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調査・報告(野菜情報 2015年10月号)


露地野菜生産における農外労働力の活用
~JA島原雲仙の新生農援隊の取り組み~

調査情報部 伊澤 昌栄


【概要】

 長崎県の島原雲仙農業協同組合は、施設野菜に比べ作業が短期間に集中するため周年での雇用労働力による対応が難しい露地野菜の収穫作業について、専門の職員を採用して農家を支援することで、一定の効果を上げている。露地野菜などの労働集約型品目の産地規模の維持、拡大を図るに当たり、今回の事例は参考にすべき点が多いであろう。

1 はじめに

 農林水産省の農業構造動態調査によると、農地1ヘクタール当たり労働力は、ほぼ一貫して減少傾向で推移しており、平成26年は0.74人と17年の0.97人から23.7%減少している。また、野菜生産では、露地野菜が、施設野菜に比べて労働力減少の影響を受けやすい状況となっている。

 露地野菜の労働時間および労働時間に占める各種作業時間の割合を、施設野菜と比べると、10アール当たり労働時間は施設野菜を大きく下回るが、収穫、調製作業が労働時間に占める割合は施設野菜を上回り、ばれいしょに至っては労働時間の半分近くに達している(表1)。

 また、施設野菜は、在ほ期間が長い上、比較的均一に労働力が必要となるため、外部に労働力を求める場合も、周年での雇用が可能となるのに対し、露地野菜は、収穫、調製作業が1年のうち特定の時期に集中するため、短期で雇用せざるを得ず、長期の雇用を望むパート労働者を集めにくい。このように、露地野菜は、労働時間は施設野菜より短いものの、労働力確保が困難という点で、施設野菜より労働力減少の影響を受けやすいといえる。

 本稿では、露地野菜の収穫作業などの短期的な労働力を確保する手法として、自ら職員を臨時に雇用し、「新生農援隊」を組織している長崎県の島原雲仙農業協同組合(以下「JA島原雲仙」という)の事例を紹介する。

2 JA島原雲仙管内の概要

 JA島原雲仙は、平成13年4月に、島原半島全域(1市16町)の11JA(島原市、南高、雲仙、おばま、南串、大雲仙、西有家、有家、堂崎、布津町、深江町)が広域合併して設立された(図1)。組合員数は27年3月現在で2万8724人(正組合員1万2339人、准組合員1万6385人)、26年度の農産物販売高は287億1512万円となっている。管内の総面積は、長崎県全体の11.2%を占める4万5962ヘクタールで、普賢岳を中心とした雲仙山系と、それに連なる丘陵地帯および海岸沿いに広がる平野部から成っており、平野部は島原市および雲仙市、中山間地帯は雲仙市および南島原市に分布している(表2)。また、農地1万2370ヘクタールは、レタスやばれいしょなど露地野菜の利用が6割を超えている(図2)。

 管内は、専業農家率が32.2%と全国(17.9%)や長崎県(22.8%)より高く、中でも島原市および南島原市は34.3%である(表3)。

 一方、農家1戸当たりの平均農地面積は、全国の2.0ヘクタールを下回り、長崎県の1.3ヘクタールより0.1ヘクタール多い1.4ヘクタールである。規模別では、1ヘクタール以上5ヘクタール未満の戸数の割合が全国および長崎県より高い(表4)。

 これらのことから、管内は露地野菜生産が盛んで、その多くを一定規模以上の経営耕地を持つ専業農家が担っていることがわかる。

3 新生農援隊の取り組み

(1)経緯

 管内は、古くから露地野菜産地を形成していたが、農家の規模拡大が進行する中、稲作と比べて労働集約型である露地野菜は収穫時の労働力不足が課題となっていた。このような中、島原市を管内としていた旧JA島原は、競合する産地商人(青果業者)がばれいしょの収穫請負で生産者に評価されていたことに触発され、20年ほど前から掘り取り班(収穫班)を組織し、収穫作業の支援を行っていた。

 掘り取り班の取り組みにより露地野菜の面積は拡大したが、島原半島の他のJAが同様の取り組みを導入することはなかった。

 平成20年には、JA島原雲仙が、生産者からの要望を受け、人材派遣会社を活用し、春作および秋作のばれいしょで数戸の大規模農家を対象に、収穫時の労働力を支援するモデル事業を自己資金を財源に実施した。しかし、人材派遣会社から派遣された労働者は、農作業経験が少ないという課題が残った。

 そこで、収穫労力支援を開始した翌年、「ふるさと雇用再生特別交付金」(注1)を活用した県単事業である「ながさき農援隊設置事業」(注2)を活用し、21年7月よりJA島原雲仙が臨時職員として直接雇用する「ながさき農援隊」(隊員数38名)を組織した。その後、雲仙市でも長崎県と同様の事業(雲仙市営農環境システム整備事業)を立ち上げ、JA島原雲仙がこの事業を受託したことから、同年11月から「雲仙市農援隊」(隊員数21名)を組織した。農援隊を組織するに当たりJA島原雲仙は、JAの臨時職員として雇用した隊員が3年間の雇用契約終了後、農作業支援の経験を生かし、新規就農、大規模生産法人への就職など、管内の農業生産の担い手になることも目的の一つと考えていた。

