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〔特集〕加工・業務用野菜の生産拡大に向けた取り組み


兵庫県神戸市における機械化一貫体系の取り組み

株式会社ジェイエイファーム六甲
課長 前中 利彦


【要約】

 需要が拡大する加工・業務用野菜のなかでも、キャベツはカット野菜のアイテムとして、また、ギョーザやロールキャベツなどさまざまな料理に使えることから、外食、中食を問わず、業者から引き合いの強い野菜である。しかし、重量野菜であることから収穫作業が重労働となり、特に高齢化が進行する産地では生産量が減少傾向である。一方、日本国内では急速に耕作放棄地が増え、神戸市においても問題が顕在化している。
 高齢化による生産者の減少と耕作放棄地の利用という2つの課題について、加工・業務用野菜の生産と機械化一貫体系により取り組んだ株式会社ジェイエイファーム六甲の事例を問題点と課題を含めて報告する。

1 はじめに

 兵庫県は、北は日本海、南は瀬戸内海に面し、山間地から平野、島々など変化に富んだ地形を活かし、多種多様な野菜を生産しており、全国でも有数のレタス、たまねぎの産地である淡路島をはじめ、おせちに欠かせない黒豆「丹波黒」で有名な丹波市などを有する。

 政令指定都市である神戸市でも、市域全域が商業地や住宅密集地というわけではなく、神戸北地区(北区)や神戸西地区(西区)では自然環境が豊かで、農業生産も盛んに行われている。しかし近年、これらの市内農業地域でも商業地や宅地開発が進行するとともに、農家の高齢化なども進行している。

 これらの課題について兵庫県は、平成23年改正の「兵庫県農業振興地域基本方針」の中で、「農業生産を維持するため、農地の保全や確保とともに、集落営農などの組織化や、農業サービス事業体の育成などを進める」と明記している。また、神戸市で形成する神戸農業地帯については、キャベツなどの野菜栽培農家を含む担い手農家を認定農業者に育成するとともに、土地利用作物の集落営農組織の育成強化と雇用労働力の活用を積極的に進めるとしている。

 これらの課題や方策に対し、神戸市を管内に含む兵庫六甲農業協同組合(以下「JA兵庫六甲」という)は、農作業受託サービスを行うために株式会社ジェイエイファーム六甲(以下、「ジェイエイファーム六甲」という)を設立し、農家の要望に応え、神戸市におけるキャベツなどの農業生産の維持に貢献している。本稿では、このジェイエイファーム六甲の取り組みについて紹介する。

2 JA兵庫六甲の概要

 JA兵庫六甲は、7市1町(神戸市、三田市、宝塚市、西宮市、川西市、伊丹市、尼崎市、猪名川町)の9JAが平成12年4月1日に合併してできた農協である。

 東は大阪府、西は明石市・三木市・吉川町、北は篠山市などに接し、総面積は1,201平方キロメートル、総人口約330万人を有する広範な都市近郊地域に立地している。

 当地域では、野菜、果樹などの園芸作物を中心とした神戸西地区、阪神地区、米を中心とした神戸北地区、三田地区などをはじめ、畜産(神戸ビーフ、三田牛)、酪農、花き生産がバランスよく行われている。

3 株式会社ジェイエイファーム六甲

設立の経緯

 当JA管内では、農家数が10年の間に10.2パーセント減少し、約6300戸となっていた。また、約890ヘクタール(復元可能な耕作放棄地が約120ヘクタール、調整水田および自己保全管理水田が約770ヘクタール)とおよそ東京ドーム190個分もの未利用農地があり、さらに、基幹的農業従事者(農業を主として従事した世帯員)の年齢構成は70才以上が45.5パーセントを占め、将来の担い手不足が深刻な状況となっていた。

 JAではこれまでも、平成21年の農地法改正後、農地の貸し借りや農地の集積、そして、集落営農を含む担い手の育成に最重点に取り組んでいたが、組合員への意向調査では法人による農作業支援や委託栽培への要望もあったことから、これらの要望に専門的に取り組む法人として「農地を護(まも)り農業の未来をひらく」を基本理念に掲げ(図2)、ジェイエイファーム六甲を、JAの100%出資で平成25年9月に設立した。

 現在の組織体制は、常勤で役員1名、社員9名、臨時社員が8名となっている。臨時社員のなかには、将来的に就農をめざしている研修生(26年度 2名、27年度 1名)もおり、エリア管理など、円滑に就農できるように研修を行っている。

 ジェイエイファーム六甲で栽培管理しているほ場の面積は26ヘクタールで、すべて組合員から借り受けている。今年度の作付品目および規模は秋冬キャベツが16ヘクタール、スイートコーンが7ヘクタール、ホールクロップサイレージが12ヘクタールとなっている。主要品目であるキャベツについては、加工特性、肥大性などに優れた品種を選定しており、お好み焼きやギョーザの具材などとして、JAから納品されている。なお、キャベツについては加工・業務用野菜として、全量が全農兵庫県本部(以下、「全農兵庫」という)に出荷されている。

4 キャベツ栽培導入の背景と機械化一貫体系の必要性について

 ジェイエイファーム六甲の特徴は、農業経営のモデルを作り、産地を活性化することを目的としていることにある。兵庫県は、温暖な気候でもともと全国有数のキャベツ産地であったが、全国的にキャベツの栽培面積および出荷量が微増傾向であるのに対し、兵庫県および神戸市では激減している(図3、図4)。

 単収についても、減少の一途をたどっている(図5)。このような背景から、園芸作物による産地再興、モデルの確立を念頭に、神戸西地区で減少している「キャベツ産地の復活」をジェイエイファーム六甲の栽培の基本方針とした。

