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調査・報告(野菜情報 2016年4月号)


北海道におけるねぎの道外出荷の取り組み~新函館農業協同組合を事例に~

札幌事務所 所長補佐 坂上 大樹


【要約】

JA新はこだては、ねぎの出荷量のうち7~8割を道外向けに出荷している。3月26日の北海道新幹線開業を契機として、道外への売り込みをさらに強化するとともに、特産品としての認知度向上に努めている。

1 はじめに

今年3月26日に北海道新幹線が開業を迎える(写真1)。その新幹線が走るしま地域と江戸時代から明治時代にかけて北前船交易の舞台となったやま地域は、北海道南部に位置し、北海道の中では比較的温暖な気候に恵まれ、雪も少ないことから、当該地域の2市12町を管内とする新函館農業協同組合(以下「JA新はこだて」という)では、年間を通じて多様な種類の野菜が生産、出荷されている(図1、図2)。







本稿では、JA新はこだてが出荷する野菜の中で、道外向け出荷が約7~8割を占めるねぎに焦点を当て、そのうち、道内のねぎ生産量上位を占める北斗市の取り組みを紹介する。

2 JA新はこだてにおけるねぎ生産

(1)産地形成の経緯

北斗市は、「北海道水田発祥の地」とされ、古くから稲作を中心とした農業が基幹産業として発展してきた。しかし、昭和40年代以降、厳しい産地間の販売競争、米価低迷、米消費の減退などに直面し、本格的な生産調整が開始されたことを受け、1戸当たりの経営面積が4ヘクタールと北海道平均と比べ零細経営であったことから、小規模でも収益性のある野菜の導入が広まった。

当初、稲作との複合経営が中心であったことから、稲作との作業競合を回避するために北海道で最も早く施設園芸が導入され、春はくさいや冬春トマトの産地形成が進められた。しかし、ぶり地域や石狩地域など道内の他の地域でも同様の取り組みが普及、拡大したことにより競合が進み、次第に春はくさいや冬春トマトの収益性が低下し、50年代後半からは、それに代わる品目として、ねぎの生産に転換していくこととなる。ねぎは、周年安定した需要がありながら道内での生産量が少なく高い収益性が見込める作物であり、また、転作作物の中で比較的早く機械化が進んだ品目であったことから、野菜主体の経営に切り替えて夏場に露地栽培を行う生産者も徐々に増え始めた。同市の26年の生産量は3130トンとなっている(図3)。



(2)産地の特徴

北斗市は、北海道の夏期の冷涼な気象条件を生かして、本州の主産地の端境期である夏場の供給産地となっている。その他、道外産地から道内市場への入荷量が減少する6月から7月の時期において、ビニールハウス利用による促成栽培(早出し出荷)やわずかではあるが軟白ねぎの生産も行われている。

ねぎについては、生産量の大半を占める8月から11月までは道外出荷が約9割でとなっており、他の葉物野菜と比べ日持ち(棚持ち)性に優れ、長距離輸送に耐えられることがこれを可能としている(図4)。



一方で、早出し出荷や軟白ねぎは道内出荷が主となる。その理由は、道内市場の入荷量不足を補う役割が極めて大きいことなどが挙げられる。

出荷は、「函館育ち」というブランドで統一されている。「函館育ち」は、広域合併前の平成8年に函館市周辺の8JAが共同で立ち上げたもので、各JAがこれまで独自の名称で出荷してきた農産物を「函館育ち」に統一して出荷規格も統一することで、産地の認知度を高めていくと同時に、品質の向上、販売力の強化などを図る狙いがあったという。なお、ねぎのほかに、米やトマト、きゅうりなどさまざまな品目が「函館育ち」として出荷されている(写真2)。



(3)販売の特徴

ねぎは、ほとんどを卸売市場に出荷しており、北斗市の場合、地域別で見ると、近畿への出荷割合が最も多く、次いで関東、東海の順となっている(図5)。



JA新はこだての道外出荷は、特定の圏内に特化するのでなく、大消費地である関東、近畿、東海の地域に分散しているのが特徴である。当該圏内の出荷先の確保は、春はくさいや冬トマトを出荷をしていた当時から取引があった既存の取引先を通じて販売促進を図ってきた結果である。

その中で特徴的な動きとしては、10年前と比べ、大阪中央卸売市場の入荷量に占める割合がピーク時には約20ポイント増え、30%台後半から40%台に達していることである(図6)。



