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調査・報告(野菜情報 2018年7月号)


本州の端境期を利用した野菜出荷の取り組み~沖縄県宮古島市におけるさやいんげん栽培~

那覇事務所(現企画調整部) 青木 敬太

【要約】

 宮古島市では、温暖な気候を生かし本州の端境期を利用したさやいんげん栽培を行っており、生産農家の増加に伴い、生産量も年々増えている。沖縄産野菜の東京市場における占有率は、特に年末から春先にかけて高く、平成29年の東京都卸売市場における入荷量では全国1位となっている。沖縄県における拠点産地認定を目指して、行政、農協、生産者が一丸となり、さやいんげん栽培に取り組む宮古島市の生産概況や今後の見通しを報告する。

1 沖縄県および宮古島市の農業の概要

(1) 沖縄県の概要

沖縄県は、亜熱帯海洋性気候に属し、1年を通じて温暖な気候である。年平均降水量は約2041ミリで全国でも比較的雨量の多い地域でもある。また、台風のじょうしゅうであり、特に6月から10月に台風が接近することが多い。

野菜は、亜熱帯の温暖な自然条件を生かし、冬春期の本州の端境期における供給産地として生産が行われている。28年の沖縄県の農業産出額は21年ぶりに1千億を超え、1025億円となったが、そのうち野菜は144億円であり、全体の14.0%を占めている(図1)。野菜の主要品目としては、にがうり、さやいんげん、トマト、きゅうり、かぼちゃ、オクラ、ピーマン、レタスなどがある。

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(2) 野菜の出荷状況

平成27年の野菜の県外出荷額は、約32億円でここ10年では最も多くなった。県外出荷される品目としては、かぼちゃ、にがうり、とうがん、さやいんげん、トマト、オクラが上位を占めている。県外出荷額ベースでは、さやいんげん、かぼちゃ、にがうり、オクラの4品目で全体の約7割を占める(表)。

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また、にがうりは一年を通して出荷が可能であり、さやいんげんやかぼちゃは冬から春にかけた本州での端境期、夏野菜であるオクラは4月から12月まで出荷される(図2)。

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(3) 宮古島市の農業の概要と地下ダムの活用

宮古島は沖縄本島から南西に約290キロ、東京から約2000キロに位置し、大小6つの島で構成されている(図3)。宮古島の総面積は204平方キロメートルで、島全体がおおむね平坦で、低い台地状を呈し、山岳部は少なく、大きな河川もなく、生活用水等のほとんどは地下水でまかなっている。宮古島は高温多湿な亜熱帯海洋性気候に属し、年平均気温は23.1度、年平均湿度は約80%である。

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総人口は約5万1000人、農家戸数は4722戸である。農業産出額146億円のうち、1位はサトウキビを含む工芸農作物で、次いで、畜産、野菜、果実となっている(図4)。

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宮古島市では、温暖な気候を生かし、本州の野菜生産の端境期に出荷を行うことができることが強みとなっている。また、平成12年から地下ダムを活用する農業を推進している。宮古島の土壌はサンゴ礁隆起してできた透水性の高い琉球石灰岩からなり、降水の約40%(約1.4億トン)は保水せず直ちに土壌面から浸透して地下水となることから、全域に地下ダムが整備され、施設園芸に適した環境が整っている。

2 沖縄県のさやいんげん栽培

(1) 沖縄県のさやいんげんの出荷状況

さやいんげんは北海道から沖縄まで、日本中で栽培されているため一年中手に入るが、特に、春から秋にかけて出回り量が増える。本州で栽培が困難な冬からにかけては、沖縄からの出荷が多くなる。

東京都中央卸売市場への月別入荷実績(平成29年)を見ると、12月から4月にかけては沖縄産、5月から6月は千葉産、鹿児島産、茨城産が大きなウェイトを占めている。7月から9月は福島産が、10月から11月は長崎産の入荷が多い。また、12月から3月はオマーンからの輸入が多くみられる(表。沖縄県では他産地の端境期で高単価が見込める冬春期のさやいんげんの出荷に力を入れている

