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 〔特集〕国産野菜の競争力強化につながる取り組み(野菜情報 2018年12月号)


伝統野菜の地理的表示(GI)登録による成果と課題
~福井県の吉川ナス・谷田部ねぎ・山内かぶらを事例として~

立教大学 経済学部 助教 阿部 希望

【要約】

 伝統野菜として全国に先駆けて地理的表示(GI)保護制度に登録された福井県の吉川ナス(鯖江市)、谷田部ねぎ(小浜市)、山内かぶら(若狭町)の3品を取り上げ、同制度取得後の各地域の現況を明らかにするとともに、その成果と課題について考察した。吉川ナスと山内かぶらでは出荷数量や売上金額が増加し、吉川ナスと谷田部ねぎでは生産者の新規加入が見られるなど、GI取得が契機となった地域活性化の効果と産地の課題が確認された。

1 はじめに

 平成282016年に福井県の伝統野菜である吉川ナス(鯖江市)、谷田部ねぎ(小浜市)、山内かぶら(若狭町)が地理的表示(GI)保護制度に登録された(表1・図1)。

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 GIとは、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性が、品質などの特性に結びついている産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録・保護する制度で、登録産品の生産者団体が定めた基準を満たす当該団体の構成員のみが当該産品の名称の表示である「GIマーク」を付けることが可能となる。この制度を利用するためには、農林水産省の厳しい審査をクリアしなければならないため、登録された産品の品質基準は公表され、その後も国が品質管理状況の確認を行っていくため、「国のお墨付きを得た産品」としての称号を得ることとなる。

 「伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性が、品質などの特性に結びついている産品」という点では、伝統野菜はその格好の例である。伝統野菜とは、各地域で古くから固定種と呼ばれる種子で栽培されてきた野菜のうち、地方の自治体や生産・流通に関わる人々が、栽培地域や栽培暦などに独自の条件を設けて、それらの保存と特産品化を目指す場合に、このような名称で呼ぶことが多い。各地で栽培されてきた伝統野菜が失われていく中で、GIが伝統野菜の保存に向けた一つの解決策になり得る可能性も期待されている(注1)。そこで本稿では、伝統野菜として全国に先駆けてGIに登録された吉川ナス(章)、谷田部ねぎ(章)、山内かぶら(4品を取り上げ、各地域のGI取得後の現況を明らかにするとともに、GI登録による成果と課題について考察する。

 なお、これら品はいずれも、①生産者自らが種子を採り栽培している、②100年以上前から栽培されている、③地域に根差した作物である、という点が評価され、平成232011年に「伝統の福井野菜振興協議会」において「伝統の福井野菜」に認定されている。

注1:参考文献1 

2 吉川ナス

 (1)品種特性と生産団体の設立

 吉川ナスは、鯖江市の旧吉川村一帯(現在の川去町・田町付近)を中心に作られてきた楕円~やや巾着型の丸なすで、肉質がよく締まっているみつななすである。外皮が薄いため、果実に傷がつきやすく、現在ではハウス栽培を主としている。また、水分量が多いため、火を通すととろみのある食感が生まれる。果実の色は黒紫色で、光沢がよく、ヘタの部分には鋭いトゲがある。大きさは、直径10センチ程度(ソフトボールほどの大きさ)で約300グラムの重量である写真1

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 栽培方法として、定植は月下旬より開始し、生育の過程で、一番花から下本の側枝を残して、その下の側枝は早めに搔き取る。主枝を本仕立てとし、本当たりの樹勢が強く図れるように栽培するため、大果ななすに肥大する(写真2)。また、年間の収穫量は、本の木から40個程度で、一般的に栽培される多収型なす(F1品種の収穫量と比べて半分以下である。

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 昭和戦前期頃までは生産が盛んであったが、品種改良された多収型なすの登場とともに徐々に生産が減少し、生産農家は一時市内1軒のみとなった。平成212009年に唯一の生産農家が亡くなったことを受け、残された種子は農家有志10名が譲り受けた。そこで、同年12月に福井丹南農業協同組合(以下JAたんなん」という野菜生産組合所属上記農家有志10名を集い「鯖江市伝統野菜等栽培研究会(以下「研究会」という)が発足され、現在まで栽培が続けられてきた。

