: 豪雨や台風などで栽培管理が大変な状況。毎年違うパターンの栽培が必要。今年の台風は、小さいものは塩害を受けたが、ある程度生育したものは大丈夫であった。作付時期の微妙な違いにより紙一重で生育に違いが出てくる。
Q: 栽培にあたっては、どのような特長があるか。
A: 栽培には有機堆肥を使っている。10アール当たりに対して、決まった量の堆肥とミネラル剤の割合を組合で決めている。堆肥は、牛糞、豚糞、もみ殻を混ぜて十分に発酵させたものを使う。自作の米のもみ殻を畜産農家に渡し、もみ殻堆肥を受け取るという、地域内の循環農業を行っている。
Q: この圃場の近辺にも耕作されていない農地が見受けられるが、このような状況について、どのように思われるか。
A: 後継者がいないなどの理由で耕作されない農地が多い。田畑を貸したくない人や、耕作して欲しいという人など、さまざまだが、地域としての農地の有効利用対策が必要だと考える。
(4) 花き集出荷施設「花童夢」(フラワードーム)
・ 平成4年に本格的に花きの振興を始めて以来、着実に実績を伸ばし、主力のサンダーソニアは、品質・物量ともに高い評価を受けるまでになった。
・ 春はサンダーソニア、リューココリーネなどの球根切り花を生産し、秋は苗物の菊類を主に栽培している。長期的な生産ができるよう輪作体系をとって栽培されている。
・ 平成17年には、花き集出荷施設「花童夢」(フラワードーム)を整備し、花きの集出荷施設として、また、大型冷蔵施設では、球根の保存などを行っている(写真7~8)。
(5) 農産物直売所「しょいか~ご千葉店」
・ 「しょいか~ご千葉店」は、千葉市若葉区に所在する、千葉みらい農業協同組合が運営する農産物直売所である。平成17年の開業以来、13年になるが、売上高は毎年順調に増加している。
・ 県内最大級の売り場面積に1000名の登録生産者が時期ごとに出荷している。その中で常時出荷をしているのは600名ほど。
・ 千葉県は野菜の生産が盛んであり、店内では、にんじん、だいこん、はくさい、レタスなど冬野菜の入荷が多い。また、生産者が作った惣菜などの加工品も販売している(写真9)。
初めに、野菜需給協議会の藤島座長と丸朝園芸農協の松本専務理事からあいさつがあり、秋葉総務部長から、組合の概要などについて説明の後、参加者との意見交換が行われた(写真10)。
(2) 主な質疑応答
Q: 生産者が出荷にかかる費用は、どのような経費で、どれくらいになるのか。
A: にんじんでは、選果料の他、小袋代、段ボール代、輸送費、組合経費、市場手数料で、1ケース(10キログラム)あたり500円から600円である。
Q: 選果場を整備し、同時に栽培方法など体系化された農業を展開したことが、この地域全体の振興に大きく寄与したと思うが、整備の契機となったのはどのようなことか。
A: この地域はもともといも類の栽培が主であったが、将来を見据えて新たな農業の振興が図られた。この地域の土がにんじんの栽培に適していること、共同選果を導入しやすい品目が、にんじん、トマトであることから、これら2品目の選果場を整備した。
Q: 生産者1人あたりの収入には相当の開きがあるか。
A: 年収が150万円から200万円という生産者も多くいる一方、富里市辺りでは、外国人研修生も活用して中規模経営を行い、7000万円の収入を得ている生産者もあり、2極分化傾向にある。
Q: 生産されていない農地が多いが、そのような農地を集約するなど、今後の方向性はどのように考えるか。
A: 生産が盛んではない地域は、小さな農地が点在し、水源も無いような地域が多く、そのような地域を集約して活用するのは非常に困難。そのため、生産に適した農地を借りて、中・大規模経営に転換していく方向になるのではないか。
Q: トマトも、ミネラル栽培など付加価値を高めるような栽培を行っているのか。
A: ここの産地は抑制栽培の産地であり、真夏に定植をするので、肥料は全く使用しない。味へのこだわりとして、「桃太郎」の兄弟品種である「桃太郎ヨーク」を生産している。栽培に手はかかるが、フルーツトマトに適しており、10月頃にはとてもおいしくなる品種。
Q: にんじんの販売価格はプール計算か。どこへ出荷するかは組合の裁量か。
A: 丸朝園芸農協では、他のJAではできない、専門農協ならではの細かな戦略で販売をしている。生産者に不公平のないように、輸送費などを含めて、にんじんは1週間単位でプール計算をして一律に支払っている。他の品目は日々の精算となっている。
Q: 米などでは業務用の多収品種があるが、野菜では業務用に単収の高い品種を生産するような動きはあるか。
A: 葉物野菜では実際に話もあるが、にんじんの場合、加工用は極めて低価格なので、加工用専門に栽培をする人はいない。生食用に作っても、圃場によっては3割から4割の不適合品が出る場合があるので、それらが加工向けとなる。
Q: 現行の選果施設の整備費が自己負担分で4億円だが、これを更新する際には、経費負担が大変なのではないか。
A: 現在は、現行施設の整備時よりも栽培面積が増えていることから、仮に規模を大きくしようした場合、費用が2億円、3億円とすぐに増える。また、更新すればその先10年は費用の返済をしなければならないので、その時の生産者が10年後も継続して生産してくれるという見極めが重要となる。
今回の現地協議会では、丸朝園芸農協における選果場の設置による省力化、ミネラル栽培を取り入れた高付加価値化による他産地との差別化、専門農協としての産地発展などへの取り組みについて、圃場においては、生産者から気象環境の変化による栽培管理のご苦労などについて説明を受け、参加者からは、各訪問先の説明等に積極的な質疑が行われた。
意見交換会では、質問のほか、参加者それぞれの立場や目線から多くの意見が出されるなど活発な意見交換がなされた。さらに、農産物直売所において販売現場の説明を受けた。参加者は、生産者、出荷団体、販売現場における実情や取り組み、苦労などについて、より理解が深まり、有意義な現地協議会となった。