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調査・報告(野菜情報 2016年7月号)


野菜生産・販売を通じて地域に貢献する農業生産法人
~沖縄県の株式会社クックソニアの取り組み~

那覇事務所 石丸 雄一郎   大田  育子

要約

 沖縄県名護市に本部を置く農業生産法人株式会社クックソニアは、新規就農者が生産する 野菜の販売を通じて、担い手支援に積極的に取り組んでいる。また、6次産業化認定事業者として、かぼちゃやいんげんなどの野菜の生産・販売のほか、地元の原料を使用した加工品製造やカフェの経営を行っている。

 はじめに

2015年農林業センサスによると、沖縄県の農業就業人口の平均年齢は64.5歳と、全国平均(66.4歳)同様、高齢化が進んでおり、持続的な農業の発展を実現するために、新規就農者支援などによる担い手の確保が、大きな課題となっている。

こうした中、沖縄県名護市に本部を置く農業生産法人株式会社クックソニア(以下「クックソニア」という)は、新規就農者のみの組織である沖縄畑人はるさーくらぶ(以下「畑人くらぶ」という)の立ち上げを主導するとともに、畑人くらぶが生産する野菜の販売を代行するなど、担い手支援に積極的に取り組んでいる。また、地元産の原料を使用したスパイスの製造・販売やカフェの経営を手がけ、やんばる地域(沖縄本島北部)に根ざした地域ブランドの普及に努めるなど、地域に貢献する次産業化の優良事例として高く評価されている。

本稿では、県外から野菜生産者として就農したよし幸雄氏が率いるクックソニアの取り組みを紹介する。

 沖縄県における野菜生産の概要

沖縄県における野菜生産についてみると、収穫面積は平成17年以降、おおむね2500ヘクタールから2800ヘクタールの間で横ばいに推移しており、収穫量も同様に、天候不順の影響を受けながらも千トン前後で推移している(図)。



沖縄県の農業産出額のうち野菜は全体の13.7を占めており(図)、25年の収穫量でみると、キャベツ、にがうり、レタスが主要な品目となっている。近年、栽培技術の向上によりキャベツ、かぼちゃなどの生産量が増加している一方で、すいか、ばれいしょは、生産農家の高齢化や野菜価格の低迷による生産意欲の減退が影響し、減産傾向にある。



また、県外へ出荷される品目についてみると、亜熱帯の温暖な気候を生かし、本土産の端境期となる冬春期の生産地として、かぼちゃ、にがうり、とうがん、さやいんげん、トマト、オクラが上位を占めている(表)。県外出荷金額では、さやいんげん、かぼちゃ、にがうり、オクラの品目で全体の7割弱を占める。にがうりは一年を通して出荷が可能であり、さやいんげん、かぼちゃもは冬から春にかけた本土での端境期、夏野菜であるオクラは4月から12月まで出荷される(図)。





 法人立ち上げまでの経緯

(1)移住・研修から独立

東京生まれ、東京育ちの芳野氏は、有機野菜・無添加食材の宅配を行う会社や農産物の流通・販売営業を経て、「農業をやりたい」と思うようになった(写真)。

まだ「次産業化」という言葉もない時代、野菜の栽培から加工品の商品化、販売までを手がける若手農家のグループと出会った。その時芳野氏は、「自分で野菜を作ることができれば、野菜の物流に携わってきた経験を生かし、自分で営業し販売することができる。農業も面白い職業なのではないか」と考えるようになった。



沖縄で就農したのは、移住が念頭にあったわけではなく、「たまたま」だと言う。「農業をやる」と決意し会社を退職、会社員時代のつてを頼りに研修先を探していたところ、勤めていた会社の生産部門の出張に同行する機会があり、沖縄を訪れた。その際、研修を受け入れてもらえそうな農家を紹介してもらい、すぐに研修先が決まった。熱帯アジアで主に生産されるうりずん豆(四角豆)などに触れ、「10年間も野菜の物流をやっていたのに、こんな見たこともない野菜があるのか」と驚き、アジア料理の食材となる野菜を栽培し、東京で売ることを思いついたという。

平成15年、芳野氏は沖縄県に移住し、うるま市や糸満市の生産者のもとで、小ねぎ、モロヘイヤ、島とうがらし、オクラ、さやいんげんの栽培のほか、市場出荷のノウハウを学んだという。

