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調査・報告(野菜情報 2015年11月号)


農産物における鉄道輸送の現状と展望

株式会社ジェイアール貨物・リサーチセンター
常務取締役 中村 理史


【概要】

 ドライバー不足の影響などから、トラック輸送から鉄道コンテナ輸送などへのモーダルシフトについて注目が集まっている。農産物の輸送は「大ロット」で「長距離」という特徴のほか、他の貨物と違い「輸送中の温度管理」や「輸送中の振動・衝撃からの保護」などを有する輸送品質管理面を重視する傾向がある。野菜産地におけるJR貨物の具体的な輸送事例を紹介することで、野菜産地のモーダルシフトの実態や、今後の課題について報告する。

1 鉄道貨物輸送における農産物輸送の 重要性

(1)鉄道貨物輸送における農産品・青果物のシェア

 2014年度の鉄道貨物輸送における農産物(農産品および青果物)輸送量は208万トンとなっており、コンテナ貨物輸送の9.7%を占めている。農産物は、天候により豊作となったり不作になったりと、生産量は毎年変動するが、景気変動に左右される他の輸送品目と比較すると、内需型の安定した輸送品目と言える。このため、地方圏と大都市圏間の長距離輸送を得意とする鉄道貨物にとっては、極めて重要な輸送品目である。

(2)農産物の地域流動

 鉄道は、農産物を産地から、各地へどのくらい輸送しているのであろうか。それを明らかにするために、日本貨物鉄道株式会社(以下「JR貨物」という)の野菜の発地別・着地別シェアを比較してみた(表1)。

 例えば、北海道から鉄道によって農産品が多く運ばれている地域は、関東・甲信越(35.7%)、関西・中国(29.6%)であることがわかる。

 同様に、東北からは、関西・中国(38.5%)、九州(21.2%)への輸送が多い。一方、九州からは、関東・甲信越(46.8%)、関西・中国(24.3%)への輸送が多くなっている。

 このように、鉄道は地方圏の農産地から大都市圏の消費地への長距離輸送に貢献していることがわかる。

 なかでも、国内有数の農産物供給基地である北海道開発局で分析した北海道発の農産物の品目別流動状況を見てみると、米類は43.2%(11万669トン)、豆類は50.3%(2万4285トン)、野菜類は42.6%(39万6214トン)、果実類44.9%(172トン)となっており、それぞれの品目において4~5割を占めている(表2)。

 北海道からの農産物の出荷において、鉄道は必要不可欠な輸送機関といえる。

2 農産物の物流特性

 農産物は、地方圏の農産地から大都市圏の消費地へ大ロットの長距離輸送が多い傾向がある。また、生鮮品が多いため、輸送途上の品質管理が重要となる。このため、他の輸送品目と物流特性が若干異なる。実際のデータで見てみよう。

(1)輸送機関

 株式会社ジェイアール貨物・リサーチセンター(以下、「(株)ジェイアール貨物・リサーチセンター」という)は、2012 年に全国の737のJAに対し、物流に関するアンケート「農業分野の構造変化と物流に関するアンケート調査」を実施した。回答率は19.5%(144JAが回答)であったが、JAの物流に関して実施されたものとしては数少ないアンケート調査と考えられる。

 調査では、農産物出荷の利用機関を聞いた。この回答(複数回答可)を集計したところ、利用している輸送機関の割合は、137JA(95.1%)が何らかの品目を「トラック」で輸送していた。「鉄道」については45JA(31.3%)となった。それ以外の輸送機関では、船舶が19JA(13.2%)、航空は29JA(20.1%)となった(表3)。

 利用している輸送機関のうち最も多かったのは「トラック」であったのは出荷場所からの輸送は、通常トラックが関わっており当然の結果である。鉄道については3割の利用があり、全国の多くのJAで鉄道を利用していることも明らかになった。

(2)輸送特性

 さらに、輸送機関を選択する際、どのようなサービスを重視するかについて、複数回答で回答を求めた。サービスの重要度を明らかにするために、「重要だと思う(評価点5点)」、「まあまあ重要だと思う(評価点4点)」、「どちらとも言えない(評価点3点)」、「あまり重要でないと思う(評価点2点)」、「重要でないと思う(評価点1点)」の5段階評価で尋ねた。集計時には、評価点を掛け合わせ、平均評価点を産出した。