(1)加工・業務用キャベツ生産への

取り組みに至った経緯

 JA管内でキャベツの栽培面積および出荷量が減少している要因は、高齢化などによる担い手不足もさることながら、都市近郊産地共通の傾向として、多くの生産者が単一品目の市場出荷から多品目栽培の直売所出荷に移行したという経緯がある。また、キャベツは重量品目で、特に高齢者にとって収穫作業は非常に重労働となることがネックとなり、農家戸数の減少につながった。

 一方、加工・業務用キャベツ生産については、過去に取り組んだことがあったが、出荷が安定的にまとまらないことから減少していた。しかし、全農兵庫の支援という業務用野菜への参入を後押しする環境があったこと、さらに産地としても業務用に取り組み規模を拡大し、県内卸売市場における兵庫県産のシェアを増やしたい意向があったことから、全量を加工・業務用キャベツとし、そのために収穫までの機械化一貫体系を整備することとした。

(2)作型と導入機械について

 ジェイエイファーム六甲には、組合員の作業を補完すること、さらに若い担い手が安定した市場出荷品目としてキャベツを選択できるようなモデル経営の実証が求められている。

 そのため、機械化体系の整備においては、モデル経営を確立すること、さらに地域に普及できる体系であることという2つの視点を考慮し、作型については地域の栽培暦に準じることとした(図6)。一部の機械導入については、平成25年度国庫補正予算の産地活性化総合対策リース事業を活用するなどしてアタッチメントも含めて20種類を導入した。市、県、JAで組織する、技術指導も含めた推進体制が構築出来た事が継続的な活動につながっている。

(3)導入した農業機械と作業内容

 「機械化一貫体系モデル」の作業を簡単にまとめると、まずマニュアスプレッターによる堆肥散布にはじまり、リターンデタッチャで排水対策を施した後、ブロードキャスターによる元肥散布(写真1~3)を行う。

 次に、成形機で畝立て作業に入るが、この機械では畝立てと施肥を同時に行うことができ、大幅な時間短縮が実現された(写真4)。

 定植については、2条半自動定植機を利用している(写真5)。また、中耕・施肥についても乗用管理機を使うことで省力化を実現した(写真6)。

 また、害虫防除についてはハイクリブームスプレーヤーで広大なほ場に対応できる体制が整えられた(写真7)。

 加工・業務用キャベツの機械化体系を整備するうえで、最も大きな存在がキャベツ専用の収穫機であった。キャベツの収穫機については、さまざまな試作を重ね平成25年から市販されるようになったが、当地でも産地活性化総合リース事業を活用して購入し、これによりキャベツの一貫体系による生産ができるようになった。収穫機は収穫しながら、大型コンテナに対応でき、そのまま搬入できるという特徴がある(写真8、写真9)。

 収穫機が入れない場合は、手収穫に頼ることになるが、その場合でもトラクターフロントローダーを活用し鉄コンテナに効率的に収納するようにしている(写真10)。

 機械の導入に際しては、地域にあった機械化体系を明確にしつつ、スムーズに組合員の労力を補完できるよう、工夫し改善していくことが求められる。

 また、農業機械はひとつひとつが高額なので、他の作物への利活用、また組合員による共同所有のメリットは大きいと感じている。

5 機械導入のメリットと課題

 今年度で機械化一貫体系でのキャベツ生産は3期目となるが、従来と比較すると経費面については、段ボール出荷から鉄コンテナに転換したことで梱包費が半減したほか、施肥で2割、苗代で2割、運賃で4割ほど削減ができている。収量の面では、主要作業をすべて機械化することができたことから、初年度は栽培面積が6.9ヘクタールであったが、設立2年目の平成26年度には栽培面積10.3ヘクタールとなり、単収については栽培技術の向上から単収5トンを確保することができた。活用できるほ場は限られているが、機械の導入で作業の省力化が実現できたことは大きい成果である。

 一方で課題も浮かび上がってきた。まず、大きな問題として栽培管理の技術向上とオペレーターの育成という点がある。農業経験のないスタッフが多いため、栽培管理を学びながら機械の操作やメンテナンスも同時進行で学ぶという状況にあり、年に1回の収穫時期に練習も兼ねて機械操作の技術を向上させなければならない。農業機械は簡単に乗りこなすことができるものではないため、キャベツが汚れたり痛むことを覚悟の上での作業となる。経験を積んだスタッフが一人前に育ち、指導できるレベルに達するには、まだ時間を要するものと思われる。

 また、品目の特性として収穫期がそろわず一斉収穫が難しいため、機械での収穫が難しいという事態にも直面した。栽培技術の向上とともに品種選定などを行いつつ、対策を練っていく必要がある。

 さらに、狭いほ場では機械がUターンする転回部分については手収穫に頼らざるを得ないという状況にある。このため、今後は農地の集約を進めつつ機械作業可能なほ場を作っていく工夫が必要である。

6 農作業の受託作業について

 キャベツ生産と並んで事業の根幹をなす農作業の受託であるが、平成26年度は75件の実績があった。JA兵庫六甲の組合員の依頼による受委託作業の内容および料金については表1に示したとおりである。

 今後も増えると見込まれる管内の耕作放棄地を、有効に活用し規模を拡大するとともに、後継者を育成するためには、農作業の受託による支援と機械化は欠かせないものである。

 地域農業の活性化を果たし、ジェイエイファーム六甲の従業員や当地域から後継者が増えるような取り組みを続けたい。


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