 (2)GIの取得

 平成272015年にGI制度の存在を知った鯖江市役所農林政策課のN氏が、吉川ナスのGI登録を研究会に勧めたところ、会員一同に承諾され、農林政策課が事務局となって、GI登録に向けた申請準備が開始された。そして、282016月12日に全国で14号目、伝統野菜としては全国初となるGIの登録を受けた。

 GIに申請する際に提出した品質基準や生産方法について記載した「明細書(注2)」によれば、栽培の方法は、①鯖江市内において、品種「吉川ナス」を用いて栽培すること、②生産圃場への定植から収穫までの管理については「吉川ナス栽培指針」に従い行うこと、③なすに登録のある農薬を適正に使用し、連作障害対策として台木を使用すること、④収穫時期は6月中旬10月までとしている。

 出荷規格は、①「吉川ナス出荷基準表」により、果実の色は黒紫色で光沢が良く、損傷・変形・日焼けのないものを選定し、秀優良の品位区分に分けること、②重量により大中小の大きさで選別し、出荷すること、としている。以上の基準を満たしたものだけに、GIマークを付することが許されている(写真1)。

注2: 申請者ガイドライン様式別2-1「明細書」による。作成日:平成28年7月12日、改定日:平成30年1月30日。

 (3)生産・流通体制

 表2は、平成302018月時点における研究会会員の年齢と役割を示したものである。研究会の発足時は10名であった会員数は、GI取得以前の272015年までには13名、現在では40代80代までの17名で構成されている。このうち、GI取得後の新規会員は50代~70代の名である。種子の採種は、会員のT氏が担当し、会員による個別採種は原則禁止とされている。前年の12月に会員からの申し込みを受けて、T氏が採種した種子を岐阜県の苗生産法人に育苗を委託し、その苗を月の栽培講習会開催時に配布している。

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 研究会では、会員向けの栽培講習会を年間10回ほど実施している。県の農業改良普及員と会員の氏の指導のもと、土づくり・整枝・剪定・鉢上げ・肥料・ぼかし(注3)づくりなどの栽培講習を年4回、収穫期である月の間には週1回ほど会員の畑を巡回し、個別指導も行っている。巡回時には、圃場状況を確認しながら「巡回記録」を記帳し、誘引・整枝・剪定・肥培管理・防除を指導するとともに、生産者に「吉川ナス生産行程管理記帳表」を作成・提出させ、「吉川ナス栽培指針」による栽培方法を遵守しているか否かを点検する。栽培指針に従った生産が行われていない場合には、会員に対し警告を発し、警告を受けたにもかかわらず従わない場合には、研究会を脱退する規約となっている。

 収穫期には、鯖江市がJAたんなんの共同選果場を借りて、毎週月・水・金に集荷日を設け、品質検査を実施している。品質検査は会員のK氏が担当し、「吉川ナス出荷基準表」に従って外観・形状・果皮の色・花落ちなどを検査し、出荷規格を遵守しているか否かを確認する。出荷規格を満たさないなすについては、吉川ナスおよびGIマークを付した状態で出荷することはできない。

 図は、GI登録以前と以後の吉川ナスの出荷数量と売上金額の推移を示したものである。GI登録以前の272015年は出荷数量が1万2096個、売上金額が89万5578円であったのに対して、GI取得後の282016年には出荷数量が万7762個、売上金額が157万408円、292017年には出荷数量が2万2156個、販売額は162万6091円と、出荷数量および売上金額ともに約1.8倍以上に増加していることが分かる。出荷先は、主に同県越前市にある武生青果市場に約割、鯖江市内にある道の駅西山公園の直売所に約割となっており、GI取得後は都内のレストランにも販売している。

注3:有機肥料を発酵させて肥効を穏やかにしたもの。

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 (4)行政の支援

 鯖江市農林政策課では、研究会の設立当時より、研究会の生産活動を支援してきた。過去には、銀座にあるアンテナショップ「食の國福井館」でのPR販売、明治大学ふるさと鯖江フェアにおける吉川ナスの提供、東京青山の紀伊国屋本店および都内紀伊国屋5店舗でのPR販売など、県内および県外へのPR活動を実施するとともに、吉川ナスの生産農家と直売所をめぐる企画や県内の小中高校生を対象とした収穫体験などの交流事業も展開してきた。

 292017年は、毎年恒例の栽培講習会や道の駅西山公園における販売イベント、地元小学校での収穫体験および学校給食への提供、福井駅前での出店販売の他、東京や愛知からのGI視察の対応なども行っている。また、毎年月頃になると、吉川ナスの品評会が、JAたんなん野菜生産組合と研究会の共催で開催され、1位は鯖江市長賞、2位は福井丹南農業協同組合代表理事組合長賞、3位は伝統の福井野菜振興協議会長賞が授与される。

