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調査・報告(野菜情報 2016年1月号)


茨城県における加工・業務用野菜の現状と
生産振興の取り組み

茨城県農林水産部 産地振興課 野菜対策グループ


【概要】

 首都圏に近い地の利を背景に野菜の生産が盛んな茨城県は、加工・業務用野菜の生産振興にも積極的に取り組んでいることから、茨城県の取り組みを紹介する。

1 茨城県の地理的特徴

 茨城県は関東地方の北東部に位置し、東京からおよそ35~160キロメートル圏にある。特に県中央部から南部、西部にかけては肥よくな平地が広がる農業地帯が形成され、畑作、水田ともに盛んである。茨城県内は県北、県央、鹿行、県南、県西と5地域に分けられ、それぞれ各地域の風土に根ざした品目が生産されている(図1、表1)。

 茨城県における平成26年の年間降水量は1642ミリで、山間部や海沿いはやや多い傾向にある。また、同じ地域にあっても「夕立の通り道、霜の通り道」といわれるような、局地的な気象の差異もある。生産者はこのような条件を考慮して作付品目を選定している。

 年平均気温は12.5度から15度の範囲であるが、沿岸部の海風が入り込む地域では、盛夏時の日中は涼しく、反対に厳寒期には暖かく感じられることが多い。内陸部は、夏季の日中は気温が高くなる。北部の山間部であっても、夏季の日中は内陸の平野部と同様に気温が高くなる。

 土壌は主として関東ローム層といわれる火山灰性の黒ボク土壌が多く、適度な保水性、排水性があり、腐植質が多いため肥料持ちが良い。茨城県の東部に位置する鹿行地域の台地帯には淡色黒ボク土とよばれる赤茶色の土壌が広がっており、一般的に保肥力は黒ボク土壌より劣り、地力が低いとされるが、このような土壌はかんしょ栽培には適しており、食味が良い高品質なかんしょ生産地帯を形成している。
県内の河川流域には水田地帯が形成され米の生産が盛んであるが、水田転作をきっかけ

 としてねぎ、レタス、なす、ブロッコリー、いちごなどの栽培が始まり、現在に至るまでに多くの産地が形成され定着してきた。現在も米価下落により米専作から野菜導入が期待されており、水田地帯は今後も加工・業務用野菜の産地として新たな発展が見込まれる。県内の耕作地帯は、井戸水が利用されている他、県西地域の大規模露地野菜地帯を中心に霞ヶ浦用水事業により農業用水が整備されており、夏場のかん水などに利用され、大規模な露地野菜地帯の生産を支えている。広域交通ネットワークは生産・流通の基盤となっている。

2 茨城県の農業

(1)主な生産品目と全国順位

 茨城県の農業産出額は平成25年で4356億円と、北海道に次ぐ全国第2位となっており、中でも園芸部門は2244億円と、農業産出額の5割を占める主要な部門となっている。また、野菜の農業産出額は1767億円で、園芸部門の8割を占めている。

 全国1位の品目には、メロン、れんこん、ピーマン、みずな、ちんげんさいなどがあり、全国第2位の品目にはかんしょ、レタス、はくさい、ごぼうなどがある。第3位の品目にはねぎ、にら、スイートコーン、かぼちゃ、しそなどがある(図2)。東京都中央卸売市場では平成16年から11年連続で取扱高第1位となっており、首都圏の食料供給を支えている。

(2)各地域の加工・業務用野菜の生産状況

 近年は、JAなどの生産組織が簡便な一次加工、すなわち洗浄・カットまで行い、その一次加工品を出荷する形態への取り組みが行われつつある。また、かんしょ生産が盛んな行方市には、かんしょ加工場が新設され、平成27年秋に、集客型の施設も同時にオープンし、地域経済の活性化が大いに期待されている。

 茨城県における加工・業務用野菜の取り組みが盛んな背景の一つに、干しいも、こんにゃくといった農産加工品が生産されていたため、良質の加工品を生産するためには、良質の原料が必要という意識が培われていることが挙げられる。茨城県には野菜を原料とする食品加工工場が多数あり、いわゆる「すそもの」として規格外品を活用するというよりも、加工を前提とした、加工に適した高品質原料の生産が行われてきた。

 近年においては、加工トマトの作付けが増加しており、24年の作付面積は130.4ヘクタールであったが、26年には184.9ヘクタールと増加している。生産者の農業経営において加工用などの契約取引は、契約価格が事前に決定していることから相場変動の影響を受けず、経営計画が立てやすいこと、規格選別などが簡易な出荷形態であるため労力を軽減できるといったメリットがある。このため、作業が競合しない青果用かんしょや青果用ばれいしょといった品目との組み合わせで農業経営に取り入れられ、市場出荷の価格変動リスク軽減が図られている。

