野菜需給部
当機構が平成29年度に実施した加工・業務用野菜の需要構造実態調査に係るアンケートおよびヒアリング調査結果によると、中間事業者(産地と食品製造事業者や外食事業者をつなぎ、産地から購入した農産物を食品製造事業者などのニーズに合わせて安定的に供給する法人など)は、さまざまなリスクに対応している。特に天候不順などの影響により不作で契約野菜の調達が計画通りにいかない場合、納品義務を果たすため、市場で高騰した野菜を調達せざるを得なくなるが、販売先への納品価格が固定されているため、納品すればするほど損失が拡大し、経営的に厳しい局面に置かれることなどが課題となっている。
国産加工・業務用野菜の生産振興・安定供給を図っていく上で、中間事業者(産地と食品製造事業者や外食事業者をつなぎ、産地から購入した農産物を食品製造事業者などのニーズに合わせて安定的に供給する法人など)の果たす機能が重要視されているが、その全体像は、必ずしも明らかにされているとは言い難い。このため、農畜産業振興機構では、昨年度(平成28年度)調査では、野菜または野菜の加工品を取り扱っている流通事業者・加工事業者などを対象に中間事業者を特定・抽出した。
平成29年度調査では、昨年度調査により特定した中間事業者を基本に、リスク負担への対応状況や、中間事業者の取り組みを推進する上での課題などを明らかにするため深掘りしてアンケート調査を実施するとともに、アンケート調査では把握が困難な事項についてヒアリング調査を実施したので、その結果概要を報告する。
なお、中間事業者における加工・業務用野菜の調達・販売のフローチャートは、図1の通りである。
平成29年9月~12月
加工・業務用野菜を扱っている卸売業者、仲卸業者、問屋・商社等、カット野菜・加工事業者を対象にしたアンケート調査およびヒアリング調査を実施した(表1)。
中間事業者が仕入れている加工・業務用野菜の形態は、全体では「原体野菜」が89.9%を占めている。「一次加工品」が41.6%、「二次加工品」が27.7%となっている(図2)。
業態別で見ると、卸売業者では、「原体野菜」の調達の割合が高くなっている。
また、「一次加工品」および「二次加工品」を調達している割合は、仲卸業者、問屋・商社等およびカット野菜・加工事業者で高くなっており、これらの事業者の販売先には、後述する加工・業務用野菜の販売先(図12)の「外食・中食・給食事業者」の割合が高く、従業員の確保が難しく省力化に取り組んでいることなどが関係していると考えられる。
加工・業務用野菜の仕入先の構成比を実数で尋ねた。全体では「卸売業者または仲卸業者」が35.4%、次いで「生産者」が20.1%となっている(図3)。
業態別で見ると、卸売市場法により所属市場の卸売業者以外の者からの買入が制限されている仲卸業者以外の業態は、「生産者」、「JA」からの調達が比較的高くなっている。
・卸売業者は、「JA」(33.3%)、「生産者」(29.2%)が仕入先の中心。
・仲卸業者は、「卸売業者または仲卸業者」(65.9%)が仕入先の中心。
・問屋・商社等は、「卸売業者または仲卸業者」(33.0%)が最も多く、次いで「生産者」(24.4%)。
・カット野菜・加工事業者は、「卸売業者または仲卸業者」(31.6%)、「生産者」(20.9%)、「問屋・商社」(14.9%)が多い。
生産者、JAから加工・業務用野菜を契約取引(口頭・文書)により調達しているかどうかを尋ねたところ、全体では「契約取引により調達している」割合が57.7%を占めている(図4)。
業態別では、卸売業者が60.6%、仲卸業者が41.3%、問屋・商社等が62.8%、カット野菜・加工事業者が64.2%となっており、所属市場の卸売業者からの仕入割合が高い仲卸業者(図3)でこの割合が相対的に低くなっている。
加工・業務用野菜を契約取引によって調達している事業者に対して、野菜の品目別に契約内容(数量契約なのか面積契約なのか)を尋ねたところ、どの品目も数量契約が主流となっている(図5)。一方、面積契約を実施している事業者によると、一定の規格以上のものが買い付け対象となっており、生産されたものを全て買い付け対象にしていることはなかった。
契約取引の割合が高い品目は、「キャベツ」「たまねぎ」「レタス」「にんじん」「だいこん」「ねぎ」「ばれいしょ」「はくさい」「トマト」「きゅうり」など、指定野菜が上位に挙がっている。
