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調査・報告(野菜情報 2018年6月号)


薩摩半島の最南端の地で営農モデルの確立を目指して
~農業生産法人株式会社指宿やさいの王国を事例として~

鹿児島事務所 海老沼 一出

【要約】

 鹿児島県指宿市にある農業生産法人 株式会社指宿やさいの王国は、平均年齢30歳未満の情熱あふれる若手が活躍する法人である。土づくりやGAP認証など野菜生産にこだわりを持ち、主にキャベツやレタスなどを加工・業務用として、全国のカット野菜加工業者やスーパー、JAなどに出荷している。今後も加工・業務用野菜の生産により規模拡大を目指す指宿やさいの王国の取り組み事例を紹介する。

1 はじめに

鹿児島県指宿市は薩摩半島の最南端に位置している。北は鹿児島市、西は南九州市と隣接し、東は鹿児島湾に面している。また、南西部には薩摩富士の別名で呼ばれる秀峰開聞岳がそびえ立ち風光明媚な景観が広がっている(図1)。

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指宿市を含む1市2地区(鹿児島市喜入地区、指宿市、南九州市地区を管内とするいぶすき農業協同組合によると、管内の主要な野菜の作付面積はかんしょ(青果用)が最も多く、次いでそらまめ、スナップえんどうと豆類の生産が盛んに行われている。豆類以外にもキャベツやレタスなどの葉茎菜類の他、にんじんやかぼちゃなど多種多様な野菜が生産されている。

この地域は、海が近く暖流の影響を受け、冬場でも温暖な地域である。その恩恵で、他の産地では露地での作付けの困難な時期でも野菜の生産を可能としており、実需者から見ると冬場の野菜の安定的な供給基地としては欠かせない地域となっている。

本稿では、冬でも温暖な気候を生かして畑作が行われている指宿市において、土づくりやGAP認証の取得などを行いながら、安定した数量および品質の野菜の出荷に努め、加工・業務用野菜の生産に取り組み、若い力と情熱で挑戦を続ける農業生産法人 株式会社指宿やさいの王国(以下「指宿やさいの王国という)を紹介する。

2 指宿やさいの王国設立経緯と法人の概要

指宿やさいの王国は、現在キャベツやレタスなどを中心に栽培する農地所有適格法人(注)である。現在代表取締役の吉元龍馬氏(36歳)は、父が漁師をやめたことをきっかけに自分の将来を見据え、野菜の産地である指宿であれば集荷業者として生計が成り立つもの考え、弟の義久氏(現専務取締役)と、後輩である 田之畑氏(現常務取締役)名で、JAいぶすき管内で生産の盛んなそらまめやオクラなどの集荷業者を始めた(写真1~3)。

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軽量な野菜を取り扱う集荷業者であれば、大型輸送用機械などへの膨大な初期投資は必要ないため、参入しやすい事業ではあった。しかし、農業経験が少ない中で生産者からの買取価格と市場価格との価格差により利益を上げ続けることは非常に困難であった。集荷業者の需要減少傾向となったこともあり、農業について本格的に学び、取り組む必要があると考え、平成17年に野菜の集荷業者から生産に舵を切った。当初は3名で野菜の生産を行っていたが、法人格のない小規模生産では、銀行の融資などの財政的な支援を得ることが難しく、規模拡大を進めた上で経営基盤の確立が必要と考え、24年に法人化し指宿やさいの王国を設立した(表1)。

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野菜の生産をしていく上で、市場出荷と加工・業務用向けは大きな選択肢である。一般的に市場出荷は、野菜の生産状況に合わせ、生産者が判断して出荷できるメリットはあるものの出荷時の市況に影響を受けるため、出荷するまで利益を見通すことが困難であるが、加工・業務用野菜は事前の契約を行うため、ある程度の利益の予測が可能である。法人設立当初は経営面で非常に苦労したこともあり、経営が見通しやすいことが加工・業務用野菜のメリットと感じ、加工・業務用野菜の生産を開始した。加工・業務用野菜は安定的な出荷が求められるため、他の地域では生産が困難である冬期において、当該地域ならではの温暖な気候を生かした野菜生産が可能であることも大きな利点となっている。

また、指宿やさいの王国は龍馬氏自身が30代で、かつほとんどの社員10代から30代年齢層が非常に若く、勉強熱心で常に向上心チャレンジ精神を持って農業に取り組んでいる(写真4)。その一例として、ただ単に毎年野菜を生産するだけではなく、じょうは毎年加工・業務用として出荷する野菜とは別にさまざまな品種の栽培試験を行っている。最近は、実需者から品種の栽培試験を頼まれることも増え、種苗会社などで品種化されたさまざまな野菜の中から指宿やさいの王国の圃場により適した品種を探求し、適した品種が見つかれば、次年から本格的に導入している。