 こうした研究会とこれまでの活動が認められ、平成29年度地産地消等優良活動表彰で「北陸農政局長賞」を受賞している。

 これら一連のPR活動や品評会に加え、GIの登録料、苗の委託生産、出荷時の品質検査にかかる費用は、すべて市が負担している。補助予算は282016年度は45万円、292017年度は58万円、302018年度は89万3000円となっている。

3 谷田部ねぎ

 (1)品種特性と生産団体の結成

 谷田部ねぎは、小浜市谷田部集落の在来品種であり、京都の九条系品種からの系統分離が進んだものであると言われている。分けつ性のねぎで、軟白部は12~15センチと短い。葉も軟白部も食するタイプで、2~3本の茎に分かれて育つ。その姿は、横に広がり、葉の色は淡く、肉質は柔らかい。他産地の一般的なねぎと異なり、軟白部が釣り針状に曲がっているのが特徴である。この形状は、葉の肉質が柔らかいという品種の特性から、立てて植えられないため、斜めに植える栽培方法によるものである(写真3)。

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 栽培方法として、9~10月に圃場に播種し、4月上旬頃に1回目の植え替え、8月中旬~9月上旬に2回目の植え替えをする。通常のねぎは播種から収穫まで同じ場所で栽培するが、谷田部ねぎは2度植え替えする。その2目の植え替え時にⅤ字に溝を掘り、斜めの面に合わせて傾けて植える「伏せ替え」(写真4)という伝統的な栽培方法により、軟白部が釣り針状に曲がって生育し、土に埋まっている部分が柔らかく、独特のねばりと甘みを有する味わい深いねぎとなる。収穫は10~3月の間で、一般的なねぎよりも栽培期間が長い。

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 独特のねばりと甘味は、この谷田部集落でしかできないと言われており、10月までは暖かく11月以降は冷たい風が吹くのが、その一因とも言われている。

 平成111999年、谷田部ねぎの生産を拡大させたいと考えた生産農家から、現谷田部ねぎ生産組合長であり、当時JA若狭谷田部地区の支店長であった氏に相談があった。そこで氏はまず、それまでは貫目(キロ)3000円で販売していた谷田部ねぎの個別包装200グラムを提案した。その結果、町内のスーパーで扱えるようになった。販売先が広がった年後の132001年、谷田部ねぎ生産農家が相互の連絡を密にし、栽培技術の向上と流通販売体制の確立をはかり、ねぎ生産農家の発掘を目的に「谷田部ねぎ生産組合以下「組合」というが結成された。当時、谷田部集落100軒のうち、谷田部ねぎを出荷していた農家が30名いたが、そのうち27名が組合に加入したという。現在の組合員は、60~80代の計14名で、半数以上が80代となっている(表3)。GI取得後、60代の新規生産者が名加入したが、全体としては設立当時より組合員が減っている。

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 (2) GIの取得までの経緯と生産団体と行政の関わり

 谷田部ねぎは、上述した伝統の福井野菜振興協議会による「伝統の福井野菜」に認定される以前に、平成182006年には若狭おばまブランド推奨機構(小浜市商工観光課、小浜市商工会議所)による「若狭おばまブランド」、翌192007年にNPO法人スローフードジャパンによる「味の箱船」に認証されるなど、県内でも有名な伝統野菜の一つである。また、地元小学校では、谷田部ねぎを農業体験活動で栽培し、調理実習時に使用したり、学校給食の食材としても利用されるなど、組合による地産地消の取り組みも進められてきた。こうした組合活動の成果が認められ、192007年に北陸農政局長賞も受賞している。

 谷田部ねぎのGI登録を組合に勧めたのは、福井県嶺南振興局農業経営支援部であり、県の指導を受けながら、272015年にGIの申請準備を開始した。申請書類は全て組合長であるI氏の作成で、国の厳しい審査を受ける申請書類の作成には大変苦労したという。そして、登録申請から1年3ヵ月後の282016年9月7日に、全国で15号目、伝統野菜としては吉川ナスの次となるGI登録を受けた。

