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調査・報告(野菜情報 2016年1月号)


日々の生活を彩る加工・業務用野菜の国内生産をバックアップ
~産地における「加工・業務用野菜生産基盤強化事業」の取り組み~
(前編)

野菜需給部


【概要】

 カット野菜や冷凍野菜をはじめとする加工・業務用野菜は、一般家庭にも広く普及・浸透し、需要は年々増加傾向を示している。加工事業者などの実需者における国産野菜のニーズは高いものの、価格面での優位性や安定した数量の確保を背景に、加工・業務用野菜に占める輸入品の割合は約3割となっており、家計消費用野菜に比べて高い水準となっている。
 そのような中、加工・業務用の国産野菜の安定的な供給の確保を目的に、平成26年度より「加工・業務用野菜生産基盤強化事業」が展開されている。全国各地の産地における実際の取り組み状況を通じて、国産加工・業務用野菜のさらなる普及・浸透と今後の方向性について検討する。
 本稿では、前編として事業の概要と、事業を活用して加工・業務用野菜の生産に取り組む3事例のうち、ふらの農業協同組合(たまねぎ)の取り組みを紹介する。

1 はじめに

 ~加工・業務用野菜の現況~

 一般世帯における家族類型別構成割合を見ると、夫婦と子の世帯が大きく減少する一方、単身世帯は大きく増加し、この傾向は今後も続くと見込まれている(図1)。こうした動きは、自宅で調理する「内食」から、総菜などを購入して食する「中食」や、多様化する「外食」へのシフトとして現れており(図2、3)、わが国における「食の外部化」や「簡便化」の志向は、今後も着実に深化していくものと考えられる。

 食の変化は、野菜需要にも影響しており、カップサラダやカット野菜、冷凍食品などの加工調理済野菜は、単身世帯だけでなく、共稼ぎ世帯や高齢世帯まで、一般家庭に広く普及・浸透し、野菜需要に占める加工・業務用の割合は増加傾向にある。農林水産省農林水産政策研究所の調べ(22年度)によると、指定野菜13品目(ばれいしょを除く)においても加工・業務用向けの割合が5割を超えるものが8品目と多い状態となっている。

 野菜需要における国産品と輸入品のシェアを比べて見ると、家計消費用向けではほぼ全量を国産で賄っているのに対し、加工・業務用向けでは、輸入品が2年度の約1割から22年度には約3割までシェアを拡大している(図4)。

 農林水産省の調査によると、消費者の安全・安心志向を背景に、実需者の加工・業務用野菜における国産品の利用ニーズは、高く、国産野菜を利用したいとする者が有効回答数の7割弱を占めている(図5)。

2 加工・業務用野菜生産基盤強化事業とは?

 ~753事業の概要~

 このように加工・業務用野菜においては、国産品に対する潜在的ニーズが高く、安定供給体制の整備を求める声が高まる中、国内の加工・業務用野菜市場における輸入野菜からのシェア奪還に向け、加工・業務用向けへの転換や、異常気象や連作障害に対処し、安定的に供給できる作柄安定技術の導入が、喫緊の課題となっている。

 そこで、農林水産省は、加工・業務用野菜生産者の経営安定と所得確保に資するとともに、消費者に対する国産野菜の安定的な供給の確保を目的として、加工・業務用野菜への転換を推進する産地に対し、加工・業務用野菜の安定生産に必要な作柄安定技術の導入を支援するため、平成25年度補正予算より新たに「加工・業務用野菜生産基盤強化事業」を立ち上げた。本事業は3年間の助成単価から「753事業」と呼ばれており、当機構が事業の公募や採択などをはじめとした事業の執行管理全般を担当している。本稿でも以下「753事業」と呼ぶこととする。