沖縄に来て年目の18年、八重瀬町に約17アールのほ場を借り、独立した。そこでは、オクラ、さやいんげん、うりずんを出荷した。年間、八重瀬町で野菜栽培に励み、年収は100万円程度となったものの、「17アールでは、食っていけない」と考え、規模拡大を模索するようになった。当時参加していた勉強会で知り合ったJA職員の紹介で名護市内のほ場を借りられることとなり、20年に生産拠点を同市に移した4)



(2)クックソニア・畑人くらぶの立ち上げ

名護市での生産は、約40アールの荒廃したほ場に手を入れることから始まった。資金もなく、鎌ひとつで農作業を行わなければならなかったが、「こんな広いほ場を借りることができるチャンスはそうそうない」と考えた。すでに栽培・出荷のノウハウを得ているオクラ、うりずん、さやいんげんの栽培を行った。

東京時代の人脈をたどり、さやいんげんはすべて東京に出荷した。名護市に移り住んで1年、ようやく落ち着いて農業に取り組めるようになり、沖縄に来た当初に思い描いた構想を思い出す。それは、かつて農業を始めるきっかけになった若手生産者グループのように、「生産者でグループを作って、生産から加工販売までを手がけたい」というものであった。

すぐにグループの立ち上げに走り出す。まず、直売所の職員に「若手の生産者を紹介してほしい」と頼むことから始めた。その際、新規就農者を紹介してくれるように付け加えた。これは、周囲に気兼ねなく新しいことにチャレンジできる人と農業をやりたい、という思いからであった。

芳野氏は、「採算が取れる価格で野菜を売ることができない」など悩みを抱える新規就農者に対し、「どんなにいいものを作っても市場が飽和状態になってしまったら、価格は下落してしまう。何をどのような栽培方法で、どれだけ作るか。そしてどれだけの量を買ってもらえるか。は種する前に、買い手と作付計画から交渉すれば、安定した価格で買ってもらえる。グループを作って、安定した作付計画の下で栽培できて、安定した収入になれば、新しい挑戦もできるようになる」とグループで共同出荷するメリットを訴えた。

平成21年月、芳野氏に共感した名の生産者は、「畑くらぶ」を立ち上げた。出資金などの問題から法人格は取得しなかったが、出荷先企業と契約する際に、法人格がないと不都合が多いことから、芳野氏は、月、自らが野菜生産を行う生産法人として、クックソニアを立ち上げ、クックソニアが畑人くらぶの販売を代行することとした。

 畑人くらぶの取り組み

名で発足した畑人くらぶは、年が経過した平成28年月現在、メンバーが15名となっている。入会の条件である「新規就農者であること」は現在も変わりがなく、発足後に加入した名は全員が畑人くらぶのメンバーの下で研修した後、独立した生産者である。現在の主な活動は、月回の勉強会とクックソニアへの生産物の出荷である。

畑人くらぶではつの目標を掲げている。

目標① 専業農家として「食える農家」になる

収入の目標金額を340万円と具体的に定め、専業農家として家族を養うことができることとしている。

勉強会では、県農業改良普及課のOBを講師に、メンバーのほ場での現地講習会や、座学を行う。実際にほ場に出向くことにより、そこで生じている問題とその解決策や、新しい品目の生育状況確認などを行い、情報の共有と、栽培技術の向上を目指している。

座学の時間に実施されるミーティングでは、畑人くらぶの作付計画・販売計画も決定している。畑人くらぶは任意で生産者が集まっているため、収穫した農産物すべてを畑人くらぶを通じて出荷する義務はない。しかし、発足当時の理念に従い、作付計画に基づいた収穫により、安定した収入を全員が得ることができるよう、オクラなどの一部の品目については、畑人くらぶとして共同でクックソニアに出荷している(図、表)。また、クックソニアに出荷する野菜は、農薬・化学肥料の使用を、慣行栽培の半分以下としている。





共同出荷では、メンバーの作付け意向に基づき収穫見込み数量を算定し、販売先と事前におおよその出荷数量を取り決めている。

実際の収穫数量が、台風被害や病害虫により計画を下回る場合には、収穫できたものだけを納品する。豊作などで計画数量を上回る場合は、超過分をメンバー自らが開拓した販路で販売することで対応している。

特に、就農して間もないメンバーは、比較的栽培が容易なオクラを主力に栽培しており、そういったメンバーへの割り当て数量を多くすることで、収入の安定につながるように工夫している。中堅・ベテランのメンバーは、すでに地元の飲食店など独自の販路を有していたり、他品目の生産に取り組んでいることから、クックソニアへの共同出荷量の割り当てを少なくしているとのことであった。