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現在、総圃場面積は約100ヘクタールで、キャベツ、レタスを中心にオクラ、たまねぎ、べにいもなどを中心に生産を行っている(表2)。主な出荷期間は、キャベツが12月~6月、レタスは11月~4月となっている(図2)。

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今後も圃場面積を拡大予定で、気候的優位を生かし取引数量および品目の両面で引き続き規模拡大を目指している。

注:農業法人の中で、農地法第2条第3項の要件に適合し、農業経営を行うために農地を取得できる農業法人のことをいう。

3 加工・業務用野菜に求められる安定出荷を行うために

加工・業務用向け出荷は、気象要因に大きく影響されることから、安定出荷が大きな課題となっている。このために、指宿やさいの王国では主に以下の(1)~(3)の取り組みを行っている。

(1) 苗の生産

安定的な野菜の出荷を行うためにはまず苗の品質が重要と考え、天候の変化に耐えられる丈夫な苗の生育に力を入れている。育苗ハウスも完備し、指宿やさいの王国で生産する主な野菜の苗は、すべて当該ハウスで、育苗している(写真56)。また、苗の定植については定植しない期間を作らず、キャベツについてはほぼ毎日、レタスについては日に回の頻度で、常に連続して定植を行うようにしている。

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(2) 圃場管理クラウドサービスの導入

圃場の作業状況の管理のため、民間会社の圃場管理クラウドサービスを導入している。多品目を総面積約100ヘクタールの圃場で作付けしているため、作業管理は煩雑なものとなる。定植を例に挙げると、契約に基づき月ごとに定める目標の収穫面積に従って作業を進めていく。作業後、実施した作業内容を記録する際に、スマートフォンやタブレット端末から入力できることから、事務所に戻らずにその場で記録することが可能となる。従業員の中には経験の浅い者もいるので、地図上で圃場の管理ができるクラウドサービスは圃場の場所を確認できるという点においても便利なツールとなっている。

このクラウドサービスを利用して作業状況を可視化することにより、実需者のニーズに合わせて出荷できるように生育管理を行っている。指宿やさいの王国は若い社員が多いため、このようなITを使った農業の可視化や効率化を抵抗なく活用できることが強みの一つである。

また、定植や圃場の管理などにおいて機械化も進めており、一つの圃場で複数台の定植機を同時稼動させるなど作業の効率化に大きな役割を果たしている(写真7、表3)。

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(3) 土づくり

この地域の土壌ついては、黒ボク土などの肥沃で保水性および保肥性に優れる土壌と、開門岳に由来する火山性れきの多い土壌が存在し、地域によって土壌の性質は大きく異なるという特徴がある。そのため、安定した野菜生産のためには、それぞれの圃場に適した土づくりを行う必要があ

長年の試行錯誤により独自の化成肥料と有機肥料のバランスを見出した。化成肥料だけでは良質な野菜は作れなかったが、有機肥料だけでも即効性に欠ける場合があったため、現在では化成肥料と有機肥料の両方を用い、それぞれの短所を補うように施肥している。基本的には、定植前に緑肥および堆肥などを施肥し、生育中は肥料切れなどを起こさないように、即効性のある化成肥料を施肥している。特徴的な取り組みとしては、定植前の圃場には通常の2倍量の緑肥をすきこみ、土壌中の有機物量の維持や土壌物性の改善に取り組んでいる。

また、有機肥料にもこだわっており、米ぬかを主体として焼酎かすなどを混合した独自の有機肥料を製造して用いている。配合の割合は、土壌の状況などを見て、きめ細かく見直しを行い、より良い生産ができるように心がけている。

4 加工・業務用野菜の出荷形態

指宿やさいの王国では、ほとんどの野菜を加工・業務用として出荷しており、市場へ出荷する数量は全体量の数パーセントである。加工・業務用野菜の出荷先は主に中部地方、関西地方ではあるが、最近は関東地方への出荷が増えている。出荷形態は、収穫後に冷蔵倉庫に1日程度保管し(写真8~11)、翌日出荷することが多いが、実需者の要望に応じて、収穫当日に出荷することもある。各々の実需者の小口契約が多いことから、輸送方法は収穫後にダンボールに詰めて、トラック輸送がメインである(写真12)。1台のトラックに複数の契約先の荷物を積載した上で、実需者まで直接輸送することが可能になっており、輸送時間の短縮にもつながっている。

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5 GAP認証の取得

指宿やさいの王国ではK-GAP認証を受けており、認証回数はキャベツで平成23年から現在まで7回、レタスで25年から現在まで5回に上る。K-GAPは農林水産物に対する消費者の安心と信頼を確保するために、鹿児島県が創設したGAP認証制度であり、農林水産省が策定した農業生産工程管理GAPの共通基盤に関するガイドラインへ準拠したものである。主な目的として圃場管理や生産管理など内部統制や人材育成のためにK-GAP認証の取得を行っている。

