〈砂糖類・でん粉情報との共通企画〉
札幌事務所 黒澤 和寛
北海道網走郡津別町では、適正な輪作体系を維持していくために、JAつべつやJA子会社である有限会社だいちなどが中心となって、畑作コントラクターの体制整備や、加工用ばれいしょのバラ貯蔵が行われており、ばれいしょの生産面のみならず流通面においても省力化・効率化の取り組みが進められている。
ばれいしょは、生育適温15~21度と比較的冷涼な気候に適しているため、北海道畑作の基幹作物の一つとして広く生産されており、全国の出荷量に占める北海道産のシェアは8割を占めている。また、小麦、てん菜、豆類と並んで、輪作体系を維持する上でも重要な作物である。
ばれいしょの用途を見ても、加工用、でん粉原料用、生食用、種子用など多岐にわたっており、関連産業の裾野が広く、地域経済上も重要な役割を果たしている。
一方で、ばれいしょ生産は、てん菜と同様に畑作物の中でも労働負荷が高い傾向にあり、特に生食用と加工用は、収穫の際の衝撃で傷や打撲が生じないように収穫することが求められ、手間と労力がかかる(図1)。このため、高齢農家や大規模農家を中心に作付けが敬遠される傾向にあり、作付面積は減少傾向にある。
こうした状況を踏まえ、北海道網走郡津別町では、JAつべつやその子会社である有限会社だいち(以下「だいち」という)が中心となって、コントラクター(注1)による農作業受託の体制整備のほか、農作業繁忙期の異なる他産地や地域の運送業者など他産業との労働力融通など、生産面における省力化の取り組みが進められている。
また、流通面においても、ばれいしょ集荷の際に使用される既存の鉄コンテナに替わって、バラ集荷・バラ貯蔵に対応できる加工用ばれいしょの集出荷貯蔵施設を新設し、実需者のニーズに対応しながら、長期安定供給を目指す取り組みが行われている。
本稿では、津別町におけるばれいしょの生産および流通の両面における省力化の取り組みについて、JAつべつおよびだいちの取り組みを紹介する。
注1:飼料生産受託組織
津別町は、オホーツク総合振興局管内の内陸部に位置し、北見市や美幌町などのほか、十勝総合振興局管内の陸別町や足寄町、釧路総合振興局管内の釧路市などと隣接する(図2)。町の総面積の9割弱が山林で、平地は町の北部に広がる扇状地に多く集中し、それ以外では河川沿いに集落が形成されている中山間地域である。
気候は、オホーツク地域の内陸部に位置するため、夏は例年比較的気温が高くなるが、冬はオホーツク海に接岸する流氷などの影響も受けて寒さが厳しく、夏冬の気温差が大きい(図3)。
津別町の農家戸数は、平成30年度163戸、作付面積は約4900ヘクタールであり、内訳は麦類1389ヘクタール、てん菜792ヘクタール、ばれいしょ631ヘクタール、豆類572ヘクタールのほか、飼料作物1071ヘクタール、野菜類444ヘクタールなどとなっている(図4)。その他、畜産関係では、乳用牛が1969頭、肉用牛が5432頭となっている。
JAつべつは、津別町を事業区域とする総合農協である。JAつべつが平成29年度に取り扱った農産物販売額は31億円であり、最も金額が大きいのは、たまねぎ8億5000万円、次いでばれいしょ7億2000万円、てん菜5億6000万円となっている。畜産物販売額は、同年度44億円であり、内訳は肉用牛30億2000万円、生乳9億2000万円、乳用牛4億4000万円となっている。
JAつべつは、新規就農者が円滑に酪農に就農できるような研修の場を提供することを目的に、9割以上出資して法人を設立した。それが「だいち」である。設立は12年1月、だいちは離農した町内酪農家の農地や牛舎などを引き受け、研修を終えた新規就農者に資産譲渡することにより、これまでに4件の新規就農を実現させている。26年12月からは、町内に新設したTMRセンターの管理・運営も担っている。
現在の社員は7人で、オペレーター1人と臨時雇用の契約をしている。29年度の売上高は3億1500万円であり、うちTMRセンターの売上高が2億7800万円と全体の9割を占め、農作業受託に係るものは3700万円となっている。
ア 輪作体系維持のため、加工用ばれいしょの増産へ