 GI取得後には、小浜市産業部農林水産課農業振興・六次産業化グループが窓口となり、テレビ・新聞取材の対応や、補助事業として谷田部ねぎのパンフレット6000部を発行している。しかし、その他、GI登録によってかかる費用やその後の生産・PR活動全般については、組合負担である。GI登録後は、毎年「生産行程管理業務実績報告書」を提出することが義務付けられており、国からの指導が入ることもある。292017年に農林水産省より3名の検査官が定期検査に訪れた際には、組合長が対応した。

 (3)生産・流通体制

 種子の採種は、組合員各自で行い、種子の採種量や使用量から残量まで、栽培が始まるまでに組合長に報告する。組合長は、この報告を「谷田部ねぎ種子生産・使用状況とりまとめ書」にまとめるとともに、採種した種子で組合員が谷田部ねぎを生産していることを確認する。栽培期間には、組合の班長が月下旬頃に採種確認、翌年4月下旬に回目の植え替え確認、10月上旬に回目の植え替え確認、11月中旬~12月上旬にかけて収穫物の確認のため現地巡回し、その都度、結果を組合長に報告することになっている。

 特に回目の植え替えと収穫物の確認時期には組合長も現地を巡回し、栽培の方法が遵守されていることを確認する。また、組合員は出荷が始まる前に、「谷田部ねぎ栽培作業日誌」を組合長に提出し、班長がその内容を点検する。

 栽培は、GI申請時に提出した栽培基準に準じて会員各自で行う。特に回目の植え替え時のねぎの選び方、皮のむき方、植え方などには熟練した技術が必要とされる。その技術は各組合員によってそれぞれ独自性があるが、昔から生産者同士で栽培技術について教え合うという習慣はないという。

 しかし、出荷規格は統一しなければならない。そのため、GI取得後に始めたのが、毎年10月組合主催で行う「目ぞろえ会」である。組合員が1本ずつ自分で作ったねぎを持ち寄り、基本となる谷田部ねぎの目ぞろえを行う。基本的に、根はすべて取り除くこと、葉はスリップスによる被害葉や先端の枯れ葉は取り除くこと、軟白部は10~15センチ、緑葉の部分は55~65センチとされ、曲がり具合や太さ、長さなどを見比べたり、根の切り方や葉の残し方などを話し合い、収穫ピークを迎える時期の出荷がスムーズに行えるようにする。

 目ぞろえ会で基準となった形状をもとに、組合員は各自収穫し「谷田部ねぎ生産組合」という名称が入った個別袋に包装し、GIマーク付して販売先に出荷する(写真5)。

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 GIマークのシールは円で、万枚のシートを組合長が業者に制作を依頼している。会員は30シート(450枚)を購入し、使用枚数とシールを貼った出荷先についても組合長に報告することになっている。出荷先は主に小浜市内のスーパーマーケット(Aコープで、月ごとに担当出荷日が決めら回に約20袋ずつ出荷している。図は、GI登録以前と以後の谷田部ねぎの出荷数量と売上金額の推移を示したものである。GI登録以前の平成272015年は出荷数が5292束、売上金額が90万5462円であったのに対して、GI取得後の282016年には出荷数が3900束、売上金額が61万7164円、292017年の出荷数は不明、売上金額は70272円であった。GI取得後の著しい増加は見られず、むしろ出荷数量および売上金額ともに減少傾向が見られる結果となった。ただし、この数値は組合が把握している出荷状況を示したものであり、会員の個別販売分については計上されていない点を考慮する必要がある。しかし、組合長によれば、「GI取得後、取材に伴う少量単発的な注文は増えたが、継続的かつ大口の販売先の確保までには至っていない。販売状況はGI取得前とあまり変わっていない」というのが現状のようである。

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4 山内かぶら

 (1)品種特性と生産団体の設立

 山内かぶらは、若狭町山内地区で栽培されるかぶで、一般的なかぶは、丸みを帯びて肌が滑らかなのに対し、山内かぶらは、かぶの直径が8センチ以上の肩張りのよい円錐形で、肌にくぼみとヒゲ根が多い。肉質は緻密で硬く、葉は大形のびわ葉(長い楕円形)で多少の切れ込みもあり、毛じがある。草丈は60~70センチにも達し、野沢菜のようでかぶ菜としての利用にも適している。普通のかぶではトロトロに煮崩れてしまうが、山内かぶらは煮崩れしないのが特徴である(写真6)。栽培方法として、畝立て前に元肥と石灰を施用し、9月初旬~中旬まで3~4回に分けて播種する。播種後、薄く覆土し、モミガラを3~4センチ厚さにかける。間引きは、幅60センチにかぶが5~6株になるようにする。収穫は11~2月でピークは12~1月である。

