[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

調査・報告(野菜情報 2018年5月号)


地場野菜を地域の飲食店に届けるシステム~千葉市「つくたべプロジェクト」による地場農産物調達事業~

千葉大学大学院 園芸学研究科 教授 櫻井 清一

【要約】

 都市農業地帯では野菜生産者による地元飲食店への個別直販事業が一定の展開を見せているが、複数の生産者・飲食店がまとまって取り組む事例は少ない。千葉市では行政のコーディネートにより、地域の生産者・流通業者が連携して地場野菜を市内の飲食店に配送するシステムを構築する実証事業を行った。その成果と問題点を踏まえ、システムの改善を行っており、生産者・飲食店双方から一定の評価を得ている。

1 はじめに

食の外部化が進行し、私たちは日ごろの食生活のかなりの部分を外食に依存している。私たちの食べる野菜もかなりの割合が飲食店にて調理された形で消費されている。

外食産業は近年、客単価の停滞ないし微減を指摘されているが、それでも産業自体の規模は堅調に推移している。外食産業を構成する飲食店は、個人経営の零細店から大手外食チェーンまで多様に展開しており、激しく競争している。各店舗ないしチェーンは多様化している顧客の外食ニーズに応えようと、メニュー構成や食材の仕入れに工夫を凝らしている。その中には、地域で収穫された地場の野菜・農産物を食材として活用しようと考えている飲食店も少なくない。こうした飲食店のニーズに応えようと多品目の野菜を生産し、飲食店に個別に届ける直販事業に取り組む野菜生産者は、都市近郊を中心に一定数存在すると言われているが、その実態は明らかでない。また、飲食店のメニューに合わせ多様な品目を提供することと同時に、それぞれの料理ジャンルで定番として用いられる野菜は相当量を安定生産することが求められるため、生産者にとっても直販事業を継続するにはかなりの生産技術とマーケティング能力が必要とされる。そのため、篤農的生産者とこだわりを持った飲食店の間で個別取引が行われることが多く、複数の生産者でまとまってマーケティング対応する事例はあまりみられない。

そこで本稿では、地元の野菜生産者と飲食店のマッチングを進めるとともに、複数の野菜生産者と飲食店を取り結ぶ配送システムを構築しようとしている千葉市の「つくたべプロジェクト」地場農産物調達事業を紹介しながら、地場野菜を飲食店にまとめて届ける流通チャネルを構築することへの期待・将来性や、現在抱えている課題を整理したい。

2 千葉市の野菜生産と「つくたべプロジェクト」の始動

千葉市は人口98万人(2017年)の政令指定都市であるが、現在も1090戸の販売生産者(農業経営体数は1124)が1451ヘクタールの農地を耕作している。農地の6割強は畑で、販売金額1位の部門が露地野菜である生産者が3割強を占めるなど、経営における野菜作の位置付けが相対的に高い地域である。販路として農協経由の共販だけでなく、都市部のため付近に消費者・実需者が多数いることの強みを生かし、直接販売に取り組む生産者も多い。飲食店を対象にした個別直接販売を行う生産者も、正確な数は不明であるが少なくない。

千葉市役所農政課では、市内生産者と飲食店との取引を促し、地産地消を促進するため、2015年度に両者のマッチングを行う機会を設けた。おおむね生産者・飲食店双方より好評であったが、実際に継続的な取引につなげるためには、1回限りでなく定期的・継続的な支援の取り組みがあってよいとの意見を生産者・飲食店双方から受けたという。さらに関係者との協議から、地場野菜を求める飲食店は潜在的に多数あるものの、どの生産者あるいは流通業者を頼ればいいかわからないうえ、仕入れ業務には物理的な負担感があることがわかった。また飲食店に個別販売する野菜生産者は市内に一定数あるものの、配送作業はやはり負担となっていた。こうした状況が把握される中で、市内飲食店が千葉市産農産物をまとめて調達できる受発注システムづくりの構想が生まれた。そこで翌2016年度には、近距離かつ小ロットを前提とした地場農産物流通システムの構築を目指し実証実験に取り組むことにした。これが千葉地域産品販路拡大実験事業「つくたべプロジェクト」である。事業内容を審議し、その成果を検証するための検討委員会も設けられた。委員会の構成員は、生産者代表、飲食店代表、農協、商工会議所、観光協会、銀行、学識経験者である。「つくたべ」というフレーズには、「千葉市でつくって千葉市で食べる」という地産地消のメッセージが込められている。