津別町では、主に小麦、てん菜、ばれいしょの畑作3品目で輪作体系が組まれているが、平成19年ごろから、1戸当たりの作付面積が増加する中、てん菜やばれいしょに比べて労働負担の少ない小麦への作付けに偏り始めた。このため、JAつべつなどが中心となり、この輪作体系を維持していくため、ばれいしょの増産に向けた検討が始まった。ばれいしょの増産には、安定した販売先の確保が重要であり、JAつべつは以前からつながりのあったスナック菓子メーカー(以下「A社」という)と協議を開始した。A社としても、原料となるばれいしょを確保したいとの意向があり、両者の思惑は一致して、協議は進展していった。こうした中で、用途としては、安定した販売先の確保が見込めて、でん粉原料用などと比べて収益性が高い加工用が選ばれた。
イ JAつべつによるコントラクターの整備
片栗粉などでん粉用途に仕向けられるでん粉原料用とは異なり、ポテトチップスなどの原料になる加工用ばれいしょは、表面に傷や打撲が付くと、腐食や焦げの原因になることから、打撲などを付けずに収穫することが求められる。また、このような生食用並みの作業体系を実現するための機械も必要となる。個々の生産者でこうした高額な機械を所有することは難しく、増産するにも、農作業受託ができる環境整備が必要であったことから、加工用ばれいしょのコントラクターを整備していくことが必要となった。
A社は、以前から他地域において、ばれいしょ生産者の農作業受託を行っており、津別町内でもこうした取り組みを参考にして農家レベルで農作業受託が行われた。しかし、一農家が受託できる面積には限界があることから、JAつべつが主体となって、農作業受託の取り組みを開始することとなった。
実施体制については、機械はJAつべつが所有しているが、実際の作業に当たっては、機械のオペレーターは小型特殊免許などが必要となるほか専門性が高く、JA職員での対応が難しかったことから、地元の運送会社に委託する形態で始まった。
こうして始まった取り組みは、平成25年には「津別町農業総合サポート事業」としてJAつべつの農業振興計画でも位置付けられ、取り組みが進められていった(図5)。
ウ だいちがコントラクター事業を集約
他方、畜産部門では平成26年12月から町内でTMRセンターの稼動が始まり、法人設立の目的を一定程度達成して事業の多角化に取り組める受け皿として、だいちが同施設の管理・運営を行い始めた。TMRセンターでの飼料製造から原料となる粗飼料の生産までの全体的なサービスを提供するため、だいちはデントコーンや牧草の収穫に係る農作業受託の取り組みを開始している。こうした中、29年には、JAつべつが行っていたばれいしょの農作業受託をだいちに集約化する「津別町営農支援センター」の構想がJAつべつなどを中心として掲げられた(図6)。
同構想では、品目として、てん菜が新たに加わり、農作業委託を含めた労働力の提供を求める畑作農家および酪農家と、農作業および労働力の提供が可能な運送業者などを、だいちが仲介しつつ、だいち自身もコントラクターの実働部隊として農作業受託を行うこととされている。また、農作業繁忙期の異なる他産地や、地域の運送業者など他産業との労働力の融通を図るべく、季節や作業ごとの生産者側のニーズ調査を行うとともに、町内外の建設業者や運送業者などに労働力提供の可否を調査し、労働力のマッチングおよび需給のデータベース化についての検討も進められている。加えて、農家所有の機械などについて貸し出しのマッチングも行うこととされている。
31年中の同構想の実現に向けて、ばれいしょは30年から、てん菜についても31年からだいちが農作業受託の窓口となり、農作業委託を希望する畑作・畜産生産者の省力化をトータル的に支援する体制が整えられようとしている。
平成30年にだいちが行う農作業受託面積は、加工用ばれいしょ100ヘクタール、デントコーンなど450ヘクタールのほか、31年からの本格実施を前に試験的に行ったてん菜93ヘクタールである(表1)。
加工用ばれいしょは、受託戸数15戸であり、ほとんどが植え付けおよび収穫を行うが、一部の生産者では植え付けのみまたは収穫のみの受託もある。作業受託までの流れは、だいちが組合員に対して前年の12月に農作業委託の意向調査を行い、委託の希望を把握する。
