野菜需給部需給推進課
【概要】
農畜産業振興機構は平成27年8月31日(月)、「やさいの日」にちなんで、野菜需給協議会(野菜に関係する生産者団体や流通団体、消費者団体等で構成)との共催で、イイノカンファレンスセンター(東京都千代田区内幸町)において、関係者による消費拡大を促す観点から、魅力ある野菜を届けるためにというテーマで野菜シンポジウムを開催した。
当日は、理事長のあいさつで始まり、170名を超える方々にご参加いただいた(写真1、2)。榎本房枝氏は、女性農業者としてお客様にどのようにして野菜の魅力を伝えているかについて、また、藤村亮太郎氏は美味しい野菜を楽しんでいただくため、生産者団体と食品メーカーがタッグを組んだカット野菜企業が、どのような取り組みを行っているかについて、それぞれ講演を行った。
また、全国農業協同組合連合会(以下「JA全農」という)とキユーピー株式会社(以下「キユーピー(株)という)の協力により、参加者に生鮮野菜や調味料などをお持ち帰りいただいた。講演の概要は、以下の通りである(敬称省略)。
●400年続く榎本農園の娘として生まれ、高校時代より食に興味があり、卒業後はホテルの料理人となる。
●ホテルのレストランサービスやフロントスタッフとしても働き8年前に実家に戻り就農。その後、父が他界したため、弟と2人で榎本農園を引き継ぐことに。
●40年前から無農薬で野菜を栽培。
●現在、ハウスでは20種類ほどのミニトマトを栽培。ほぼすべての販路開拓を担当。
●調理師、野菜ソムリエ、ベジフルティーチャーの資格を持つほか、農林水産省農業女子プロジェクトメンバーとして多数のイベントやメディアに出演し、農業をベースに情報発信している。
さいたま市のトマト農家の長女として生まれ、埼玉県内の農業高校を卒業後は、レストランに料理人として就職した。しかし、周りの料理人の野菜の扱い方や料理方法などに疑問を抱いたこともあり、単身、ヨーロッパ20カ国500都市を巡り、ファーマーズマーケットで日本に流通していない野菜を見たり、一般の家庭でその土地の郷土料理を食べたりしながら海外の食や食文化の勉強をした。
帰国後は、海外での経験を踏まえて、お客様にお皿の上の料理をどのように表現すれば喜ばれるのかを勉強するために那須高原のホテルのレストランのサービススタッフとして働くこととし、料理などの提供も行った(写真4)。
さいたま市の実家では、父親が大玉トマトを中心とした農業を行っていたが、父親が他界し弟と2人で農園を引き継いだものの、これまで契約していた業者から契約解除を言い渡された。そこで、小さい農家としてどう生き残るかを考え、これまでの経験から、今後、レストランなどに供給するには、ミニトマト作りしかないと考えた。
当時は、400坪のハウスで20種類ほどのミニトマトを生産しており、これほどの大規模な農家は、埼玉県内では他になかった(写真5)。また、12月に収穫するトマトは、他の産地とあまりかち合うことがなく、レストランからの需要が見込めると思い、さまざまなレストランにトマトを持ち込み、気に入れば使っていただく営業スタイルをとった。
それは、これまでの経験から料理人と取引のある農家との関係も理解していたので、他の人の市場を荒らすことはしたくなかったからで、その中で、他の農家にない独自性を出すため、皮が非常に薄く市場流通が困難なミニトマト(プチぷよ)を生産することを考えた(写真6)。そこで、宮城県の種子会社に相談したところ、「栽培が非常に難しいので、こちらに来て栽培の勉強をしないと種子の提供はできない」と言われ、生産担当の弟に栽培技術の習得を託し、約2年前から種子を提供してもらうこととなり、プチぷよの生産が始まった。昨年2月の大雪で倒壊したハウスの再建も進み、今後は新しい農法にも取り組むこととしている。
プチぷよを生産していく中で、農園に訪れた方の中に、シンガポールのホテルの「なだ万」の料理長になる方がおり、その方がシンガポールに赴任後に、日本の料理を知ってもらう内容の企画書をホテルに提出したところ、この企画が採用されて、今年の4月に榎本農園フェアと称した料理の提供や料理教室を開催した。
フェアの開催に当たりプチぷよなどの野菜をどのようにしてシンガポールまで輸送すれば良いのか考えていたところ、料理長が全て段取りしてくれた。私は、段ボールに自分で生産した野菜を詰めて築地の市場に運ぶだけですんだ。
1週間のフェアでは、榎本農園で生産したトマトを中心に料理長とも相談しながら料理を提供した(写真7)。1万円からのランチメニューや、2万円からのディナーメニューなど高額な設定だったが、中には毎日来られる富裕層の方がおり、値段のことや毎日同じようなメニューで飽きないかと質問したところ、「この料理は、1週間しか食べられない。また、安心で安全な料理を食べる方が良いので高いとは思わない」とのことだった。