つくたべプロジェクトによる流通モデル実証事業では、二つの配送パターンを試行した(表)。一つは「新規参入企業による専用配送便システムの構築実験」、もう一つは「既存流通業者の配送システムを活用した流通システム再編実験」である。5カ月間に合計32回の受発注が試行された。事業に協力した生産者は14戸と2団体、実際に発注をかけた飲食店は10店舗、取扱のあった野菜などの点数(のべ取引品目合計590品目であった。期間中、発注に用いる媒体や決済の仕組み、生産者情報の提示方法なども適宜変更し、その実現可能性が検証された。実証実験の結果は委員会にて報告され、関係者で共有するとともに、得られた知見や経験を反映しながら翌2017年度の補助金をともなわない事業に継承されることが合意された。

038a

また、つくたべプロジェクトでは、広く千葉地域(千葉市に加え隣接する市原市も含む)の農産物を、住民に認知してもらうための各種PR活動も実施した。その取り組みは、現在も形を変えて継承されている。「地産地消推進店」として、地場農産物の取り扱いに熱心な飲食店14店舗と市内直売所5店舗が登録されている。飲食店関係者や消費者を招く産地見学会や取引をマッチングするための商談会も定期的に開催されている。さらにSNSを活用して地場野菜を用いた料理を写真付きで投稿・紹介してもらうキャンペーンも試行された(図1)。

038b

3 飲食店向け農産物調達の概要

2017年度よりスタートした千葉地域農産物の調達事業の概要を図2に示した。前年度の実証実験で試行した既存流通業者の配送ルートを活用した調達システムがベースとなっているが、一定の修正が加えられている。

039a

まず、登録生産者は、前の週の木曜日午後6時までに自身が出荷可能な野菜などの品目名・規格・数量・希望する価格、そしておすすめポイントをまとめ、配送を担当する株式会社ファーム・サポート社(以下「(株)ファーム・サポート社」という)にファックスなどで情報提供する。(株)ファーム・サポート社では生産者から収集した情報をすぐ取りまとめ、登録飲食店宛てに次週の取扱品目情報兼発注表として提供する。生産者からの情報を取りまとめる際、(株)ファーム・サポート社では基本的に生産者からの提案をそのまま集計している。ただし、飲食店が求めている品目が不足していると判断した場合は、自社が独自ルートで調達している地場食材を部分的に付加することもある。また価格についても、市況や売れ行きを考慮し微調整することがあるという。飲食店は(株)ファーム・サポート社から送られてきたリストの中から注文する品目・数量と配送希望日(火曜日または金曜日)を指定し、土曜日の昼までに送信する。(株)ファーム・サポート社は受注情報を再整理し、土曜日の午後2時をめどに各生産者に対し発注をかける。

生産者は発注された品目の必要量を収穫・調製し、月曜日および木曜日の午後7時をめどに指定されたピッキングポイントに配送する。その際、規格は生産者が発注時に指定したものが基本的に踏襲される。農協への共販出荷に比べれば、大きさや荷造りに関する縛りは弱く、バラ出荷も可能という。また生産者とピッキングポイントの間の輸送には通い容器が用いられている。集荷された農産物は(株)ファーム・サポート社の施設内で各飲食店向けに小分けされ、翌火曜日および金曜日の朝に千葉市内の飲食店に配送される。

なお、決済は月1回となっており、月末に生産者側から請求された額から(株)ファーム・サポート社の取次手数料(10%)を差し引いた額が翌月はじめに指定口座に振り込まれる。

つくたべプロジェクトに参加している登録生産者は5戸、常時利用している市内の飲食店は4店舗である。加えて、市外の飲食店や不定期の市内飲食店からの発注も数店舗あるという。実証実験の時期に比べると参加経営体数は減っているが、受発注の機会自体は季節性による変動こそあれ堅調に推移している。

4 生産者の取り組み~株式会社高梨農園~

ここでは実証事業の頃より調達事業に参加している株式会社高梨農園(以下「高梨農園」という)の取り組みを紹介する。高梨農園は千葉市郊外の3ヘクタール強の畑に家族労働力3名と雇用者7名で多品目の野菜を栽培している専業生産者で、法人化(株式会社)も達成している。古くから多様な顧客のニーズを把握しながら通常の流通経路では入手しにくいマイナー品目も含め100種以上の野菜を栽培しており、種苗業者ともネットワークを構築している。また、生産物は基本的に消費者・実需者に直接販売しており、多様な販路を構築してきた(写真1、2)。

040a

現在は農園付設の直売所を経由したさまざまな販路での販売と、近隣の共同直売所(2カ所)への出荷を並行して行っている。付設直売所経由の売り上げは全体の6割程度であるが、このうち、近年では個別来店客への直接販売よりも同店を窓口として展開する業務用販売の割合が増えており、農園全体の売り上げの1割を超えているという。業務用販売の具体的販路も多様で、店舗に直接仕入れにやってくる仲卸商(3社)および飲食店(10店程度)への販売、宅配便を利用した首都圏の飲食店(5店)への販売が行われている。

