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調査・報告(野菜情報 2016年10月号)


JA斜里町による野菜生産の拡大と加工・業務用野菜需要への対応

札幌事務所 平石 康久

要約

 斜里町農業協同組合は農協の大型機械の活用、農作業受託組織であるコントラクターの活用、集荷や選果などを行う青果センターの整備により野菜生産を拡大することに成功している。
 また、市場向け以外の野菜については、加工工場を誘致した上で、野菜加工業者へ継続的に販売するとともに、一定の価格で実需者からのニーズに応じ、出荷時期をずらすなどの工夫をしている。

はじめに

斜里町農業協同組合(以下、「JA斜里町」という)は斜里町を管内とし正組合員248名(平成28年月末時点)が加入している。JA斜里町は、小麦やばれいしょ、てん菜の生産を中心とした畑作地帯にある中で、収入の増加を図るため、野菜生産に取り組み、生産の拡大と、加工・業務用需要をうまく組み入れた販売に成功してきている。

本稿では、このJA斜里町の取り組みを紹介する。

 斜里町の概況

斜里町は、北海道のオホーツク総合振興局管内の東端部に位置している(図1)



管内の農地は、その7~8割が平野部に、残りは標高220230メートルのなだらかに続く山麓地帯に位置している。地質を見ると、低湿地帯は泥炭土が広がっているが、斜里川・いくしな川・秋の川・おくべつ川・うなべつ川周辺は沖積土、その他高台などは火山灰土と多様な土壌となっている。

斜里町の気象の特徴としては、冬は気温がマイナス20度を下回る厳しい寒さとなり、春はフェーン現象により斜里岳から吹き下ろす強風が発生し、しゅ後の農作物に被害をもたらすことがある。春から夏にかけては、比較的穏やかで晴れの日が多く、日照時間が長い。また、梅雨はなく、年間平均降水量は800ミリメートル前後と少ない。

 斜里町の農業・野菜生産概況

斜里町は畑作地帯であり、オホーツク地区で輪作されている小麦、てん菜、ばれいしょの畑作品目が主要な生産品目である(表)。また、酪農なども盛んであることから、飼料作物も一定の面積で生産されている。しかし、近年では青果用・加工用ばれいしょや、にんじん、たまねぎといった青果物の作付けが増加しており、青果物の生産額は増加傾向にある(表)。





この青果物の作付面積の増加には、次のような動きが見られる。

つは、年輪作体系にさらに年青果物の生産が追加された年輪作体系である。これは、小麦、てん菜、ばれいしょの年輪作体系から、より病虫害の発生防止や地力維持に効果のある野菜生産を追加した年輪作作型への移行である。もうつは、春からあきまき小麦のしゅ期である秋まで空いているじょうを有効活用するため、栽培期間の短い野菜を作付する体系である。このつの体系の取り組みは、品目や生産者の選択によるものであり、斜里町として一様とはなっていない。

また、後者については、より単位面積当たりの収入を向上させるとの目的のほか、小麦の生産拡大による影響が大きい。

現在、農作業受託組織であるコントラクターを利用することによって、小麦の作付を拡大することが容易となっていることから、でん粉原料用ばれいしょの収穫作業と秋播小麦の播種作業が競合するようになり、ばれいしょの単収が減少する傾向にある。このため、より収穫を早く終えることができる野菜に転換して競合を避けるようになってきたという。

 JA斜里町によるにんじんの生産・販売

(1)にんじん栽培の経緯

にんじんの生産は昭和30年代から始まっており、当初は泥つきのまま木箱で輸送されていた。昭和40年代に指定産地になり、50年代初めに洗浄機が導入されたことから、洗いにんじんが出荷されるようになり、作付面積も拡大した。当初はカビや傷みのクレームがあったが、予冷施設の導入などにより徐々に軌道に乗っていった。

しかし60年代には規格品割合の低下や労働力不足から作付面積が減少したため、後述するような、JAによる各種取り組みにより産地の再編が図られた。

その結果、平成26年には作付面積は399ヘクタールにまで増加し、12年と比較すると約倍になっている。

(2)にんじんの生育ステージ

生育ステージは、播種が月中旬から月上旬まで、収穫が月下旬から10月末までとなっている。播種時期については部会で話し合って計画的に行い、長期にわたる出荷を可能としている。また、月下旬からお盆前に出荷される早出しのにんじんについては、生育初期にベタがけ(注)を行っている(写真1、