加工用ばれいしょの受託料については、受託する各生産者の個々の面積によって単価が異なるが、おおむね10アール当たり約3万円で設定している。植え付けのみまたは収穫のみの場合、個々に単価を設定している。委託する生産者は、加工用ばれいしょの面積の一部を委託することが多く、自分たちだけでは労働力が不足して手が回らない部分を委託しているという。
だいちが農作業に使用するトラクターには、30年からGPS自動操舵機を導入している。これにより、畝がまっすぐになり、その後の作業がしやすくなるなどといった効果が出ている。また、A社と連携して、オペレーター向けの安全講習会や研修会も行っており、研修会では、畝上げに際しての土の上げかたや収穫時にばれいしょの打撲を少なくするための掘り方などをテーマとして、技術の習得を図っている。
また、だいちは、他産業との労働力融通の取り組みとして、30年1月に労働力需給調査を実施している。他産業の対象は、町内外の建設、運送、食品、木材などであり、どんな時期にどんな作業内容を提供できるかを調査している。併せて、JAつべつ組合員に対しても、どんな時期にどんな作業内容が必要かを調査している。その結果、他産業は4~5月に作業補助員の提供が可能であり、組合員は主に4~5月および8~10月にオペレーターおよび作業補助員が必要であることが分かった。だいちは、同調査結果を基にして、今後の労働力のマッチングを模索するとともに、地域内の労働力融通を進めたいとしている。
JAつべつがコントラクター事業を始めた当時(平成19年)と現在(29年)を比較すると、生食用などの面積減少が影響し、ばれいしょ全体の作付面積は減少したものの、加工用については186ヘクタールから267ヘクタールに増加している(図7)。地域の視点で見ると、加工用ばれいしょの増加分が生食用などばれいしょ全体の減少分の一部を補っており、加工用ばれいしょの増産に向けて取り組んできた農作業受託の体制整備の取り組みが奏功し、関係者からは、「ばれいしょ作付面積の下支えとなり、輪作体系の維持に寄与している」と一定の評価がなされている。
生産者の視点で見ても、作付面積を維持しながら、空いた時間と労力を他の作業に振り向けることができているほか、作業の進捗にゆとりが生まれ、怪我や事故などのリスクも低減していると考えられる。また、収穫の時期が遅れると、品質の低下を招くほか、積雪により耕起や施肥などの収穫後に行う作業ができず、翌年の営農にも悪影響を与えかねないが、作業を外部化することにより、作業遅延のリスクが低減され、適期播種・適期収穫にもつながっていると考えられる。
今後の課題は受託面積をいかに増やしていくかということである。高齢化の進展や農業機械の老朽化による更新が迫るにつれ、生産者の利用ニーズは高まっていくと考えられるが、受託面積の拡大には、だいち自身の機械の更新・能力向上やオペレーターの確保・熟練が必要である。てん菜については、31年には、6畦自動移植機や6畦収穫機を利用したコントラクターが本格稼動し、それに伴いオペレーターも新たに3人追加するなど、受託面積の拡大に向けた体制が整いつつある。
しかし、ばれいしょについては、現状、自走式2畦ハーベスタ1台とけん引式1畦ハーベスタ3台で収穫をしており、産地パワーアップ事業など国の補助事業を活用して随時機械の導入をしているものの、さらなる受託面積の拡大に向けて、今後耐用年数を経過した機械の更新とともに機械の能力向上を図ることが必要であり、今後の機械の更新や能力向上に向けた検討が進められている(写真2)。
また、もう一つの課題は事業としての採算性の問題である。多くの生産者に利用してもらえるよう、利用しやすい料金設定をしてきたところであり、減価償却を除いたコストでみれば黒字にはなっているものの、法人収支はまだ赤字になる見込みである。コントラクター受託料を受託面積などによって変えたり、他と比べても比較的安価な設定であったTMR飼料代金を一部期中で改定するなどの取り組みが行われているところであるが、経営収支を改善させ、事業に継続性を持たせながら採算を合わせていくことが今後求められる。
