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調査・報告(野菜情報 2017年7月号)


長野県川上村の農家の技術指導による恩納村でのレタス栽培

那覇事務所 青木 敬太、針ヶ谷 敦子

要約

 沖縄県おん村は、30年来の友好関係にあり、レタスで有名な長野県川上村の技術協力の下、レタス栽培に取り組んでいる。所得向上や新規就農、耕作放棄地の解消にもつながると期待されている。

1 沖縄県の農業

(1)概要

沖縄県は、亜熱帯海洋性気候で、気温は平均23.1度であり、1年を通じて温暖である。年平均降水量は約2041ミリで全国でも比較的雨量の多い地域である。また、台風の常襲地であり、特に6月から10月に台風が接近することが多い。

野菜は、亜熱帯の温暖な自然条件を生かし、冬春期の本土の端境期における供給産地として生産が行われている。沖縄県の農業産出額は935億円であり、そのうち野菜は122億円であり、全体の13.0%を占めている(図1)。野菜の主要品目としては、にがうり、さやいんげん、トマト、きゅうり、かぼちゃ、オクラ、ピーマン、レタスなどがある。

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(2)野菜の出荷状況

県外へ出荷される品目について見ると、かぼちゃ、にがうり、とうがん、さやいんげん、オクラ、トマトが上位を占めており、レタスはごくわずかである(表1)。県外出荷額ベースでは、さやいんげん、かぼちゃ、にがうり、オクラの4品目で全体の7割弱を占める。

また、にがうりは一年を通して出荷が可能であり、かぼちゃは冬から春にかけた本土での端境期、夏野菜であるオクラも12月まで出荷される(図2)。

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レタスの出荷時期は11月から5月である。平成12年に県の拠点産地に認定された糸満市が産地となっているが、全国的には、レタス生産が盛んな川上村が所在する長野県が産出額の約3割を占めており、沖縄県は0.6%にとどまる(表)。

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2 恩納村の農業の概要

恩納村は沖縄本島のほぼ中央部西海岸側に位置し、面積は50.82平方キロで、南北に27.4キロ、東西に4.2キロと細長い形をしている(図3)。西側は東シナ海に面し、40キロにも及ぶサンゴ礁の海岸線は、観光資源として注目され、日本でも有数の観光リゾート地である。

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総人口は約1万1000人、販売農家戸数は280戸である。農業産出額19億円のうち、1位はきくなどの花き、次いで、畜産、果実、野菜、サトウキビを含む工芸農産物となっている(図4)。野菜は6%を占めるにすぎず、沖縄県の拠点産地として認定されていない。また、高齢化に伴い、耕作放棄地の拡大が懸念される。

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3 恩納村のレタス栽培

(1)経緯

恩納村のレタス栽培は川上村からの提案がきっかけとなっている。もともと両者は行政の交流など30年来の交流関係にあり、恩納村の祭りでは川上村のレタスが提供され、好評を得てきた。

レタスの一大産地であり、レタス栽培の生産ノウハウを持つ川上村は、冬は農閑期となることから、恩納村に技術協力を行うことで、農家は冬の時間を有意義に過ごし、夏の繁忙期以外で活躍する機会の創出を図ることができると考えた。また多くの観光客が訪れる恩納村で川上村の夏のレタスの消費拡大と冬は地場産レタスの地産地消を進め、両村のレタスを年間を通してPRできると考えた。川上村は自分たちの出荷時期に当たる5~10月の気温が恩納村では冬季の11~4月となるため、出荷期間の重複がなく、販売において競合しないことも積極的技術提供を可能とした。

一方、恩納村もレタス生産による耕作放棄地の解消、新規就農者の呼び込み、新たな産業の創出といった効果が期待できたことから、平成27年、シンカプロジェクトと命名されるレタス栽培の共同プロジェクトが立ち上がった。シンカとは沖縄の方言で「仲間」を意味する言葉で、レタス生産を通じてこれまで以上に交流していこうという気持ちを込めて川上村側が名付けたものである。

(2)シンカプロジェクトの概要

シンカプロジェクトは、両村の交流関係の下、川上村がレタスの栽培技術を指導し、恩納村にレタス栽培を根付かせるとともに、両村にとって新たな産業創出、所得の向上、農業を核とした両村のさらなる友好交流を図っていくことを目的として、平成27年度から実施している(図5、6)。1年目である27年度は、両村から補助を受け、2年目の28年度からは川上村は長野県の助成を受けてプロジェクトを実施している。川上村は、恩納村に資材やリーフレットを提供し、恩納村は、栽培農家に対してマルチ、苗、出荷用ダンボールなどを提供したり、おんなの駅が冷蔵庫を借り入れる経費の一部を補助するなどした。

