ホクレン農業協同組合連合会 物流部 物流一課長 鎌田 隆行
トラック運行管理の厳格化や全国的なドライバー不足、高齢化などから農産物物流をとりまく環境は厳しさを増しており、物流の効率化は喫緊の課題になっている。こうした中、ホクレンでは産地から消費地までパレットで輸送を行う一貫パレチゼーション輸送の導入を進め、荷役作業の効率化を図っている。同取り組みの概要、今後の課題などを報告する。
物流を取り巻く環境は、ドライバー不足や高齢化の他、平成24年に発生した関越道での高速バス死亡事故の事故原因が、運転手の過労(拘束時間が違法)であったことから、拘束時間の規制強化をはじめとする運行管理の厳格化が図られたことなどにより、全国的に輸送力不足が懸念される状況が続いている。
総務省の調査では、27年現在、トラックの運転手は約80万人と、二年連続で減少していることが分かっている。こうしたトラック運転手のなり手不足については、道路貨物運送業が他産業と比べ、低賃金かつ長時間労働の実態にあることが、大きな要因であると考えられている。
また、40歳未満の若年層の割合が近年著しく低下してきており、全体数の不足のみならず、高齢化が深刻な問題となっている(図1、2)。
加えてインターネット通販事業など、小口の輸送需要が近年増加していることが、トラック運転手不足にさらに拍車をかけている状況となっている。
北海道は日本最大の食料基地だが、消費地(関東・関西・中京)への距離があるうえに陸続きではなく、道内においても消費地(道央圏)から産地までは遠距離である。そのため、片道しか積み荷がないなど非効率な輸送となるケースもあり、農畜産物を全国へ安定的に供給していくためには、当然のことながら安定的な輸送力の確保と物流効率化によるコスト抑制が最も重要となる。そこで、弊会物流部としては、次のような取り組みを実施している。
先述した運行管理の厳格化などによる運転手の拘束時間の規制強化や全国的な運転手不足・高齢化の問題から、手積み手下ろしが一般的である青果物輸送においては、輸送コストの増嵩だけではなく、輸送そのものが困難となりうる深刻な状況となっている。
このような状況に対応していくため、平成27年度より、パレットメーカーや輸送会社、JAなどの各関係先と連携し、産地から消費地までパレットでの輸送を行う、「一貫パレチゼーション輸送(注1)」の導入を開始し、荷役作業の省力化を図ることで、今後の安定出荷・安定供給の継続に向けて取り組んでいる。
オホーツク地区のたまねぎにおけるトラック輸送から開始した一貫パレチゼーション輸送は、平成29年度の導入実績でたまねぎ、ばれいしょが約14万トン(道外出荷数量の28%)、にんじんは2万2000トン(同37%)となっており、年々対象JA、品目も拡大している。
一貫パレチゼーションの効果については、荷役時間の短縮や女性や高齢のドライバーでも配送が可能となることで、輸送会社の選択の幅が広がることが期待できるなど、輸送力の安定確保に大きな効果が見込める。実際にたまねぎのトラック輸送を例にとると、20キログラム段ボールをトラックに1000ケースを手積みで積載した場合、ドライバー1名で約2時間要する(図3)。また、青果市場での納入は待機時間なども考慮すると4時間にも及ぶことも珍しくない。それがパレットによる荷役になると産地での積み込み時間、青果市場での納入とも30分程度で完了でき、通常荷役作業の大幅な省力化(約8割もの荷役時間軽減)が可能となるほか、実際に青果市場での荷下ろし車両の混雑緩和が図れているなどの声も聞いている(図4)。
しかしながら、一貫パレチゼーションのさらなる拡充に向けてはいくつかの課題も生じている。
注1:産地から農産物をパレット積みのまま出荷し、そのまま納入先の荷下ろしまで行う輸送体制
1つ目の課題はパレット回収率の向上である。パレット運用に際しては、たまねぎ、ばれいしょにおいてはコスト面や管理・運用面の観点より、納品先からの共同回収システムを持つ日本パレットレンタル株式会社(以下「JPR」という)の“レンタルパレット”での運用を行っている。パレットの仕様は、木製の「1.1メートル×1.1メートル型両面二方差パレット」である。パレット回収の流れは図5の通りである。