業務用販売の中でも飲食店の占める割合は高い。これも飲食店からのニッチな要望に応えうる多様な野菜を栽培・供給してきた実績があるからである。またSNSを用いた栽培状況の情報発信もこまめに行っている。

代表の高梨豊氏は、自身の直売ルートを多角化する一環としてつくたべプロジェクトによる飲食店向け農産物調達事業に関心を持ち、実証事業の時期より参加している。多様な販路の中で、つくたべプロジェクトの占める経済的シェアはまだ高くない。

しかし高梨氏は以下の3点でこの調達事業を評価しており、発注量の増加を期待している。一つは自身が販売したい品目・数量・価格について事前に「提案」でき、売り手として主体的に販売に関われることである。二つ目のメリットは荷姿を簡素化できることである。共同直売所への出荷も行っている高梨農園にとって、小さな袋へのパッキングとシール添付の作業は一定の負担になっている。しかしつくたべプロジェクトの場合、パッケージングはかなり簡素化されているので負担軽減になる。もう一つのメリットは配送時間である。多様な販路を持つ高梨農園では、午前中にどうしても受発注作業が集中しがちである。しかしつくたべプロジェクトの場合、配送期限は夕方に設定されているため、荷造りおよび配送作業を午後に行うことができ、作業時間を分散できる点が評価されている。

5 流通業者の取り組み~(株)ファーム・サポート社~

つくたべプロジェクトにおける野菜調達事業にて配送を担っている(株)ファーム・サポートは、千葉市地方卸売市場にて営業する仲卸業者・株式会社さんひで(以下「(株)さんひで」という)が出資した関連会社である。自社が調達した野菜を顧客の小売店や飲食店などに配送する産直事業を担っている(写真)。

041a

(株)さんひでは近隣の青果商への仲卸販売を主たる業務としているが、個人経営青果商の廃業が増えており、従来型の顧客は減少している。そこで新たな顧客を開拓するため、(株)ファーム・サポート社を立ち上げた。近年では飲食店や病院・介護施設の給食事業部への配送事業を拡大し、約150の取引先を確保している。青果商に比べると、飲食店・給食事業への配送は、総じて発注ロットは小さく、業態ごとに発注の傾向も異なるため、楽な業務ではない。それでも取引先数は拡大傾向にあり、今後成長しうる事業分野と認識している。

特に産地・生産者からの直送をセールスポイントにしている(株)ファーム・サポート社にとって、つくたべプロジェクトの調達事業は、作り手のわかる地産地消産品を供給できること、買い手側の飲食店もその点を評価しているため相対的に高い価格での取引が実現できることにメリットがある。親会社である(株)さんひでが確立した配送ルートを共有できる点も強みといえる。ただし現時点での1店舗からの1回当たり発注ロットは5~6品目、2~3000円程度であり、まだ拡大の余地はあると配送業務担当者の野瀬氏は考えている。

日常的に集荷と小分けの業務を担っている野瀬氏が指摘する今後の課題は主に二点ある。一つは個性ある品目の追加である。高梨農園のように飲食店も注目するようなユニークな品目や、マイナーだが使ってみたくなるような品目を提案し、実際に栽培・出荷できるよう、登録生産者の増加とレベルアップが求められている。もう一点は季節性の克服である。地産地消をうたう以上、ある程度の季節性(による出荷期間の制約)は避けられないだろう。しかし飲食店は総じて需要量の多い定番品目については長期間の安定出荷を希望するという。千葉市の野菜生産は露地栽培が多いため出荷期間が限定されているという指摘もあり、改善の余地はあるだろう。

6 飲食店の取り組み~今日和こんにちわ幕張ベイタウン店~

千葉市に本社を構える株式会社レプコ(以下「(株)レコ」という)は、千葉県内にレストランやカフェ、惣菜店を展開する企業である。同社が5店舗展開しているパスタレストラン「今日和」の幕張ベイタウン店は、JR海浜幕張駅からほど近い新しい住宅地域に2011年にオープンした。

(株)レコの各店舗では、食材の仕入れは基本的に店舗の裁量でなされている。幕張ベイタウン店長の篠崎氏は、同店に赴任して以来、千葉産の食材を生かしたメニューづくりに力を入れてきたが、実際に千葉市産の野菜をどのように仕入れたらよいのか戸惑っていた。ちょうどその頃につくたべプロジェクトのことを知り、2017年より(株)ファーム・サポート社を通じてこの調達システムを利用するようになった。