流通面における省力化・効率化の取り組みについては、コントラクターなど生産面の取り組みと一体的に行われてきた。平成19年ごろから、JAつべつが中心となりばれいしょの増産に向けた検討が開始された際、作付面積の増加にも耐えうる集荷貯蔵施設が必要であった。そこで、JAつべつは、20年度強い農業づくり交付金を活用して、加工用ばれいしょの集荷貯蔵施設を設置した。これは、収穫したばれいしょを圃場で鉄コンテナに入れて施設へ運び、粗選別後に鉄コンテナで貯蔵して出荷を待つものであり、ばれいしょの増産を流通面で下支えする役割を果たしてきた。
その後、加工用ばれいしょの作付面積の増加とともに、既存施設だけでは十分な貯蔵ができなくなり、原料の搬入・搬出を頻繁に行わなければ回転ができない状況となってきた。このため、28年度産地パワーアップ事業を活用して、新規集荷貯蔵施設の建設が進められ、29年10月から新規施設が稼動している(写真3、4)。
既存の集荷貯蔵施設では、鉄コンテナを使用して集荷貯蔵が行われているが、新規施設では一環してバラのまま集荷から貯蔵、出荷までを行うことができる。集荷から貯蔵、出荷までの流れは次の通りである。
新規施設への集荷に当たっては、セルフアンローダと呼ばれるトレーラーの荷台に載せる大型コンテナが使用される。セルフアンローダはA社所有であり、JAつべつがそれを借り受けている。収穫したばれいしょは、生産者圃場でハーベスタから直接セルフアンローダに積み込み、新規施設へ搬入される。施設搬入後、セルフアンローダに積み込まれていたばれいしょは、ホッパーに空けられる。その後、4台の近赤外線カメラを搭載した自動選別機で石や土塊などが自動ではじかれた後、仮置きホッパーに入る(写真5)。
新施設は、900トンの貯蔵室を6室備えている。仮置きホッパーから貯蔵室への搬入は、大型コンベアで自動的に行われる(写真6)。大型コンベアの先端にはセンサーがついており、ばれいしょの高さを一定に揃えながら積んでいくことができる。
ばれいしょの受入れは9月上旬から始まり、1日250~300トンが搬入されて貯蔵が始まる。出荷はユーザーからの需要に応じて、その都度行い、翌年3月までにはすべて出荷し終えるとのことである。出荷時は貯蔵室からホイールローダなどを使って出荷されている。
新施設の大きな特徴の一つは、バラ集荷・バラ貯蔵に対応して、既存の施設で使用していた鉄コンテナが不要となることである。鉄コンテナはJAが各生産者の圃場へあらかじめ配付したものを生産者自ら組み立てる作業が必要となるが、バラ集荷を行うことによってこの作業が不要となることから、生産者にとっても施設を運営するJAつべつにとっても、省力化が図られている。加えて、従来、人の手で行っていた貯蔵前の石や土塊などの選別について、自動選別機が代替することにより、施設運営上の大きな省力化になっている。また、新規施設における人の手による選別は、出荷前に行っており、収穫時期の繁忙期と異なるため、人員確保がしやすいというメリットにもつながっている。
北海道農政部の調査結果によると、平成29年3月末の道内のコントラクター数は324組織とされている。そのうち、水稲、麦類、豆類の作業を行っている組織はそれぞれ4割強存在しているが、てん菜とばれいしょについては、14%、10%と、労働負荷が高い品目について、作業を行うコントラクターが少ない状況となっている。
今回調査をした津別町では、生産者の労働力をいかに軽減するか、生産者の圃場からいかに早く生産物を収穫するかという視点に立って、特に労働負荷が高い品目を対象にして、生産段階のみならず流通段階においても省力化・効率化の取り組みが行われていた。
てん菜やばれいしょの作付けを維持することは、適正な輪作体系を維持することにつながり、ひいては地域全体の作付けを維持していくことにつながる。今後も高齢化と労働力不足の進展が見込まれる中、てん菜やばれいしょの作付けを維持していけるよう、省力化・効率化の取り組みが広がっていくことが期待される。
最後に、今回の調査に当たり、業務や作業の合間を縫ってご対応いただきました、JAつべつ農畜産課の皆様、有限会社だいちの皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。