JPRにおける青果物用パレットの回収率は、平成29年にばれいしょが市場で停滞し、パレット回収に時間がかかったことなどから回収率は減っているが、上昇傾向で推移している(表1)。
JPRの共同回収システムでは、農協出荷以降はJPRの管理下となり、回収もJPRが行うが、青果市場の流通特性上、パレットの紛失が問題となっており、一時は回収率の低さから青果物のパレットレンタル事業からの撤退も辞さないとの状況となった。そのようなことから、27年より青果市場が参集する会議での説明や、回収率の低い青果市場への個別訪問などを実施し、回収率の向上につながっている。現在は、撤退の問題は解消されているが、一般雑貨のパレット回収率(99%)と比較するとまだ低く、さらなる回収率向上が課題となっている。
現在、たまねぎ、ばれいしょの一貫パレチゼーション輸送は木製パレットで運用しているが、機能性、衛生面によりその流通枚数は年々減少している。今後のパレット輸送拡充に当たっては、増加傾向であるプラスチックパレットへの移行が必須であり、そのためにはパレットの回収率を97パーセント以上とすることがJPRから要請されている。
パレット紛失の主な原因として、青果市場等の卸売会社へ品物を納入した後、積み替えを行わずそのまま転送され最終納入先が不明になってしまうことが挙げられる。パレットの紛失を防ぐためには、回収体制の整っていないユーザーへ販売する分については、卸売会社のパレットに積み替えることが有効な対策の一つだが、青果市場はパレチゼーション化が必要なことは理解するものの、この積替え作業が大きな負担になっており、継続対応は難しいという厳しい声も上がっている。
これまでワンウェイパレットが主流であった輸入果実についても、パレットを回収して運用する体制に変更してきているとの話もあり、そうなると今まで青果市場で自由に使うことが出来ていた“捨てパレット”が無くなり、自前のパレットを使って農産物を運ぶ産地がどんどん増えるため、青果市場でのパレット管理の重要性はますます高まってくるものと予測される。
2つ目の課題は、産地へのパレット送り込みについてである。
たまねぎ、ばれいしょで利用するパレットについては主産地である後志・十勝・オホーツク地区や新たに導入を開始した富良野地区において、パレットの借り受けデポ(保管場所)が近郊に無い(注2)ことから、輸送会社は集荷JAから遠く離れたデポにパレットを引き取りにいかなければならず、そのコストが大きな負担(パレチゼーションによるコスト低減分では吸収できない)となり、一貫パレチゼーションの拡大の障害となる場面も発生している。JPRに対してはレンタルパレットの借り受けデポを産地拠点に整備するよう再三要請しているが、現時点では産地拠点までの利用貨物が無いことなどからデポ設置は難しい。
しかし、産地側の人手不足とドライバー不足や運行管理の厳格化に伴う輸送力不足への対応は『待ったなし』の状況であるため、道内の主要デポである札幌デポより各産地へ弊会が送りこみ費用を負担して供給せざるを得ない状況となっている。
注2:JPRのデポは札幌・釧路・旭川・苫小牧で、旭川は非常に供給能力が低い。
3つ目の課題は、JA選果施設の改修や選果ライン・パレタイザーの変更および段ボールサイズの変更である。パレット業界においては、1.1メートル×1.1メートル型が主流であり、JPRの共同回収システムもこのサイズとなっているが、これまで段ボールサイズについては、パレット輸送を前提とした規格ではなく、品目特性に応じたサイズとなっているため、にんじんのように難しい品目もある。
にんじんの段ボールサイズは、たまねぎやばれいしょで利用している1.1メートル×1.1メートルのパレットに合わないため1.0メートル×1.2型パレットを利用している。現在のパレット業界においては1.1メートル×1.1メートルサイズが最も汎用性が高く、1.0メートル×1.2メートル型といった支流サイズは共同回収の仕組みに該当していないことから、にんじんのパレチゼーション輸送については、本会がユーピーアール株式会社(注3)のパレットをレンタルし、パレット納品から回収・在庫管理まで独自のパレット運用を行っているのである(図6)。