面積契約の割合が最も高いのは「キャベツ」であるが、それでもその比率は8.4%にとどまっている。
オ 生産者、JAに対する代金の支払い日数
加工・業務用野菜を契約取引によって調達している事業者に対して、生産者、JAに対する代金の支払いが野菜の調達後平均何日以内かを尋ねたところ、全体では「1ヵ月~2ヵ月未満」(35.7%)が最も多い(図6)。
これを業態別に見ると、卸売業者および仲卸業者の方が、それ以外の事業者よりも支払いまでの日数が短くなっている。
・卸売業者は、「3日以内」(45.0%)、「4日~8日未満」(22.5%)など支払いまでの日数が最も短い。
・仲卸業者は「2週間~1ヵ月未満」(50.0%)、「8日~2週間未満」(26.9%)。
・問屋・商社等は、「1ヵ月~2ヵ月未満」(44.4%)、2週間~1ヵ月未満」(40.7%)。
・カット野菜・加工事業者は「1ヵ月~2ヵ月未満」(60.7%)、「2週間~1ヵ月未満」(21.3%)。
加工・業務用野菜を契約取引によって調達している事業者に対して、契約している生産者、JAに対する支援で取り組んでいる内容を尋ねた。
全体では「集荷作業・選果・調製・出荷作業」が28.6%、「生産資材の手配・販売」が25.3%、「営農指導」が22.1%となっている(図7)。
業態別で見ると、全般的に問屋・商社等が多くの取り組みを行っており、「生産資材の手配・販売」(44.4%)、「営農指導」(44.4%)、「集荷作業・選果・調製・出荷作業」(37.0%)、「土壌診断・残留農薬検査」(33.3%)、「病害虫の発見または駆除」(22.2%)、「収穫作業」(14.8%)など、多岐にわたり、産地と強く関わっている(生産に強く関与している)様子がうかがえる。
加工・業務用野菜を契約取引によって調達している事業者に対して、契約産地における段ボール、オリコン、鉄コンの導入状況を野菜の品目別で尋ねた。
段ボールの使用が依然として高いものの、オリコンおよび鉄コンの導入が徐々に進んでいることが分かる(表2)。
また、鉄コンはコスト・効率性は優れているものの、導入が大きく伸びないのは、生産現場においては、段ボールによる出荷に慣れていることに加え、産地側でフォークリフトの導入など鉄コンを利用する体制が整っていないことや、販売先の受入体制によるところが大きいと考えられる。例えば、外食などの販売先では、材料の一部に過ぎない野菜専用の鉄コン置き場の確保は困難であることなど受入体制が整っていない場合や、鉄コンまたは段ボールを輸送する際のトラックはそれぞれ大きさが異なるため、トラックの変更も併せて考えなければならないなどがあると考えられる。
なお、鉄コンの導入割合が高いのは「キャベツ」「たまねぎ」「ばれいしょ」などとなっている一方で、鉄コンを利用すると傷がつきやすい果菜類などの品目は、鉄コンの利用が少ないことが分かる。
回答事業者もしくは親会社、子会社が農業生産を行っているかどうかを尋ねたところ、全体では17.6%が「農業生産を行っている」と回答した(図8)。
業態別で見ると、問屋・商社等では「農業生産を行っている」が32.6%、カット野菜・加工事業者が26.3%となっており、卸売業者(9.1%)および仲卸業者(3.2%)と比較して高くなっている。この背景には、問屋・商社等およびカット野菜・加工事業者は、集荷力が卸売業者等に比べて低い傾向にある中で、近年における生産者等による供給力不足や、販売先が固定していることが多く確実に調達することが求められていると考えられる。
「農業生産を行っている」と回答した事業者に、生産している品目は何かを尋ねた。
全体では、「キャベツ」「ねぎ」「たまねぎ」「にんじん」「レタス」「トマト」などが上位に挙げられている(図9)。
「農業生産を行っている」と回答した事業者の経営規模は、全体では「1ヘクタール~5ヘクタール未満」が27.7%で最も高く、次いで「5ヘクタール~10ヘクタール未満」の順となっている(図10)。
近年における農業経営においては、従業員数を確保するのが難しい中で、圃場管理(病気、害虫など)に手が回らないことや、経営規模を拡大しようにも、圃場が隣接地ではなく分散してしまうと、移動時間が長くなり作業時間が確保できない難点があるため、経営規模は10ヘクタールを超えるのは難しいとの意見がある。
販売している加工・業務用野菜の形態は、全体では「原体野菜」が67.0%、「二次加工品」が57.3%、「一次加工品」が47.9%となっている(図11)。