まだGAP認証を調達先の条件とする実需者は少ない状況であるようだが、GAPを用いて適切な内部統制および人材育成を行うことで、確実な品質管理を行い、加工・業務用野菜に求められる均質な野菜の生産を実現している。営業活動をほとんど行わなくても、現在取引している実需者からの口コミで取引先が増加していることからも、実需者のニーズに対応した野菜の出荷を行い、高い評価を得ていることが読み取れる。一方で、まだ少ないながらも実需者の中にはGLOBALG.A.P.やASIAGAP、JGAPの取得を望む声も出てきており、その声に応えるためにも、今年度中にはGLOBALG.A.P.認証の取得に取り組む予定である。

6 関係者との信頼作り

指宿やさいの王国では普段から実需者とのコミュニケーションを重視している。実需者との商談も、事務所や圃場の状況を見てもらいながら行うことで、実需者との関係性を維持している。圃場の野菜の生育状況などを撮影して実需者への情報発信もしており、実需者に対する生育状況の周知を心がけている。

加工・業務用野菜の生産では、生産者側には常に安定出荷が求められるが、気候の影響を大きく受けるため、野菜の生育を完全に管理することは困難である。先に述べたように丈夫な苗の確保、ITを使った生育管理を行うなど可能な限りの対応は行っているが、予測できない天候不順に対して対応できる程度にも限界がある。

そのようなとき、普段からの実需者との信頼関係が役に立つ。指宿やさいの王国は、早めに生育状況を実需者に知らせていることから、実需者側が納入量などのスケジュールが立てやすく、トラブルになりにくい。今年の月ごろに一度、生育の遅れにより欠品となり、実需者に他の生産者から野菜を確保してもらわざるを得ない時期もあったが、すぐに回復することが見込まれていたことから欠品した期間は短く、大きな混乱にはならなかった。

一方、不作時には野菜の不足で実需者に迷惑をかける可能性が高が、豊作時には野菜の余剰が発生することで、生産者側が困ることが多い。しかし、豊作時にも実需者に契約量より多めに買ってもらえることが多いという。指宿やさいの王国と実需者間での柔軟な対応が可能なのは、普段からの信頼作りの賜であるとともにK-GAP認証やITを用いた生産管理により、高品質の野菜を生産していることが評価されているといえる。

7 今後の目標および課題

指宿やさいの王国は、九州で生産規模がトップの農業生産法人になることを目標としている。現在、指宿やさいの王国では、キャベツの生産が安定し経営の要となっていることから、今後もキャベツを中心に作付面積を増やしていきたいと考えているとのことである。なお、中部地方では1法人で200ヘクタールほどのキャベツの作付面積を扱うところもあるため、鹿児島県でもその程度までは規模拡大が可能だと考えている。

そのためには、土づくりや安定した売り先の確保など重要なことは多々あるが、特に重要なのは優秀な人材の育成である。従業員には何事にも自ら勉強して取り組む積極性を持って欲しいという思いがある。若手が多く、挑戦的な気質のある従業員が多いことからこそ、それが実現できると考えている。従業員たちが慕っていてきてくれるような会社作りを今後もしていきたいと、代表取締役の龍馬氏は語る。

8 まとめ

加工・業務用野菜は、定時・定量・定質・定価格が求められる。日本の南北に長い気候条件を生かして、リレー出荷で野菜の周年供給を行っているところだが、最近は、異常気象により供給が不安定になりがちで、特に産地の限られる冬場の安定した野菜の調達先が求められている。指宿やさいの王国は、本州の最南端位置し、温暖な気候と広大な圃場を生かして、特に冬場における野菜生産に取り組み、実需者らも高い評価を得ている。

また、若い社員で構成され、何事にもチャレンジしていく挑戦的な社風を持つことから、周囲の生産者などから知識を学ぶだけでなく、新たな品種へのチャレンジ、GAP認証取得への取り組みやクラウドサービスの導入など新しい取り組みにも挑戦している。

温暖な気候という恵まれた環境と若く情熱を持った優秀な人材を兼ね備える指宿やさいの王国だからこそ、さまざまな課題が存在する国産の加工・業務用野菜生産においてもさらなる発展が期待できると考えられる。

最後に本稿の作成に当たり、ご多用であるにもかかわらず今回取材のご協力をいただきました指宿やさいの王国の吉元龍馬代表取締役、吉元義久専務取締役、田之畑佑樹常務取締役、いぶすき農業協同組合金山祐一調査役をはじめ、関係者の方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。



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