弊会施設資材部門とも連携の上、段ボールサイズの変更に向けた取り組みと、今後更新となる選果施設については、一貫パレチゼーション輸送を考慮した選果ラインの導入推進を行っているが、産地における積み込み作業員不足やドライバー不足は『待ったなし』の状況であり、老朽化等による選果施設改修のタイミングを待っていられる余裕はない。さらに、パレチゼーションに適用した改修には数千万円規模のコストが掛かってしまうという実態がある。
注3:パレットの製造、レンタルを行う企業で特殊サイズのパレットをレンタルしている。回収率への不安から、特殊パレットのレンタルを行う企業は少ない。
最後の課題は、JR輸送を利用した場合の積み数減少によるコストアップである。JR輸送で一貫パレチゼーションを実施した場合、ばれいしょを例にとると、通常1コンテナ510ケース(10キログラム/ケース×510ケース=5.1トン)の積載が可能だが、パレットの自重が約30~35キログラムあるため、一貫パレチゼーション輸送の際には、6枚分(約200キログラム)、ケース数に換算して20ケース分少ない490ケースが輸送ロットとなり、通常と比較して4%積載数量が減少する。これにより、1コンテナあたりのパレット費用(約2000円)に加えて、積み数減少によるコスト増が約2500円となり、合わせて約4500円のコストが発生する。
輸送会社との交渉においては、パレットのレンタル費用見合いは作業の省力化による運賃低減で吸収が可能となる場合が多いが、それ以上は難しい状況にある。将来にわたる安定輸送力の確保が一貫パレチゼーションの一番の目標だとはいえ、生産者負担が増えるとなるとJAの理解を得るのはなかなか難しい。
パレット回収率の向上に向けた取り組みは、これまで同様、種苗園芸部門との連携の下、各種会議や青果市場の個別訪問によりパレット管理の徹底について周知していくことも重要だが、さらなる回収率の向上は限界だとも感じている。
JPRの農産物利用については、平成28年度で全国で12道県が利用しており、パレット回収率の向上のためには弊会同様に農産物輸送においてJPRのパレットを利用している他府県産地(特に山形や福島などの果実出荷産地)との連携も鍵となってくるものと思われる。
また、青果市場でのパレット管理体制強化(荷物到着時の品物積み替え作業軽減)を支援するため、弊会にて「パレット積み替え作業用クランプリフトリース」(注4)を全国の青果市場へ提案している。
注4:クランプリフトとはパレットのまま荷物を挟んで固定し、回転させることが出来るリフトで、レンタルパレットから自社のパレットへ僅かな手作業(パレットの差し替え)で交換可能。
農林水産省など国からの支援も重要である。パレチゼーションを普及していくためには出し手の産地の施設整備だけではなく、受け手の市場側での体制整備も必須であり、そのためには先述のクランプリフトのような荷役軽減可能な機材導入への支援を検討するよう依頼している。農林水産省には一貫パレチゼーション拡充に対する課題をご理解いただき、青果市場に対するパレット管理の啓発や補助事業等でのバックアップを要請していきたいと考えている。
また、今年度より農林水産省の提唱する農産物一貫パレチゼーションの推進のための補助事業を実行するために設立される「農産物パレット推進協議会」などへの参画を通じ、農林水産省だけではなく関係業界や他産地とも連携しながら、一貫パレチゼーション拡充に向け、課題解決に取り組んでいきたいところである。
弊会としては、一貫パレチゼーションの他にも、安定輸送力の確保とコスト抑制に向けた取り組みとして、飲料メーカーと連携して、首都圏にある4工場から北海道へ出荷される北上貨物と弊会の南下貨物(米穀)との往復輸送によるコスト削減に取り組んでいる他、生乳輸送やたまねぎ、ばれいしょ輸送においてトラックの大型化、容量の多い増トン車の利用による輸送ロットの拡大、コスト削減にも取り組んでいる。
今後も、北海道の農畜産物をしっかりと日本全国へ供給できるよう、さまざまな手法を用いて取り組んでいきたい。