業態別に見ると、「原体野菜」の割合が高いのは卸売業者(81.8%)および仲卸業者(84.1%)でそれぞれ8割強となっている。これは、卸売業者の販売先の中で「カット野菜製造業者」の割合(図12)が比較的高いことも関係していると考えられる。
「一次加工品」の割合が高いのは仲卸業者(58.7%)およびカット野菜・加工事業者(53.7%)、「二次加工品」の割合が高いのはカット野菜・加工事業者(83.2%)および問屋・商社等(67.4%)となっている。これについては、これらの事業者の主な販売先に占める「外食・中食・給食事業者」の割合が3~4割で相対的に高いこと(図12)も関係していると考えられる。
加工・業務用野菜の販売先割合を全体で見ると、「外食・中食・給食事業者」(29.4%)、「小売業者」(25.7%)、「カット野菜製造業者」(13.9%)などの順となっている(図12)。
また、業態別で見ても、全ての事業者が「外食・中食・給食事業者」、「小売業者」の割合が高い。一方、生産者やJAから野菜を調達する集荷機能が高い卸売業者は、「カット野菜製造業者」へ販売される数量の割合が高くなっている。
販売先からの代金の回収日数は平均何日かを尋ねたところ、全体では「1ヵ月~2ヵ月未満」が56.2%と高くなっている(図13)。
業態別に見ると、卸売業者は「2週間未満」(43.9%)、「2週間~1ヵ月未満」(30.3%)の割合が高くなっている。卸売業者は、生産者、JAに対する代金の支払日数(図6)も短くなっており、代金回収と代金の支払い日数が深く関係しているものと考えられる。
また、卸売業者以外の事業者では「1カ月~2カ月未満」の割合が高くなっているが、当該事業者の販売先には、「外食・中食・給食事業者」(図12)の割合が高いことが共通している。
加工・業務用市場全体の需要の見通しは、全体では「増加する(現状の3割未満)」が43.8%で最も高く、次いで「増加する(現状の3割~5割未満)」が22.1%で続いている(図14)。これらを含め、今後需要が拡大すると予測している事業者は7割強を占めている。
産地と食品製造業などをつなぎ、産地から購入した野菜を食品製造事業者などのニーズに合わせて安定的に供給する中間事業者について、
①どのような事業者が中間事業者として期待される機能を担っているのか
②どのようにしてリスク負担に対応しているのか
③中間事業者の取り組みを推進する上での課題は何か
などを明らかにするためにアンケート調査およびヒアリング調査を実施したところであるが、その結果は以下の通りである。
卸売市場内外に中間事業者の機能を担っている①卸売業者、②仲卸業者、③問屋・商社等(問屋、商社、JA、産地集荷業者等)、④カット野菜・加工事業者(カット野菜業者、食品製造・加工業者)の4つに分類した。
中間事業者の業態別の機能の特徴は、以下の通りである(表3)。
農林水産省は平成20年10月に、「加工・業務用野菜の生産・流通対策の方向性~「中間事業者」の機能を活用した流通経路の構築に向けて~」を公表した際に、中間事業者として機能(需給調整機能、安定供給機能(4定:定時、定量、定品質、定価)、物流機能、保管機能、代金決済機能、情報収集機能、コスト削減機能など)を例示している。本調査ではさらに、新しい機能を確認することができた(表4)。
対応しているリスク負担については、 ①契約産地からの調達リスク、②物流に関するリスク、③販売先に対する供給責任のリスク、④在庫リスク、⑤キャッシュフロー上のリスクがある。それぞれのリスクの内容は、以下の通りである。
天候不順により栽培時期の異なる産地間の円滑なリレーができないため、端境期が生じることや、気象災害または生産者の高齢化に伴う生産量の低下により、中間事業者が契約数量を調達できないリスクが存在する(表5)。
近年のドライバー不足問題を背景として、産地から野菜を輸送するためのトラックを確保することが難しくなってきており、物流に関するリスクが存在する(表6)。
販売先(実需者)との関係性において、販売先が圧倒的に優位な立場となっているケースが多いとの指摘がある中で、不作により野菜価格が高騰すると、家庭消費用野菜(原体野菜)の消費が減少する一方で、外食、中食、加工食品における野菜消費が増加して食品製造・加工業者から中間事業者に対して発注数量が増加する。