発注表(生産者からの提案をまとめた表)は(株)ファーム・サポート社からファックスで届けられる。発注表には品目・数量だけでなく、生産者名も記載されている。出自が明確である点を篠崎氏は評価している。実際、先述した高梨農園産の野菜を注文する機会が多いという。また小口でも発注できる点や、熱心な生産者が新しい野菜や季節感のある野菜を提案することもあるので刺激になることも評価している。発注ロットについては、飲食店にとっての定番野菜であるトマト、レタスやねぎについてはより多く注文したいと思っているが、ロスは避けたいので、全体としては小口注文になりやすいとのことである。また、店舗としては千葉市産野菜だけでなく一般的な野菜ももちろん必要であるが、(株)ファーム・サポート社の親会社である(株)さんひでに発注すれば同じタイミングで配送してもらえる点も便利だという。

仕入れた千葉市産野菜は、通常のメニューに用いるだけでなく、地場産の材料を強調したローカルメニューにも使用される。ローカルメニューは店舗内の黒板に掲示され、定期的に入れ替えを行う。価格設定はやや高めだが、利用客からは好評である。例えばサラダの場合、通常メニューのサラダと地場産野菜を使った温サラダを同時に提供すると、温サラダの注文の方が多くなるという(写真4、5)。

043a

今後の希望として、篠崎氏は登録生産者との交流を挙げている。篠崎氏自身も農村風景の残る千葉県鴨川市の出身で、農業が身近に感じられる環境で育った経験を持つ。現在、発注表から生産者は特定できるが、実際に農園を訪問して栽培の様子を見聞したことはない。それだけに実際の栽培や出荷の様子を見聞できれば、産品への愛着も増すであろうし、農園での実地体験から次のメニュー開発につながる刺激を得られるのではと期待している。もう一点の要望は有機ないし環境保全型農産物の取りそろえである。こうした農産物をまとまって調達できる販路は、今なお限られている。小ロットでも利用でき、しかも生産者に信頼の持てるつくたべ調達システムから発注できれば、オーガニックメニューにもトライしたいと考えている。

7 まとめ~さらなる発展に向けて~

先述したが、飲食店を対象に地場野菜を販売する取り組みは、これまでも個別には展開している。しかしその多くは個別生産者と飲食店の2者間関係を前提とした取引、またはその組み合わせ(1飲食店が複数の生産者から仕入れる場合)であり、生産者、飲食店側双方が一定のまとまり・グループを作ったうえで両サイドがそろって調達システムを構築しようとする千葉市の取り組みは、全国的にみても珍しい取り組みと思われる。

つくたべプロジェクトによる調達事業システムは、補助金も活用した実証事業から独立した事業となって1年ほどであり、その規模も決して大きくない。しかし参加者からは、さらなる課題や要望を指摘されながらも、一定の評価を得ている。今後もこのシステムを発展させるために、最後に生産者・供給側の視点から取り組むべき課題を整理しておこう。

まずはロットの問題である。小ロットで発注できるシステムは、発注する飲食店側から評価されている。時期に応じて多様な食材を用いる飲食店のニーズに合ったシステムと言えよう。その一方で、どの店舗でも一定量を利用する定番野菜については、さらなる出荷が求められている。(株)ファーム・サポート社は親会社である(株)さんひでの集荷ルートも活用してある程度対応しているが、千葉市産野菜の販売拡大のためには、こうした定番野菜もつくたべ調達システム上に提案できるよう、生産者側の登録者を増やす必要があるだろう。生産者が同システムに対して感じている荷造りの容易さや夕方発送の利点は、市内ですでに飲食店向けに個別配送している野菜生産者にとってもメリットとして理解されやすいと思われる。同業者間の情報交換を密にし、登録する仲間を広げていく努力が必要と思われる。

次に、出荷ロットとも関連するが品ぞろえの問題である。飲食店側が求めているのは、定番野菜が継続的に提案され、さらに季節物や個性的な新野菜・新品目が随時提案されるような発注表である。定番野菜は一定のロットを求められる一方、個性的な野菜はそれほど多くを必要とはしないと思われる。品目の多様性を確保しつつ最適ロットも追及しなければならない難しい課題であるが、品目については、千葉市には多品目栽培を実践する篤農的生産者は少なからず存在しているし、新しいことに意欲的な若い生産者も存在するので、これも登録者を増やすことで改善することは可能であろう。

最後に指摘しなければならない課題は飲食店を想定したマッチングないし交流の機会の提供である。現行のシステムでは、飲食店側は生産者の識別や産品に対するミニマムな情報は把握できるが、生産者からは自身の産品がどこで利用されているかを把握できない。また飲食店側も、あくまでも生産者情報を発注表やプロジェクト関連のホームページから間接的に把握しているものの、直接交流した経験を持っているわけではない。しかし一部の登録飲食店は、これまでも主体的につくたべプロジェクトで実施されたイベントに参加したり、自ら農園を訪問することで、生産者との間によりダイレクトな関係を構築している。こうした先行的な取り組みをより多くの登録者間で共有できるよう、つくたべプロジェクトの現行交流イベントに飲食店が関わる機会を用意することが求められる。



元のページへ戻る


このページのトップへ