 753事業は、加工・業務用野菜におけるシェア奪還を目指し、「野菜の生産数量の増加」という政策目標の下で、対象となる野菜として、当初(26年度)は5品目(キャベツ、たまねぎ、にんじん、ねぎ、ほうれんそう)でスタートし、27年度に2品目(かぼちゃ、レタス)が追加され、さらに28年度に2品目(えだまめ、スイートコーン)が追加される予定となっている。加工・業務用野菜への転換を推進する産地において、安定生産・安定供給に必要な土壌・土層改良、被覆資材の使用などの作柄安定技術の導入に関する取り組みを実施したほ場に対し、3年間にわたり面積払の補助金を交付するものである(助成単価:10アール当たり:7万円(1年目)、5万円(2年目)、3万円(3年目))。

 753事業の採択は、機構内部に設置される審査委員会を経て決定されるが、予算枠を超える応募があった場合は、応募要件を満たした申請案件ごとに加工・業務用野菜生産基盤強化推進事業公募要領(以下「公募要領」という)に基づいて、事業対象面積や成果目標などを点数化し、ポイントの高い順に採択される仕組みとなっている。

 表1と図6は、これまで2回の採択結果をまとめたものである。①品目別ではキャベツとたまねぎで全体の7割を占め、②地域別では九州地方と北海道で全体の6割を超える状況となっており、特に九州地方では他地域よりも多い5品目が採択されている。また、採択上のポイント計算に有利になることも手伝って、③面積規模では、30ヘクタール以上が4割弱を占めるなど、事業の規模要件を大きく上回る事業参加者も多く、加工・業務用野菜生産に対する積極性がうかがえる。④成果目標では「契約取引数量の増加」が、⑤契約方式では「数量契約」が過半を占めており、実需者側が定時定量出荷を重視している状況が採択結果からも確認できる。

 これらの結果から、753事業参加者の採択実績であるものの、実需者側のニーズに応え、753事業を活用して意欲的に加工・業務用野菜の生産に取り組もうとする産地の姿勢がうかがえる。

 現状においては、事業参加者のいない地域が一部見られるものの、28年度で事業開始から3年目を迎え、国内の野菜産地や実需者などの関係者に事業が浸透しつつあることや、新たにえだまめとスイートコーンが対象品目に追加されることにより、一層高い事業効果と野菜事業関係者の事業参加への意欲が高まることが期待されている。生産者だけでなく、加工業者をはじめとした実需者、中間事業者などにおいても、当機構ホームページに掲載される公募要領を熟読いただき、753事業の積極的な活用を検討していただきたい。

3 加工・業務用野菜の生産拡大に取り組む国内産地

 ~753事業の活用~

 次に、平成26年度に採択され、753事業を活用して、加工・業務用野菜の生産拡大に向けて積極的に取り組む事業実施主体の中から次の3事例を取り上げ、組織の概要や事業の状況、加工・業務用野菜の生産現況について紹介する(図7、表2)。

(1) ふらの農業協同組合

(北海道:たまねぎ)

ア 事業実施主体の概要

 北海道の中央・上川管内の南部に位置する富良野地域(富良野市、中富良野町、上富良野町、南富良野町、占冠しむかっぷ村)は、野菜をはじめ様々な品目が生産される食料生産地として、道内外に広く知れ渡っている。

 ふらの農業協同組合(以下「JAふらの」という)は同地域を事業地域とする広域農協で、2万2180ヘクタール(26年度)の農用地を有している。作物別の販売金額を見ると、野菜が過半を占め、次いで畜産、麦類・雑穀、米、ビートの順となっている。この他に野菜をはじめとした農畜産物の加工・直販も手掛けているなど、多角的経営を展開する農業協同組合である。特にたまねぎ生産は、JAふらのの総販売額304億円の4分の1を占め(図8)、全国トップのたまねぎ生産量を有する北海道のJAの中でも第2位の出荷量を誇っている。

 また、JAふらのでは、ECO(エコ)フードの取り組み(注2)やISO9001の運用強化など、実需者や消費者などにおける食の安全と食に対する信頼の確保に応えるべく供給体制の整備を進めるとともに、選果、貯蔵、鮮度保持施設を生かした生産から流通までの一貫体制の整備、加工品を含めた多種多様な農産物の生産供給を行っている(写真1)。