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 山内かぶらは、若狭町山内地区以外では栽培されておらず、昭和30年代頃までは40軒ほどの家で自家用野菜として細々と栽培されていた。特筆すべきは、種子が姑から嫁へ代々受け継がれていた点である。昭和60年頃になると、生産者の高齢化に伴い栽培が一時途絶えかけたため、621987年に福井県農業試験場に種子の保存を依頼した。そして平成8(1996から再び1軒の家で自家採種と栽培が続けられた。こうした中、222010年に若狭町役場において産業課特産振興販売室が設置されたことが契機となった。

 若狭町内の地域資源や技術を生かした特産品の振興を図るため、現若狭町総合戦略課特産振興室室長のM氏が「山内かぶら」に注目したのである。M氏はまず、役場で畑を借りて、山内かぶらを試作した。そして、そのおいしさに感激したM氏は、山内かぶらの唯一の生産者であったT氏に生産組織の設立を相談した。T氏を中心に山内かぶらを通して村おこしにつなげようと区民に呼び掛け、232011年に5名の主婦を中心に「山内かぶらちゃんの会」が設立された(写真7)。また、M氏らは、若狭町管内に種子を配布したが、同様のかぶは、山内地区でしかできないことがわかった。

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 (2)県や町による支援とGI取得

 特産振興室では、山内かぶらの生産拡大を支援するために、平成232011年~252013年にかけて「元気アップセミナー」を、262014年~27年2015にかけて「住民交流フェア」を開催している。元気アップセミナー開催の目的は、山内地区の住民に山内かぶらを広く知ってもらい、種子を配布し試作してもらうことであった。初年度から、山内かぶらのロゴ作成、漬物の視察研修・開発、料理講習会、学校給食への使用PRなど、多くの企画が実施された。翌年以降は、栽培講習会の開催、小学校における収穫体験(写真8)、地元高校生による特産研修、栽培・漬物加工品に使用する農工具の購入・補助、県内外PR活動の他、「山内かぶらの唄」制作を支援し、山内地区の住民に配布するなど、ユニークな活動で会の活動を支援している。商品タグのキャラクターや山内かぶらの唄のCDジャケットの制作は、特産振興室M氏の手作りである。

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 住民交流フェア開催の目的は、「山内かぶらちゃんの会」の会員を増やすことであった。この年以降、上記活動に加え、学校給食への提供、町内のレストランへの提供、町内・県外への漬物や生かぶらの販売が本格的に開始された。一方の山内かぶらちゃんの会も、自主的に資金や資材を集め、262014年に漬物加工場を建設した。会員の主体性や自律性に基づく活動を特産振興室が支援するという二人三脚の体制が軌道に乗り始めた頃、福井県嶺南振興局農業経営支援部よりGI登録を勧められた山内かぶらちゃんの会は、特産室振興室のM氏と相談し、27年月にGIに申請した。そして、翌年日に全国で16号目、伝統野菜としては吉川ナスと谷田部ねぎに次ぐ番目の登録を受けた。

 (3)生産・流通体制

 表4は、平成30(2018)年における会員の年齢と役割を示したものである。発足時は名であった会員数は、平成23(2011)年には名、24(2012)年には名、26(2014)年には12名となり、現在では60代から80代までの女性12名で構成されている。会員の中には、調理師の免許を有する者もおり、このΟ氏を中心に山内かぶらを使った餃子やコロッケの考案など、さまざまな加工品の開発が行われている。

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 種子の採種は、主に会の代表であるT氏の畑に採種用圃場をつくり、毎年12月に会員で母本選抜と植え替えを行う。母本選抜期にT氏の家に会員が集まり、かぶの直径が8センチ以上で、形状が腰高で、肩張のよい円錐形をし、ひげ根が多く、肩から腰にかけてやや緑色を帯びているかぶのみを選抜し、他のかぶと交雑しないように防虫網で囲い、5月下旬頃に採種する。採種管理は会員の当番制とし、連作障害を防ぐため、採種用圃場は毎年、青果物は2年ごとに畑の場所を変えている。会員は、GI申請時の栽培指針に準じて各自栽培するとともに、福井県嶺南振興局農業経営支援部の指導による栽培講習会にも参加している。注文が入ると、会員各自が平等個数となるように収穫物を持ち寄り、そこで会員によって一つずつかぶの直径を計るとともに、病害虫被害がなく、円錐形でヒゲ根の多い特性を有するものだけを選び、GIマークを付し、代表のT氏がまとめて出荷する。