 ながさき農援隊と雲仙市農援隊は、いずれも3年間実施され、管内全域に取り組みが広がった(表5)。

注1:地域の雇用失業情勢が厳しい中で、地域の実情や創意工夫に基づいて地域求職者などの雇用機会を創出する取り組みを支援するため、国から都道府県に対してふるさと雇用再生特別交付金を交付し、これに基づく基金を造成(基金造成は平成21年から23年度末まで)したもの。

注2:ふるさと雇用再生特別交付金により長崎県が基金事業を立ち上げ、県とJAが委託契約を結んで新規に職員を年間雇用して、労働力不足などの課題を抱える農家に農援隊として労働力を提供する事業。

 

 両事業の効果として、露地野菜の収穫作業など、人手が多く求められる作業に対して農援隊が無償で支援することで、農家の規模拡大が可能となり、産地規模の維持拡大が図られたことが挙げられる。また、農援隊は、気象災害などのり災農家に対する速やかな復旧支援、突発的な病気やけがにより農作業が行えない農家や高齢農家に対する労働力支援による離農防止など、地域営農の維持に対しても大きな力を発揮した。さらに、JA島原雲仙への効果としては、JA事業の未利用、低利用農家に対して両農援隊を派遣することで、ばれいしょやたまねぎなどの新規JA出荷に結び付けることができた。

 農援隊員のうち14名が、事業終了後に管内の農業生産の担い手となったことも(新規就農8名、農業法人への就職4名)、両事業の大きな成果であった。

(2)「新生農援隊」の誕生

 JA島原雲仙は、両事業終了後の事業継続を求める農家の声が多かったため、長崎県、管内3市と協議の上、24年4月に38名の隊員を継続雇用して「新生農援隊」を組織した。新生農援隊は、支援先の農家から徴収する利用料(1時間当たり900円(税抜き))を主な財源とするJA利用事業として位置付けられている。

 新生農援隊の26年度までの3年間の活動状況を見ると、26年度は7営農センターで隊員数37名、述べ派遣件数4494件となっている(表6)。活動内容は、レタス、ばれいしょ、たまねぎ、ブロッコリーなど、労働集約型品目である露地野菜の収穫作業のほか、いちごやトマトなどの施設野菜の定植、管理作業など、幅広い農作業支援となっている。また、野菜の農閑期には、JA選果場の支援に携わることで、周年で活動できるよう工夫されている。

4 新生農援隊の活動事例

~雲仙市南串みなみくし地区~

 雲仙市南串地区は、ほぼ全域が急傾斜地帯であるため、農地面積696ヘクタール(田103ヘクタール、畑593ヘクタールで、総面積1484ヘクタールの46.9%を利用)のうち平地は田10ヘクタールのみで、棚田や棚畑などの狭小農地で農業生産が行われている。このように、他の地域よりも作業条件が不利な中、認定農業者や若手の農業後継者などの担い手が多く、西日本でも有数のレタス、ばれいしょなどの産地を形成している(写真1)。

(1)新生農援隊の活動状況

 南串地区の新生農援隊は、急傾斜地で収穫作業の機械化が困難な同地区になくてはならない存在となっている。

 同地区を担当する隊員は、南串地区営農センターに所属する5名で、2チームに編成されている。隊員は、原則として月曜日から金曜日の午前8時30分から午後5時30分までの勤務となっているが、農繁期は勤務時間、休日とも変則的になる。隊員は、作業前日に営農センターから指示を受けた依頼農家ほ場に営農センターの2トントラックで向かい、ほ場準備、定植、管理作業など多岐にわたる作業に従事する。中心となる収穫作業の場合、隊員が行うのは収穫および箱(またはコンテナ)詰め作業のみで、ほ場からの搬出および営農センターまでの輸送は、原則としてJA島原雲仙が委託した運送業者が行うが、平成27年度からは、運送業者の人手が不足しているため、一部、隊員がほ場からの搬出および営農センターまでの輸送を行うこととなった。また、収穫作業は、JA選果場に配置されているパート労働者3名が隊員を補佐している。

 新生農援隊活動の効果について、主要品目であるレタスを例に見ると、26年度に隊員が収穫を行ったのは1021トンで、南串地区営農センターからの出荷量の20.4%を占めた(図3)。新生農援隊が活動を開始した24年度と比較すると、隊員による収穫量は534トンの増(伸長率209.7%)、地区全体でも1945トンの増(同163.8%)と大幅な伸びとなった。販売高では2億6161億円の増(同175.2%)となっており、新生農援隊は、南串地区のレタス生産振興に大きく寄与したといえる。