注2 JAふらのでは、環境(ECOlogy)に配慮した安全・安心な農産物の生産を目指し、農薬・化学肥料の低減に努めた環境に負担の少ない農業を展開している。また、独自の栽培基準を設定し、特徴あるクリーンな産地づくりに取り組み、持続的な農業を目指しており、管内で生産する全ての農産物で、栽培履歴を記帳し、必要に応じて情報公開も行っている。

イ 753事業の活用

(ア)事業参加の背景

 JAふらのは、26年度より、たまねぎを対象品目として事業に参加しているが、参加背景のひとつに、加工・業務用向けの生産減少がある。

 JAふらの管内では、米の生産調整が始まった昭和45年頃から、水田の転作作物として、たまねぎが積極的に栽培されるようになった。しかし、平成13年のたまねぎ価格低落による産地廃棄を契機に、JAふらのでは再生産価格確保を目指して、全道的な取り組みである加工・業務用向け対策に参加し、加工・業務用向け生産の拡大を積極的に推進してきた。しかし、近年、平年作を下回る年が多かったことから、加工・業務用向けに十分な供給が難しくなるとともに、輸入品との価格競争から加工・業務用向け価格が抑えられ、加工・業務用向け価格と家計消費用向け価格との間に大きな格差が生じる状況が続いたことから、加工・業務用向け対策に参加していない取扱業者(商系企業)が加工・業務用向け対策に参加している生産者から家計消費用向けに買い取りを行った結果、加工・業務用向けの作付が減少し、系統集荷率も徐々に落ち込み始めた。このため、実需者の加工・業務用向けたまねぎの増産要望に応えるとともに、系統集荷率の回復を目指して18年から加工・業務用専用品種の生産を進めたが、当初見込まれたほどの収入が確保されなかったことから作付けが回復するまでには至らなかった。

 このような状況を踏まえ、JAふらのでは、風味や品質を実需者や消費者の求める水準にまで向上させるさまざまな技術開発に取り組むとともに、灌漑・排水設備の整備などに積極的に取り組み、近年の気候変動への対応力を高めるなどして、安定出荷の基盤を整えてきた。18年秋には、CA冷蔵貯蔵施設(注3)(写真2)を新設することにより、長期保存が難しかった加工・業務用向けたまねぎを、9月上旬から翌年6月下旬までの間、より鮮度の高い状態で、安定的かつ継続的に全国の市場や量販店などに出荷できる体制を整えるなど、供給力の向上に努めている。

注3 庫内の酸素、窒素、二酸化炭素濃度を調整し、貯蔵される野菜等の呼吸を抑制することで鮮度の低下を抑え、長期的に新鮮な状態を持続させながら保存が可能となる冷蔵保管施設(Controlled Atomos-phere:空気調整)。JAふらのでは、CA冷蔵貯蔵庫7室(収容能力6720トン)を活用することで、実需者からの要望が強い安定供給ニーズに応えている。

(イ)産地における取り組み

 JAふらのでは、家計消費用向け生産における収入を見据えて、加工・業務用向け生産での収入確保に取り組んでいる。具体的には加工・業務用向けの流通コストの削減では、従来の段ボールでの出荷から、大型コンテナによる効率的な出荷への移行を進めている(写真3)。さらに、段ボール価格と、大型コンテナ利用に係るコンテナの回収費用やコンテナの積載効率などの流通コストに関する情報を常に把握し比較することで、一層の流通コストの削減を目指している。また生産コストの削減では、753事業における作柄安定の取り組みにおいても、融雪剤、堆肥・土壌改良資材、緑肥、灌水、ほ場改良などに係る経費の一部に753事業の助成金を活用している(写真4)。今後の課題としては、3年間の助成金を生かして一層生産基盤を強化し、生産性の向上やコストの低減を進めていくことを挙げ、加工・業務用たまねぎの販売単価で採算ベースに乗せることができる体制構築を目指して、さらなる取り組みの強化を目指していきたいとしている。



