株式会社グリーンメッセージ
営業開発部営業開発課長 藤村 亮太郎
【要約】
カット野菜は、新鮮さが特徴であるが、野菜は収穫直後から品質劣化が開始している。カット野菜の品質技術は、この品質劣化スピードをいかに遅らせるかが重要である。特に、品質技術が要求される生食用カット野菜の品質向上のポイントは、「原料」「温度」「工程」の3つのコントロールが挙げられる。
1 はじめに
家庭用パッケージサラダ、業務用サラダ野菜
近年は、少子高齢化、核家族化、女性の社会進出、および単身生活者の増加などにより、食シーンが劇的に変化している(※1)。このような状況を反映して、カット野菜に対する消費者ニーズが高まっており、日本におけるカット野菜市場は拡大を続けている。カット野菜の商品バリエーションの拡大も、カット野菜市場の拡大を後押ししており、カットレタスや千切りキャベツに代表される素材型の商品から、季節限定、多品目の商品など、商品群は多岐にわたって広がりつつある。
生食用カット野菜(以下「サラダ野菜」という)は、家庭用パッケージサラダ、業務用サラダ野菜の2種類が挙げられる(写真1~3)。
キユーピーグループでは、主に小売店の店頭販売用カット野菜を製造販売する株式会社サラダクラブ(注1)(以下「サラダクラブ」という)を平成11年に設立し、家庭用パッケージサラダの製造販売を開始した。
また、フードサービス市場においても、調理現場の人手不足、天候不順などによる野菜調達の不安定さから、サラダ野菜のニーズが高まり、外食や総菜製造工場向けのフードサービス用サラダ野菜を製造販売する「株式会社グリーンメッセージ」(以下「グリーンメッセージ」という)(注2)を25年に設立し、業務用サラダ野菜の製造販売を開始した。
筆者は、13年にキユーピー株式会社(以下「キユーピー」という)に入社後、家庭用パッケージサラダの商品開発や鮮度保持のための包材の研究に取り組むとともに、その後野菜のおいしさや簡便性、機能を引き出し、野菜の魅力を消費者へ届けるために、原料や処理および流通方法の研究に従事。現在は、グリーンメッセージにて、カット野菜の営業開発に従事していることから、本稿では、これまでの研究をもとに、特にグリーンメッセージの事例を中心にカット野菜の品質技術について紹介する。
注1:キユーピーと三菱商事株式会社との共同出資会社
注2:キユーピーと全国農業協同組合連合会との共同出資会社
2 カット野菜の製造工程
カット野菜の製造は、小規模工場から大規模工場まで、また野菜産地に近い立地から消費地に近い工場まで、環境はそれぞれ異なるが、一般的な工程は図1の①~⑪のようになっており、また、過去の文献(※2)では、カット野菜の品質に影響を与えるものとして、1)~9)のまでの9因子を挙げている。ここでは、特にサラダ野菜の品質保持に影響を与えるものについて、説明する。
3 サラダ野菜の品質向上のポイント
サラダ野菜とは「野菜を食べやすい大きさにカットし、鮮度を保持するように必要に応じて包装した、洗わずにそのまま食べられるサラダ」と言い表すことができ、「カットされた野菜は生きている」ともいえるのが特徴である。品質劣化は原料野菜の収穫直後から開始しており、この劣化スピードをいかに遅くさせることができるかが、サラダ野菜の品質向上のポイントである(※3)。以下、3つのポイントについて説明する。
(1)原料コントロール
サラダ野菜という製品そのものの加工度は極めて低いため、製品の品質が原料に左右される割合が非常に高い。前述のように、原料野菜は収穫直後から品質劣化が始まっているので、鮮度の良い原料を用いることが良質な製品を製造する最も重要な要素ファクターとなる。