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(2) 宮古島市におけるさやいんげんの 拠点産地登録に向けた取り組み

沖縄県では、戦略品目を定めて市場競争力の強化や有利販売に取り組んでいる。現在は、園芸作物の生産振興を図るため、定時・定量・定品質の出荷ができる拠点産地を形成し、市場に信頼されるおきなわブランドの確立を進めている。さやいんげんについては沖縄県中部のうるま市、南部の南城市、八重瀬町が先行して認定を受けている。宮古島市は5品目(にがうり、とうがん、かぼちゃ、オクラ、マンゴー)で拠点産地認定を受けており、6つ目の登録品目としてさやいんげんが期待されているところである。

認定されるためには、生産出荷組織の設立、生産振興計画などの策定が条件となるが、認定を受けると国や県の補助事業を導入しやすくなるという。このため、平成29年にはさやいんげんの拠点産地認定に向けた地域農業振興総合指導事業推進会議が沖縄県、宮古島市、JA、生産者で組織され、さやいんげんの産地育成に関する重点的な指導などを3年間にわたり実施し、31年までに年間生産量100トン以上を目標にしている。同会議では拠点産地の認定に向けて、産地リーダーの育成、栽培技術の高位平準化を推進し、現地検討会や実証展示じょうの設置、野菜品評会の出品支援、販売促進活動などに一丸となって取組んでいる。さやいんげんは温度、湿度の管理が必要なことからハウスで栽培されるが、宮古島市では沖縄県新規就農一括支援事業等でハウスの新設に取組み、ハウス栽培の面積を年々拡大させており、10年前は30戸程度であった農家数が現在では56戸にまで増加している(表)。

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3 伊良皆氏のさやいんげん栽培の概要

稿ではJAおきなわ宮古地区サヤインゲン部会の部会長であるみな雄作氏の取り組みを報告する。

(1) 生産農家 伊良皆雄作氏の生産状況

伊良皆氏は35歳で地域のさやいんげん生産者の中では若手であるが、今後は若い人が部会をまとめなければならないと地域の推薦を受け、平成28年よりJAおきなわ宮古地区野菜・果樹生産出荷連絡協議会のさやいんげん専門部会の部会長を務めている。部会では勉強会や現地検討会を開いて部会員の技術の向上に努めている。

伊良皆氏はさやいんげんの他、露地栽培により親の代からオクラを栽培している。オクラもしゅから収穫までの期間が60日であり、栽培もさやいんげんに通じるところがある。同氏はオクラの露地栽培でも地域の生産部会の出荷量で常に上位に位置し、さやいんげん生産においても地域のけん引役として期待されている。

労働力は伊良皆氏のみであるが、丁寧な栽培管理とかん水で、収量アップと高品質なさやいんげん栽培に意欲的に取組み、毎年約3トン収穫している(表)。

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(2) 栽培暦

 播種から収穫までは約60日で、播種は10月と1月の回である。品種は主にわい性のサーベルである。播種後、本葉が2~3枚ほどになったら間引いて生育の良い苗を残す。収穫は5月頃まで可能であるが、JAおきなわ宮古地区では4月中に収穫を終えるために、遅くとも2月10日頃までには播種を行うように指導している(図5)。

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堆肥は播種の1ヵ月前に与え、元肥はマルチ張りの1週間前に施用し、生育期にも追肥を行っている。枯れている葉などは光線不足や病気の原因にもなるため、小まめに取り除くようにしている。開花から約10日後に収穫となる。収穫は種の部分が膨らんでいない若いさやを選んで収穫する。輪作は行っておらず、栽培時期以外は主に土作りを行う。秋口には台風も多くなるので、ハウスの維持が困難になるという。

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(3) 栽培品種

さやいんげんはつるがあるもの(つる性)と、つるがないもの(わい性)に大きく分かれる(表5)。つるありは、草丈が2~3メートル程度に伸長するため、収穫期が長く、収穫量も多く、全国的に栽培されている。つるなしは草丈が50センチ程度にしかならないため、収穫期間が短いが、短期間にまとめて収穫することができる。