目標② 就農希望者へのアドバイスをする

新規就農者で構成する畑人くらぶのメンバーには、就農希望者からの相談が後を絶たない。こうしたニーズに対し、まず勉強会へ参加することを勧めている6)



「現在のメンバー15人には、15通りの就農の仕方があった。その中から、自分に合った就農の仕方・栽培技術を学びたい品目を見つけてほしい」という考えから、就農希望者の研修先は、メンバーとの合意で決まるようにしている。そして、勉強会への参加を勧めるもう一つの理由として、「就農の厳しさを知ってほしい」という思いもある。実際、勉強会へ参加しているうちに、就農をあきらめる希望者も多いとのことである。メンバーそれぞれが新規就農を目指してぶつかった壁があり、それを乗り越えるアドバイスをするための経験は豊富である。

目標③ 地域に貢献する

畑人くらぶのメンバーの多くは、県外・地域外から就農した。知らない土地で農地を借りるためには、地元の人からの信頼を得て、認められなければならない。

草刈りや地域のイベントには積極的に参加し、自分たちの存在を知ってもらうだけではなく、どういう組織かを理解してもらえるように努めているとのことである。

 クックソニアの活動

クックソニアは、畑人くらぶの販売代行のほか、野菜の生産、畑人くらぶ産の原料を使用したスパイスの製造・販売およびカフェ「Cookhal」などの運営を行っている(写真)。



(1)野菜の生産・販売

野菜生産をみると、現在、約ヘクタールのほ場で、夏のオクラ、冬のさやいんげん、かぼちゃを主力とし、スイートコーン、コリアンダーなどの多品目の生産に取り組んでいる(写真)。売り上げは、平成21年の630万円から、27年には、1500万円へ大幅に増やし、畑人くらぶの販売代行分を含めると3400万円に達している3)





野菜の売り上げは順調に伸長したが、主な要因としては、①芳野氏の前職の人脈・経験を生かした営業力、②インターネットを通じて需要者に直接訴えかけるPR、③畑人くらぶメンバー個々の栽培技術の向上が挙げられる。

①は、前述のとおり東京など大消費地へ向けて直接販売ができる人脈・ノウハウを持っていたことと、県内の飲食店への営業の工夫が円滑な事業拡大に結びついたものと思われる。共同出荷の販売先は、県外の小売店や農産物流通会社など10社程度である。

県内の飲食店や小売店向けの小口の販売も行っており、毎週金曜日に旬の野菜7~8品目の野菜セット(1000円)を届けている。イベントなどに合わせて「この野菜を使いたい」という飲食店からの注文が入るとのことだ。

②は、ホームページやFacebookを通じて、畑人くらぶの減農薬の取り組みや現在のほ場の様子を伝え、収穫予定の野菜やCookhalの新メニューのPRを行っており、野菜がどのように栽培されたかを意識する消費者から共感を得ているようだ。また、新メニューの画像は、需要者になじみの薄い島野菜など畑人メンバーが収穫した野菜の利用方法を魅力的に伝えていることもあり、「Facebookに掲載されていたメニューの野菜を使ってみたい」という問い合わせは多いそうである。

③は、畑人くらぶの勉強会が、メンバーの単収の増加に結びついたとのことである。

(2)スパイスの製造・販売

単収の増加は、新たな問題を生じさせることとなった。特に、オクラ、かぼちゃなど主要な取扱品目の供給が過剰になり、県外への共同出荷で賄いきれない事態になり始めたのだ。その頃、地元の飲食店から、「もっと地元の野菜を使いたい。」という要望が聞こえてくる。「名護市は、海も山もある。地元の畜産物、水産物があって、塩も砂糖もある。これに野菜やスパイスがあれば、すべてやんばる産でおもてなしができる」という希望であった。そこで、芳野氏が取り組んだのが、①少量多品目の栽培、②やんばるスパイスの開発、③地元での販路拡大、である。

飲食店の料理人の方と話をするようになると、芳野氏の中に「ありきたりではない、やんばるをPRできるさまざまな品目を生産してみたい」という思いが生まれる。共同出荷により収入が安定した畑人くらぶのメンバーたちも、島にんにく、ウコン、しょうが、アセロラのほか、ハバネロ、ビーツなど、さまざまな品目に挑戦するようになった。このような「少量多品目の栽培」により、メンバーそれぞれの生産物に個性が生まれ、マスコミへ取り上げられることも多くなり、「畑人くらぶ」の知名度も大きく上がった。これらは、メンバーが独自の販売ルートを確立、販路を拡大させる一助となった。