 前述した生産者の意識以上に、物流条件が良好なことや、比較的規模の大きい農地が確保できることなどを背景に、県央地域には小規模の一次加工場から、大規模な野菜加工品工場(カット野菜など)まで存在し、加工・業務用野菜への取り組みが盛んである。

 このうち、第1回(平成19年度)の国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰(注1)において、農林水産大臣賞を受賞した茨城中央園芸農業協同組合のキャベツ契約取引グループにおける取り組みを紹介する。

 この事例では、産地は、(ア)契約数量を確保するため天候などの影響を考慮して契約数量よりも多く生産できるよう作付けを行う、(イ)業務用に適した加工歩留まりの良い大玉を生産するため、品種を選び、それぞれの品種に適したは種、栽培を行う、(ウ)契約先からの追加注文に応じて収穫を行ったり、生産者間の出荷数量を調整し、契約先への出荷量を確保するなど、産地側が短期的なリスクを負い、契約を履行するためのきめ細やかな調整を行って対応するなど、産地側の努力で取引先の信頼を得ている。

 また、中間事業者となる丸仙青果株式会社においても(ア)出荷容器として通いコンテナの貸し出し、(イ)自社冷蔵庫での在庫保管、(ウ)産地での生産コストが上がる春と秋の買い取り価格の引き上げ、(エ)悪天候などで産地からキャベツを調達できない場合の市場からの調達、といったリスクを負い、茨城中央園芸農業協同組合を含む全国の産地をつなぎ、年間を通じて安定した調達を行っている。

 実需者の株式会社リンガーハットでは、複数の中間事業者からキャベツの納入を図ることで安定した調達を実現しているが、各産地との信頼関係を構築するため、キャベツ調達担当者が産地を訪ねるとともに、自社工場への視察の受け入れ、納入するキャベツの規格の簡素化など、生産者の視点に立った取り組みにも惜しみない努力を続けている。

 他の表彰事例でも、生産者と実需者などの努力により、加工・業務用の取引を続けており、茨城県下は、首都圏に近い地の利を生かした、加工・業務用野菜の生産が盛んな地域になっている(表2)。

注1:国産野菜の生産・利用拡大を図ることを目的として、平成19~22年度に農林水産省と独立行政法人農畜産業振興機構の主催で実施された。

(3)茨城県による産地への支援

 茨城県では、「野菜価格安定対策事業」などのソフト事業、国の「強い農業づくり交付金」(注2)などのハード事業による生産体制の整備・安定化を図っている。また、県事業とし、多様化する実需者ニーズに対応でき、高品質、信頼性・安全性が市場で高く評価されている産地を茨城県青果物銘柄産地として指定し、生産者・出荷組織・市町村・関係機関が連携して産地の発展に取り組む「茨城県青果物銘柄産地制度」により、産地の生産体制の総合的な支援を行っている(図3)。



 また、「茨城県農産物マッチングサイト」(注3)を開設し、契約取引を行いたい生産者組織などから、品目、時期、量、生産者組織の概要などの情報が提示されており、実需側はこれらの情報を随時閲覧できる体制を整えている。これまでにキャベツ、だいこん、たまねぎ、にんじん、しそなどの契約取引成立を支援している(図4)。

注2:園芸作物の安定供給・輸出拡大のため、園芸産地において販売価格の向上、販売量の増大および生産流通コストの低減を戦略的に推進し、収益力を向上させる取り組みや共同利用施設の整備などを支援する事業

注3:茨城県内で青果物(野菜・果物・加工品)を生産する農業者・農業者団体と、県内外の食品事業者などを対象とし、茨城県農産物に関する情報提供並びにマッチングを図ることを目的としている。

3 茨城県農林事務所の取り組み

 茨城県の農林事務所(農業改良普及センター)では、土壌診断や病害虫防除指導など、技術的な支援をはじめとして幅広い産地支援を行っている。特に加工・業務用キャベツの生産が盛んな地域では、品種選定調査や自動収穫機の実演会により機械化一貫体系の定着を図るなどの産地支援を行っている。契約取引においては、市場出荷以上に定時・定量・定質の生産・出荷が必要となる。県内各地で契約取引拡大の動きがある中、産地の課題にきめ細かく対応し、生産の基礎を支援する農林事務所の活動は、重要な役割を担っている。以下に農林事務所における産地支援の取り組みを紹介する。