また、現地駐在の日本人やシンガポール人の方を対象に料理教室を開催した。そこで、シンガポールの方から、なぜ日本の野菜は高いのかなどコスト関係の質問を多くいただいたが、「航空便での輸送」や、「安心安全に生産する」ためのコストがかかることを説明して理解を求めた。
さらに、日本では、まだまだ新聞やテレビでの宣伝効果が大きいが、シンガポールではブログやユーチューブなどのSNSの効果が大きくホテル側も重視していることが印象的だった。
これまでの経験などから、自家販売や直売所での販売、レストラン、大量に使用する結婚式場など、提供先の違いに応じて、野菜の品種を考えて定番野菜や新しい品種、伝統野菜を生産し販売している。また、野菜の生産以外にも、野菜を練りこんだ田舎
さらに、農林水産省の農業女子プロジェクトのメンバーとして、農業を行っている女性の活性化につなげていきたいと考え、企業と一緒に女性が農業を楽に楽しく行うためにさまざまな活動に参加している。例えば、井関農機とはトラクターを、シャープとは洗濯機を、丸山製作所とは草刈り機などの開発や、サカタのタネから新しい種子を提供いただき栽培や販売方法の検討を行うなど、さまざまな取り組みを行っている(写真8)。
周りに民家が並ぶ都市近郊の1ヘクタールしかない小さな農家として、生き残るためには何が必要か常に考えている。重要なことはたくさんあるが、全国から情報を必要としている方がたくさんいることを知り、一番重要なことは情報発信であると考え、現在でも、ブログなどのSNSで毎日新しい情報を発信している。これからも、自らがやらなければならないことの実現に向け頑張っていきたいと思う。
Q:プチぷよを段ボールで輸出する際には、検疫などの問題はなかったか。
A:毎年輸出しているが、これまで特に問題はない。
Q:プチぷよは、輸送の衝撃で傷みやすいが、海外への輸出方法は、どのように行っているのか。
A:プチぷよは、2~3日で傷むので通常は直売所などでしか販売できない。そのため、輸出時は、特殊な一個入れのいちごパックに入れるか、もしくはティシュなどに個包装してパッキングしている。
●2001年にキユーピー(株)に入社後、家庭向けパッケージサラダメーカー、(株)サラダクラブでの商品開発や鮮度保持のための包材の研究などに取り組む。
●野菜の「おいしさ」、「簡便性」、「機能」を引き出し、野菜の魅力を消費者へお届けするため、原料・処理・流通方法などの研究に取り組む。
●現在は、JA全農とキユーピー(株)による合弁会社である、業務用サラダ野菜メーカーの「(株)グリーンメッセージ」において営業開発に取り組む。
●野菜を愛し、野菜の気持ちになって、アイデアを創出している。
野菜の消費量は、食生活の多様化や食の外部化、子供の野菜嫌いなどさまざまな要因により減少傾向で推移している。このままでは、農業の衰退や食への関心の低下、生活習慣病の増加などで、ますます野菜の消費量が減少する負のスパイラルに陥っている。また、我々野菜メーカーを取り巻く環境を見てみると、異常気象などにより野菜の価格の乱高下が顕著になっている。
野菜の売り場を見るとカット野菜は、女性の社会進出や高齢化、核家族化を背景に、すぐに料理ができる手軽さなどから販売面積が大きくなっている。
一方、カット野菜を使っている中食や外食業界では、人手不足の問題から、特に、外食の現場では、野菜を切る技術、手間、時間などが問題となっている。
このため、食の外部化やライフスタイルと社会構造の変化を踏まえて、原料調達に強いJA全農とサラダ製造に秀でたキユーピー(株)の合弁により株式会社グリーンメッセージ(以下「(株)グリーンメッセージ」という)が設立され、5月から神奈川県大和市の工場を稼働させた(写真10)。
社名は、消費者の想いをつなぐ野菜工場になりたいと考え、野菜のグリーンと思いを伝えるメッセージを組み合わせてグリーンメッセージと命名した。また、ロゴについては、色々な種類の野菜がハートのマークとして思いをつなげるという意味である(図1)。
(株)グリーンメッセージでは、サラダ用の生野菜を中心として、品質レベルが高く求められるアイテムの分野で活躍したいと考えている。特に、中食、外食で需要が多いねぎの安定供給や、コンビニベンダーなどへ野菜を多く使用したサンドウィッチやサラダのメニューを提案することとしている。
(株)グリーンメッセージの特徴は三点ある。一つ目が、JA全農による安定した原料調達である。二つ目が、キユーピー(株)がこれまで培ってきた生産技術である。三つ目が、安定した原料調達としっかりとした生産技術による、野菜本来の味を提供することである。
一つ目の原料調達は、国産野菜に限って言えば、国内最強の集荷能力を持つJA全農の原料調達により、得意先に安定した供給ができることが特徴である。