(2)利用農家と隊員の声

 篠塚武夫氏(写真2)は、妻の初美氏と2人でばれいしょ1.5ヘクタール、レタス2ヘクタールを生産している。篠塚氏のほ場は急傾斜地で棚畑が多いため、収穫作業は平たん地よりも重労働であり、夫婦のみでは規模拡大が困難であった。しかし、新生農援隊に収穫を依頼することで、作付面積の拡大が図れたという。篠塚氏は、「急傾斜地である南串地区は、機械化一貫体系を構築できないため、新生農援隊がいなければ今の作付面積を維持することはもちろん、レタス、ばれいしょ栽培は続けられない」と、新生農援隊は自らの農業生産に欠かせない存在である、と語っていた。

 篠塚氏のほ場で収穫作業を行っていた中村秀文氏は、26年に臨時職員としてJA島原雲仙に入組した隊員である(写真3)。中村氏は、前職の産地商人系青果業での経験を生かし、南串地区の主な生産品目であるレタス、ばれいしょのほぼすべての農作業支援を行うことができ、その迅速かつ丁寧な仕事ぶりは農家や営農センターからの信頼も厚い。中村氏は、「農作業支援を行うことは、地域営農を守るという責任と、農家の手取り確保に役立てるということで、大きなやりがいを感じる」と、南串地区における農業労働力の一端を担っていることに誇りと責任を感じている。

5 今後の課題と対応

 新生農援隊活動を進める中でJA島原雲仙は、①収支のかい離、②農閑期の利用の低迷、③農繁期の隊員不足、といった課題を抱えている。

 ①は、新生農援隊の財源は利用料が主であるが、農家が利用しやすい料金体系としたため、年間活動経費(約1億円)のうち利用料収入の割合は70%程度にとどまっているという課題である。不足分については、当初から国、長崎県、管内3市の補助事業を活用しており、補助金に頼らずに事業を採算ベースに乗せることが求められている。収支の改善には、収入増加策として利用料の値上げが考えられるが、農家の利用しやすさを考えると、実現は難しい。そこで、支出削減策として隊員人件費の圧縮が考えられるが、③で後述する農繁期の隊員不足が顕著となっていることから、こちらも難しい。

 ②は①とも関連するが、隊員は周年雇用のJA臨時職員であり、農閑期も人件費が発生するため、いかにして農閑期の利用率を向上させ、収入源に結び付けるかという課題である。JA島原雲仙は、隊員数が最も多い島原地区で、レタスなどの農閑期である夏場が収穫時期となる、こまつな、みずな、オクラ、しょうがなどの作付推進を行うことで一定の効果を上げている。JA島原雲仙は、この取り組みが農家の所得向上にもつながることから、他地区にも波及させたいと考えている。

 ③は、農繁期に隊員不足となっている現在、いかに優秀な新規隊員を確保するかという課題である。JA島原雲仙は、即戦力となる人材確保に向けて採用活動を行っている。しかし、他産業の雇用も活発となっていること、①の課題から隊員の給与水準の引き上げも困難なことから、希望者が集まらないが現状である。

6 さいごに

 農家人口が多く、平均年齢が低かった時代は、「ゆい」と呼ばれる農家相互の労働力の融通により労働力不足を地域全体で補い、産地規模を拡大してきた。しかし現在は、高齢化などから農家人口が減少し、労働力が不足する傾向にあるため、農家間での労働力融通が難しく、産地規模の維持、拡大には雇用労働力の活用が欠かせない。産地規模を支えるのは、大規模農家や若手農家だけでなく、地域すべての農家である。大規模農家はさらなる規模拡大により、今まで以上の労働力不足に陥る可能性があること、若手農家もいずれは高齢農家となることなど、産地規模を永続的に維持、拡大するためには、良質な労働力の供給が必要不可欠である。しかし、露地野菜のような労働集約品目で必要とされる短期的な雇用労働力は、確保が困難な状況である。

 今回調査したJA島原雲仙は、過去には掘り取り班を、そして現在は新生農援隊を組織し、短期労働力確保に対応している。新生農援隊は、収穫作業だけでなく、ケガや病気などにより一時的に営農が行えない生産者に代わってほ場管理を行うなど、地域のセーフティーネットとしての機能も有している。新生農援隊の活躍によりJA島原雲仙では、若手から中高年の農家が意欲的に生産活動に取り組み、産地の維持、拡大を図っている。また、南串地区のような、1ほ場当たりの面積が狭小な急傾斜地においても野菜生産が可能となる。新生農援隊の活動は、機械化一貫体系の構築が困難な地域において、非常に有効な手段といえる。

 露地野菜などの労働集約型品目の産地規模の維持、拡大を図るに当たり、今回の事例は参考にすべき点が多いであろう。

 最後に、今回の調査にご協力いただいた、雲仙市南串山総合支所、島原雲仙農業協同組合、篠塚武夫・初美夫妻およびJA島原雲仙農援隊中村秀文氏に感謝申し上げる。


参考資料

(1)長崎県島原振興局「島原半島要覧2014」

(2)倪鏡、大仲克俊、小林元「園芸産地におけるJAの労働力支援の取り組み」『JC総研レポート/2012年/冬/VOL. 24』一般社団法人JC総研基礎研究部

(3)高橋利広「JA島原雲仙の担い手対策と地域農業」『JA-IT研究会第37回公開研究会(2014年7月5日)』JA-IT研究会



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