この10年間の伸びは、平成13年4月に発動されたねぎに対するセーフガード暫定措置の影響から中国産ねぎの市場入荷量が大幅に減少したとき、既存の取引先からの代替需要に対応したことが契機となった。JA新はこだては、国内の代替産地からの調達を模索していた市場関係者の需要に応えるべく全国各地の主要市場に分散して出荷したというが、特に、供給力の迅速性、安定性などに対する近畿の取引先からの評価が高かったという。これにより、近畿の既存の取引先との信頼関係がさらに醸成され、また、新たな取引先の開拓にもつながった。

その後は、18年のポジティブリスト制度の施行や20年1月に明るみになった中国製冷凍ギョーザ中毒事件などによる中国産シェアの減少に伴って、市場占有率を順調に伸ばしていった。

JA新はこだての担当者は、「農業従事者の高齢化、担い手不足などにより、生産量そのものが減少局面にあったことに加え、市場を通さない実需者との直接販売や契約取引を求める動きを強めている近畿やその近郊産地と比べ、我々に対する市場関係者からの信頼性が相対的に高まっていると感じる」とし、「今後も市場ニーズに的確に応えていくためにも、生産量をしっかりと維持していきたい」と語る。

近畿からの引き合いの強さは、当該地域の消費構造の変化も影響している。近畿では、青ねぎが好まれると言われているが、大阪中央卸売市場におけるねぎの入荷量の推移を見ると(図7)、青ねぎは減少傾向にあるのに対し、白ねぎは年々増加傾向にある。また、近畿のねぎの1人当たりの年間購入量を見ると、年によりばらつきはあるものの、おおむね増加傾向で推移しており、家計での消費が伸びてきている。



市場関係者によると、その要因として、景気回復が足踏み状況となっていることなどを背景とした節約志向の高まりによる内食回帰の動きが挙げられるという。かつて秋冬の定番料理であった鍋料理は、簡単に調理できる手軽さなどが支持されて通年で食べられるようになり、さらにこれを受けて食品メーカ-側が独自性の高い商品開発を進め、多種多様な鍋つゆがスーパーなどの店頭に並ぶようになったことなどから、年代や家族構成を問わず鍋料理が食卓に上る頻度が増えているという。これにより、鍋料理の食材の代表格ともいえる白ねぎの需要が伸びているのだという。

このような状況下において、JA新はこだてのねぎは、おいしさや品質はもとより、供給量の安定性に関して近畿の卸売市場から高い評価を得ている。

(4)個選共販の仕組み

JA新はこだては、各地域の卸売市場が求める品質および数量を安定的に出荷することを最も重視している。それを支えるのが個選共販の仕組みである(写真3)。



北斗市におけるねぎの共販率は8割以上と極めて高い。北斗市では、昭和50年の函館市中央卸売市場開設に伴い、当該市場での市場競争力の強化などを図る目的で生産者の自主的な共販組織が発足したのがその始まりである。その後は、JAによる全面的な支援、指導などにより参加戸数を着実に増やしながら共販率を伸ばしていったという。

これにより、計画的、安定的、継続的な出荷が可能となり、また、ロットが必然的に大型化したことにより輸送コストの節約効果も得られた。

他方、個々の生産者の規格や品質にばらつきがあると、そのスケールメリットを生かすことが難しくなることから、生産部会では、出荷されるねぎの品質の確保を図る取り組みの一つとして、定期的に目合わせ会を実施している。目合わせ会では、出荷規格と出荷する現物を照らし合わせながら、調製方法や選別基準の再確認および周知徹底を図ることで、規格や品質の平準化を図っている。それと同時に、病虫害の発生状況に関する意見交換を行い、栽培管理方針などについて意思統一を図っている。

個選共販は、調製、選別、箱詰め作業に多くの労働力を必要とする。これについてJA新はこだての担当者は「この地域のねぎ生産者の労働力は、何とか確保できている状況である」と語る。

また、「共選であれば施設維持に係る手数料や固定費などの経費を考慮しなければならないが、個選ではそれが不要である。そのため、輸送コストが上昇している中においても生産者の手取りを十分に確保できる公算がある」といい、近畿におけるさらなる市場占有率拡大に意欲を示した。