調達については、一般的には段ボール(15キログラム)での輸送が主流であるが、当社では、鉄コン(350キログラム)を使用することにより、段ボール代の削減、産地での段ボールへの箱詰めの手間、当社の段ボールからの搬出の手間を省くことにより、さまざまな無駄を排除してお客様にフィードバックしていきたいと考えている。
しかし、鉄コンはキャベツなどの硬い野菜でしか実現できず、現在は、キャベツでテスト的に実施しており、今後、さまざまな品目に広げていきたいと考えている(写真11)。
二つ目が、これまで培ってきた生産技術による、温度管理と品質管理にこだわった安全と安心の担保である。主力である、レタスやキャベツは、産地での収穫後に真空予冷してチルドのトラックで配送されてくる。
しかし、工場の屋外で荷卸しすると、コールドチェーンが途切れてしまうことから、当社としては、少しでも温度のぶれがないよう、工場屋内に10トン車でも荷卸しできるスペースを確保している。
また、工場の衛生エリア内の移動を制限して安心安全を担保している。例えば、衛生エリアの低い部屋から高い部屋への移動のドアには取っ手がなく物理的に移動ができなくなっており、一度入室準備室に戻り再度消毒を受けなければいけないシステムとなっている。
さらに、工場内には異なる色のホースが3本あり、青色は常温の水で清掃用とし、白色は5度以下の冷水とし、緑色が5度以下の殺菌水とするなど、野菜の殺菌や器具の消毒など工場全体の衛生管理を行っている(写真12)。
三つ目については、野菜の特性を理解した必要最低限の洗浄や野菜の細胞を壊さないようにカット方法にも工夫を行いながら野菜のおいしさをお客様に届けている。
カット野菜は、洗浄などでダメージを受けやすいので、野菜の特性を理解した上で、しっかりとした製造方法により安心安全を担保しておいしい野菜を提供することが重要である。カット野菜の工程において、原料の入荷や、カット、洗浄などさまざまな工程の中で品質に影響を与える因子(図2)がたくさんあるが、今回は、カット工程に着目して説明する。
野菜をカットする際には、手ちぎり、鋭利な刃や、余り鋭利でない刃によってのカットにより保存後のカットレタスの変色に違いがある。キユーピー(株)で行ったレタスを対象とした実験結果では、鋭利な刃で切ったものが最も変色が妨げられた。また、第三者が行った、レタスをさまざまな方法にカットした場合の経時変化を見ても、鋭利な刃で切った方が日持ちする結果となり、手ちぎりが一番日持ちしない結果となった(図3、4)。このポイントは、いかに野菜の細胞を傷つけないでカットすることができるかだと思う。
従業員を大切にされたキユーピー(株)の創業者の遺志を引き継ぎ、工場では、従業員をパートナーさんと呼んで、会社の想いを共有して一緒に働いている。例えば、働く場所は10度以下のため、休憩所などでは、暖の取れる場所などにこだわって作っている。また、家族見学会において、会社のことを知ってもらうため試食会を開催するなど、家族の方にもファンになってもらうような取り組みを行っている。
キユーピーグループとして、これまで、みずなやゴーヤ、ズッキーニなどの魅力を紹介したが、今年からはロメインレタスの魅力をお伝えする取り組みを行っている。ロメインレタスは、生食用ではシーザーサラダが代表的だが、加熱してもボリューム感のあるおいしい野菜である。
メキシコ のシーザー・カルディーニ氏が1924年7月4日に「シーザーサラダ」を生み出したことから、今年から、7月4日をシーザーサラダの日とし、今後も、メニューの提案をさせていただくこととしている。
それ以外にも、JA全農のアンジェレというトマトなど、あまり知られていない食材のメニュー提案を行い、野菜の魅力を最大限引き出して、お客様の豊かな生活に貢献し、農業と野菜の魅力を引き出し、離れているお客様と野菜の距離を近づけるため、おいしいサラダ野菜を提供していきたいと思っている。
Q:メニュー提案や商品開発に取り組む際の判断基準はあるか、市場調査の結果なのか。
A:専門的な調査スタッフはいないので、一例としては、調味料との相性を考え、多少認知度があるがこれまで食べ方の提案がなかった食材を中心に検討する。
Q:野菜には市況変化があるが、元気で健康な産地づくりへの貢献という企業理念の具体策としてどのような取り組みがあるのか。
A:市況には高低があるが、産地と契約取引を行うことで、生産者には安定的な収入が見込め、メーカーには安定的な供給ができると考えている。
Q:カット野菜の消費期限を長くする取り組みで、鋭利な刃物でカットすることや、コールドチェーンを紹介いただいたが、他に何か参考となる取り組みはあるか。
A:たくさんの取り組みがある。切れ目ない温度管理や、良い原料を使うことも重要。魔法のような特別な決め手はなく、産地からお客様までのトータルで基本に忠実が大事である。これだけやれば大丈夫という事柄はない。