(1)品種選定

 加工・業務用のキャベツ生産において、生産者が重視する品種特性は、玉肥大が良く、在ほ性が良いこと、収穫適期が長いこと、裂球が無いこと、耐病性など、作業性や収量性に重点が置かれがちだが、実需者からは「食味」、内部の褐変などの「生理障害の少なさ」が求められている。また実需者からの要望により端境期に対応して出荷期間の拡大を図るには、適正な品種を選ぶ必要があり、産地、農林事務所、種苗会社など関係者が協力して地域に適した現地ほ場での調査を行い、品種の選定を進めている。

(2)機械化一貫体系の定着

 キャベツ生産においては、半自動移植機やブームスプレヤー(注4)といった管理機の導入が進んでいるが、自走式・乗用型のキャベツ収穫機については導入が進んでいない。農林事務所は機械の実演会などを開催し、生産者への検討の場を提供している。

 キャベツ栽培における作業時間は、収穫・調製・出荷が6割を超えており(図5)、収穫機械の導入効果は高いと考えられるが、県全体で見れば導入は限定的である。導入が進まない理由は、以下のように考察される。

 近年開発されたキャベツ収穫機は大規模産地に対応するため、機上で調製・選別を行い、鉄コンテナへ収容するタイプである。ほ場周辺に加工場がある場合は大型鉄コンテナで搬入する場合もあるが、遠隔地へは加工・業務用であっても段ボールで出荷している場合が多い。

 茨城県において、加工・業務用キャベツの生産に特化している生産者は一部であり、大部分は経営の安定化を図る目的で、市場出荷の何割かを加工・業務用に仕向けている。加工・業務用の収穫であっても、一斉に収穫せず、生育をみながら、収穫適期の株を選びながら収穫していく場合もある。

 このように産地の体制は、従前の市場出荷を中心とした生産体系であり、生産者にとって高価な大型の収穫機が必要な場面が限られている。加工・業務用としての契約数量も、家族経営の生産者が数軒集まれば満たすことができる量であることが多く、数軒~10軒程度の生産者が組織化され、出荷数量や品質の安定化が図られていることが多い。この他、オペレーターと選別者など人数を合わせないと収穫作業ができないこと、価格の面で折り合いがつかないことが考えられるが、主には産地側が機械導入に見合う経営規模・生産体系となっていないためである。

 今後は、加工・業務用野菜の収穫・調製に係る労働時間の軽減をはじめ、加工・業務用野菜の生産に対応していくためには、収穫機の導入が有効である。

注4:トラクターに搭載して広いほ場の消毒作業、除草剤散布に使用するもの。

(3)GAPの推進

 加工・業務用野菜を契約していく中で、納入先から生産者側にGAP(農業生産工程管理)の導入が求められるケースがある。異物混入防止、トレーサビリティーなどの安全・安心への取り組みは加工・業務用、青果用にかかわらず、当然のことであるが、加工・業務用野菜の生産においてはサプライチェーンの一環として産地におけるGAPの取り組みは、より重要度、必要性が高いものと考えられる。

 産地では、積極的にGAPに取り組む組織がある一方で、GAPへの理解不足や、コスト・労力が増加するという生産者の漠然とした感覚から、導入が進まない側面がある。集荷側、中間事業者ともに生産者に取り組みを促したいところではあるが、生産者が出荷先を選べるという状況もあり、集荷側からは生産者にGAPを強力に推進しづらい場合がある。このような状況も踏まえて県が積極的にGAPの推進・定着を図っている。

 茨城県は平成26年に「茨城県GAP規範」を策定するとともに、普及指導員、営農指導員などへの研修を実施している。これにより、普及指導員・営農指導員が日常業務の中で生産者にGAPに係る適切なアドバイスを行える体制づくりを行っている。

4 今後の加工・業務用野菜の展望と提言

 近年の生活スタイルの変化により食の外部化が進展し、生鮮野菜よりもサラダなどの加工調理食品の購入が増加しており、他産地との連携など全国的な産地リレーの中での一定品質、安定供給が必要となっている。このため、生鮮出荷を前提とした個々の品目のブランド化、高品質化といった戦略とともに、安定生産・安定供給を継続できる生産基盤の強化といった産地支援が求められている。

 一方、安定した生産を支えているのは、夕立の通り道を熟知し、ほ場を選ぶような、地域に根ざした生産者の知識・経験である。全国的な傾向であるとはいえ、後継者不足はこれまで培われてきた長年の経験に基づく細やかな技術が失われることにならないかと危惧させる。

 新たな担い手の確保に努めながら、いわば「生産者の技術=知的財産」を将来に継承させ、産地を維持できる体制を築くことが、食料安定供給の面からも、必要となっている。今後も茨城県は、野菜生産に適する恵まれた自然条件や首都圏に近い地の利を生かした野菜生産を支援するとともに、需要が伸びている加工・業務用野菜の生産を推進していく。


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