(5)品質向上に向けた取り組み

管内のねぎ生産は、連作障害が大きな課題となっている。近年は異常気象により高温や集中豪雨に見舞われるなどの影響で連作障害の1つである萎ちょう病や軟腐病の発生も目立つようになってきた。そのため、生産部会の有志が集まり、プロジェクトを立ち上げ、地元の農業改良普及センター、試験場などと連携して連作障害対策に取り組んでいる。

北斗市野菜生産出荷組合ねぎ部会長の外山正彦氏は、そのプロジェクトの一員として防除技術の習得と技術向上を目的とした講習会を定期的に開催するとともに、連作障害を回避する新技術や新品種を積極的に取り入れ、品質や生産性の向上に努めている(写真4)。こうした工夫により、外山氏の10アール当たりの収量は、JAが定める目標収量(3トン)を大きく上回る4トンに達する。



道外に出荷する場合、函館港から青森県の大間港まで海上輸送した後、大間港から最終目的地までトラックで輸送しているため、近畿圏の場合は、JAの集荷場を出発してから店頭に並ぶまで最短でも3日かかるという。品質と鮮度を保つためには、生産者が実施する調製、選別、箱詰めなどの作業工程においても丁寧さと効率性の追求が欠かせない。

外山氏は、「その実現のためには、収穫期を揃えることから始めなければならない」と語り、「収穫適期の見極めには、は種日、定植日はもとより、防除や追肥の作業内容や生育状況などを作業日誌に詳細に記録することが何よりも重要であり、これによって収穫時期や収穫量を微調整することも可能となる」と、記録管理の重要性を強調する。

また、管内でトップクラスの収量を上げる春山直樹氏は、「一見しただけでは分からないようなわずかな病虫害、傷害でも輸送中に悪化する場合がある。共販による出荷は、個々のそういったわずかな見逃しが大きなクレームにつながってしまうこともあり、結果、地域全体の生産者に迷惑をかけることになる」といい、「品質管理に対して高い意識をもってもらうためには、生産者のみならず、選別作業に従事する家族やパート従業員にも教育や情報共有の機会を与えることが有効である」と語る(写真5)。春山氏は、講習会や学習会などで得た知識や情報をミーティングを通じてスタッフ全員に伝達し、生産現場での品質に関する意識と知識の向上を図っている。



3 おわりに

JA新はこだてのねぎを含む多くの野菜は、これまでわが国のリレー出荷体制を支える確固たる地位を確立し、「消費者に届ける」役割を果たしてきたが、北海道新幹線開業と相まって、「地域活性化」にも一役買うことが期待されている。

北海道新幹線の終着駅「函館北斗駅」から車で10分ほどの場所にあるJA新はこだてが運営するファーマーズマーケット「あぐりへい屋」は、新たな観光資源としての活用が期待されている。同店は、14市町を管内とする広域JAの強みを生かし、産地内でのリレー出荷(栽培)により、年間を通じて農産物の品揃えが豊富で、地元野菜を使った総菜や加工品なども取り揃えており、北斗市の中でも特に集客力の高い店舗である。その店内のイートインコーナーで提供される料理は、具材やトッピングの材料としてねぎが多く使用されており、中でも定番人気の「あぐり焼肉丼」は、柔らかな食感とほんのりとした甘みが特徴のJA新はこだて産ねぎと甘辛に味付けされた北斗市産牛肉との相性が抜群の1品である。

北斗市は、同店を組み入れた観光周遊ルートを形成するなどによって、道内外の消費者に同市の食の豊富さと魅力を広く情報発信し、観光誘客に取り組むと同時に、道南野菜の認知度向上と需要拡大につなげていきたい考えだ。

北海道中小企業家同友会函館支部の研究会メンバーが考案した「ハコダテライス」は、かぼちゃなどで色づけされたパエリア風のご飯に焼き野菜などを添えたもので、JA新はこだて管内で採れた旬の野菜がふんだんに使われており、現在、函館市にある老舗レストランで提供されている。今後、函館市やその周辺地域の新たなご当地グルメの普及・定着を目指し、レシピを公開して提供する飲食店を順次増やしていく計画である。

ハコダテライスを名乗るには、地元産の野菜を5種類以上使用するなどの要件を満たす必要があるため、名産品としてのねぎの認知度も高まることが期待される。

本稿で紹介した事例が、他の産地での生産振興およびJA新はこだてのさらなる産地発展の一助になれば幸いです。

最後に、今回の取材にご協力いただいた新函館農業協同組合および管内の生産者の皆さま並びにホクレン農業協同組合連合会の皆さまに、改めて御礼申し上げます。


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