 また、JAふらののたまねぎ生産者約350人で構成する玉ねぎ部会では、多様化が進む実需者や消費者のニーズに応えるべく、年度ごとに特別栽培玉ねぎ取扱要領や特別栽培向けの防除体系を策定(注4)し、国の特別栽培に係る表示ガイドラインに基づいた減農薬・減化学肥料栽培(特別栽培)に取り組んでいる。取扱要領では、栽培品種や栽培基準、土壌診断の義務化など、特別栽培に係る留意事項が定められている。雑草や病害虫などの防除体系では、生育時期に応じた使用薬剤や回数を限定するなど、土壌の性質に由来する農地の生産性を十分に発揮させるとともに、農業生産に起因する環境への負荷をできる限り低減した栽培方法を採用して生産することが原則に据えられている。

 753事業における取り組みとしては、取扱要領に定める品種「北もみじ2000」(写真5)に加え、実需者ニーズに即した生産・出荷の取り組みとして、長期貯蔵が期待できる「北こがね2号」と「ベガス」を新たに採用し、加工・業務用実需者の要望に即した安定供給を目指して、出荷の長期安定化に努めている。

 これらの玉ねぎ部会での取り組みと既述のCA冷蔵貯蔵施設導入の相乗効果として、たまねぎの計画的な生産・出荷と長期保存によりほぼ通年で出荷できる体制が構築されたことで、JAふらの産たまねぎの差別化に成功している。

 玉ねぎ部会の松田浩明部会長の話によると、JAふらの管内では、「クリーンな産地、クリーンな農業」を目指し、取扱要領や防除体系に基づいたたまねぎ生産に取り組んでいるが、道産たまねぎは春まきであることから、雑草と病害虫との闘いは避けられず、また、道内の豊凶の影響が市況に色濃く表れるため、収入変動が激しく、個人で取り組むには困難が多い品目であるという。

 玉ねぎ部会では、753事業による後押しのもと、専用品種の作付や土壌診断のほか、作柄安定の取り組みを通じたほ場育成、新品種の試験栽培、栽培講習会の開催、実需者工場における加工実態調査など、道産たまねぎの安定生産・安定供給に向けて、JAふらのと一体となった「攻め」の姿勢で、多様な取り組みを展開しているという。

 JAふらの管内では、全道の加工・業務用向け対策を軸に、取扱要領や国の表示ガイドラインなどに沿った生産を行っているが、753事業は自分達の取り組みをサポートしてくれており、今後も安定出荷、安定供給に向け、産地に対する継続した支援を期待しているということであった。

注4 JAふらの玉ねぎ部会による取扱要領と防除体系の詳細は、下記ホームページを参照されたい。
(取扱要領)http://www.ja-furano.or.jp/common/pdf/products/150813_tamanegi2.pdf
(防除体系)http://www.ja-furano.or.jp/common/pdf/products/150813_tamanegi1.pdf

 このように、JAふらのにおいては、たまねぎ生産者とともに753事業を活用したさまざまな取り組みが展開されている。27年度においては、新たにかぼちゃでも事業に参加するなど、加工・業務用向けの次の展開を見据えて、さらなる取り組みを着実に実行している。富良野地域は、にんじんやスイートコーンなど、加工・業務用野菜の供給基地として大きな可能性を秘めているエリアであり、JAふらのの今後のさらなる展開と飛躍に期待が集まっている。


 次号では、753事業を通じた加工・業務用野菜の生産事例として、全国農業協同組合連合会秋田県本部(秋田県)と農業生産法人有限会社四位農園(宮崎県)の事例を紹介し、これらの事例を通じて、753事業が目指す加工・業務用野菜産地の方向性について報告する。


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