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このプロジェクトの農家数、栽培面積、出荷量などの推移は、表3の通りである。1年目の27年度は、川上村農家13名の技術支援を受けて、恩納村の農村水産課職員が試験栽培を実施した。2年目の28年度は、恩納村の農家16名が川上村農家9名からの栽培指導を受けて玉レタス2品目を栽培し、恩納村でも予備的生産を行いつつ、試験的に販売を行うこととした。3年目の29年度は、前年度同様の生産体制の下、販売ルートを確立し、4年目からの本格販売につなげる予定である。

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当初は、3年計画で29年度からの本格販売の予定であったが、28年度の試験販売の結果、3年目からの本格販売が躊躇される部分もあったことから、5年計画に見直してじっくり支援していくことを検討中である。

試験栽培ではまず土壌の違いが課題となった。恩納村の試験じょうはレタスの栽培にあまり適さないアルカリ性で水はけが悪いなどの難点もあったため、長野県の研究機関での土壌分析を行いその結果、堆肥や土壌改良剤を投入した後、深耕することにより、レタスに適した中性~弱酸性の土壌に改良した。

また、1年目は、畝たては機械で行ったものの、マルチ張りは手作業で行い、計4日間を費やした(写真5)。28年度からは、川上村から無償で借りている機械でマルチ張りを行っている(写真6)。

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このほか、恩納村は川上村と異なり、海岸に面しており、強い海風の風害を受けやすく、また、シロガシラという川上村では見られない鳥がレタスを食べてしまうため、それらの対策としてネット張りなどの講習会を恩納村の職員が開催している(写真7)。

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(3)作型

玉レタスは、2回収穫を行っている(図7)。育苗は定植の20日前からハウスで行い、定植から45~50日で収穫する。具体的には、11月上旬から1回目の定植を開始し、1月に収穫、2回目は1月に定植し、3月に収穫となる。3回収穫とするためには、1回目の定植を10月に開始する必要があり、現在は試験的な取り組みをはじめているものの、まずは2回収穫の出来を安定させることが目下の課題である。

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(4)生産・販売状況

ア 生産

27年度は雨が多く、12月に気温が25度を超えたり、1月に寒波に襲われた影響により、収穫率は植付けの50%となったものの、川上村の農家からは収穫されたレタスは、川上村のレタスと同じくらい大きくおいしいものができたと評価された(写真8)。

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恩納村の農家はなるべく大きく丈夫なレタスを栽培しようと、栽培期間を長めにしがちなので、役場ではやわらかいうちに収穫するよう、指導している。

イ 販売

毎年2月に開催される恩納村産業まつりにおいて、27年度は、試験的に村が無償で配布したり、おんなの駅で、1玉50円でのPR販売を実施した(写真9、10)。

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28年度はおんなの駅の運営も行っている株式会社ONNAが農家から委託を受けて、おんなの駅で販売するほか、ホテルや村内飲食店、量販店に販売した。あまり葉物が生産されていない恩納村では地元産のレタスの注目度も高く、おんなの駅で、特設ブースを用い、大々的にPRされた。

村は、10数軒あるリゾートホテルや飲食店向けを重視しており、ホテルの責任者や調理担当者を対象とした圃場の視察を企画するなど、積極的にPRしている。参加者からは、朝採りのレタスの品質は申し分ない、友好都市との共同プロジェクトによる地元産の新鮮野菜というストーリーを持ったPRはわかりやすい、といった評価を得た一方、安定的に供給してほしいとの要望もあった。

4 今後の見通し

村のプロジェクト担当者である伊佐氏は、農家の取り組みや収量の見通し、販売先のニーズも踏まえて、生産計画を策定し、川上村の指導を受けながら、まずは安定供給できる基盤作りを第一に考えており、将来的には、両村の協力によるリレー出荷で村内のホテルだけでなく、近隣の米軍施設などにも販路を拡大したいとしている。

28年度にシンカプロジェクトに参加した生産者16名のうち3名は新規就農者であった。耕作放棄地にレタス栽培を根付かせ、若い新規就農者を呼び込み、村の振興にもつなげたいと考えている。栽培できる作物の選択肢が増えれば、農家の所得向上にもつながると期待を寄せる(写真11)。

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5 おわりに

村では、朝採りの新鮮なレタスを村内のホテルの朝食に提供できれば、飲食店にも需要が順調に増加していくとみている。村では、将来は加工開発にもつなげたいとしている。

シンカプロジェクトはレタス栽培にとどまらず、はくさいやカリフラワー、ブロッコリーなどでも技術提供が行われている。直接指導の活動を通じてレタス以外でも何かできることはないかという現場の積極的な意見交換による成果である。中でもはくさいは驚くほど出来がよく、川上村の技術指導によるレタス以外の品目の定着も大いに期待されている。

平成29年2月、両村は正式に友好都市として協定を結んだ。レタス栽培の協力を機に、両村の関係がぐっと縮まったことが背景にある。緊密な関係により、恩納村の農業がさらに発展していくことを期待する。

最後に、今回取材に御協力いただいた恩納村役場農林水産課の伊佐さんをはじめ、関係者の皆様に深く感謝申し上げます。





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