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宮古島市では、つる性のグリーンワンダーが約7割、わい性のサーベルが約3割である。

つる性のグリーンワンダーは、10月から育てても収穫が2回程度しかできず、収穫遅れは品質劣化につながる。また、ピークが集中するため、収穫作業の負担が大きい。

わい性のサーベルは、近年栽培が増えている品種である。ジベレリン処理(注1)により長期取りが出来るため、10月から植え付けを始めれば、5月までに3回作も可能であるという。ただ、収穫のタイミングや湿度管理が難しい。収穫時は適度な大きさのものから順に選んでいく。伊良皆氏は、管理作業を上手くこなし、無理のない範囲でサーベルの割合を増やしていきたいという。

注1:ジベレリンは植物ホルモンの一種。

  沖縄県農業研究センター野菜花き班、宮古島支所の試験ではジベレリン2回処理により1回処理よりも収量が増えるという結果が出ている。

(4) ジベレリン処理で収量アップ

単収向上と低い位置での収穫作業を少なくするために、ジベレリン処理を行っている。幼苗期にジベレリン(植物ホルモン)を散布することで、主枝の節間を伸長させ、各節の採光性を改善し、分枝の発生を促し長期的に栽培を行う方法であり、わい性のさやいんげん栽培に利用されている。ジベレリン処理を2回行うことにより50センチの丈が180センチまで伸びるようになり、多収量が期待できる。

伊良皆氏は本葉が2葉出た時期の夕方をねらって葉の裏側にホルモン剤を噴霧している。夕方は葉が寝るため、管理作業がしやすくなるという。その2日後に同様に2回目の処理を行う。ジベレリン処理1回に制限されていた時は、効果が不安定で、生育が十分で背丈も低く曲がりも多かったが、平成25年4月からジベレリンの使用制限が2回に拡大されたことで、十分な生育が見込めるようになった。節間が伸びることにより、腰を曲げずに立ち姿で収穫できるという。また、背丈が大きくなることで、全体に光が当たりやすくなり、長期栽培ができるようになった。

(5) 豊富な水源に支えられる灌水

かんすいは地下ダムから伸びるパイプを使って行っている(写真5)。生育期の灌水は重要であり、週に1回程度、多いときで4~5日に1回、寒いときには10日に1回など気候により灌水の頻度を変えている。また、葉面にも散布することによりさやいんげんの生育を促進している。土壌が湿っていると茎が腐って病気になるので、追肥や施水は午前中に行うようにしている。

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 開花時期やさやが着く時期に水分が不足すると花が落ちてしまったり、さやが曲がる傾向があるので、十分な灌水を行うよう注意している。

(6) 病害虫対策

ハウス内での防除は発生初期の駆除が重要である。病害虫が発生してしまうとハウス内の全域に行き渡ってしまい、1棟全てが収穫できなくなることもあるため、病害虫を発生させないよう予防に注力している。

具体的には、夏場に土壌にビニールシートをかぶせて水をき、蒸気で蒸すことで、播種前に太陽熱消毒により線虫の駆除を行っている。

(7) 収穫作業

収穫は手作業のため重労働であり、さやいんげん生産に係る作業はおよそ7割が収穫作業で、3割は肥培管理や追肥などの土作りである。さやが大きくなり過ぎても規格から外れてしまうことから、収穫の適期を逃さないために、夜間にヘッドライトをして収穫することもあり、収穫時期は多忙を極める。

(8) 選別から出荷まで

収穫されたさやいんげんは、JAおきなわの集荷場で選別が行われる(写真7)。選別作業には15名が携わっており多い時で日量で約トンが搬入され、等級付けされる(写真8〜11)。等級は曲がり、太さの他、緑色の濃さ、皮が薄くハリがあること、太さが均一かどうか、切り口の鮮度が選別の基準となり、大きすぎると規格外となる。売れ筋の規格であるLサイズは12.5~14.5センチである。さやいんげんは、収穫作業もさることながら、選別や箱詰めに多くの労力を必要とするため、一度に大面積の栽培は困難であり、宮古島において生産法人での生産はなく、家族経営のみとなっている。

