野菜需給部
【要約】
野菜需給協議会(座長:中村靖彦、事務局:野菜需給部)は、平成28年2月12日(金)、会員(マスコミ、生産者団体、消費者団体、流通・小売団体など)を対象に、野菜の生産現場への理解をさらに深めるため、神奈川県農業技術センターや、三浦市農業協同組合などにおいて意見交換会やほ場の視察などを内容とする現地協議会を開催した。
神奈川県農業技術センター三浦半島地区事務所(以下「三浦半島地区事務所」という)において、担当者から概況の説明の後に、意見交換やほ場の視察を行った(写真1、2)。
三浦半島地区事務所は、全国有数の野菜産地である三浦市に、公的な試験研究機関が必要との地元の農家から要請を受け、昭和30年に設立された。これまで、キャベツやだいこんなどの露地野菜を中心に高品質安定生産技術の開発に取り組んでいる。
過去には、寒玉キャベツの生産も行われていたが、関東では柔らかいキャベツが好まれる傾向にあることから、昭和40年に春キャベツを導入した。農家などからの受けもよく、約50年間栽培され続けて三浦のブランドとして確立している。春どりキャベツについては、抽苔(注1)の予測モデルを開発し、温暖化の影響評価を実施した。
注1:一定の大きさに達した苗が低温にあうと茎の成長点に花芽ができ、それ以降、葉の成長が止まり春先になると花をつけてしまう現象。「とう立ち」ともいう。
三浦の農業は、歴史的に限られた農地からいかに高い所得を上げるかということに取り組んできた。当地のだいこんの場合は密植栽培されており、他の産地でこのような密植を見ることはできない。品種も密植に適したものということで、葉が横に広がらず縦に伸びるのが特徴である(写真3)。
最近、地域内のだいこんに黒斑細菌病が発生している。これは、雨の多い年に多く発生する傾向があり、降雨により細菌が葉の内部に侵入することが原因である。外観からは病気にかかっているかどうか分からず購入後に消費者が切ってみて判明し、返品などを招くこともある。
また、収穫後のだいこんの内部が青色に変色する青変症という生理障害が発生することがある。これは、収穫後の流通過程で20度前後の環境にさらされると発生する。この青色は、従来、アントシアニンによるものでないかといわれていたが、最近の研究によって、その原因がインドール型グルコシノレート(いわゆる「辛味成分」)を前駆物質とするものであることが判明した。
ネグサレセンチュウ対策として、マリーゴールドを緑肥に利用することを進めていたが、花の部分にオオタバコガが好んで来ることが分かったので、昨年、5月から7月の栽培期間に花が咲かないエバーグリーン(マリーゴールドの1品種)による線虫の防除効果試験を行ったところ、線虫密度が減少し、後作のだいこんの線虫被害度を低く抑えることに成功した。
なお、今季は、だいこんの成長が半月から1カ月程度前進したことで、出荷数量が増加し価格が低迷している。出荷調整もしているが、農家は豊作貧乏の状態となっている。
だいこん、キャベツの後作として夏場に農家が収入を確保できる作物がないかということで、種なしすいか、パプリカ、ザーサイや青パパイヤなどの試験研究を実施している。
パプリカは輸入の割合が9割で、特に韓国が国を挙げて施設整備を行い、日本をターゲットに輸出していることから、国産では太刀打ちできない状況にあるが、試験場として国産の割合を高める取り組みを実施している。
すいかは、大玉から小玉がブームになっていたが、コンビニエンスストアなどでカットやダイスの形状にして容器に入れ販売されることが多くなり、最近は大玉が見直されている。
カット用に大玉の種なしすいかが有望でないかと考えているが、種なしにするには部分不活化花粉を用い、受粉後に花を結束しなければならず、作業負担が大きいことから、種が気にならないほどに種が小さい、「マイクロシード」というタイプの品種の栽培試験に取り組んでいる。
◦ 農家にとって生産することにメリットがある農産物を選定していくことが必要で、将来を考えると、戦略的な農産物選定が必要と考える。
◦ 天候の状況に応じて、収穫を行わないなど計画的な出荷への対応は可能か。
◦ 今年の暖冬により、キャベツの抽苔の影響はあるか。
◦ 管内の野菜の仕向け先としては、市場向け、加工業者向け及び輸出向けが考えられるが、その割合はどれくらいか。
などの意見や質問があった。担当者からは、農産物の出荷先は、冬のだいこんやキャベツでは市場向けの出荷が多く、市場から先の販売先は不明だが、だいこんは半分程度が加工向けに回っているもようであるなどと回答があった。
三浦市農業協同組合(以下「三浦市農協」という)において、全国農業協同組合連合会神奈川県本部および三浦市農協の担当者から、取り組み状況などについての説明後、意見交換やほ場の視察を行った(写真4、5)。その内容は以下のとおりである。