注:不織布を野菜に直接被せ、保温、防風、防虫効果を高め、生育促進、生産安定を図る。





(3)生産面での取り組み

ア 機械の共同利用

JA斜里町の部会は、真空播種機2台および収穫機1台を保有しており、組合員が共同で利用している(写真2)。個々の生産者では導入が難しい高性能の真空播種機を使用することによって、正確な播種の間隔および深度を実現しつつ、短時間で播種を終えることができると同時に、その後の生育のバラツキを抑えることができるので、機械による一斉収穫を可能としている。



また、管内の民間コントラクターは、JA斜里町と同機種の播種機台および収穫機台を所有しており、組合員は播種や収穫の作業をこのコントラクターに委託することも可能である。

ベタがけの被覆やはがす作業については、農協の関連会社である運送会社も受託している。

このように、組合員は、大きな設備投資を行うことなく、これらの農協の部会が所有する機械やコントラクターなどの利用が可能となっている。

なお、収穫については、同一の生産者の圃場の作業を複数の収穫機で、一気に行い、生産者ごとに収穫を終わらせることによって、青果センターに運び込まれる時間をそろえることができるようになり、品質の均一化に成功している。

さらに、圃場から青果センターへの運搬は800キログラム収納の大型鉄コンテナを利用することで、輸送コストの削減も図っている。

イ 選別作業の合理化と鮮度保持による差別化

JA斜里町では、収穫されたにんじんは圃場での粗選別は行わず、全てを集荷場に集めてから選別を行っている(写真)。大規模な選果施設を整備したことから可能となり、これによって、圃場で粗選別を行う労力が不要になっただけでなく、収穫から洗浄、箱詰め、予冷までの時間を短縮でき、出荷先から高い評価を得られるようになった。また、ライン途中でにんじんを冷水に浸し、温度を下げることで鮮度保持、ひいては品質向上を実現させ、有利販売につながっている。



(4)販売面での取り組み

ア 規格別に分かれた販売方法

JA斜里町は、規格別にきめ細やかな販売戦略を採っている。生産されるにんじんを規格別でみると、品(秀品)が半分程度、品(優品)が割強、残りが品などとなる。このうちA品は外装に目を引くような絵を印刷した10キログラム段ボール箱で中京や関東の卸売市場向けに出荷され、市場価格によって販売される。

一方、B品C品については、ジュース原料用やカット野菜用などの、主として加工・業務用需要として無地の20キログラム段ボールなどによって出荷される。

B品C品については、取引先の実需者との話し合いにより期間一本の価格を決めている。価格には、生産者がにんじん生産を継続するにあたり、必要手取り水準に、目的地までの運賃が加算されて決められており、出荷時期の違いによる有利・不利は生じない。これは、実需者の求める長期出荷期間中の安定供給に資することになっているものと思われる。また、期間一本の価格を決めた後は、市場価格が高騰しても価格を変更することはない。

イ 加工業者との取引

JA斜里町は、野菜を加工して、タレやソースに利用されるエキス、飲料やスープに利用されるペーストなどを製造・出荷する中京地域に位置する加工業者A社の加工施設を平成年に管内に誘致することにも成功している。社の主な業務は野菜素材を製造し、食品加工メーカーに納入することであり、低温濃縮技術を利用したエキスや、用途別に粒子を調節したペーストなどの製造・販売を行っている。

両者の取引は、平成年に価格高騰時の野菜の仕入れに苦労していた社が、市況にかかわらず中京向けに安定供給を行っているJA斜里町を、仲卸業者から紹介されたことから始まったということである。

社は大きさや細かな品質基準にはこだわらない一方、新鮮な野菜を定時・定量・定価格で供給できる産地を探しており、それにJA斜里町が応えることができたことから、工場の誘致も実現したものと思われる。

4 にんじん以外の加工・業務用野菜の生産・販売

JA斜里町では社をはじめとする加工業者のニーズに対応するため、ほうれんそう、キャベツなどの野菜の生産にも取り組んでいる。

北海道の道東に位置するJA斜里町では、にんじんの栽培は気候的にも適しており、機械化も進んでいる。これらの野菜を利用した加工は、収穫が始まる月から開始され、貯蔵した野菜を利用した操業を~7月まで行うことになる。これに加えて、にんじん以外の野菜を夏季に供給すれば、加工業者は工場の操業期間の延長につなげることができる。