 「重要だと思う」と回答したJAが多かった項目について見ると、「運賃(輸送コスト)」が124JA(86.1%)と最も多くなった。「輸送中の温度管理」も86JA(59.7%)と半数を超えた。その他の項目の回答を見てみると、「輸送中の振動・衝撃からの保護」68JA(47.2%)、「リードタイム」(納品までの所要時間)56JA(38.9%)、「出荷量の急な増減への対応」54JA(37.5%)となっている。

 この結果を平均評価点で比較すると、第1位が「運賃(輸送コスト)」で4.91 点、第2位が「輸送中の温度管理」で4.5点、第3位が「輸送中の振動・衝撃からの保護」で4.33点、第4位「リードタイム」で4.25点、第5位が「出荷量の急な増減への対応」で4.22点の順にニーズが高いことが分かった(表4)。

 一般的には、荷主はコストの次にリードタイムを重要視していることが多いが、農産物輸送の場合には、運賃(輸送コスト)以外の項目では、輸送中の温度管理や輸送中の振動・衝撃からの保護などの輸送品質管理面を重視していることが明らかになった。

3 野菜の鉄道輸送の状況

 (株)ジェイアール貨物・リサーチセンターでは、月に2回JR貨物ニュースを発行しており、JR貨物を利用している荷主にインタビューを実施している。その中から、特に野菜の鉄道輸送の状況について具体的事例を取りまとめた(表5)。

(1)北海道の事例

 野菜の輸送の半数近くを鉄道に頼る北海道のなかでも、特に存在感の大きいのはJAふらののかぼちゃで9割を鉄道コンテナで出荷している(写真1~3)。この高い割合は、貯蔵性が高い品目という優位性による。また、大型コンテナに500ケース近くを詰め込むことができるが、このボリュームは農産物市場で動かしやすいロットであり、かつスケールメリットを発揮できる。さらに、特筆すべきは発着双方の利用運送事業者(注1)との連携である。

 トラック輸送のデメリットとして、待ち時間の多さが挙げられるが、発側の利用運送事業者が着側の利用運送事業者へ出荷した品目を知らせ、JAふらのからも市場に連絡するので、到着側とお互いに連絡を取り合うことで、おおよその配達時間をあらかじめ決めておけるので、待機時間のロスを減らすことができる。

注1:利用運送事業者は、駅への荷物を集荷または、駅からの荷物を配達するトラック事業者である。

 また、だいこんが主要な輸送品目となるJA新はこだてについては、真空予冷とURコンテナ(注2)を組み合わせることで、鮮度を保った輸送が実現できている。JA新はこだてでは、収穫後、農家で下処理および箱詰めが行われ、当日の夕方までに野菜真空予冷施設に運ばれ、一晩置いた後URコンテナに積み込んで函館貨物駅から本州各地、四国へ発送する。収穫した日のうちに真空予冷するので、鉄道輸送で2~3日目に到着しても鮮度が保たれた状態で市場に提供できている。また、URコンテナは、途中で開扉しないので、長距離でも温度の変化が少ないのも鉄道輸送の優位性だ。

注2:URコンテナは、内張りをステンレスにした冷蔵コンテナである。

(2)青森県の事例

 九州への出荷に鉄道輸送を利用している青森県十和田市の(有)上十青果では、鉄道を使うことで、トラックの回転率の向上やドライバーの労働時間削減、燃料費の節約などを実現している。通常、青森から九州各地へのトラック輸送は往復するのに1週間から10日かかるが、鉄道では約4日にまで短縮することができる。また、燃料費が高騰していたなかでコスト面でも鉄道輸送のメリットが大きくなっている。

 現在、だいこんの輸送にはクールコンテナ(注3)を使用し、九州へは全量を鉄道輸送を取り入れている。だいこんに加え、ながいも、メークインについても、鉄道を利用しているが、厳しい市場の目にも耐えうる品質を維持できている。

注3:クールコンテナは、ディーゼルエンジン付きの冷凍コンテナである。

 青森県最大の輸送基地である八戸貨物駅における野菜発送量の25%を占めている青森県三沢市の(有)五日市青果では、ながいもの輸送に通年で鉄道コンテナを活用しており、出荷ピークにはほぼ毎日、夜間便で関西および九州に出荷されている。

(3)秋田県の事例

 すいかを鉄道で名古屋、阪神、九州方面に輸送している秋田県ではピーク時の7月25日ころから8月中旬まで、毎日5~6個のコンテナが発送される。秋田貨物駅で積載しているが、鉄道を利用することにより、関東以南の輸送コスト削減につながった。