 図は、GI登録以前と以後の山内かぶらの出荷数量と売上金額の推移を示したものである。GI登録以前の平成272015年は出荷量が500キログラム、売上金額が20万5800円であったのに対して、GI取得後の282016年には出荷量が1300キログラム、売上金額が65万7567円、29(2017)年には台風の影響により前年に比べると出荷量が830キログラムと減少したが、売上金額は68万5320円と、出荷量は約倍、売上金額は約3.3倍以上に増加していることが分かる。販売先は町内全域の学校・保育所給食、各直売場や道の駅、福井県内のレストランや青果市場の、GI取得後から、京都の料亭や大阪の居酒屋、東京の総菜店からも多くの注文を受けている。

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 (4)広がる活動

 GI取得後、山内かぶらちゃんの会では、新たな商品の企画・開発に取り組んでいる。これまでも、生かぶらだけではなく、規格外の生かぶらを甘酢漬けや餃子・コロッケの加工品販売していたが、まとまった注文があった場合のみ、地場産野菜を利用したお弁当の販売を開始したのである。特に大口の注文であったのが、平成302018年9月29日~10月9日に開催された第73回国民体育大会「福井しあわせ元気国体」のスタッフ弁当の発注依頼であった。会員自らメニューを考案し、会員が栽培した地場産野菜を利用して、当番制で1日100個の弁当を提供した。メニュー内容は、①新米ご飯に梅干し、②鯖の塩焼き、③山内かぶら餃子、④山内かぶコロ、⑤鶏肉の唐揚げ、⑥旬菜の天ぷら、⑦サラダ、⑧翡翠茄子、⑨かぶら菜の金風和え、⑩錦秋の煮物、⑪出し巻き玉子、⑫香の物、⑬デザートとなっており、36品目の食材を使い、栄養にも考慮された弁当は600円で販売された写真9

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 GI取得後の会の活動はGI登録産品の生産だけに留まらない。加工食品の製造や料理講習会などにも会員は熱心に参加している。会員の代表であるT氏は「GIを取得して良い効果しかない。一年中仕事があり、60~80代までの会員がお互いを高めあい、健康で楽しくやりがいを持って働けていることが番嬉しい」と話してくれた。

5 まとめ

 (1)GI取得による成果

 表5は、GI登録における地域の特徴とその変化をまとめたものである。

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 吉川ナスおよび山内かぶらは、生産数量と売上金額が著しく増加したのに比べ、谷田部ねぎについては際立った変化は見られなかった。これは、前者品がGI取得後に県外からの注文が増加したのに対し、後者は主要販売先がGI取得以前と変わらないためであろう。これまで認知度が低かった福井県の伝統野菜が、GI取得によりテレビや新聞における露出度が高まり、県外の新たな販売先を獲得できたことは、GI取得による大きな成果である

 また、新規生産者については、吉川ナスおよび谷田部ねぎで増えている。伝統野菜は一般的なF1野菜に比べて栽培が難しく、多くの手間がかかるわりに収穫量が少ない。それゆえ、全国的に伝統野菜の生産者は減少し、高齢化が進んでいる。しかし、GI取得が契機となって、合わせて名の生産者が増えたことは、担い手の増加という側面だけではなく、遺伝資源の次世代への継承という観点からも高く評価できる。生産意欲という観点からみると、県内外でのPR活動や品評会に熱心な吉川ナスや、組合で「目ぞろえ会」を始めた谷田部ねぎのように、これまで以上に良い産品を生産するため、それぞれ具体的な対応策を講じている。

 また、昔から販売目的に生産されていた吉川ナスと谷田部ねぎと違って、山内かぶらはもともと販売目的に生産されていた品種ではなく、姑から嫁へと受け継がれた自家栽培用の品種である。そのため、GI取得によって山内かぶらが対外的な評価を受け、県内外から注文が入ることが会員一同の喜びや生きがいとなっており、会員の主体性に基づく活動や新たな商品開発に向けた意欲の醸成など、地域活性化の効果にもつながっていることが確認された。