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かつて、残留農薬の問題によりさやいんげんの輸入が減ったことがあったが、宮古島市のさやいんげんはJAおきなわの中でも特に厳しい基準を設けており、市場の信頼を得るために、日々、品質の維持に努めている。

沖縄本島でもさやいんげんを栽培しているため、県内向けの出荷はなく、全て県外向けとなっており、東京と大阪の市場に空輸で出荷している。

4 沖縄県新規就農一貫支援事業の活用

 宮古島市のさやいんげんは、品質良好で市場での評判もよく、他産地の端境期に有利販売も期待できることから、宮古島市では増産に向けて就農初期投資支援を行っている。

具体例をあげると、1棟252平方メートル(6メートル×42メートル)のハウスを新設する費用は約200万円であるが、ハウスの導入事業により8割を県が負担し、農家の負担は2割となっている。その他、JAのリース事業も活用し、増産に向け取組んでいる。

JAおきなわ宮古地区では、事業によるハウス導入を平成26年度から4年間にわたり、毎年50アール実施しており、現在までに2ヘクタールほど完成している。露地栽培のオクラ農家やハウス栽培を行っているにがうり農家からの転作の希望者もおり、引き続き、平成33年度まで4ヘクタールを目標に計画的にハウスを導入していきたいという。

 JAおきなわ宮古地区の栽培指導では、適正に管理できる経営規模として2~4棟(~10アール)としている。収穫量は平均500~600キログラムであるが、栽培が上手い生産の場合1トン程度、出荷するケースもあるという。

5 課題と今後の見通し

(1) 課題

 さやいんげんの節間伸長処理技術はジベレリン使用が1回から2回へ適用拡大されたことで、圃場間、農家間のバラツキが改善され、わい性さやいんげんの生産拡大が期待されている。ジベレリン処理を行う農家戸数や単収は向上しているが、管理可能な適正経営面積はまだ定まっておらず、課題となっている。また、台風などの自然災害を恐れて、播種時期が遅れてしまい、単収が低い生産者も見られるという。

また、収穫ばかりでなく、労力のかかる選別作業も課題である。JAおきなわの集荷場の選別機ではA、B、Cといった粗い選別しかできないため、収穫量が増産傾向にある、選別の作業を少しでも効率的に行える機械の導入が待たれる。

(2) 今後の見通し

伊良皆氏は、苦労も多いが丁寧な栽培管理と灌水が高品質なさやいんげん生産につながり、やればやるほど成果があると語る。10年前は30名程だった部会員が現在は50名を超え、多くの農家がさやいんげんを生産するようになっており、部会の中でも切磋琢磨していきたいと語る。平成30年1月に行われた「おきなわ花と食のフェスティバル2018」の野菜品評会では、JAおきなわ宮古地区サヤインゲン部会の副部会長である上地宏明氏が最高賞の農林水産大臣賞(金賞)を受賞した。宮古島産のさやいんげんが金賞を受賞したのは初めてで、宮古島のさやいんげんが沖縄県の拠点産地に登録される可能性が出てきたという。今回の品評会ではさやいんげんの部に最も多く出品されており、地域の生産者の熱意がうかがえる。

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6 まとめ

 宮古島市では、産地登録に向けて、行政機関、JA、生産農家が一丸となってさやいんげんの栽培に取り組んでいる。今回取材した伊良皆氏は作り手の中では若手で、今後、増産が期待される部会を引っ張っていく者として適役といえよう。さやいんげんは生産農家の収穫作業もさることながら、その後の選別作業など、JAの業務に負うところも多いため、一つの目標に向けた連帯感は強く、その分意欲の高さも感じた。

 このような関係者の良好な関係が継続し、宮古島の農業がさらに発展していくことを期待する。

 最後に、今回取材に御協力いただいたJAおきなわ宮古地区営農振興センター農産部の与那覇英人氏、生産農家の伊良皆雄作氏をはじめ、関係者の皆様に深く感謝申し上げます。



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