それゆえ、野菜生産者との密なコミュニケーションが重要となり、カット野菜の品質向上のためのポイントを生産者に理解してもらい、想いを1つにしてお客様へおいしいカット野菜をお届けしている。例えば、レタスの場合、原料収穫時やトラックに積載する際に物理的衝撃を受けると、数日後に切り口が褐変しやすいという品質劣化につながる。このような収穫時の野菜のやさしい取り扱いや低温管理、迅速な原料流通が良質なカット野菜製造に欠かせない。
このメカニズムや因果関係を、野菜生産者、流通運搬業者、サラダ野菜製造者(グリーンメッセージ)が良く理解し、想いが1つになると、品質の向上と安定化が実現される。さらには、生産者とカット野菜製造者が契約取引を拡大することで、野菜の市場価格に左右されない生産者の安定収入につながっていく。
また、主要野菜に関しては、産地から直送でカット野菜工場に運ばれ処理されるので、小売店を通じて家庭で調理される野菜と比べて収穫から加工されるまでの日数が短縮されている。産地からカット野菜工場への運搬にはさまざまな流通形態があるが、「流通過程で売れ残った野菜がカット野菜工場に回されている」などの話を耳にすることもあるが、現実は、「よい商品はよい原料」からの精神で日々鮮度のよい原料野菜を追い求めている。
(2)温度コントロール
原料野菜の最適流通温度はさまざまだが、特に細かくカットされた後の品質(微生物、風味、外観)コントロールは少なくとも10度以下の低温管理が望ましい。つまり、サラダ野菜の鮮度保持に低温管理は最も重要なポイントである。野菜は収穫直後より、生命維持のために自己栄養分の消費を開始し、鮮度劣化が始まるが、流通温度が高いとその劣化スピードは速くなる。また、低温流通させることは製品の微生物制御にもつながり、食中毒リスクも低減される。カット野菜の安全性を担保するためにも、鮮度保持するためにも温度管理は非常に重要なファクターである。
グリーンメッセージでは、工場内を冷蔵庫環境であることに加え、野菜の洗浄に使用する水を全て5度前後のチラー水(冷水)を用いることで、サラダ野菜の工場内低温管理を実現している。また、原料野菜入庫時に屋内荷卸場(図2)を活用することにより、外気が高温になる夏場の原料野菜の温度変化を最低限に抑えている。
このように、生産者が、丹精込めて栽培・収穫し、コールドチェーンを切らさず運んだ野菜を、大事に扱いカット野菜を製造することが、想いを1つにしている一例である。
(3)工程コントロール
サラダ野菜のように、加熱せずに加工された状態で流通、消費される製品においては、その安全性を確保するためには、病原性微生物などの汚染防止に重点をおいた対策が必要である(※4)。
ア 殺菌工程
サラダ野菜を製造する際の殺菌工程は、微生物を完全に除去するわけではない。次亜塩素酸ナトリウムなどに代表される薬液の濃度が濃すぎると野菜の細胞に対してダメージを与えてしまい、逆に、野菜の品質劣化が進むと同時に、野菜自体の生命力が劣化し、微生物増殖スピードが上がってしまう。つまり、適度な濃度・時間で殺菌することが重要であり、殺菌工程だけでなく、カット野菜工場全体での衛生管理により、二次汚染をいかに防ぐかがポイントとなる。
イ カットする刃のメンテナンスやカット方法
カット工程においては、鋭利な刃でカットし、野菜の細胞に与えるダメージを最小限に抑えることがポイントとなる。カットする刃のメンテナンスを怠ると、野菜のあく汁などの有機物が刃の先端に付着し、カット面が鋭利でなくなる(写真4)。
カットレタスの場合、鋭利な刃物でカットした製品と比較して、鋭利でない刃物でカットした製品では、10度で4日間保存した後にレタスが変色しやすく、変色評価の評点で1.0ポイント(5点法)の差が表れる(図3)。
ウ 包装工程
包装工程においては、外部からの汚染防止はもちろんのこと、野菜の呼吸を抑制して、できるだけエネルギー消耗を抑えることができるかが、野菜の鮮度保持に重要である(※5)。包装の工夫の一例として、小さな孔を高精度に開ける方法やフィルム上に貫通しない傷を付けることでガス透過量をコントロールする技術があるが、いずれも主に酸素透過性に着目している(※6)。