供給責任を果たせない場合には取引関係の継続(契約打ち切り、縮小)についての危惧が根底にあるため、事業者は無理をして供給する行動に出る(表7)。
中間事業者と販売先(実需者)との契約において、価格は明確に決定される一方で、納品数量は期間内の大まかなものであり、具体的な納品数量は発注直前に決まるケースが多い。野菜の相場動向に応じた販売数量の増加や、レストランなどのメニュー改定により発注数量が変動するため、中間事業者は供給責任から在庫リスクを抱えている(表8)。
中間事業者は、販売先からの入金よりも調達先(生産者など)への支払が早いケースが多いことや、販売先の倒産などで販売代金を回収できない事態もある。また、中間事業者は、不作で契約野菜の調達が計画どおりにいかない中、供給責任を果たすため市場などから高騰した野菜を調達せざるを得なくなる一方で、販売先への供給価格は固定されているため、供給すればするほど損失が拡大するなどキャッシュフロー上のリスクがある(表9)。
加工・業務用野菜の流通において、中間事業者が負担する主なリスクは前述の(2)に記載した通りである。この中で特に、中間事業者は、不作で契約野菜の調達が計画通りにいかない場合、納品義務を果たすため市場で高騰した野菜を調達せざるを得なくなるが、販売先への納品価格は固定されているため、納品すればするほど損失が拡大し、経営的に非常に厳しい局面におかれることが大きな課題となっている。このような課題が発生する背景として、加工・業務用野菜の流通面における以下の特徴が要因であると考えられる。
① 相場変動を納品価格に反映できない(認めてもらえない)取引形態
② 欠品が許されない商慣行
現状では、中間事業者と販売先(実需者)との関係において、圧倒的に販売先の立場が強い傾向にあり、前述のようなリスク負担は、個々の中間事業者の努力だけでは解決が難しい状況になっていると考えられる。
また、加工・業務用野菜に求められる点として、安定供給、安定価格が挙げられるが、近年の天候不順による不作・野菜価格の急騰などにより、供給(生産者・中間事業者)側が、需要(実需者)側の要望に対応しきれない状況が頻発している中、実需者のニーズを満たすための手段として、輸入品の利用が増加する傾向にあり、国産野菜の生産・消費振興と逆行していくことも懸念される。
こうした状況の中、中間事業者の抱えているリスク負担を取引条件などに反映させることが可能な仕組みづくりを関係者全体の理解と連携のもとで進めていくことが、加工・業務用対応型の安定的かつ持続的な生産・流通体制の構築を図る上で不可欠である。
具体的な事例としては、以下のような取り組みが挙げられる。
① 加工・業務用野菜の納品価格について、一定の範囲を超えた相場変動がある場合には納品価格に反映させることが可能な仕組みづくりを行う。
② あらかじめ契約書において供給限度数量を設定する。
③ 農産物の生産には天候不順などの管理が難しい大きなリスクが伴うことを実需者および消費者に理解してもらう。
このように、消費者に対する啓発も含めた取り組みによって、関係するプレイヤー全体で、野菜生産流通に関わるリスクを分散・分担することが、安定的かつ持続的な生産・流通体制の構築を図る上で重要であると考える。
わが国は人口減少・少子高齢化にある中、生産・物流コストが上昇しても価格に転嫁しづらい状況にあることに加え、人手不足が深刻化している。このような状況下で中間事業者が持続的に機能を担うためには、川上から川下まで広範囲にわたり物流コストを削減する必要があり、例えば、
① 産地においては、圃場における無選別収穫や、鉄コン出荷、圃場を巡回集荷して拠点集荷ポイントに荷物を集中する取り組み
② 産地から消費地までにおいては、荷を崩さないための共通パレットの導入、異業種を含めた共同輸送、拠点集荷センターから消費地における拠点配送ポイントの設置
③ 消費地においては、作業の集約化(選別、箱詰め、前処理、冷蔵など)が考えられる。これらによるコスト削減に向けて、卸売市場(卸売業者および仲卸業者)と卸売市場外(問屋・商社等、カット野菜・加工事業者)のそれぞれの中間事業者が相互補完し、活動領域を広げながら取り組みを進めていくことが期待される。
なお、今回報告した「加工・業務用野菜の需要構造実態調査」の詳細な調査結果については、当機構ホームページ(<https://www.alic.go.jp/content/000151038.pdf)に掲載されているので、参照願いたい。