生産者にとって加工原料としては、これらの野菜の栽培により、10アール当たり10万円程度の収入を見込むことができ、重要な収入源となっている。

(1)ほうれんそう

ほうれんそうは、にんじんの出荷先である加工業者からの要請によって、平成15年から生産が開始された。生産者は名で面積は2.5ヘクタールの規模であるが、この加工業者のニーズに特化した生産者としている。

生産については、べと病や抽苔抵抗性があり、株張りに優れ、葉が肉厚な品種を選定し、加工・業務用野菜として重要なポイントである歩留まりの向上につなげている。

栽培日数は40日45日程度であり、収穫時期は~8月初めまでである。単収の向上のため、草丈を高く(40センチメートル)成長させるとともに、株元に付着しやすい土を除去する手間も省けるよう、地面からセンチメートルを残して機械により収穫されている(写真)。



また、畦幅140センチメートルの条植えにすることによって、機械収穫が行いやすい栽培としている。

収穫では、収穫機からベルトで運ばれるほうれんそうを、併走するフォークリフトに積まれた鉄コンテナに収納している。根を切り離しての収穫であるが、収穫後直ちにJAの青果物センターに運ばれ、加工されることから、鮮度の問題は生じることはない(写真)。





収穫機はベビーリーフ用収穫機をJA斜里町が所有し、生産者は利用料金を払って使用している。今後生産規模が拡大すれば、より大きな収穫機の導入を検討するとしている。

(2)キャベツ

キャベツは18戸の生産者が20ヘクタール程度の面積で栽培しているが、月の連休明けに播種し、10月にかけて収穫される。販売先は専ら加工業者であり、冷凍食品やカット野菜に利用されている。

この2~3年で収穫量のうち半分程度が機械収穫となったが、収穫速度が遅いこと、斜め切りなどの発生はなくなっておらず単価に悪影響が生じていることが課題であるとしている。

また、その他にも需要に応じてたまねぎやこまつなの栽培も行われている。

 野菜生産の取り組みの背景

このように野菜生産を拡大し、加工・業務用販売を可能とした理由について、JA斜里町の担当者は、にんじん生産を行うと必ず発生する下位等級品をどのように販売すれば収入の増加につながるかを検討することが出発点であったとしている。

斜里町の立地を見ると、消費地から離れている北海道の中でも、最も遠隔地に位置しているため、他の産地に比べても輸送コストがかかることは避けられない。価格変動が激しい上、下位等級品に安値がつくことが多い市場出荷では、輸送コストを割り込んでしまうような価格がつけられてしまう。安値をつけられた生産者は翌年の安定した生産ができなくなってしまうため、一定の価格で安定した数量を買ってもらえる加工用・業務用野菜への対応を推進したということであった。

 まとめ

JA斜里町は既存の畑作品目による輪作体系の中ににんじんなどの野菜を追加する、あるいは秋播小麦の播種前に空いた圃場を利用することによって、生産者の収入の向上を図っている。野菜生産を行うのに必要となる労働力については、農協の大型機械の活用、コントラクターによる作業受託や、選果施設の整備などによる省力化によってカバーしている。

販売面では、B品以下の等級について、期間一本価格など安定供給に努めることによって、実需者の信頼を得るとともに、加工工場の誘致に成功するなど、安定した取引先を確保している。また、多様な野菜生産に着手するなど、実需者のニーズへの対応に努めている。

このようにJA斜里町では、消費地から離れている北海道の中でも、遠隔地に位置しているという物流においては不利な条件にある中で、野菜の生産の拡大に取り組み、加工・業務需要へ対応することで収入を確保し、ひいては地域の農業に貢献していることは、他の産地においても、参考になると思われる。

最後に、JA斜里町の皆様におかれましては、ご多忙中の中、今回の調査にご協力いただきました。心よりお礼申し上げます。



参考文献

(1) 斜里町「平成27年度斜里町農業の概況」

(2) 斜里町「斜里町農業・農村振興計画 活力ある農業・農村の振興をめざして 平成26~30年度」平成26年3月

(3) 北海道農業協同組合中央会「JAによる農業振興の取り組み事例集 第2集」平成27年3月


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