 (2)見えてきた課題

 以上、各地域のGI取得後の現況を明らかにするとともに、GI登録による成果について述べてきた。しかし、GI取得後から2年経ち、産地ではいくつかの課題も見えてきたようである。以下に、GI取得後の課題について一考察を試みる。

 (ア) 課題1 品種名称の先使用権注4GIに対する消費者の認知度に関する問題

 伝統野菜は、「地域名」と「商品名」を組み合わせた品種名称であることが多い。そのため、その「地域名」ではない場所で生産されたとしても、同様の品種名称を使用することができる。例えば、吉川ナスは鯖江市旧吉川村一帯で作られていたことから「吉川ナス」という品種名称となっているが、福井市でも「吉川ナス」として生産・販売されている。当然ながら、福井市で作られる「吉川ナス」にはGIマークを付することはできないが、先使用権として「吉川ナス」という名称は名乗ることができる。

 同様の問題は「谷田部ねぎ」においても見られた。小浜市へのふるさと納税のお礼品の一つに「谷田部ねぎ」がある。ふるさと納税は全国的に知名度が高いが、その「谷田部ねぎ」の提供源はGI登録された生産団体ではなく、別の団体である。すなわち、2事例ともに「品種名称」は同じであるため、GIを取得した伝統野菜とそれ以外の伝統野菜の違いが一般消費者に分かりづらいのである。GI取得によって「伝統野菜」の認知度は上がったが、GI自体に対する認知度はまだ低いのである。

注4:商標を不正な目的ではなく使用していた場合、引き続き商標を使用することが可能。

 (イ) 課題2 行政と生産団体との連携、求められる地域の連携体制

 生産団体の設立時より行政が関わっている鯖江市や若狭町の場合は、GI申請時における事務作業やGI取得後の諸活動においても、行政が生産団体を支援する体制が整っていた。

 一方、生産者が主体的に団体を設立・運営してきた小浜市では、二つの地域に比べると、行政の関与がやや希薄であり、生産団体あるいは会員のGI取得後の活動費用や生産以外の部分での事務労力の負担も問題となりつつある。

 他産品のGI登録団体に比べると、伝統野菜の生産団体は会員数も少なく、高齢化も進んでいる。それゆえ、行政が介入し、の費用負担を軽減する対策や諸活動を支援する体制を整えることが有効であると考える。

 さらに言えば、今回の調査を通して、同県内で品の伝統野菜が同時期に登録されているにも関わらず、3地域の連携体制は全く見られなかった。伝統野菜という商品の特殊性として、もともと安定供給には不向きな品種でもあり、その生産だけで会員の基幹収入を確保するとまでには至っていない。

 今後さらに生産を増加させ、販路を県外へと拡げていくためには、個別地域で対応するよりも、「GIに登録された伝統の福井野菜」として県単位で連携していくことが必要ではないだろうか。

 ) 課題 継続的なブランドの維持

 「伝統野菜の認知度をいかにして高め、その需要をどのように増やすのか?」、「基幹収入となりにくい伝統野菜の生産者をどのように支援していくべきか?」という問題は、伝統野菜の生産増大に取り組むすべての地域に共通する課題であろう。本調査を通して明らかとなったGI制度を活用した需要の増加や産地の対応、生産者を支える地域や行政支援のあり方は、こうした課題へ重要な示唆を与えてくれる。

 しかし、GI制度の活用による産地ブランディングの試みはまだ緒に就いたばかりである。GI取得後の継続的なブランドの維持と産地のさらなる発展が期待される中で、GI制度を活用した伝統野菜のブランディング先進地域としての福井県の今後の動向注目される

 <付記>

 現地調査に際して、鯖江市伝統野菜等栽培研究会会長の福岡重光氏、鯖江市産業環境部農林政策課主事の葛野泰央氏、同市同部同課主事の大竹司朗氏、谷田部ねぎ生産組合長の池田良光氏、組合員の池田和代氏、小浜市産業部農林水産課水産振興グループ主事の髙橋徹氏、同市産業部農林水産課農業振興・六次産業化グループ主事の石井建祐氏、山内かぶらちゃんの会代表の飛永悦子氏、若狭町総合戦略課特産振興室室長の三宅里氏、同町同課同室主事の奥村知行氏に聞き取り調査のご協力頂きました。以上、記して深く感謝申し上げます。


参考文献

1 香坂玲・冨吉満之(2015)『伝統野菜の今 地域の取り組み、地理的表示の保護と遺伝資源』清水弘文堂書房



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