酸素透過性が高過ぎると、酸素により野菜が変色(褐変)しやすくなり、酸素透過性が低過ぎると、嫌気呼吸により袋内のにおいの発生リスクが上がる。野菜ごとに呼吸量は違い、また、カットサイズによっても呼吸量は変わってくるので、サラダの配合によりフィルムの酸素透過性を選定することが、サラダ野菜の品質向上につながる。
4 工場全体での衛生管理
グリーンメッセージでは工場全体での衛生管理を徹底し、さらに上述の原料コントロール、温度コントロールを実現しているため、サラダ野菜の殺菌工程は、安全性を担保できる必要最低限の殺菌条件で施している。これにより、品質の安定性に加え、従来製品より、野菜本来の味、香り、色が際立つカット野菜の製造が実現できている(写真5)。
「最新のカット機械を使う=品質が良くなる」ではなく、正しい運用・抜けのない日々のメンテナスなどをしっかり実行することが工程コントロールの基本となり、カット野菜の品質向上につながっていく。ここまで、特にサラダ野菜工場での工程の一部を紹介したが、各工程の意味を理解した上で、野菜の気持ちになり、野菜にやさしい取り扱いをすることが、カット野菜の品質向上のポイントである。
5 おわりに
社会環境の変化により、カット野菜市場が拡大していることは、簡便性に加え、カット野菜に対する安心感がお客様に徐々にではあるが、浸透しつつあると考えられる。さらには、上述のような技術の進化もあり、サラダ野菜の安全・安心だけでなく、日持ち性や風味も向上されたことが、サラダ野菜のリピーターの増加につながり、市場の急拡大にも貢献していると考えられる。一昔前までは「カット野菜は臭い」というイメージがあったと思うが、今の商品では、ほとんど見受けられない。このように、カット野菜に対する安全・安心は当たり前になりつつあり、さらなる品質(おいしさ、日持ち、使いやすさなど)向上のニーズはますます高くなるだろう。
外食店舗やセントラルキッチン、中食総菜製造工場での人手不足が問題となっており、この問題は解決されるどころか、ますます深刻になっていくと予測される。グリーンメッセージでは、増産や将来の新工場展開により業務用サラダ野菜の拡大を通じて、このような社会情勢に貢献していきたい。
また、野菜は、外葉や芯、へたなどがあることで、歩留り(原料を100%としたときに製品に使用される比率)は、おおよそ50~60%であり、野菜の未利用部位は多い。家庭や中食工場、外食などで排出される野菜の未利用部位をサラダ野菜工場で集約することで、そこから新しい野菜の価値を見いだせる可能性がある。サラダ野菜工場だからこそ実現できる、野菜資源を無駄にせず価値に変える取り組みも追求していきたい。
今後も、サラダ野菜の品質技術を磨き上げ、生産者、流通業者などとの双方向のコミュニケーションにより、想いの通じたサプライチェーンを築き、お客様に野菜のおいしさ、楽しさを届けていきたい。
参考・引用文献
(※1)澤田清春「カット野菜の需要動向と未来展望」食品包装、2006年11月号
(※2)大田英明「青果物・花き鮮度管理ハンドブック(カット野菜・果実の鮮度保持)」サイエンスフォーラム 1991年
(※3)藤村亮太郎「食品安全ハンドブック(27.17生鮮食品(サラダ用カット野菜)」丸善㈱、2010年
(※4)農林水産省消費・安全局「食品安全のためのGAP」策定・普及マニュアル(初版)2005年
(※5)住友ベークライト㈱「カット野菜の鮮度保持包装の実際」、カット野菜実務ハンドブック2002年
(※6)藤村亮太郎「包材の水蒸気透過度によるパッケージサラダの保存性」、日本包装学会第16回年次大会 2007年