(4)香川県の事例

  葉物など軟弱野菜の輸送は非常に気を使うが、香川県のJA香川県(旧JA香川豊南)ではレタスを鉄道輸送している。寒い時期はURコンテナであるが、気温が10度を超えるとクール(冷凍)コンテナを使う。室温5度に設定されたクールコンテナでの輸送は、ドアツードア輸送なので輸送中の温度が一定している点で評価が高い。一方で雨の日には出荷ができない日もあり、輸送波動が生じるという難しさもある。

(5)高知県の事例

 一方、南から北への輸送にも鉄道は利用されている。野菜の大産地である高知県では、ハウス栽培が多く、青果物・花きを年間を通じて全国へ鉄道で出荷している。出荷が特に多いのは12から翌6月で、きゅうり、なす、ピーマン、みょうがなどを北海道や京浜地区向けに発送する。定時・定量輸送という鉄道コンテナのメリットを生かし、主にJAの集出荷場から卸売会社に発送する単品輸送に利用しているが、北海道向けのなす類やしょうが、みょうがについては混載してコスト軽減を図っている。

(6)熊本県の事例

 冬場のトマトの大産地である熊本県のJAやつしろでは、トマトの輸送に鉄道を利用している。熊本県から北海道などへの鉄道による輸送コストは、トラックの半分程度になるため、北海道や東北などの遠隔地向けの出荷に鉄道を利用している。起点は八代駅で、10月から翌6月上旬まで週5日、5トンコンテナで毎日1個、ピーク時には4~5個出荷している。

(7)鹿児島県の事例

 離島からの輸送にも鉄道が活用されている。鹿児島県の離島にあるJA種子屋久では、ばれいしょを貨物フェリーと鉄道による複合一貫輸送で消費地に運んでいる。出荷が多い時は鉄道コンテナで1日当たり10~20個にもなり、鹿児島貨物ターミナルから中京、京浜地区へ向けて離島から出て4日目に到着している。

 以上のように荷主のインタビュー結果からは、鉄道は長距離輸送ではコストが安く、輸送品質が良いことが明らかになった。

 2(2)の農協アンケート調査では、農産物輸送に重視されているサービスは、運賃(コスト)が第1位、輸送中の温度管理が第2位となっており、鉄道貨物輸送は農産物の輸送に適合していると考えられる。

4 鉄道貨物輸送のメリットと課題

 前項の鉄道輸送の現状から、鉄道輸送のメリットを整理した(表6)。品質管理の面では、鉄道は冷蔵コンテナなどの利用で質の良い輸送が可能である。特に出荷から到着まで扉の開閉がなく、一定の温度を保つことができるため温度管理がしっかりできるという点で優位性が認められる。品目によっては、到着までに追熟するなどのメリットもある。

 コスト面をみると、トラックと比較して大幅な削減が可能である場合もあり競争力があるといえる。具体的には東北の産地が、関東以南に輸送する場合、鉄道の方がコスト面では有利だという実績がある。

 近年、ドライバー不足の影響でトラック輸送が滞りがちになっているが、農産物の輸送においても大きな影響が予測されている。

 輸送ロットについても鉄道コンテナには扱いやすい500ケースが入り、農産物は単品で市場ごとに輸送することが多いために輸送ロットが農産品市場に適合しているという指摘もある。

 また、通常、鉄道は長距離(300キロメートルから500キロメートル以上)が主流となるが、リードタイムについてみるとトラックと同等か早いといわれており、費用と時間を考慮して輸送手段を選択していくことが産地には求められているといえる。

 一方、鉄道輸送の課題としては、以下のことが考えられる。

 農産物の生産で特徴的なのは、同じ地域で同様な農産物を生産していることが多く、同じ地域で同時期に一斉に出荷が始まることである。さらに天候により、季節波動が大きくなる。

 また、農産物は輸送中に温度管理を確実に行わないと消費者に受け入れられず、温度管理が重要な商品である。物流事業者にとっては、貨物が大量に一時期に発生し、かつ輸送時の温度管理に気を使う非常に難しい輸送品目と考えられる。

 このため、秋などの野菜の出荷が集中する時期には、鉄道貨物においては、コンテナが不足し、コンテナの回送を迅速に行うことが必要になっている。

 トラックドライバーが不足する中で、どの時期に、どの程度の輸送力を確保し、どのように輸送品質を保持するか検討し、経験に裏打ちされた的確な鉄道貨物輸送を行う必要がある。

 今後も鉄道貨物輸送は、トラックの輸送力不足を補うモーダルシフト機関として重要な役割を果たしていくと考えられる。


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