三浦市の農家数および農業就業人口について、全国平均を比較したところ、三浦市は、農家数に占める専業農家の割合が高く、農業就業人口も若い世代が多い(表1、表2)。三浦市は、耕地面積の99.2%が畑で水田は0.5%にすぎず、畑作に特化した農業地帯である。
大正14年に「三浦だいこん」と命名され生産してきたが、昭和54年10月の台風により大きな被害を受け、被害後に定植した青首だいこんの出来が非常に良かったことから、青首だいこんが急速に拡大した。
現在では、三浦だいこんは全生産量の1%程度で、正月食材として、年末(12月26日~28日)を中心に出荷している。三浦だいこんは、重さが3キログラム位で、長さが50センチ程度、中央部がやや太めの大型で、首の部分まで白いことが特徴である(写真6)。
一方、青首だいこんは、三浦だいこんに比べやや小ぶりで、日の当たる首の部分が緑葉体の一種が酸化して緑色に変色する(写真7)。
都心の大消費地に1時間程度で輸送できる立地を生かし、鮮度を武器にしている。一般に野菜は収穫後、保冷施設に入れて冷やすが、三浦市では収穫して直ぐに出荷することで、保冷施設を不要とし、コストダウンを図っている。ただし、日々の収穫の終了時間が早まることから農家の負担が大きくなるという問題も発生しているとのことである。
1人当たりの耕地面積は1.4ヘクタール、土地改良事業があまり入っていないため、ほ場は狭くて不整形なものが多い。こうしたほ場でいかに所得向上につなげるかを考え続けてきた結果、あみ出されたのが三浦地区独特の「間作」や「作おとし」という作付方法である。
だいこんの収穫後にキャベツを定植した場合、出荷は5月にズレ込む。間作は、だいこんのうねの間にキャベツを植え、だいこんの収穫終了後、連続してキャベツの収穫を行うものである。これにより、価格が高くなる4月の出荷を可能としている(図1、写真8)。
また、だいこんとだいこんの間にキャベツを植えないところを作おとしと呼び、だいこんの収穫後、4月から5月のキャベツの収穫前に作おとしの部分に小型トンネルを作って、次のすいかを植え、キャベツの収穫が終わったらすいかがつるを伸ばせるようにするという作付方法を行っている(図1、写真9)。
三浦地区も高齢化により離農する農家も存在しているが、親戚などが農地を引き受けて耕作放棄地になることは少ない。3年ほど前から台湾にだいこんとキャベツを輸出している。台湾は検疫が厳しく、検疫で輸出がストップすると損害が大きいことから、検疫のハードルが比較的低い輸出先の開拓が必要と考えている。
・ 日頃、店で並んでいる野菜を買うだけでは分からなかったが、現地を視察することにより、産地における品種選定などのさまざまな努力が分かり、このようなことを広めていくことが重要と考えている。
・ 今後の高齢化を考えると、コンパクトにして運びやすくすることが必要である。
・ 三浦だいこんは、大きくて扱いにくいが、地域ならではの戦略を立てた販売促進を行って、個々の農家の努力が報われるようにしてほしい。
・ 後継者不足や耕作放棄地は、全国的な問題であるが、三浦市の農業の担い手の状況はどうなっているのか。
・ 野菜の輸出については、農林水産省などが事務の手続きの簡素化など後押している現状の中、今後どのように考えているのか。
・ 消費者からはレシピの要望が多い。特に、日本食には欠かせないだいこんとキャベツは、家族が少なくなった現在、ホールのものは食べきれないという意見もあり、切り干しだいこんなど加工品のレシピの掲載なども考えてほしい。
・ 後継者の問題を考えるとき、6次産業化による加工品の製造も考えていただきたい。それによって、生産量も増え後継者も増えると考える。
などの意見、要望があった。農協からは、輸出については、今後も取り組んでいく考えであった。また、だいこんの加工品として、「切り干し大根」や「割干し大根」を直売所や川崎市内の学校給食に販売しているが(写真10)、販売量は少ないので、今後はアピールをして、農協の収入アップにつなげていきたいと考えているという回答があった。
地域で生産された食材を地域で消費する「地産地消」を発信するアンテナショップとして平成23年6月にオープンした農産物直売所「すかなごっそ」を視察した。同店は、総敷地面積7043平方メートル、建屋面積798平方メートルを有し、よこすか葉山農業協同組合によって運営され、同組合や三浦市農協の組合員約400名が生産した自慢の野菜などが販売されている(写真11~13)。
なお、「すかなごっそ」とは、よこすかの大地で育てられた、新鮮野菜のごちそうを味わって欲しいという想いから生まれた造語である。
市場出荷以外の販売である産地直売所の状況などを視察できたこと、参加者と現地関係者とで活発な意見交換ができたことなど、有意義な現地協議会となった。