「やんばるスパイス」の製造は、平成22年度の農林水産省「食を核とした地域活性化支援事業」を活用した。その際、事業名を「やんばる畑人はるさープロジェクト」とした。やんばるスパイスは、ターメリックをウコン、とうがらしは島とうがらし、ジンジャーは島しょうがに置き換えて種類の原料を使用した。原料の58は畑人くらぶから調達し、料理研究家からのアドバイスを基にカレー用のスパイスとして調合、23年月に完成した。

23年には、やんばるスパイスの商品化により次産業化の認定を受けたものの、宣伝・広告などの費用捻出が大きな壁となった。そこで製造を委託する会社から、「消えない商品の作り方」について助言を受ける。それは、「店舗で販売するだけではなく、地元飲食店に使ってもらうようにする」というものであった。やんばるスパイスを使ったメニューを飲食店で考案してもらえれば、その飲食店が安定した販売先になる。さらに、開発中に「地元の野菜を使いたい」という地元飲食店の要望があったことをきっかけに、補助事業が終了した23年以降も、「やんばる畑人プロジェクト」(以下「プロジェクト」という)という名称をそのまま使用し、野菜ややんばるスパイスを地元に人に買ってもらえる仕組み作りに取り組んだ。

プロジェクトへの参加の条件は、提供側としては「やんばるの食材、やんばるスパイスを使用したメニューの提供」であり、現在、ホテル、飲食店をはじめとする45社が参加して応援店となっている。生産農家20戸が加盟している。応援店の参加資格は、「既存の参加者名の推薦」が条件となっている。

やんばるスパイスが完成した当初は、特に反響もなく販売に苦労したが、プロジェクトが軌道に乗った現在は応援店にのみやんばるスパイスを販売しており、計画的な製造・販売が実現している。「地元の食材で作ったスパイスを地元で食べてほしい」と思いをこめた商品は、「地元でしか食せない」商品となった。「地元の食材を利用したメニューで人々をもてなしたい」というプロジェクトの輪は、着実に大きくなっている(写真)。



(3)カフェの運営

クックソニアの事業の中で現在、売り上げの柱となっているのが、カフェ事業である。名護アグリパーク内で運営しているCookhalなど店を営業している。カフェのCookhalメニューには、先述のとおり、畑人くらぶの生産物を利用したメニューを提供しており、農薬不使用の野菜を中心に使用した総菜などをビュッフェ形式で提供するランチメニュー「デリビュッフェ」が人気を博している。また、Cookhalでは、隣接する加工工場で製造したピクルス、野菜ドレッシングなどを購入できる(写真5、6)。





カフェでは、畑人くらぶの生産者の野菜を購入することもできる。日々品目が重ならないように入荷し、なるべくたくさんの種類の野菜を店頭に並べ、それぞれが売り切れるように工夫しているとのことだ。

6 おわりに

クックソニアの活動で特徴的な点は、県外の消費地への共同出荷収入に加え、沖縄の気候的特徴を生かしたハーブや野菜など地元産をPRすることにより、県内での販路を拡大し、畑人くらぶメンバーの収入の安定に寄与している点である。

「安定的な収入の確保」が壁となる新規就農者が多い中、畑人くらぶは勉強会の開催とクックソニアへの共同出荷により、メンバーの農業経営をしっかり支えている。今後は、共同出荷の多品目化、数量、拡大を目指し、ゴルゴ(注)などの西洋野菜や
しょうをはじめとするスパイス原料の栽培技術を確立していきたいとのことである

やんばる畑人プロジェクトでは、「やんばるに来ないと味わえない」のコンセプトの下、地元の飲食店など需要者と一体となって、集客に取り組んでいる。クックソニアのさまざまな取り組みが、担い手の確保や地域の振興を構築する関係者の参考になれば幸いである。

最後に、お忙しい中、取材にご協力いただいた農業生産法人株式会社クックソニア 代表取締役 芳野幸雄様に、この場を借りてお礼申し上げます。


注:テーブルビートとも呼ばれる根菜。紅白の年輪模様が美しいことから、根の部分を薄くスライスしてサラダで食べるのが一般的。


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